うおっ乳デカいね♡ 違法建築だろ   作:珍鎮

72 / 73
血の繋がりに怯えるな 性癖ごと運命を覆せ

 

 

 ある日の夕方。自宅の居間で寝転がりながらスマホでネットサーフィンをしていると、ふと一時間ほどその体勢のまま過ごしていることに気がついた。

 調べ物、とはここ最近の怪異の被害についてだ。ザコに関してはほぼ出現した瞬間に対応しているので大きな問題にはなっていないが、推定ラスボスである催眠おじさんの目撃情報はそこそこ出回り始めている。

 成人男性ほどの体格に、顔のないのっぺらぼうな真っ黒いボディと明らかに目立つ風貌をしている為か、大きな事件は起こしていなくとも人の目には留まってしまうらしかった。

 

「……けど、なんで何もしてこないんだろうな」

 

 あの夏祭りの日に大規模集団催眠を引き起こした元凶とは思えないほど、未だに大人しいのが気がかりだ。

 そんな俺の疑問を察してか、部屋の壁でウトウトと舟を漕いでいるサンデーが顔を上げた。眠いならお昼寝してていいのよ。

 

「たぶん……まだパワーを蓄えてる……」

「チャージ期間ってことか?」

「そう……いま大人しい分、レースになったらやばいスピードを発揮するかも。……そもそも本番のときに正々堂々と競う確証もない」

 

 つまり走っている最中に障害物や特殊能力などあらゆる手を使って妨害してくる可能性が高いと。

 

「でも、力の貯蔵は私たちにも言えること。変身を温存すればするだけユナイト時の出力も向上するから……体が鈍らないよう軽い運動をするとき以外は、こうして休むのが一番。……むにゃ」

 

 ようするに敵に倣って俺たちも本番のレースに備えて充電しておこうというわけか。

 

「というわけで……」

「あぁ、おやすみ」

 

 まもなく部屋の隅で丸くなりながら昼寝に入る相棒。猫みたい。

 とりあえず彼女にブランケットをかけつつ、コロコロで静かに軽く部屋を掃除し始める。普段なら相棒に続いて休息タイムを設けるところだが、今日はウチに人が来るため起きていなければならないのだ。

 とはいえ緊張するようなことも無い。

 これから自宅を訪ねてくる人物の事を考えると、客人というより()()()()()と言った方が適切だろう。

 ──ガチャリ、と聴き慣れた開錠音が玄関から聞こえてきた。それはつまり鍵を使ってこの家の施錠を突破したということに他ならない。

 秋川葉月宅の鍵の所在は全部で四つだ。マスターキーが当然俺で、海外でウマ娘のレース関連の仕事に従事している親父にスペアを一つ。

 そして数ヵ月前に作ったばかりの合鍵が二つある。一つは緊急連絡先に指定させてもらっている樫本先輩に。最後の一つは──

 

「帰宅ッ!!」

「おかえりなさい、理事長」

 

 俺のいとこであり家族、実質的な妹にあたるこの鮮やかなオレンジ色の長髪を揺らしている少女こと、秋川やよいである。

 今日も今日とて鍔広な帽子の上には猫ちゃん先生が乗っかっており、それに反していつもと違い手荷物が多い。背負っているリュックの中身はおそらく着替えだろう。

 今晩ここで寝泊まりすることは事前に聞いていたのでそれは飲み込めたが、なにやらもう一つ大きなレジ袋を携えているのが気になった。どうやら手土産まで持ってきてくれたようだ。

 

「極度に疲労ッ」

「お疲れさまです。さすが理事長はご多忙だ」

「うむ。というわけでその中央トレセン学園の理事長秘書補佐よ。……んっ」

 

 リビングで一旦荷物を下ろしきったかと思えば、そのままこちらを向いてから両手を大きく広げた。

 言わずとも知れたスキンシップ。年齢にそぐわない重すぎる役職を、辛い顔ひとつ見せずウマ娘への情熱一本でこなしてしまう天才美少女が必要とする“充電”行為。

 それを察した俺は少しだけ屈み──正面から彼女を抱擁した。

 

