幻のウマ娘~トキノミノルがたづなになるまで~   作:砂糖と蜂蜜の牛乳割り

1 / 3
 たづなさんの過去に触れる小説は少なめなので、書いてみることにしました。
 なるべく史実に沿って真面目に書いていきます。


プロローグ 『駿川たづな』というウマ娘

 

 

 おかしい。どう考えても、おかしい。

 俺は強く疑った。

 ——『駿川たづな』はウマ娘ではないかと。

 

 彼女は非常に優秀な理事長秘書だ。

 

 毎日朝早くに起き、校門前で挨拶。理事長の書類仕事を補佐。芝コースに不備がないかをチェック。学園内のトラブルも迅速に対処。迷える新人トレーナーを導き、担当のウマ娘と引き合わせることまで。

 ありとあらゆる仕事を素早く、完璧にこなす。

 

 が、そんな彼女には不可解な点が幾つもあった。

 

 まず、彼女は緑のスーツを着こなしているのだが、そのスーツに合わせてキャビンアテンダントのような、丸型の帽子を常に被っている。

 夏だろうが冬だろうが、暑さ寒さに拘らずだ。

 俺は彼女が帽子を外した姿を一度も見たことがない。

 頑なに外そうとしないのだ。まるで、頭頂部にある何かを隠したいかのように。

 

 

 次に、彼女はあまりにも足が速い。

 100メートル走のタイムが10秒台だとか、そんな程度ではない。並のウマ娘よりも遥かに速いのだ。

 以前、俺はその光景を目の当たりしたことがある。

 いつかの夜、とあるウマ娘が門限を破り、そろりそろりと学園の外に向かおうとしていた所、見張りのたづなに見つかった。

 そのことに気づいたウマ娘は必死に足を動かし逃げる。

 これではヒトであろう、たづなには捕まえるのは不可能と思われた。

 が、呆気なくもウマ娘は彼女のお縄についたのである。

 俺はこの目にその捕まえるまでの瞬間を焼き付けた。

 その走る様はウマ娘を彷彿とさせる——いや、それ以上の走りだった。

 

 他にも色々とあるが、主たるものはこれだけだ。

 

 だが、俺は確信した。

 ——やはり『駿川たづな』はウマ娘に違いない、と。

 

 そうして俺はそのことを問い詰めるべく、彼女を他人が寄り付かない場所に誘い出したのである。

 

 

 ♦

 

 

 ここはトレセン学園地下の一室。

 窓一つなく、明かりといえばチカチカと光るオンボロの電球のみ。

 外とは隔絶されたこの場所で、俺とたづなの二人は机を挟み、向かい合う形で座っていた。

 

 

 ——以上のことから、俺は貴方をウマ娘だと断じています」

「私が単に帽子好きで、ヒトとしては足が速いだけ、という可能性は考慮していただけたでしょうか?」

「その可能性も勿論考えましたが……」

 

 俺は懐からやけに古びたボロボロな2枚の写真を取り出し、尚もとぼける彼女の目の前に置いた。

 

「この写真に写っているウマ娘。異様なほどたづなさんに似ていると思いませんか?」

「っ! どうして、トレーナーさんがそれをっ……!?」

 

 先程まで冷静に返答をしていた彼女はそれらを見た途端、目を見張り驚く。

 

 その写真には昔のたづな——レースを駆け抜けた後、泥に塗れながらも朗らかな笑みを浮かべる彼女が写っていた。

 帽子をとった勝負服の、ウマ耳と尻尾を喜ばしげに揺らした姿で。

 

 言い逃れのできない決定的な証拠だった。

 

「仕方ありませんね……」

 

 もはや弁明の余地なしと見たのか、たづなは頭の帽子に手をかけ、そして——

 

 ——その大きな『ウマ耳』を露わにした。

 

 やはり彼女はウマ娘だったのだ。

 

「その……トレーナーさんは私をどうするのでしょうか?」

 

 不安げに眉尻を下げ、そう問うたづな。

 そんなもの決まっている。俺が彼女に望むのは、たった一つのこと。

 

「俺の担当ウマ娘になってください」

「!?」

 

 あの夜からー-いやもっと前から、俺はずっと彼女の走りに魅了されていた。

 彼女は俺がトレーナーを志すきっかけをくれたウマ娘だったのだ。

 たづなを問い詰めたのもそのためである。

 

 俺はもう一度言った。

 

「俺が必ず貴方をレースで輝かせて見せます! だから、どうかっ!」

 

 が、彼女はすぐさま首を横に振った。

 

「それはできません」

「っ! 何故ですか! トゥインクルシリーズは無理でも、ドリームトロフィーなら出走可能なはずです! 貴方もウマ娘でしょう! また走りたくはないのですか!?」

 

 必死だった。

 あの時に見たレースを再びこの両の目に焼き付けたい。

 彼女のトレーナになり、その栄光あるレースに携われるのなら、その後死んだって良い。

 

 たづなー-いや、トキノミノル。貴方だってレースには出走したいはずなんだ。

 なのになんで……。

 

「なぜ、ですか……」

 

 自身に問われたことを反芻。

 トキは俺から視線を外してどこか遠くを、遥か遠くを見つめる。

 おそらく、その先には駆け抜けてきた過去があるのだろう。

 

 二人の間に沈黙の時が流れていく。

 

 それからしばらくして、彼女は久方ぶりに口を開いた。

 その瞳に確かな意志を宿らせて。

 

「……トレーナーさんに納得してもらうには随分と長い話をしないといけませんが、よろしいでしょうか?」

「構いません。そうでなければ、俺は止まりませんからね」

「わかりました……では」

 

 彼女はゆっくりと語り始めた。

 

「あれは、まだ私がトキノミノルではなくパーフェクトと呼ばれていた時のことー-

 

 この瞬間蘇るのだ、人々から忘れ去られた『幻』の物語が。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。