ドルフロ×呪術廻戦 作:羽の折れた鷲獅子
交差点を抜けて歩くこと数分。川辺に並ぶ緑色の葉桜となった並木通りを風が撫でて抜けていく。
その風に長い髪を掠われた私の人形が思わず髪を押さえて小さな声を出す。すぐに収まった風といえど、それなりに強かった風は整った髪を荒らすには十分だった。
「わぁ・・・今の風、強かったですね、指揮官」
「そうだねぇ。やっぱり帽子被った方がよかったんじゃないか、一〇〇式?」
「いえ!せっかく指揮官とお散歩できるんですから、ありのままの私でいたいんですよ!」
「そうか、なら何も言わないさ。しかしまあ、ちょっと遅すぎたみたいだな。軒並み葉桜になってる」
「・・・仕方ありませんよ。でも、私ならまやかし物の桜吹雪ならちょこっと出せます!」
「こら、こんなところで目立つことをしようとするんじゃない」
笑いながら一緒に歩く人形と他愛もないことを話す。一〇〇式は能力を行使することで余剰エネルギーが桜吹雪のような形で現れるため、いつ見てもきれいだなと思っていた。
きっと今も、葉桜を見て残念がる私を思って桜吹雪をみせようとしてくれたのだろう。
時折吹く強めの風に逆らいながら、のんびりと歩いていたその時、胸元に入れていた携帯が震動する。手に取って確認すれば「仕事」が入っていた。
せっかくの自由時間も関係無しに入れられるのは致し方ないとはいえ、溜息が出るのは仕方の無いことだった。
「一〇〇式、依頼だ。悪いけど、お散歩はここまでだな」
「はい・・・また、今度はきれいに桜が咲いてるときに来ましょう!」
「・・・そうだね。来年、桜がきれいなときにね」
胸元に携帯をしまい、来た道を戻る。先ほどと変わって背中から吹く風は、僅かに地面に残った桜の花弁を攫っていった。
▼▼▼
呪詛師討伐、対象等級一級、一般人への被害二三名。渡された資料を纏めるとおおよそめぼしい情報はそれくらいだった。
この呪詛師は恨み屋、詰まるところ司法などで裁かれた結果をよしとしなかった被害者や、腐った連中に事件をもみ消された立場の弱い人々の恨みを金銭と引き換えに代行する。そんな奴だった。
恐るべきはその手際の良さ。ほぼ残穢を残さず、残ったとしてもアリバイを完全に仕立て上げて無理であると証明する。計画性と緻密さにおいて滅多に出会うことのない巧さの人間だ。
その上、自分が無理と判断した場合は引き受けず、尻尾を出すような真似もしない。引き際も知っている相手だった。
「上は自分たちが標的にされることを恐れて先に殺しておきたいらしい。馬鹿なのか計画性があるのか分からないが、呪詛師であることに変わりは無いため、討伐対象だ」
目の前で待機している人形に資料を渡す。グレーの髪の人形、M200は渡された資料に目を通し、内容を読み込んでいく。対象の顔写真は残念ながら画質がいいとは言い切れず、微妙にわかりにくい。だが、この程度なら人形であれば補足することは容易だった。
「最近のターゲットは富裕層。ここ二ヶ月で四人殺されている。四人とも自宅で殺害され、部屋などに鍵が掛かっていた事から警察では自殺と判断されているが、実際はこいつによる呪殺だ」
「ターゲットの情報、すべて記憶完了。それで、ボクが担当すると言うことは民間人の中を通ると言うことですね」
「そうだ。M200は銃をギターケースで偽装して市内を移動。ターゲットを追跡および誘導。そのままズドン、だ」
「死体はどの程度まで損傷させますか?」
「頭部を完全に飛ばせばいいとのことだ。それ以外は何をしても問題ない。遺体の処理もこちらで行う」
「了解」
ターゲットの呪詛師はこちらが出した偽の依頼を受けて、学生の多い町を通って移動する手筈になっている。逆暗殺の可能性は考慮しても、その相手が学生めいた風貌なのだから分かりにくいだろう。
呪詛師は知らずに追跡と誘導を受け、それに気づいたときには手遅れとなる。いつも通りの汚れ仕事だ。
ギターケースの形をしたガンケースに銃をしまい、M200は部屋から出て行った。後は人形達に任せれば問題なく終わるだろう。
少し多めに呪力を割り振り、万が一のことがあってもカバーできるようにしておく。一番やってはいけないのは一般人に目撃される、あるいは一般人に被害を出すこと。それを防ぐために、多数の人形を配置し、なおかつ遠距離から狙撃を行う。