「っ! ……んん~っ、ふふふっ」

「おかえり、やよい。今日もお疲れさん」

「うんっ。ただいま葉月!」

 

 ハグした途端に覇気のある態度は鳴りを潜め、年相応どころかまるで付き合いたてのカップルが如く甘い声に切り替わっていった。

 別にトレセンを取り仕切る普段の彼女が仮面というわけではない。アレはこの少女が理事長という立場で振る舞ううえで身に着けた仕事モードというだけであり、普段は秘書の駿川さんにすら見せないもう一つの側面が、俺といると自然にまろび出てしまうようなのだ。実は本人的には俺の前でもしっかりしたいらしい。この甘えようじゃ無理だろうがよ。一生かけても守り抜く。

 

「はふぅ、落ち着くぅ」

「……やよい、少し大きくなったか?」

「ふぇっ? 唐突なセクハラ。えっち」

「いや背丈のことね。背です背」

 

 かなり体躯も小さく純真そうに見えて、その実大人の知識も普通にあるギャップでドキドキしてきた。マジでセクハラしたくなってきたがグっと堪える。鶴は千年亀は万年。

 なにやら最近になってから成長が著しいというか、少し前まではロリっ子と例えられても否定しきれない風体だったが、精神的にも肉体的にも諸々パワーアップし始めていて感動してしまう。お兄ちゃん嬉しいけど変な男が寄り付かないか心配。切実に俺だけ見ててほしい。

 

「そういや何を買ってきたんだ? その袋」

「あ、これお弁当。お夕飯がまだなら一緒にと思って、ちょっと奮発しちゃった」

「良い子……ほんとありがとうね……」

 

 相変わらず手ぶらで帰ってこない礼儀正しさに感動して頭を撫でつつ居間に腰を下ろす。個人的にはもっとラフに帰ってきてくれてもいいのだが、こればかりは彼女の性格の問題なのでここで指摘するのも野暮だろう。暇なときにそれとなく伝えることにして、今はとにかく褒めようね。

 

「もちろんサンデーちゃんの分も忘れてないよ。……って、寝てる?」

 

 部屋の隅を一瞥しつつ、彼女も俺の隣に座る。

 

「あれ。やよいはアイツのこと視えてたっけか」

「いやそこでブランケットが浮いてるし」

 

 そう言えば普通の人間からすればそう見えるんだった。一緒にいすぎてだんだん麻痺してきてるかも。

 

「あっ、でもそれだけじゃないよ。先生にお願いして、集中すればぼんやりとだけど視認できるようにしてもらったんだ」

 

 えっへん、と分かりやすいドヤ顔。なにそれ。夢の案内人ってそんなこともできんの。

 いつの間にかやよいの頭から降り、仰向けで昼寝しているサンデーのお腹の上に乗ってくつろぎ始めた猫ちゃん先生を見つめると、まるで返事を返すかのように小さく鳴いた。

 

「にゃーん」

「……やよい? 多少視えるようになったからって、あんまり無茶はしないでくれよ?」

「分かってるってば。できる範囲のことだけやるつもり。……てか、ムリするなとか葉月にだけは言われたくないし」

「ぐうの音も出ません」

 

 ロリっ子に論破されちゃった……これも成長……?

