馬宮と最後に別れて以来、式神の完成を待つ間俺はずっと星霊神社にて修行の手助けをしていた。それは過去のトラウマを掘り起こし、自らの心を抉り続けるかのような過酷な労働・・・なんてことはなく。
「おら!さっさと次の修行に行くんだよ!」
「帰りたいだぁ!?お前らが還っていいのは冥府だけだよ!」
「なに?『元はお前もこちら側だったのになんでそんなことができるんだ?』・・・いいか。一ついい事を教えてやる。この業界において覚醒した奴は圧倒的強者で、未覚醒者は虐げられるだけの弱者なんだよぉおーーー!」
俺こと皐月定春はものすごくいい空気を吸っていた。それは春の穏やかな空気を早起きして胸いっぱいに吸った時のように爽やかさと爽快感を伴っており、どうしようもなく俺の精神を高揚させる。
ちなみに最後の台詞に関しては一切誇張していない。なぜなら俺も先に覚醒した『転生者掲示板』で霊視兄貴と呼ばれる輩から同じことをされたから。この行為の本質はここで痛い目を見させることによって力の重要性を学んでほしいという優しさなのだ。ほんとほんと。決して八つ当たりとかじゃないよ?
「ふぅ。早朝の虐待はすかっとするぜぇ」
「君めちゃくちゃいい空気吸ってるよね。正直引いたよ」
「そりゃもう早期覚醒者の特典ですから・・・ん?」
この声はものすごく聞き覚えがある。具体的には俺をこの地獄に招き入れたクソショタの声によく似ている。恐る恐る振り返ったその先にいたのはやはりこの神社の神主であった。
「げぇ!関羽!」
「神主ね。君こっちを見るたびその台詞吐くけど飽きない?」
「俺はお約束を大事にする男なんで」
「そっかぁ・・・」
若干呆れた様子の神主。さては俺の事をワンパターンに頼る馬鹿だと思っているな?
「いいでしょう。一週間後にもう一度来てください。本当のお約束を食べさせてあげますよ」
「いや去らないから。なに一週間後に引き延ばそうとしてるの」
「そこは乗ってくださいよ。まったく王道を行くギャグというものの価値を分かってないんだから」
「そういえば新しい修行を思いついたんだよね。式神悪魔に四肢を引きちぎられるものなんだけど」
「すいませんでした。俺調子乗ってました」
「素直でよろしい」
「しゃっす!」
褒められて思わず頬がにやけてしまう。いかんこんな姿を人に見られてしまった日にはその人の以後の人生が俺の虜として一生を過ごす者になってしまう。
「それで肝心の用件なんだけどね」
「はい」
「急に素直になったねほんと。君用の式神の素材が用意できたんだ」
「お、やっとですか」
「君の要望を聞いて、姿形をいじっていたからね。あといくつかの過程を経て完成だよ」
「なんかプラモデルみたいですね」
「実際一回手順を確立させれば後はそれに従うだけでいいからね。プラモデルみたいなものだよ」
「改良とか・・・なされない?」
「してはいるんだけど、ある程度の安定性は必須だからね。いきなりそこまで大きくは変えられないのさ」
「ふーん」
「もう少し興味示しなさい君が聞いたんでしょ。・・・」
ここで少し神主が黙り込む。その姿からはわずかに物憂げな様子が見て取れて。強力で強大で有能な神主のその姿に思わずこちらも不安になる。
「ど、どうしたんです?」
「いや・・・君ほんとに式神あれでいいのかい?」
「と言いますと?性癖批判ですか?」
「違うよ。あれの元は戦えない、守られ愛されるだけの女神だ。霊的に進化し続け自我を持てば、式神は元の女神の性質に引っ張られていくと思う。―――これはつまり育てば育つほど戦えない存在になっていく。そんな可能性が、あの式神にはあるということなんだよ?わかってるのかい?」
「・・・」
話を聞いて考え込む。・・・もちろんそんな可能性は式神の話を聞いた時点で
「まっっったく気づいてなかった・・・。そっかそうなるのか・・・」
「・・・君もしかして馬鹿なのかい?なにかをマネた上で自我を持った式神は元ネタになった霊から接触されたり性質が近づいたりする可能性があると伝えてたよね?」
