ドルフロ×呪術廻戦   作:羽の折れた鷲獅子

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 カツリ、コツリと硬質なヒールが床を叩く音が響く。人気のない廃墟と化した元病院には、足のないモノが大量に浮遊していた。

 歩くのを止め、目の前に揺蕩う黒いモノを見て深い溜息を吐くのは、日本ではまず見ない、大きめの銃を持った女である。

 

 

「これは、聞いていたよりも量が多いですね・・・。廃墟に肝試しに来ている一般人がいなくてよかったですよ、これ」

『だろうねぇ。そもそも私達に仕事を振ってくる時点で、量が相手なのはわかりきったことだし』

 

 

 ガチャリ、と銃のセーフティをロックからアクティブに切り替える。目の前にいるモノ──呪霊に銃口を向け、トリガーに指をかける。後は通信先の人物から一言貰えば、火を噴くだけである。

 

 

「ターゲットロック。いつでも」

『オープンファイア。帳も張ってあるから音も気にしなくていいわ』

 

 

 ダダン、ダダンと二点バーストの特徴的な銃声が廃墟と化した病院に響いた。

 

 

▼▼▼

 

 脳内に鈍く響くように聞こえる銃声を聞きながら、女は目の前のPCにひっきりなしに送られてくる【殺害依頼】を眺めていた。

 最初からその依頼は受けない、と宣言したにも関わらず自らの権力と立場を盾に何度もしつこく依頼を送ってくるのだ。

 

 無駄なことをしてくる連中に対し、舌打ちをしながら依頼のメールを削除していく。テーブルに置いたコーヒーは温くなっていた。

 もはや嫌がらせとも取れる量のメールを送ってくることにイライラし始めている女は、いっそこのメールを送ってくる奴らを殺した方が早いのではないかと考え始めていた。

 

 

『掃討完了、一般人の反応もありません』

「お疲れ様。一応聞くけど、損傷は?」

『被弾なし、ですが烙印の反応が少々鈍いためメンテナンスを進言します』

「了解。それじゃあ見つからないように出てきてね」

『AN-94、了解。アウト』

 

 

 脳内に自分だけ聞こえる声からの報告にようやく安堵の溜息が出る。面倒ごとから少しでも逃げたい今は、それだけでも十分だった。

 一度目を閉じ、意識を集中させてから開く。視界には今しがた話をしていたAN-94のパラメータが、薄いディスプレイのように空間に浮かんで表示されている。

 

 HP減少無し、これは報告通り。残弾、余裕あり。エネルギー、余裕あり。通話通りに何事もなかったことに安心する。すっかり温くなったコーヒーに口をつけ、浮かんだそれらのパラメータを視界から消す。 

 

「本日も何事もなく任務完了、と。あぁ、呪霊が多かったことだけ文句でもつけておくか」

 コト、とマグカップをテーブルに置き直して報告書を書き始める。

 

 

 

 

【報告・呪霊掃討任務】、そう書かれた題名の下には【特級呪術師・秀内 奏】と書かれていた。

 

 

 

 

 

 特級呪術師、秀内奏の術式は傀儡術式であり、そう珍しいモノではない。同じ術式を呪術高専の京都校の学生が持っていることもあり、どんなモノかはわかりやすい。だが、奏がわずか5名しか指定されていない特級の一人にされているのには相応の理由があった。

 

 奏の傀儡は限りなく人に近く、そしてそれを同時に操作する数と範囲、精密度は異様なほどに高い。

 その気になれば、アメリカの大統領を日本にいながら片手間に殺すことも容易ほどである。

 

 当初、この事が知れたときには死刑を言い渡された。しかしそれを自らの実力で無効化した上に、死刑を言い渡してきた呪術界の上層部を一瞬で四肢を痛めつけ、再起不能なほどの精神的苦痛を与えた。

 暴力的な見せつけで自らの地位を確立させ、特級呪術師という肩書きを元に自由を勝ち取った狂犬。それが秀内奏という女である。

 

