千束延命RTA たきなルート   作:biimの遺児

2 / 3
閲覧、お気に入り登録、評価付与、感想、ありがとうございます。


part2

 

 RTA走者はね、人の心なんてないし、やる事全部がむちゃくちゃでなきゃいけないの、なpart2はーじまーるよー

 

 前回はエリカを死なせずにスタンドプレーを完遂し、フキ姉貴にグーパンをかまされたところまででした。

 

「転属ですか」

「司令を無視して作戦を台無しにした罪は重い」

 

 はい、無事にリコリコ送りとなりましたね。ストーリーモードでオリキャラor原作キャラでリコリスを選びつつチュートリアルで命令違反をすると確定でここに送りつけられます。ちなみに違反なしの場合はDA本部か関東支部所属のままIFストーリーが始まります。フキを筆頭にリコリスたちの意外な一面が見れたりするのでやってみて、どうぞ。

 

 原作同様ラジアータがハッキングを受けた件を内密にする為のスケープゴートにされていますが、まあ普通に考えて当てない自信があるから人質もろとも機銃掃射するような奴が仲間内にいたら扱い切れないどころか恐怖です。なので閑職送りも止むを得ない♂。

 

 楠司令からの辞令モノローグをバックに目的地に到着しました。見た目からして陽の者のみ入る事ができる帷の様な雰囲気を放つカフェ、喫茶リコリコです。それではこの喫茶のイカれたメンバーを紹介していきましょう。

 

「あんた誰?」

 

 まずは扉を開けた先で素っ気なく出迎えてくれたのは中原ミズキ、ごく稀に営業時間中に酒を飲み始める従業員の屑にして行き遅れた呑んだくれノンケおばさんです。忌憚のない意見ってやつッス。任務中は要所要所で活躍してくれるけど普段がだらしねえ上にノンケなので多少はね?

 

「来たか、たきな」

 

 続いてどこぞの四皇の様なセリフと共に店の奥から現れたハードボイルドな黒人の偉丈夫が紫の和服を着込んでいるというベクトルの違う渋さが奇跡的にマッチしているイケオジはこの喫茶の店長のミカ。作中最強キャラであり同時に作中屈指の包容力を持つ大聖母です。ママー!

 そして何より、才能好きのアラン機関の兄ちゃんを直向きに愛していた同性愛者(公式)です。

 真面目な話ミカとシンジの関係性は語られない部分が多い事も含めて茶化しちゃいけないくらい美しいものなのでネタにしてはいけない(過激派)

 

「よろしく相棒!」

 

 そして今回のRTAのヒロイン、錦木千束。筋肉の動きから相手選手の動きを正確に先読みする能力「天帝の眼(エンペラーアイ)」を持つキセキの世代キャプテンにして、「命大事に」をモットーに不殺の誓いを立て逆刃刀を振るうヒテンミツルギスタイルの使い手です(大嘘)

 原作アニメにおいてたきなと視聴者の感情をぐちゃぐちゃにする程の大人気キャラクターですが、RTA的には不殺縛りの影響で戦闘に時間を取られやすく走者に舌打ちをされる事もしばしば。かと言って安易に縛りを破るとフラグが崩壊するわ千束との会話イベントが結構な数挟まれるわで更なるタイムロスが生まれます。ストーリーの性質的にもキャラクター的にも、千束延命RTAの最大の障害は千束と言えるでしょう。こいつ本当に味方か?人間の屑がこの女郎。もう許さねえからなぁ?

 

「リコリコへようこそ〜くひひっ」

 

 可愛いからままええわ(手の平返し)

 

 さて、ここから少し移動と会話劇だけになるので倍速しましょう。保育園、日本語学校、組事務所とお得意様の施設を巡り、公園で駄弁った後に某レスリング選手姉貴の様な名前のストーカー被害者からの依頼を受ける所までは特にやる事がありません。

 強いて言えば会話を長押しして早く送る事と移動で早歩きするくらいですね。この辺りは短縮要素もなくかなり地味で退屈な時間になりますが、この後の戦闘パートはかなり忙しくなります。しっかりとコンディションを整えておきましょう。

 

走者倍速中…

 