 

「……とりあえずサンデーはさっき寝始めたばかりだからそっとしといてやってくれ。先に二人で食べちゃおう」

「はーい。……あっ、麦茶持ってくる。座ってて」

 

 いつの間にやらウチの冷蔵庫の中身も把握している従妹が主導で、そのまま夕餉をまったりと過ごしていく。結構いい値段の弁当を買ってきてくれたらしくやたらと美味い。

 そこから軽く手料理に関する話題を喋ったところ、彼女はあまり自分の作る料理に自信がないとのことだった。本当は作りたかったけど、失敗したら嫌だから毎回お弁当を買うという結論に至るらしい。

 まったく愛いやつだ。それならば、と俺が彼女に料理を教えてあげる約束を取り付けてやった。

 こちとら自炊を始めて三年目。しかも同居人が割とグルメなやつなので日に日に主夫としてレベルアップしているのだ。手料理が不安な女の子の為なら一肌脱ごうじゃべらんめぇ。

 

「えへへ~、葉月のお料理教室かぁ」

「やよいはどんなのが作りたいんだ?」

「一尾買いしたお魚を捌いてお寿司やりたい! ブリとか!」

「いきなりファイナルステージだな……」

 

 どうやらトレセンに回転寿司を作ろうとした過去を忘れられないらしい。ブリはデカいからもう少し小さいのにしようね。

 と、そんなこんなで雑談をしながら寛いでいると、気づけば夜も深まって辺りはしんと静まり返っていた。

 明日は誘導したラスボスと俺で競い合う特設レース場を二人で見に行き、協力者のウマ娘たちとも合流して諸々準備を進めるため寝坊はできない。

 早めに寝る為にもさっさとやること済ませようというわけで風呂場へ向かった──のだが。

 

「うぅ~さむい寒いっ。この家って浴室暖房はないんだっけ……」

 

 なんだかとても自然に脱衣所まで付いてきてしっかり脱衣もしてる美少女がこちらに一人。バスタオルを巻けばいいって話でもないんだが言っても聞かないのでもう言わない。

 

「築三十年の安アパートだぞ。あるわけないだろ」

「もう実家に戻っちゃえば? 叔父さんと叔母さんもいないんでしょ」

「……いやまぁ、これは自業自得なんだが……ここを借りる条件に高校卒業まで一人暮らしで何とかするってのもあるからさ」

 

 とても真っ当な指摘をする従妹に対して、バツが悪い返事でもにょもにょしてしまう。

 そもそもの話、俺の一人暮らしは秋川本家から逃げるために始めたことだ。

 紆余曲折あってやよいからも離れ、メンタルが死んでいたあの時の俺が秋川家から逃げることで精神の安寧を図り、そうして今がある。

 もし高校で山田がクラスメイトにならず、また雨の日のバス停で偶然とあるウマ娘と出逢っていなければ、こうして従妹と二人で背中を流し合う関係に戻れることもなく、死ぬまでゴミカスな自意識のまま生きていたことだろう。

 

「でも、叔父さんや叔母さんとは仲直りしたって言ってたじゃん」

「あー……たまに帰るくらいならまだしも、ここを退去してあそこに戻るのはちょっとな。元を辿るなら俺のワガママだし、最低限の高校卒業までって約束には筋を通さないと」

 

 そう、結局は最初から最後まで両親の手を借りてしまっている。

 幼少期の確執が解消されたとはいえ、生まれて初めての誕生日プレゼントという名目でそこそこ良いバイクまで買い与えてもらったのだ。これで『やっぱ無理だから実家戻ります』だなんてのたまえるほど面の皮は厚くない。

 

「てか今年で三年生だからあとたった一年だしな。家賃もバイト代で何とかなるくらい安いし」

「ふぅん、そっか……あっ、じゃあ卒業後はどうするの?」

 

 浴室へ入り、かけ湯をしてから先に浴槽へ浸かったやよいに何の気なしに聞かれ、体を洗いながら思案する。

 

「一応進学したいってのは事前に伝えてる。そんで……学費くらいは頼れ、って言われた」

「よかったじゃない。私が言うのもあれだけど、葉月はもう少し大人を頼っていいと思うよ。てか私たちって子供の頃の環境がマジで鬼ヤバだったし全然普通じゃなかったし! 叔父さんたちには悪いけどもっと迷惑かけちゃお!」

「ははっ。まぁ……考えとくよ」

 

