ドルフロ×呪術廻戦 作:羽の折れた鷲獅子
呪骸でも傀儡でもない存在、戦術人形を統べる指揮官の手は硝煙に塗れることなく銃を握る。矛盾している事が縛りとなり、奏の命を削ることで一発の弾丸は万物を撃ち抜く魔弾となる。
椅子の上で苦しそうに呻き、その額には汗が浮かぶ。胸の上で拳を握り、痛みに抗いながら長いようで短い時間を過ごす。歪む視界と混濁する意識はいつも通り、心臓の痛みはここしばらくは無かったから油断していた。
ゲホッ、と咳をした口から血が垂れる。命を対価にした結果であるが故の代償はとても重い。
ゆっくりと波が引くように消える痛みに、ようやく深呼吸できるようになる。口の中に広がる鉄の味が不快だが、それを飲み込んで無視する。
だらりと両手を下ろして天井を仰ぎ見る。残った時間はもう、そこまでないのだろうとなんとなく自覚した。
蝉が五月蠅く鳴く、八月の終わり頃のことだった。
▼▼▼
「一級呪霊の討伐同行?構わないけど、他の術師は・・・いや、いい。どうせお前のことだから私の戦い方を見せようと言うことか」
「物わかりが早くて結構!一般人から術師になった子が一人居るからさ、君の事知らせておくべきだと思って」
「私が特級呪術師の中で最弱と知ってて言ってるなお前。タイマンは苦手なんだが」
「そんなこと言ってー。呪力込めた体術なら一級程度余裕でしょ?」「呪力を込めなければ下っ端だ」
夜蛾に呼ばれ、用事が終わったと終わったと思ったら五条に絡まれた。内容は受け持っている生徒を一級討伐任務への同行させてほしいという物だった。
五条が受け持っている一年生は高くても二級、相伝持ちとはいえ発展途中の術師である以上、監督となる上位術師は必要だろう。
だからといって一級術師ではなく特級をしれっと付けるのはどうなのだろうか。相変わらずの強権ぶりに溜息を零した。
奏は数が相手ならば強い。実際、百鬼夜行の際には一人で八百体弱を討伐する快挙を飛ばして暴挙とも言える戦果を上げている。内容としては二級と準一級が八割だが、一級も何体か混ざっているあたり実力はある。
しかしこれが一対一を前提の呪霊であれば話は変わる。奏は直接自分が前に出ることは滅多になく、ほとんどは戦術人形で討伐している。 銃は安定した火力を継続的に出せるが、逆に言えば一発あたりの威力も決まっていると言うことにもなる。単発火力を求められる場面では後手に回る事がほとんどで、一部の人形が呪力を使って術式もといスキルを行使することで火力を上げる。
故に、今回五条から渡された討伐任務は不向きとも言えるのだった。
「今回一年生に見せたいのは奏自身だよ。特級を与えられてる術師と会う機会なんてそう無いからさ」
「お前がいるだろうが。そも私は夜蛾さんに従ってるだけの狗だ。面倒ごとは夜蛾さんを通してくれ」
「その学長から許可も貰ってまーす」
「・・・チッ」
「うわ、口悪いよ。せっかくの顔が台無しになっちゃうよ」
「騒がしい目隠し変態プレイの不審者が。・・・夜蛾さんからの頼みであれば致し方なしか」
「本当に学長に対して忠誠心高いよね。僕も君の死刑執行の取り消しに口添えしたのに」
「お前は野次馬の印象が強い。口添えの件は知っているが、第一印象が最悪なんだよ」
不機嫌であることを隠しもしない奏とそれを一切気にしない五条。自分のスマホに送られてきた任務内容を確認し、どの人形を連れて行くかを考える。
護衛対象、とまでは行かずともある程度は流れ弾に当たらないように気を遣う必要がある。弾数勝負のマシンガンと散らせる事を目的としたショットガンは今回は無し。場所は入り組んだ森林で高低差も激しい為ライフルも無し。消去方でサブマシンガンとアサルトライフルの編成になっていた。
「見せるだけか?それとも実地も入れるか?」
「経験を積ませられるならお願いしたいね。三人は少しでも早く強くなりたいと思ってるから、安心して上位の呪霊を任せられる人の内に経験させたい」
「いいだろう。三日後に出る、連絡先を寄越せ」
「直接連絡するんだ。律儀だねぇ」
「お前がズボラだからだ!」
奏は五条に任せられない事を身をもって知っている。こんな大人に振り回される前に自分で対応した方が楽なだけ、と言う判断だった。 五条と居るだけで疲れる、そう思いながら頭を抱えて溜息が出るのはいつものことだ。
対照的に五条はケラケラと笑って奏をみている。大人げないとも言える反応に、益々奏は不機嫌になっていた。
「ま、信頼してるよ。最弱特級術師さん」
「黙れ」
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「初めまして、特級呪術師の秀内です。まあ特級、と言っても一番弱いので一級程度に思ってください」
一年生三人は特級という肩書きに萎縮しているのか、少しばかり緊張した面持ちだった。特に虎杖という両面宿難の指を取り込んだ少年は一番緊張している感じである。もしかしたら五条から何かを言われているのかも知れない、十分あり得る話だ。