 場面がファミレスの中に移りました。今回の依頼人と面会するシーンですね。

 依頼人は篠原沙保里、彼氏とのラブラブツーショットを撮ったら不幸にも後ろのビルで行われていた銃取引現場を激写してしまったノンケ姉貴です。ウッソだろお前ww

 チュートリアルの銃取引はフェイクであり、銃がやりとりされた本来の時間は数時間前だったらしい事が判明しましたね。一通り話を聞いた後、ボディーガードを請け負い千束がパジャマパーティーのためにお泊まりセットを取りに戻ったところで等速に戻しましょう。

 

 さて、ここまでほとんど原作通りでしたが、この後は………

 

 

「では先に行ってて下さい、すぐに戻りますので」

 

 

 原作通り依頼人を囮にします。

 

 

 原作通りばっかじゃねえかお前ん()ぃ!それしか言えんのかこのイッヌゥ!と思われるかも知れませんが、序盤の合理主義たきなのムーブがあまりにもRTAとマッチしてて他の選択肢が入り込む余地がないんですね。TKNはRTA走者だった…?

 なお襲撃犯を釣らずに付きっきりで護衛する方も選べなくはないのですが、経験値がそこそこ多めに入る代わりにタイムが死ぬほど溶けるのでRTAでは絶対に採用されません。

 

 無事に卑遁・囮隠れの術が成功したようです。犠牲の犠牲になった依頼人姉貴が離せコラ流行らせコラとワゴン車の中に連れ込まれて行きます。女性を無理矢理拘束して車に連れ込むとか多分変態だと思うんですけど(名推理)もう許せるぞオイ!

 

 車の中で致しているようにしか見えない揺れ具合でガタガタとしている車を尻目に装備を整えましょう。と言っても今手元にあるのはリコリス共通装備のM&P 9とサイレンサー、そしてワイヤー拘束銃だけ、ちょうど今から使う物しか入ってないので迷う事はありません。

 右手に拳銃、左手にワイヤー銃を装備します。両腕に銃を装備するとリロード時に手間取るという欠点がありますが、今回は装弾済みの弾丸だけで充分なので無問題。

 

 アニメの展開をただなぞるだけのゲームプレイが続きましたが、ここからがRTAらしくなってくるポイントです。見とけよ見とけよ〜?

 

「写真あったか!?」

「ありました!」

「さっさと消せぇ! 写真は他には拡散してないか!?他には撮ってないな!?」

 

 襲撃犯が依頼人に気を取られてる間に車の前に出ます。日が暮れている為かなり暗いですが相手の顔はちゃんと見えますね。

 

 最初に運転手の顔面に照準を合わせます。

 

 先程、千束を紹介する際に「不殺縛りのせいで時間がかかる」と言いましたが、厳密には縛りの影響を受けるのはアニメで言えば2話以降のエピソードからです。

 言い換えれば、1話のエピソードに相当する最初の任務は不殺を貫く必要がないんですね。千束から別れ際に「命大事に」と言われはしましたが、敵も含めて完全非殺傷なんて説明はこの時点ではされてませんからね。屁理屈に見えますが実際これで通せます。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()1()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 本ストーリーはたきな主観で進行する為、この戦闘にはたきなの「銃取引の情報を聞き出す」という目的が挟まります。なので敵を全員殺害するとストーリーが進行できずミッション失敗、最初からになってしまいます。

 が、裏を返せば情報がヌけそうな奴が1人でも生存していれば残りは死んでも構わない、という事なんですよね。

 

 貴重な虐殺(タイム短縮)の機会なのでしっかり始末しましょう。殺っちゃうよぉ?殺っちゃうよぉ?

 相手の数は4人、つまりその内3人は殺せますね。3人に勝てるわけないだろ?馬鹿野郎俺は勝つぞお前!

 

 先ず1人目。運転手の頭に風穴を開けます。

 

「おい何止まってんだ、早く出せ────っ!?」

 

 サイレンサー付きの一撃で仕留めたため、助手席のリーダー格が気付くのが遅れてますね。フロントガラスが割れる音で気付くのでは?と思わなくはないですが後ろを向いて大声で喚いている最中に射撃すると気付かれない判定になります。お前の耳ガバガバかよ…真島サンを見習ってどうぞ。

 とにかく相手が少しの間止まりました。今の内に後部座席で依頼人姉貴に馬乗りになっている変態親父をお前のそこが隙だったんだよ!とばかりに始末しましょう。

 

 あげるわあなたに(銃弾)

 

「がっ………!」

 