 この世界で唯一俺と同じ境遇だったやよいだからこそ口にできる発言に小さく笑った。

 確かに俺ら二人は同年代たちと比べれば非常に厳しく特殊な環境に身を置いていた。既に考えを改めた今の大人たちにその頃の贖罪を求めることは、言ってしまえば俺たちだけの特権であり()()()()()をすることができなかったかつての葉月とやよいを慰める事にも繋がるだろう。

 

「ちなみに大学って楽しいよ葉月!」

「そういやどこかのガチの天才さんは飛び級だったな」

「ふふふ。勉強で分からないとこあったら私に聞いてもいいんだよ~」

「まずは自分でなんとかするわ……」

 

 とはいえ、秋川家のアレコレももう過ぎ去った昔の話ではあるのだ。そもそもあの時ですら樫本先輩という救いは存在した。

 いざという時のため、過去を人質に多少のコネクションは保つとして、基本的に俺の人生に関してはなるべく自身の力で切り開いていきたいのだ。

 ……まぁ、やよいの言う通り自分の両親にくらいはもう少し迷惑をかけてしまおうかなとも思う。この十七年間で参考書以外のクリスマスプレゼントを貰ったことないんですけど、とかネチネチついて年末に良さげな肉でも送ってもらおう。

 

「やよい、俺も浴槽に入るから交代」

「え? 私のことは洗ってくれないの?」

「当然。だってさっきから見てただけで俺の背中を流したりしてくれなかったろ」

「むぅ……」

 

 洗体と入浴を交代し、今度は俺が湯船に浸かって一息ついた。

 なんだかこうして()()()()()人生についてしっかりと考えたのは久しぶりだった。いつもは目の前の事ばかりに集中しているせいか、俯瞰してこの先を聞いてくれるやよいの存在は一周回って新鮮に感じる。

 ここまでゴチャゴチャと考えたがつまるところ基本指針は変わっていないのだ。

 なるべく楽しくまったり過ごす──それが秋川葉月の現在目標である。

 

「ねぇ葉月」

「ん?」

「私、お弁当を買ってきました。しかもちょっと良いヤツ」

「……つまり?」

「背中を流しなさい。命令ッ!」

「はいはい……ご馳走様です……」

 

 むしろ体を洗うのがあのやたら美味かった弁当の対価でいいのかと言いたい気持ちをグッとこらえ、湯船から出て彼女の背中を陣取った。てかお料理教室でお礼をするって俺言わなかったっけ。いやまぁ別にいいんだけど。

 

「ボディスポンジ使うか……ちょっと前を失礼」

「ひゃっ」

 

 やよいがこの家へ来るようになってからいつの間にか置かれていた洗体用の柔らかいスポンジを手に取り、彼女の前にあるボディソープのボトルへ手を伸ばしてこれでもかというほど洗剤を染み込ませた。めちゃクソに泡まみれにしてびっくりさせちゃる。

 

「……やよい」

「な、なに?」

「いや、タオルを取ってくれ。洗えないから」

「う、うぅ……隅々まで眺める気なんだ……」

「当たり前だけど前は隠してね。やるのは背中だけだからね」

 

 マジで背面を軽く洗うだけなのに緊張してて面白すぎます。自分が言い出したことだって忘れてそう。誘い受けマゾ?

 

「んっ……」

「変な声だすな」

「……葉月、ちょっとはドキドキしないの?」

「おまえと風呂に入るの何回目だと思ってるの。十二年前から一緒なんだぞ、いとこちゃん」

「むむぅ……」

 

 さすがに五歳から共に過ごしていた実質的な妹と風呂に入って懊悩するほど見境がない男ではない。テメェがマジでそのつもりなら話は違うがな。愛を込めてあわあわマッサージを遵守いたしますね♡ 青春炸裂ファイヤー。

 

「……ね、ねえ。ドキドキしないなら、前を隠せって言うの……おかしくない?」

「そんなことないだろ。もうあの時みたいなガキじゃないんだから」

 