「マイ式神が手に入る上に外見を好きなようにできると聞いた時点でテンションが有頂天通り越して大気圏外突入してたんで・・・」
「だから話はちゃんと聞こうって何度も言ったよね?」
「うっす。いやほんとにすいません」
これにはぐうの音も出ない。ショタおじもいつもと違ってガチ説教である。まぁこれが人間対人間だったからよかったけど、うっかり悪魔との契約とかでやらかしていたら大問題だったわけだし・・・。ガチ反省あるのみである。
「それでどうするんだい?今からでも時間はかかるけど変えられなくはないよ?」
「・・・俺、とある夢が、前世からあったんですよ」
「ほう?聞かせてくれるかい?」
そう、俺には式神があの女神さまでなければいけない、とある理由がある。それは俺の前世の夢。それに起因するものだった。
「俺はね、神主さん」
「うん」
「ずっと考えていたんですよ・・・」
俺の夢、それは・・・
「―――あの麗しい女神さまに弄ばれたい!」
「・・・」
「あの女神さまの素晴らしいところはそれはそれはいくつもあって一つ一つ挙げていったらどれだけ時間をかけても足りません。素人はまず真っ先にキャラグラフィックを挙げるけど、そんなものはあの女神の魅力のほんの一端、人体で例えるなら足のつま先程度のものでしかありません。あ、いやそれはもちろんキャラグラフィックが魅力的でないという訳ではなく、あの触ることにもおこがましさを覚えさせる女神としての高貴さ。そうでありながらどこか親愛を抱かせてくるいたずら気な笑み。口元に当てた手からはこちらの心をくすぐる奥ゆかしさを感じさせ、その神々しさとそれに反するような華奢な体は庇護心と服従心を否応なしに抱かせてきます。もうこの時点でキャラグラフィックが完璧であり、文句のつけようもない『聖遺物』であることは疑いようもないです。しかし、その魅力はキャラグラフィックに収まりません。神主はかの女神の宝具を知っていますか?あれはマテリアルでこう説明されています。『とどめに開き直ったとばかりにカワイイポーズで悩殺しようとする(P019)』わかりますか?カワイイポーズですよ?あんな見るだけで眼福の女神さまがカワイイポーズを取るんですよ?指でハートを作っちゃうんですよ?そりゃもう悩殺されますよ。一生女神さまの虜にして下僕確定ですよ。抗おうとも思いませんねええ。あんな公式で上品にして優雅でありながらものぐさで興味のないものには冷酷なんていう人格、神格?でありながら男を殺す(陥落させる)させることは大の得意なんていう小悪魔の化身のような存在であり、そうでありながらあのキャラグラフィック、最後にあの宝具。全てが最高なんですよね。しかしあの女神さまの魅力はそれだけに留まりません。次に見ていただきたいのはそのキャラストーリーです。彼女には二柱の女神の姉妹がおり―――」
「わかったわかった。もう十分にわかったよ。だからもうやめてくれ」
「む・・・仕方ないですね」
かの女神様について語り倒していたら神主からストップが入ったのでここで止める。これで俺のあの女神様に対しての愛は十二分に伝わったはずだ。
「君のきも・・・素晴らしい愛はよくわかったよ。じゃあ式神はあのままでいいんだね?」
「(きも?)ええ、お願いします」
「わかった。じゃあ残りの過程が終わって完成次第君の部屋に送るよ」
「お願いします」
「それから例の異界攻略だけどね」
「なにか?」
「確実性を重視してもう一人つくことになったよ。掲示板で霊視ニキって言われている人なんだけど」
「・・・げげぇ」
「その反応、知り合いみたいだね。なら事前の顔合わせはいらないか」
「修行では大変お世話になりました」
「ああ、そういう。向こうも事前報酬として式神をもらってるから、合わせて四人で頑張って来てね」
「うぃ・・・了解です・・・」
こうして俺の初めての異界攻略メンバーが決まった。霊視ニキが一緒なのは俺にとって一種の不幸だが、こんなの今までの人生に比べれば屁でもない。初めての異界攻略、頑張るゾイ!
無