 このゲームの敵は基本的に実弾でヘッドショットを決めれば即死、心臓を打ち抜くと数秒後に死亡します。心臓でも殺害できることには変わりありませんが、イタチの最後っ屁で反撃してくるケースがちょくちょくあります。なので殺害する際は、特に敵が複数いる場合はヘッドショットで確実に動きを止める必要があります。

 

 ヘッドショットは他キャラ操作中の場合かなり高いエイム力が要求されますが、実はたきなの場合のみ、ある理由からほぼ確実にヘッドショットを決められます。

 

 それがたきなの固有スキル、『精密射撃』です。

 

 本ゲームの一部キャラクターは、各々の特殊能力や戦闘スタイルが反映された固有スキルを持っています。例えば千束なら『先読み』と『弾避け』、真島なら『強化聴覚』、フキは小説版の描写から『瞬足』を所持しています。コーナーで差をつけろ。

 

 たきなのスキル『精密射撃』は原作での曲芸染みた射撃が再現されたスキルで、簡単に言えばFPSのエイムアシストに似た効果を発揮します。発動条件は装備が『拳銃』カテゴリである事、対象がある程度しっかりと視認できている事、そして体勢が安定状態にある事の3つです。スキル発動時は照準を大雑把に標的の近くに寄せるとシステム側が狙いたい場所を検知して自動で補正してくれます。

 

 例えば今の場面なら、敵の頭の周りへ適当に照準を持っていくと、次の瞬間には敵の顔の真ん中をピタッとロックオンしたように止まっているのが見えると思います。この様に、あとは発砲するだけで簡単にヘッドショットが成立します。

 

 千束の弾避け無双プレイやフキのハイスピードアクションと比べると絵面がやや地味ですが、ほいほいヘッドショットを決められる感覚は病み付きになりそうですね。もっとちょうだい……。

 

 なお運転席の敵を最初に攻撃したのは、エンジンがかかってライトが点灯し車の中が見えにくくなり『精密射撃』が発動しなくなるのを防ぐ為です。

 

「このっ……!」

 

 ここで助手席の赤い髪の男が攻撃に転じます。ちょっと遅かったんちゃう?

 先程言ったように1人は生かしておく必要がありますが、「人質にされそうな依頼人から遠い席にいる」かつ「運転席に座っていない」の2つの理由からこいつを生かしましょう。その為に『精密射撃』のもうひとつの仕様を利用します。

 

 先程「たきなはスキルのおかげでヘッドショットが確実に決まりやすい」と説明しましたが、これだと逆に「不殺対象も殺してしまうのでは?」と疑問に思われた視聴者兄貴達もいるでしょう。

 

 『精密射撃』で人体を狙う場合のロックオン箇所は、頭以外にも複数設定されています。具体的には心臓、武器を持っている手、膝、肩などです。基本的に頭を最優先に補正がかかりますが、ロックオン状態の時に右スティックを強く弾くと、「弾いた方向にある別の箇所に照準が合う」という特性があります。

 体の部位や武装の状態によって、どの順でロックオンされるかの優先度は変動しますが、顔を狙った状態で右に弾くと、こんな感じで大体銃を持っている手に照準が合います。

 2発続けて発砲。

 

「くっ、あ゙ぁっっ!」

 

 1発目が綺麗に銃だけを弾き飛ばし、2発目が腕に炸裂しました。

 この様に、『精密射撃』スキルは「あえて急所を避ける射撃」にも対応しており、不殺での制圧にも役立ってくれます。こちらも原作再現ですね。

 ただ不殺縛りでの戦闘不能は操作ミスの危険があるし弾丸も多くいるし時間もかかるしめんどくさいしで大変です。普通にヘッドショットをする方が早くて楽です。

 

「クソッ…おい!こいつがどうなっても──」

 

 あ、後部座席にいたもう1人が依頼人を人質にしようとしてますね。頭に1発入れましょう。Yeah 後ろの方!人を盾や囮に使うなんてどうなんだよ人として!(ブーメラン)

 ちなみに依頼人に1発でも当たると戦闘開始からやり直しになりますが、エイムアシストのおかげでその心配は皆無です(0敗)

 

 3人始末したので後は残りの1人を拘束しましょう。腕を負傷した生き残りが怯んでいる隙に一気に接近しドアを開けます。お開いてんじゃーん!