 俺は常識の話をしているのだ。たとえ従妹だとしても一糸まとわぬ姿で洗い合っていい年齢ではない。

 もし俺たち程度の歳で何も身に着けず混浴する男女がいるとすれば、それはもはや恋人関係以外の何物でもないだろう。

 まっとうな意見を述べてゴシゴシと続けていく俺に反して、やはりやよいはどこか納得のいかない様子だ。結局どうしたいのかしらムッツリさん。

 

「ほら、流すぞ」

「──まっまだ前が終わってない!」

 

 温かいお湯を出したシャワーヘッドを握ったその瞬間、なにやら意味不明な発言をしながら従妹がこちらを振り返ってきた。

 

「っ!? ばかっ、こっち向くな!」

「タオルで隠してるもんっ!」

「じゃあなおさら洗えないだろ!? おちつ──うわっ!」

 

 なにがどうなってそうなったのか、ともかく勢いのままに迫ってきた彼女をうまく往なすことができず、膝立ちだった俺は仰向けに倒れ、肝心の世迷い言のたまいやよちゃんはそのまま馬乗りになってしまった。

 

「ぃつつっ……や、やよい?」

「う……ご、ごめん。なんか、いまおかしかった……」

 

 握っていた手から放れたシャワーが浴室の隅に落下し、未だに出続ける温かい雨が俺たち二人に浅く弱く降り注いでいる。

 

「いや、構わないが……どうしたんだ?」

 

 ここで赤面しながら彼女をそっと引きはがし、まるで少年誌の純情な主人公のように慌てふためきながら逃げることも可能だったが──そうしてはいけないと咄嗟に察し、あるがままの体勢、かつなるべく穏やかな声で少女に問いかけた。どうやら照れている場合ではないらしい。

 

「…………その、葉月ってさ」

 

 押し倒してしまった罪悪感や、浴室でおかしな体勢になってしまっている困惑など、様々な感情が渦巻いて冷静さを欠いてしまっているやよいは、頬どころか耳まで真っ赤に染め上げながら不安そうな表情で口を開いた。

 

「わ、私のこと……異性として、見れる……?」

 

 もはや途切れそうなほどか細い声で、羞恥心に抗いながらそんな問いかけを眼下にこぼす。

 

「いとことか、妹とかじゃなくて……一人の、女の子として……」

 

 まるで顔から火が出そうなほど真っ赤になりながらそれでも内心を誤魔化さず、きっと今日まで抱え続けていたであろう苦悩をポツリと呟いた。

 胸から太ももまでを隠している長い純白のタオルをギュッと握りこむ。明らかに震えていて、この状況が普通ではないと分かったうえで、それでも彼女はいまこの場でその疑問に対する答えを欲している。

 であれば、やはり応えないわけにはいかないだろう。

 

「……すまん。こう言ったら、きっと家族としては間違いなんだろうが……」

 

 そう一拍置いてから、改めて口に出した。

 

「見れるか見れないかで言えば、当然のように異性として見ている」

「──ッ!」

 

 自分が最低な男だという自覚を改めてした。

 もし本当に目の前の少女の幸せを願うのであれば、もし大多数が正しいと信じる世間の倫理観を以て応えるのであれば、俺は彼女の発言を冗談として捉え『家族なんだから見れるわけないだろ』と突き放すべきだった。

 たとえ今この場では心に影を落としたとしても、その疵は長い時間をかけていつか癒えていくに違いなかった。

 つまりこれはただのワガママなのだ。

 俺が、自身に対して特別な感情を抱いてくれた女の子に対して、決して“ウソ”だけはつきたくないという、自分勝手な言い分こそが先ほどの答えの正体なのである。

 

「ずっと一緒にいた、って言っても子供の頃の話だ。俺が逃げて、離れ離れになって、長い時間をかけて再会した時……やよいを家族だと思う気持ちと、もう一つ別の感覚が自分の中にあることに気づいた」

 