戦術人形はこういった暗殺に一番有利である。女子供の形をした人形であることが逆に皮肉だった。
「男が強くて女は排される力関係なのに、その女子供の姿をしている方が有利に事を運べるとはねぇ・・・」
アナログハック、とも言われる心理的弱点を突くのは基本と思っているが、それが自分たちの立場を危うくしていると考えないのだろうか。
奏の首を繋いでいるのは自分たちだと、意地でも認めさせたいのか。それとも、自分たちの首が繋がっているのは自分たちの権力あっての物だと言わしめたいのか。
その気になれば上層部など一族郎党皆殺しできるというのに、それをただ「面倒だから」で行っていないだけだと、思い至らないのだろうか。
数年前に「生きているだけ」という状態にまで陥れたのに、その事実から目を逸らしている連中なんて、正直どうでもよかった。
奏が今、大人しく従っているのは恩人である夜蛾のためである。
権力者を殺してもいいが、それではいざというときに手遅れになるかも知れない。だから、自分がある程度握る。そのために今、従順である必要があるだけであり、それ以外の理由など無かった。
利益があると見込んでいるから従う、無いと判断すれば切り捨てる。呪術界での恩師は夜蛾だけであり、その庇護下に居る人々であれば別だが、それ以外の呪術師も正直どうでもいい。
秀内奏はそれ故に、狂っているとも言える。
倫理観など死刑を言い渡されたあの日に消え去った。今を生きるために先を捨てるなど当然で、火の粉が降りかかるなら消えるまで徹底的に祓う。
薄情で過激、枷の外れた忠犬という名の狂犬。
特級呪術師、秀内奏は人形を従える、狂った人間なのだから。
▼▼▼
ターゲットの呪詛師を討伐し、遺体も片付けた。上層部の依頼者へも完了のメールを送り、そのやりとりを削除。いつも通りの流れであった。
風が強く吹くビルの屋上、そこで夜空を一人で眺めていれば隣に突然気配が降りてくる。その方向を見れば目隠しをした高身長の白髪の男、五条悟がそこにいた。
「相変わらずつまんなさそうにしてるじゃん。今日も依頼?」
「後処理も終わってる。なんか用?」
「つれないなー。こんなに顔のいい男がとなりにいるのに、少しは喜んだらいいんじゃないの?」
「悪いけど、男には興味が無い。あぁ、珍しい銃をくれるなら話は変わってくるけど」
「うわ、物理手段。と言うか本当に22なの君?もっと年食ってるんじゃないの?」
「22歳だよ。一般家庭非術師家系出身の特級呪術師で、上層部の犬」「・・・自分で上層部の犬って言うの?」
「上辺だけに決まってんだろ。私が従うのは夜蛾さんのため。それ以上でも、それ以下でもない。必要だから上層部「にも」従ってる」
冷たい風が心地よい。人形を酷使した日は頭痛がするから、冷やすのには丁度良い。鉄製の手すりに額を押しつけ、目を閉じる。五条はまだ居なくならない。
「若い子が無理をするのは良くないよ。せっかくなんだし、もっと楽しく過ごせばいいんじゃないかな」
「人形と居られる今が楽しいんだよ。そうじゃなきゃ、今頃まだ怯えて家で人形のことを模索してる。銃も高専に入らなきゃ手に入れられなかっただろうし」
「術式に依存しすぎじゃなーい?」
「そう作ったのが私だから問題ない。顔と声のいい女に囲まれるのも悪くない」
少しだけ、五条が何かを言おうとして澱む気配がした。それに気がつかないフリをして、一体人形を喚び出す。
「──呼んだかい?ボス」
「五条にアレを渡しておいて。それと五条、今から渡す物に関しては質問も意見も受け付けないから」
「うん?」
「トンプソン、後任せる。疲れたから寝る」
「・・・あいよ。おやすみ、ボス」
若干ふらついたが、気力でカバーして歩く。部屋までそう遠くないが、明日は頭痛で寝込みそうだな、と思った。
五条は先ほどから何かを言おうとしては、止めてを繰り返して微妙な顔をしていた。目隠しを外してこちらを見ていた、と言うことはもしかしたら気づき始めているのかも知れない。
そんな視線から逃げるように、奏は自分の部屋へと帰っていった。