 左手に装備したワイヤー銃を乱射して拘束します。動くなッ!まんじりともせずワイヤーを受け入れろ…ッ!ちなみに余談ですが、ワイヤー銃は特殊武装カテゴリなので『精密射撃』は発動しません。

 

「離、せぇ……むぐっ!?」

 

 猿轡がないので連中が揃いも揃ってかけてたサングラスで代用しましょう。サングラスを口の中に捩じ込んでから上からワイヤー銃を発射、口を塞いで、工事完了です……。

 特殊弾を惜しみなく投入する金とタイムの貪りデーモンが参戦する前に敵を全員戦闘不能にしたので、ゴムしか撃てない女のクソほどまどろっこしい戦闘シーンは全カットされました。やったぜ。

 

 おっと、噂をすれば画面の奥に千束がいますね。戦闘が起きていたのを察知したのかお泊まりセットを道端に放り捨てて慌てた様に走り寄ってきます。

 どうやら恐怖のあまり気絶してるらしい依頼人は相棒に任せて、死体と捕虜の片付けをしましょう。リコリコ送りになった後も一部DAの制度や補助、施設の利用は可能です。リコリスに支給されているスマホから回収班を呼び、待ち合わせポイントを指定します。あとはDAにパパパッと引き渡して、終わりっ!

 

 今回の護衛任務は最高クラスにスムーズに行きました。こちらをチラチラ見てくるドローンを狙撃したところで今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 新しいリコリコの仲間、井ノ上たきなと顔を合わせて見て最初に思ったのは、「綺麗な子だな」だった。アメジストの様な瞳は目の前にあるものを真っ直ぐ見据えていて、意志の強さを感じさせた。

 次に気になったのは手当ての跡がある頬だった。尋ねてみると、任務中の負傷ではなく、千束とは昔馴染みのファーストリコリスに殴られたのだと言う。

 美人の顔に傷をつけるとは何事か、と喧嘩腰にかけた電話の向こうからは、やれ指令がだのやれ任務がだの相変わらずな堅い返答ばかり。変わってないようで何より、と懐かしい気持ちになりながらも呆れてしまった。フキらしいといえばらしいけれど。

 ただ、終わり側に気になる事を言っていた。

 

『たきなを相棒にして、相変わらずゴムしか撃たないつもりなら、せいぜい気をつけておくんだな』

「どういう事?」

 

 千束のモットーは「命大事に」だ。敵も味方も含めて死んでしまう事がないように。持ち前の眼を活かした弾丸避けと、先生に作ってもらった特殊弾を用いて、殺傷せずに敵を無力化する特異な戦闘スタイル。根っからのリコリスであるフキを筆頭に「ゴムしか撃てない問題児」と言われて早数年だが、千束はこの戦い方に誇りと自信を持っていた。

 それとたきなが相棒になる事に、どんな関係があると言うのか。

 

『せっかちなんだよ。狂ってる程にな』

 

 そんな要領を得ない答えだけを返して、フキは通話を切ってしまった。

 

 それから少しして、今日からお互いに相棒という先生の声に従って二人してリコリコのお得意様へ足を運んでいる時、千束はフキの言っていた事をなんとなく理解し始めた。

 例えば店の常連の組事務所にコーヒー豆を届けに行った時、危ない薬物の取引だと早合点して銃を抜こうとしたり。喋りの速さや会話のペースが、何か焦っているのかと思ってしまうほど急いでいたり。

 極め付けは、施設を回ってる時のこと。

 

「次は警察署でしたね。早く行きましょう」

「そーだねぇー。でも時間はまだあるし急がなくても大丈……ってちょいちょいちょい!なんで早歩き!?」

 

 次の目的地がわかるや否やスタスタと競歩みたいなスピードで歩き出したのには流石に面食らった。何か気に触る事を言ってしまって怒らせたのかな、と思ったが、呼び止めたこちらに不思議そうな顔を浮かべたあたり、そういう訳でも無いらしい。どうも素であの速さで移動したい様で、確かにせっかちなんだなあ、とどこか微笑ましい気持ちで、パートナーになった少女の事を見ていた。

 

 

この時までは。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「やばやば、もう真っ暗じゃんか」

 

 パジャマにお風呂セットに遊び道具にとやたらめったら詰め込んだ荷物を抱えながら、千束は夜道を走っていた。

 今回の依頼はボディーガード。SNSにアップした画像を皮切りに、ストーカー被害に悩む女性・篠原沙保里の身の安全の確保だ。ひとまず今夜は一緒に過ごす為に3人でパジャマパーティーをする事になり、千束はリコリコへ荷物を取りに帰るため一旦2人と別れたのだ。