今回の任務地である山は高低差が激しい上に、管理も碌にされていない為、雑草の類いが非常に多い。足下の悪さと視界不良、そして確認されている等級は格上の一級。不測の事態が発生してもいいように、既に山には一部隊二十五体の人形を配置している。
あとは、この三人がどこまで対応できるかである。
「不測の事態があってはならないため、ある程度はこちらでカバーします。ですが、索敵と攻撃の基本は三人で行って貰います」
「確認されているのは一級一体だけでしょうか?」
「えぇ。今のところ他に発生している気配も残穢もありません。対象の呪霊は既に私は捉えているので間違いも無いでしょう」
対象の一級呪霊は山頂の少し下から動かず、こちらに気づいているのかじっと見ているらしい。多少は頭が利くらしく、数の面で負けているから手を出さない方向で行くのだろう。だが、配置された二十五体の人形には気づいていない様子だった。
「私は基本的にここから動きません。帳の中にはいますが、手を出さないで居ると思ってください。逐一貴方たちの状況を見ることは可能ですので、何かあればすぐに援護します」
「・・・なんか、思ってる以上に普通の人だ」
「虎杖君、後で五条から何を言われたか教えて貰いますからね」
「うえぇっ!?」
「ともかく、相手は格上の一級です。油断しないように」
その一言が終わると同時にダァン、と大きな銃声が山に木霊する。対象の一級呪霊を三人が相手取るのにちょうどいい弱さにするために撃った一撃である。
突然の銃声に反応し、しっかりと意識を切り替える三人。ここら辺は合格である。
「今のは私の攻撃です。一級ですが、想定以上だと思われるため弱らせておきました。これで妥当なレベルまで落ちたはずなので、くれぐれも後れをとらないように」
「・・・今、何もしてないのに攻撃した?」
「と言うか、銃声って他にも術師居るってこと?」
「誰も居ませんし、攻撃は私がしましたよ。まあ、汎用性と広さが売りなので。それでは健闘を」
パンパンと手を叩いて出発を促す。それを合図に三人は山の中へと入っていった。
同時に、展開している人形達からの情報を受け取り、整理していく。 相も変わらず視界いっぱいに広がる情報の多さに辟易するが、それらから余計な物をそぎ落とし、必要な情報だけを残す。
三人に付けた人形のJS9からは「追跡開始」の報告を受ける。あとは先ほど一撃を撃った人形のRFBからは「対象移動開始」の報告と移動方向の情報が送られてくる。それに併せてスコーピオンが呪霊の追跡を始め、残りのP90と95式は周辺の警戒をさらに強めた。
しばらくして、山の中からワオォーン、と遠吠えが聞こえ、その直後に戦闘音が聞こえ始めた。接敵し、前衛の虎杖が殴り込みを掛けたのだろう。フィジカル面においてかなりの実力があると聞いているが、遠くからも分かる威力となると相当な物だ。
追跡しているJS9からも「接敵、戦闘中」の報告が送られ、視界情報を共有する。少々突撃気味ではあるが、十分警戒しつつも攻撃しているところからして、それなりに経験を積んでいるとみた。だがまだどこか躊躇いのような物を感じる。
虎杖の攻撃の隙をカバーするように釘崎の攻撃も隙間を縫って入るが、威力不足感が否めない。二級ほどまでであれば十分だが、タフな一級だと一人で入るにはきつい。虎杖が居ることで今回は問題無いが、課題の一つにもなり得る。
伏黒は一級呪霊が作り出した雑魚の掃討を担当し、一級呪霊本体と戦う二人に影響が行かぬよう戦闘をしている。式神を用いた戦闘はもちろんだが、時折自身に飛んでくる呪霊を自らの体術で相手できるのは立派なことである。式神遣いは術者を狙うのがセオリーであり、その裏を掛けるのであればそれは大きな強みとなる。だがこちらもイマイチ攻め切れていないと言う気配がする。何かを躊躇っている、あるいは割り切れていない。そんな感じだろう。
三者三様、課題はあるが磨けば光る原石であることに変わりは無い。五条が目に掛けるのも頷けた。
『楽しそうですね、指揮官』
「・・・そうか?」
『えぇ、かつて私たちの育成をして、強くなっていくことを実感しているときと同じ気配がします』
「なら、そうなんだろうな。実際、今見ている限り彼らは強くなる。一級を相手に、多少手負いにさせたとはいえあそこまで動けるんだ。将来有望であることに変わりは無いからね」
『──いいんですか、指揮官は』
「夜蛾さんにも言ったが、私の自由は猶予と引き換えの仮初めなんだ。納得している」
『そうですか。なら、私たちから言うこともないです。最後まで指揮官に付いていきます』
『JS9だけ指揮官とお話ししてずるいよー!ねー、しきかーん!後であたし達と訓練してよー!』
「この任務が終わったらいいよ。あ、でもその前に報告とかあるから明日かも。悪いね、スコーピオン」
『うー・・・分かったよ。明日、明日絶対ね!』
騒がしい人形達の会話に、フッと笑いが零れる。
将来有望な子供に、背中を預けられる人形。そのどちらもある今が幸せなんだと、どこか他人事のように思った。