シナリオが何もかも変わっておりますので、できるだけ皆様方に読んでいただけたらなと思っています。
(俺達の本当の居場所……だろ、オルガ)
(ああ、そうだなミカ……)
血にまみれた白きMSの首が剣によって貫かれた。コックピットに居る少年から噴き出た血が、自身の左手につけていたアトラのお守りを汚す。
(ああ、また汚れた。アトラに怒られる……。クーデリア、一緒に謝ってくれるかな……)
今、この場で考えなくてもいいようなどうでもいいことを頭に浮かべながら、彼の意識が完全に途絶えて現世との繋がりが断たれた。
『今、ここにアリアンロッド艦隊指令、ラスタル・エリオンの威光の元に悪魔は討ち取られた!』
掲げられた白狼の首と少年の命を最後に、戦いは終結された。
「なんで俺、生きてんだろ」
目覚めて早々、物騒なセリフを吐いて三日月・オーガスは横たわっていた自分の身を起こした。
そのセリフが出てしまうのも仕方のない事だ。なんせ彼の持つ最新の記憶は、白きMS『バルバトスルプスレクス』のコックピット内でギャラルホルンのMS部隊の攻撃によって殺害されたというもので、更新が終了しているのだから。
と、自分の記憶を辿っていると、三日月の家族たち『鉄華団』の皆の顔が脳内に浮かび、寝起きでボーっとしていた彼の意識を完全に覚醒させた。
「……どこだ、ここ」
その視界に飛び込んできたのは人の死体でもなく三日月の撃墜したMSの残骸でもない。規則的に配置されている一軒家と、自分の事をじろじろと見てくる通行人。そして、まるで花のように伸びている鉄骨に囲まれて傾いている大きな塔だけだった。
先ほどまでいたはずの血生臭い戦場とは対極の位置にある、ごくごく普通の住宅街にいることに、流石の三日月でも困惑の色を顔の前面に押し出していた。
鉄華団の面々が運んでくれたのかもしれないとも考えたが、彼らの姿は周囲にはない。それに逃げ道として団員が使っている通路は、すでに入り口が塞がれているはずだ。
「右側……動く」
さらに三日月を当惑させるのは、阿頼耶識システムの副作用に侵され動かぬモノとなってしまった右半身がまるでそれが普通だったかのように動かせるようになっていたことだ。
既にぐちゃぐちゃになっている思考を回転させ続け、今置かれている状況を限界まで考察してみるものの、結論が出ることは最後までなかった。
なぜ自分はこんなところにいるのか?アトラやクーデリア、団員たちは無事なのか?明弘やハッシュはいないのか?どうして自分だけが?
連絡を取ろうにも通信用のデバイスは消えてしまっているため、どうすることもできない。三日月は完全に孤立していた。
「……どうすればいいんだろ」
濃密であったこれまでの人生を振り返っても、このような事態に陥ったのは始めてだ。物心ついた時には常にオルガと共に行動していたし、本当の孤独というのを三日月は物心ついて以降は経験したことが無かったため、能動的に物事を決めることが苦手なのである。
「とりあえず、状況確認をするか」
そんな彼が脳を回転させてはじき出した回答は、ここがギャラルホルンの監視の行き届いているかどうか。それを知ることだった。
今となっては世界の敵となってしまっている鉄華団。その中核を担う内の一人である三日月がノコノコと街を歩こうものなら、良くて逮捕かその場で射殺されてしまうだろう。
幸い三日月自身の顔は世間にはまだ公表されていないが、でかでかと背中に鉄華団のマークの入ったジャケットを着ているのだから、そんなアドバンテージはあってようなものだろう。
だが、彼にこのジャケットを捨てるという選択肢は最初から含まれてはいない。家族たちと共に歩んできた証を手放すことなど、三日月がするわけはないのだから。
手始めに三日月はまず、警務局の兵士たちが街に居ないかを確かめるためできるだけ身を隠しながら街を歩き始めた。
おおよそ20分程度歩いてみたところ、そう言った類の施設は確認できなかった。鉄華団を捕まえるための警備網も全く敷かれてはいないようだ。
とりあえずの安全の確保ができた、と考え三日月は路地裏から表へと出る。最初に目に入ってきたのは高層ビルの上に取り付けられた大きな液晶。どうやらニュースを報道しているようだ。
あれを見ればちょっとは情報が得られるかも。三日月は足を止め、スクリーンを凝視し流れる音声を聞き取り始めた。
『日本の治安が8年連続世界1位と発表されましたが、これについてどうお考えですか?』
「二ホン……」
ニホン。聞いたことのない名前だ。どこのコロニーなのだろうか。と、考えながらニュースを聞き続ける。