 発端となった写真を検分したところ、どうやら依頼人はとんでもない偶然で銃取引現場を写真に収めてしまい、その犯人達から狙われているらしい事がわかった。

 そんな状態で依頼人から離れるのはリスクがあったが、そこはたきなを信用した。たきなとは今日が初対面、当然ながら一緒に仕事するのも今回が初めてだが、彼女の経歴から信じるに足る実力を持っていると判断したからだ。

 

 地方から本部や東京支部へ移転したリコリスは転属組と呼ばれる。それは、この国の要たる首都東京の治安維持へ回すべき人材だとDAから判断された事に他ならない。聞けば現場指揮官を担うフキと同室でありパートナーだったらしい。その事からも、セカンドの中でも頭ひとつ抜けた能力の持ち主だと示している。

 そんな彼女なら例え襲われたとしても遅れを取る事はないだろう、と安心して依頼人を任せて別行動を取ったのだった。

 

 とは言え、流石に準備に手間取り過ぎたな、と心の中で反省しながら街灯に照らされた道路を走る。

 

 

「────ッ!」

 

 

 一瞬、気のせいかとも思えるほど小さな破砕音が耳に届く。

 

 長年リコリスをやっているからこそ、二度三度と続いたそれが、ガラスを銃弾が突き破る音だと察した。

 

 荷物を投げるように降ろし、音のした方へ大急ぎで駆けつけると、道端に一台車が止まっており、その隣にはたきながスマホを手にしながら立っていた。遠目で確認しづらいが後ろのガラスには弾痕らしき穴が空いている。やはり襲撃を受けたらしい。が、たきなが落ち着いて電話をかけている事から既に状況は終了していると見ていいだろう。流石は転属組、と頬が緩んだが、周囲に沙保里がいない事に気付いて顔を引き締めた。

 

「たきな!沙保里さんは!?」

 

 姿が見えない依頼人の所在を訊ねると、たきなは通話しながら指で車の中を指し示した。飛びつく様に車内を覗き込んだ瞬間、千束は息を詰まらせた。

 

 後部座席にはサングラスをかけた男が2人、頭の中心には穴が開いており、座席シートには夥しい量の血が流れていた。間違いなく、死んでいる。

 その隣の血が付いていない座席には、体を預けるようにして瞳を閉じている沙保里の姿があった。

 

「ッ、沙保里さん!沙保里さん!?」

 

 男達の様子も気にはなったが、今は依頼人を優先した。顔は青ざめてはいるが、呼吸と脈拍は正常。ほっと安堵の息をつく。

 

「うんっ、しょっと」

 

 死体だらけの車内で寝かせるわけにはいかないと、彼女の体を抱えて運び出す。すると、ぱさ、と小さな音を立てて麻袋が床に落ちた。丁度人1人が入るくらいの大きさ。触れるとほのかに暖かかい。これは、もしかして。

 

「沙保里さん、捕まってたの?」

 

 電話中なのを承知でたきなに問いかける。こちらに視線を向けたたきなは、マイク部分を手で覆ってから口を開いた。

 

「────怪我はありません。気を失ってるだけの様です」

 

 短く告げると、彼女はまた背を向けて通話に戻ってしまった。

 確かに外傷はないらしい。だが、聞きたい事はそんな事じゃない。第一否定しないという事は本当に捕まっていたのか。千束は問いただそうと腰を浮かせた。

 

「ゔぅ、うぅ……」

「…………?」

 

 不意に呻き声のような音が聞こえて来て、千束はハッと顔を上げて助手席に近付いた。何故かサングラスを口に咥えた男が、座席に縛り付けられていた。赤い髪の男。依頼人が見せてくれた写真の奥に写っていた人物だろうか。よく見ると右腕を負傷しているらしく、だらだらと血が流れている。

 

「ああ、もうっ」

 

 このまま見過ごす訳にはいかない。カバンの中から用具を引っ張り出し、ひとまず応急処置を済ませる。拘束されたまま手当てをするのにはやや苦心したが、男がおよそ味方ではないだろう事を考えると自由にするのは憚られた。

 ふと助手席の向こうの運転席にも男が座っているのが見えた。頭をハンドルに打ち付けたまま静止している。呼吸はしていない。死んでいる。

 