 イベントの手伝いという建前で、多忙のあまり体を壊しかけている理事長を支えるために赴いたあの時、心の中で一つの感情が沸き上がった。秋川やよいという可憐な少女と出逢ったあの時そう思った。

 

「かわいい女の子だなって。……たぶんこれは血の繋がらない相手にしか向けちゃいけない類のモンだった。……すまん」

「謝る意味が分かんない」

 

 観念したようにすべてを打ち明けると、言葉を被せるようにしてやよいが前に出た。

 

「……だって、謝るのは私のほうだから」

 

 そう呟いた彼女はとうとう物理的に見下ろすことをやめ、仰向けの俺の上にそっと体を重ね合わせた。……ごめんなさいシリアスな心境だとは思うのですが流石に境界線がタオル一枚はえっちすぎかも。秋川.exe は動作を停止しました。この問題の解決策を確認してします…。

 

「ごめんなさい。ぜんぶ私が言わせたようなものなのに……」

「それこそ謝る必要なんてないだろ。俺は思ってたことを打ち明けさせてもらっただけなんだから」

「……うぅ、葉月ぃ~ッ!」

「甘えんぼさんなのは据え置きなんだな……」

 

 ついに我慢できなくなったやよいが重なったまま首に手を回して抱きしめてきたので、いつものように彼女の後頭部をポンポンと優しく撫でてあやしてやる。いいんですよ世界がまーるく平和な限り♡ ほっほっほ♡ こいつがお望みのフルパワーだ。

 

「はい、やよちゃんギュ~」

「ひゃわ……っ!? あ、あう……♡」

「あっそういう反応になるの? ちゃんと抵抗して?」

「間違いが起こっちゃうぅ……♡」

「いや起こさせねぇよ早く立って。風邪を引く前に風呂出るぞ」

 

 もうすっかり従順な神・BODYに仕上がってしまった従妹を持ち上げ、ささっと泡を流してから退浴して彼女を着替えさせた。命拾いした……このままでは有料会員限定プレミアム公開になるところだった。月額500円。

 リビングへ戻ると既に三人分の布団がセットしてあり、食事と歯磨きを終えたらしい同居人が床へ入る直前の状況であった。今日は寝て食べて寝るだけだねキミ。

 

「ん……ハヅキ、やよいちゃんのぼせた?」

「まぁほぼそんな感じだな……布団、敷いといてくれてサンキュな。ほらやよい、歯磨きして寝よう」

「するぅ……」

 

 どうやら浴室暖房がなくとも熱々な湯船や常時出ていたシャワーを浴びていた影響で、半分くらいはしっかりのぼせているようだ。もう何でも言うこと聞いてくれるヤヨイチャンになっとる。だらしない顔がスケベすぎる。おぉ……神よ……。

 そんなこんなで最終的に布団へ入り、ものの数分で当然のごとく俺の毛布へ潜り込んできたやよいは、恍惚ながらどこか澄んだ目で優しく微笑んだ。

 

「……葉月。私、葉月がどんな道に進んでも……勝手についていくから。……だから、後ろなんか気にしないで、全力で走ってね」

「あぁ、ありがとな。……あの、ちなみに暑いんですけど」

「異性として見れる……それだけ分かればもう十分。あとはこっちで勝手にやるから」

「ねぇやよいさん、エモいこと言おうとしてるとこ悪いんだけど近すぎます。一緒に寝るにしても上に乗られたら眠れないっす……! せめて隣……っ!」

「えへっ、えへへっ。お料理教室たのしみっ! なんの魚が食べたい? キス? キスとかっ♡」

「あーあついにアクメしっぱなしになっちゃった♡ おい聞いてんのかチェアパーソン。かわいいね♡ 頭きたぶっ潰してやる」

「さっきから二人ともうるさい」

 

 やよいの悪ノリに便乗した。すると純粋に睡眠したい人からの抗議が静かに、何事もなかったように僕たちの心に届いた。指摘は丁寧で、どこにも嘘はなかった。ありがとう、それだけで充分だ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。