 だが、奏が抱えている秘密はそれだけではない。そもそも傀儡術式というのは今いるこの「世界」で最も性質が近かった、というだけで割り当たっているだけに過ぎない。

 奏には「前世」というモノがあった。そこでは娯楽の一つとして存在していたゲームがあり、そしてそれをこよなく愛していた奏の前世の人間は何の因果か、二度目の世界でそれを現実に存在させた。

 

 戦術人形、それが奏の傀儡術式で動く傀儡の正体であり、傀儡ではない別の存在である。戦術人形は銃そのものであり、己自身である銃に刻まれた烙印と機械の体をリンクさせることで、人間以上に使いこなすことができる。

 銃がどこにあるのか、それ以上に銃口がどの方角を向いているかまで分かる上に、人形であるために動ける時間も、パワーも、そして射撃技術も現実の人間以上に使いこなせる。

 

 これを自覚したそのとき、奏は酷く困惑した。自らの視界に映る人成らざる存在もだが、本来なら現実にない人形達を自分が使役できると自覚したのだ。その情報量は多すぎて、幼い奏には大きな負担と成っていた。

 周りには自分以外人成らざる存在が見える人もおらず、頼れるのは自分だけ。人形達の性能は自分の実力が強く影響しているのか、最初の頃は小さいのを相手取るだけでも精一杯だった。

 少しずつ、一つ一つ積み上げてようやく安全になったと思ったそのときに見つかり、そして死刑を言い渡された。もはやそのときの怒りは尋常ではなかった。

 

 そのときに何かがあったのか、今まで以上に人形を扱えるようになり、暴走とも取れる暴れ方をした奏は尊大な肩書きを与えられた問題児として見られるようになった。

 

 

「AN-94の烙印の確認、呪霊討伐の報告書は・・・これで良し。監視してる呪詛師も特に抜けはないから・・・後はフリーかな」

「五条への文句もあるだろ?指揮官」

「おっと、忘れてた。ありがとね、トンプソン」

 

 

 書き終わった報告書を封筒に入れて、やってきた人形の一体であるトンプソンに渡す。高専とのやりとりは何体かの人形を派遣することで終わらせるようにしている。自分で出向くと面倒な上層部に声をかけられるのが原因だが。

 

 

「同時展開で4部隊20体、ダミーは今回いないからまだマシとは言っても、相当な負担じゃないのか?」

「最悪14部隊350体を出さないといけないんだから、これくらいは慣れておかないと、ね」

「はぁ・・・もう少し平和を謳歌すればいいものを」

 

 トンプソンは呆れて肩をすくめる。もう少し休めと言いたいのだろう。

 ゲームの中にいる人形達からすれば今の状態は十分平和らしい。いろいろと知っている奏からしてもそう思える部分もあるが、やはり前世がある以上今は十分物騒に思える。

 

 

「いいんだよ、私は私のしたいことをするだけだからさ」

「それがいい。何事もほどほどにな、指揮官」

 

 

▼▼▼

 

「先生ってさ、最強だって言ってるけどこれだけは勝てないっていえる人とかっているの?」

「んー・・・あぁ、一人だけいるね。最強の僕でも一つだけ絶対に勝てないことがある」

「え!すげーじゃんその人!」

 

 

 体術の訓練の合間の雑談にて、虎杖は五条にふと気になったことを聞いていた。最強を自ら宣言し、それを体現する目の前の男が勝てないといえる人物はどんな人なのか。虎杖は興味津々で聞いていた。

 

 

「マルチタスクと精密操作、後は範囲行動を同時にできる子がいてね。年齢的には悠仁達より7個上の女の子で、特級呪術師だよ」

「特級!」

「まあ特級になった理由が上層部が命の危険を感じて逃げるために与えた感が強いんだけども」

「え」

「まあそれは置いておいて、簡単に言えば彼女は日本でお茶を飲みながらアメリカ大統領を暗殺するのができるくらいにやばい」

「はぁ!?」

「そう思うじゃん?でもそれだけじゃないんだよね。まあ、対呪霊という観点で言えば数を相手にさせるなら楽勝。数物は彼女に全部回せば楽できる」

 