「………………命大事にって言ったのに」

 

 そう呟いてから、そう言えばたきなはリコリコの方針についてはまだ知らなかった事を思い出す。

 別行動を取る前に言った言葉は、たきなには単なる応援か「怪我しないように」程度の注意喚起くらいにしか聞こえなかったのだろう。意思疎通が不十分だったのは千束のミスだ。ここは相棒を責めるべきじゃない、と思い直した。

 

「っと、今度はなんだ…?」

 

 不意に、視界の上端に何か映った様な気がして、顔を上げた。

 

「あれは……?」

 

 ドローン、だろうか。黄色いボディに四つのプロペラ、本体下部にはカメラらしきものがついている。あれで依頼人を追跡でもしていたのだろうか。

 

「────ッ!」

 

 パシュッ、と空気の抜ける様な音が隣から響いた瞬間、視線の先のドローンが弾かれたように体勢を崩し、小さく爆発した。

 驚いて隣に目を向けると、電話を耳に当てたままのたきなが、空に銃を向けながら立っていた。千束の視線からドローンに気付き、即座に狙撃したらしい。

 

「はい。……はい。よろしくお願いします」

 

 興味を失ったように銃を下ろしながらも、電話の向こうの相手との会話は澱みない。

 ここからあのドローンまでの距離はかなり開いている。赤いランプがあったとは言えそれも極小だ。夜空の中でどう動くかもわからないドローンをいとも容易く1発で撃ち落とした。それも会話を途切らせる事なく、片手間に。

 

 車の様子を再確認する。フロントガラス以外の損傷はなし。ガラスに空いている穴は弾痕だろう。数は4つ…いや、助手席の男の前だけ2発分の穴が重なって空いているから5つか。死体は全員車の中で、塀や地面に当たった形跡も見当たらないから、車外で戦闘が行われたわけではないだろう。

 

 つまり彼女は、車に乗っている男4人を、真正面からの銃撃で無力化した事になる。それも1人につきほぼ1発ずつ、無駄な弾を一切撃たずに。

 

「…………………」

 

 運転席の死体を見る。車内ライトに照らされた後頭部に弾痕があった。この位置、この角度。どうやら弾丸が顔の正中線上の中心を捉え、頭の後ろの真ん中から綺麗に抜けているらしい。おそらく即死だったのだろう。

 まるで機械のような効率の良さと正確さは、いっそ不気味とすら思える程だった。

 

 それとは別に疑問が生まれる。

 ここまで手際良く事を済ませる力があるにも関わらず、どうして依頼人は捕まっているのか。目を離した隙に奪われた?守りながら戦った末に拉致された?いずれも彼女の能力を踏まえれば考えにくいし、周囲の状態とも付合しない。車の男達の死に様から想像するに、後部座席の依頼人に気を取られている間に前から不意を突かれた様にも思える。

 そこまで考えを巡らせたところで、千束は不意に思い至った。

 

「護衛対象を囮にしたの……?」

 

 信じられない思いで口から溢れた想像。それを耳が拾ったのか、電話を終えたらしいたきなは、こちらを振り返って口を開いた。

 

 

 

「それが一番早かったので」

 

 

 

 淡々と、無感情に彼女はそう言った。

 

 

『せっかちなんだよ。狂ってる程にな』

 

 

 今朝の電話でフキから言われた言葉の意味が、今になってようやく理解できたかもしれない。

 

 その時覚えた感情を、千束は後々になっても言葉にする事が出来ない。

 

 ただ上手く思考が回らなくて、何を言ったら良いのかも解らなくなって、呆然とするしかない千束に、たきなは気を失ったままの沙保里の体を持ち上げると、押し付ける様に千束の方へ預けてきた。

 

「沙保里さんの事、頼みましたよ」

「あっ……ちょいちょいちょいっ!待ってよ!」

 

 慌てて呼び止めようとするが、たきなは聞く耳を持たずにさっさと運転席へ乗り込んでエンジンをかけてしまった。気絶したままの依頼人を放ったまま、あるいは担いだまま追いかけるなんて事はできそうもない。

 憔悴し切った顔で瞳を閉じる沙保里を抱きしめながら、走り去っていく車を見送る事しか、今の千束にはできなかった。





たきな「だから、護衛対象を囮にする必要があったんですね」

これが原作通りってマジ?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。