だが、その後はレストランがどうだか沿岸部でガス爆発がーなどと三日月からしてみればいらない情報しか流れてこなかった。
ディスプレイから体を逸らし、街歩きを再開する。なんとか、ニホンについて知れないだろうか。そんなことを考えながら探索をしていると、ある一つの店が目に留まった。
「……なんだ、タブレットあるじゃん」
そう言いながら入ったのは、携帯電話ショップだった。当たり前だがスマートフォンを買いに来たわけではない。三日月の視線の先は展示用に置いてあるタブレットだ。
「これ、使うよ」
「え?」
店員にそれだけ伝えると、堂々と三日月はタブレットを使って検索ツールを開いた。ニホン、とキーワードを入れ検索をかける。
「地球の国のうちの一つ……。ってことはここ、地球なのか」
口には出してみるものの、全く実感が湧かない。地球に行く際には様々な手続きを行い多額の金を支払い。厳重なチェックを抜けてからではないと行くことはできない。以前に訪れた際もかなりの無茶をしてギャラルホルンを振り払って降下することができたのだから。
「あれ、地球だったら、ギャラルホルンの警備ってもっと厳しいはずなんだけど」
ここがコロニー群の内の一つであるならこの警備体制の薄さでも納得は行く。なぜなら今、彼らは全精力を上げて逆賊と化したマクギリス・ファリドと鉄華団を討ち取ろうとしているので、戦力を軒並みに向こうに回していてもおかしくはない。
だが、地球とはギャラルホルンの総本山のようなものでもある。それなのにここまで兵士を見ないというのはおかしいのではないだろうか。
「あのーお客様、ご使用は控えていただいてもらってもよろしいでしょうか?」
店員が困った顔をしながら三日月へと話しかけてくる。ちょうどいい、コイツに話を聞いてみよう。
「アンタ、ギャラルホルンが今何してるかって知ってる?」
「は、はい?ギャラルホルン?なんですかそれ?」
「は?」
「とりあえず出て行ってください。他のお客様の迷惑になりますので」
三日月の目が驚きにより開かれる。ギャラルホルンを知らない?そんなわけがない。彼らは世界全体の治安維持部隊として動ごいており、その存在は宇宙に知れ渡っている。
三日月たちのような孤児ならばまだしも、一般の市民がその存在を知らないのは到底あり得ない事なのだ。
店を追い出された後、三日月は道行く人たちに質問を投げかけた。MS、ヒューマンデブリ、コロニー、火星、阿頼耶識、そして鉄華団の事などを。しかしそれに対しての返答は全て「知らない」というものだった。そうしていく内に、自分と街を歩いている人々との認識に決定的なズレがあることがわかった。そうして出した結論は。
「ここは、俺のいた世界じゃない」
小さく、しかし確信をもって、そう呟いた。
今日中に最低限の情報だけを得ることはできたのは喜ばしい事だった。普段ならこの程度の運動では息が上がることすらないのだが、恐らく精神的な疲労のせいだろう。疲れた体を癒すために、夕暮れ時の太陽に照らされた公園のベンチに座っていた。
転生したという事に最初こそ困惑したが、三日月らしいというか、彼はすぐにその事実を受け入れた。三日月のドライな性格が、いい方向に働いたのだ。
当然、鉄華団の皆に会えないのは寂しいことではあるが、今は感傷に浸っている暇などはない。どうやってこの世界で生きていくか。その方法を探すことが最優先事項なのだから。
と、色々なことを思案している三日月の視界の端に、ふと街を探索しているときも度々目にした朽ち果てている塔が映った。
「なんであんなの放置してあるんだろ」
「それはねーあれが街の観光名所だからだよー」
誰に問いかけたわけでもなく、ふと自然に口に出していた小さな疑問。それに答える女性の声がどこからともなく聞こえてきた。
声の方向に首を向けてみると、そこに立っていたのは金のように見える白髪のショートカット。後ろに束ねられた髪をまとめるリボンと同じ色をした奇麗な赤い瞳が、三日月の青い目と合った。
「アンタ誰?」
「まっ、細かいことは気にしなさんなって。今はあれ平和の象徴とか呼ばれてんだよ~。全く平和とはかけ離れた見た目なのにね」
「ふーん」
「ちょ、興味なさそーだね。人が折角教えてあげたのに」
「別にアンタに聞いたわけじゃないよ」
「そりゃそーだけどさー」
いつも通りの塩対応で返す三日月に、頬を膨らませて怒ってますよーぷんぷん、といった感じのアピールをする少女。どちらも初対面の人に取る対応としては0点である。
「なんでアンタ俺に話しかけてくんの?」
「うーん何となく?特に理由はこれと言ってないよ」