 

 五条が思い出していたのは、彼女の死刑を言い渡されたときに野次馬程度に見に行ったときのこと。暴れ回る彼女自身もそうだが、同時に展開されていた傀儡の数とその攻撃の正確さには目を見張るモノがあった。

 五条も攻撃の流れ弾を受けたが、正直無限がなければ危なかっただろう。そこら中を飛んでくる様々な銃弾は普通の呪術師ならよけるので精一杯。それがとんでもない物量で襲ってくるのだから堪ったものじゃない。

 

 

「いやー、六眼で彼女を見たとき正直、正気を疑ったレベルでね。彼女、すっごい縛りを重ねに重ねて馬鹿みたいな数を操作してるんだよね」

「先生が正気を疑うってコトは相当やばい人じゃんその人」

「うん。まず見えた限りで言えば【全部の傀儡の動作一つ一つを自分で操作する】のは大前提。自動化してないの」

「・・・人の動きをぜーんぶ自分で考えて操作して、それが複数?」

「そ。その上、傀儡自体もかなーり特殊で、傀儡と言うより呪骸っていった方が近い。しかもパンダレベルの」

 

 

 突然変異呪骸であるパンダが複数、そしてそれをすべてマニュアル操作を一人で行う。それがどれほどの労力と技術を求められるのか、今現在自分自身の訓練を行っている虎杖からしても、この時点で普通の人間じゃないと言わしめる。

 事実に気がついて固まった虎杖の様子を見て、理解した五条は同意する。下手をすれば五条以上に危ない橋を渡っているのだ。

 

 

「彼女が呪詛師じゃなくて心底よかったよ。あと見つけたのが学長だったのも運がよかった」

「学長が?」

「呪骸なのか傀儡なのか最初は分からなかったからね。呪骸関連なら学長が一番と判断されて派遣された訳だけど、ある意味【まとも】な人だからってのが大きい」

「先生、自分がまともじゃないって言ってます」

「今回ばかりは自覚ありだからね。はい、休憩終わり!続きやるよー」

 

「──悪いが、その前にうちのボスからアンタに文句を預かってるぜ」

 

 

 訓練中の二人の元に現れたのはアメリカンスタイルの格好をした女性だった。どことなく「マフィア」という言葉も合いそうな雰囲気を纏っている女性は、手に持った茶封筒を五条に叩きつけるようにして渡した。

 

 

「『次に任務開始3時間前に投げつけてきたら学生時代のエロ本談義を学長に見せつけてやるからな』、だそうだ」

「うわ、えっ、ちょっとまってなんでそんなモノが」

「ボスの前に電子機器があれば、昔のことだろうとほっくり返すのは楽勝に決まってるだろ。甘く見すぎたな、御三家最強サマ」

「あーもう!わかったわかった。あとでお詫び持って行くから中継ぎよろしく」

 

 

 クツクツと笑って女性は高専内へと入っていく。おそらく持っているもう一つの茶封筒を学長に提出しに行ったのだろう。それ以上に虎杖は今の女性と五条の関係が気になっていた。

 

 

「先生、今の人は?」

「ついさっき話をしてた特級呪術師の人の関係者だよ。まあ、人じゃないんだけど」

「・・・え?」

 

 

 傀儡術式を使う呪術師、そして五条の「人じゃない」という言葉。それから答えを出した虎杖は思わず自分の目を疑った。

 

 

「あれが、人形?」

「そういうこと。彼女が使う人形はほとんど人と見分けがつかないレベルだよ。しかもみんな美人だし強い」

 

 

 もし、呪詛師であれが敵だったら。自分は果たして攻撃できていただろうか。きっと人形だと事前に知っていれば問題ないだろう。だが、何も知らされずにいきなりで合っていたら、確実に無理だ。

 

 特級呪術師という人間は恐ろしいモノだ、と虎杖は心の底から思ったのだった。

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