何か変なのに絡まれたし、さっさと退散するか。と思い三日月は少女から視線を逸らして立ち上がろうとする。その前に、手をつないでお母さんと家へと帰っていく子供たちの姿が三日月の視界に入った。
「ねえ。ああいうの、どう思う?」
「どう思うって、何が?」
親子たちに指をさし、突然意味不明な問いを投げかけてくる。
「君、あの親子見た時、すっごいホッとしたような顔してたよ?気づいてないの?」
体を折り曲げ、三日月の顔を覗き込んでくる少女。そう言われてみると、確かに三日月の表情は口角が少しだけ上がっており、どこか嬉しそうにも見える。
だがあの親子を見て何を具体的に感じたのかは、彼自身にも分からない。なぜなら、
「分かんないな。俺、親いないし」
その言葉に、少女がバツが悪そうな顔をする。流石に踏み込んでしまってはいけない領域に入ってしまって、申し訳なさそうな顔を浮かべていた。
「ご、ごめんね。デリカシーなくって」
「別に、気にしてないよ。でも――」
少なくともこの街を今日見渡した限りでは、三日月たちのような孤児や悪い大人はいないし、三日月の知識では判断しかねるが、恐らく戦争も起こってはいないのだろう。皆が普通に暮らしている、平凡ではあるが三日月たちが手に入れられなかったもの。まさしく平和というものを満喫しているのを思い出して。
「平和ってのは、いいと思う」
それは、戦場を経験してきた三日月だからこそ、重みのある言葉だった。
無駄に死んでいく命を見てきて、自分も可能な限り人を殺めてきた。もしこの世界に戦争がなく、鉄華団の皆のように戦うことでしか、戦場でしか生きられない命が無いというのなら、それは間違いなく三日月にとっての幸福であった。
「だよねー。やっぱ平和で、皆が笑ってるのが一番だよ」
その言葉を聞いて、天真爛漫でとても可愛らしい笑顔を浮かべる少女と三日月の目が合った。
「ねえねえ、君孤児って言ってたよね。今どういう暮らししてんの?」
「これから考えるとこ」
「え?どゆこと?」
「帰る場所が無いってだけだよ」
目を開いて口に手を当て、えー!と声を発して驚きを現す少女。当たり前といえば当たり前であるが、自分と同じくらいの年齢の子供がホームレス、というのはそれほどまでに衝撃的な事であったのだ。
「別に、道で寝ることくらい慣れてるしどうってことないよ」
「慣れてるって……君ねぇ……」
本当になんてことないかのように淡々と話す三日月を見て、これはただ事ではないと少女は感じた。そしてこの瞬間、彼女はとある一つの事を実行する、と決めた。
「ねぇ君。もしよければなんだけど、ウチの店、来ない?よければ泊めてあげるよ?」
「え?」
それは彼を自分の働いている店に宿泊させる、というものだった。
ニコニコとした笑顔を浮かべ三日月を迎え入れようとするが、三日月は目の前の少女に警戒心を示していた。これまでの生い立ちのせいで、三日月はそうそう簡単に人間を信頼できない体になってしまっていたからだ。ましてや自分と出会って数分しか会話のしていない相手から店に泊めてあげるよなんて言われても、そうそう鵜呑みにできるわけがない。
「なんで泊めてくれんの?それやってアンタに得なことないでしょ」
「――私も孤児だから」
その一言と共にベンチから立ち上がり数歩歩いたところでくるっと反転する。夕日に背を向けてできた影のせいなのか、彼女の笑みと言葉には少しの寂しさが浮かんでいるように見えた。
「だから他人事みたいに考えられなくてさ。どうしてもほっとけないんだ」
三日月の前に立ち、細く白い美しい手を差し伸べる。この手を取っていいのだろうか。何だかこの手を握ったら、鉄華団の皆たちと決別してしまうような気がして。
(でも、もしオルガが居たら――)
きっと、俺の背中を押してくれる。そんな気もして。
彼は彼女の手を取った。
これは、世界の端と端が結ばれる。
とてもちっぽけなお話の、確かな一歩。
はいというわけでいかがでしょうか改訂版
正直改定前と何もかもが違いすぎて、もうリメイクですねこれ()
リコリコ、最後まで見たんですがあれはいい物ですね。
というわけでこれから本格的に始動していきますので、至らない点などございますが、どうか見守っていただけると幸いです。
よろしくお願いいたします。
改訂版はいかがでしたでしょうが
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良かった
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不自然な点がある