ドルフロ×呪術廻戦   作:羽の折れた鷲獅子

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 あれはきっと、かつて自分だった欠片が残した記憶なのだろう。今は混ざり合って、擦り切れて無くなった残影。そこから零れた一部が死なせたくないな、と儚く訴えて消えたあの日。恩師に拾われたその時に聞こえた「願い」は、今の私を型作る「呪い」になっている。

 

 

▼▼▼

 

 木枯らしが吹きそうな季節になり、首元を撫でる風は冷たい。薄手の服をしまい込むべきか、それとももう少し様子を見るべきか悩みどころではあるが、今は寒いの一言しか出てこない。

 

 よく冷える指先をこすって暖め、騒がしい街を眺める。

 

 

 

 騒がしいのは街だけではなく、胸騒ぎもするのがいやなところだ。

 

 十月三十一日、ハロウィン。浮かれた若者が仮装をして練り歩くのが恒例となった場所は物理的に騒がしく、そして今はひたすら嫌な気配がして仕方なかった。

 

 チリッ、と首を刺すような気配と共に帳が降りる気配を感じる。ぞっとするほどの殺意と濃い呪いの気配、そしてあちこちに散らせている人形から送られてくる異常の知らせに一気に感情が冷める。

 今からここは戦場である、そう意識が切り替わった。

 

 

『駅構内に呪霊が発生、殺害現場になってる!』

『同じく、呪霊が複数発生してるけど一般人が多すぎて身動きが取れない!』

『渋谷の外、誰が張ったか分からない帳が複数。・・・こりゃあ、面倒な事が起きてる』

 

 

 一気に来る情報を整理し、何が起きているのかを把握する。

 今はっきりしたのは「帳が降りた」「駅の中に呪霊が発生」「それが複数地点で同時」と言うこと。そのほかにも情報が上がってくるが、今はこの三つで十分だった。

 

 残影の欠片を思い出す。きっと、この事を指していたのだろう。

 

 

「・・・よく冷えるなぁ。ちょっと激しく動かないと、寒くて碌に動けなさそうだ」

 

 

 いつもより滲んで見えにくい視界に呪霊を確認し、すぐ横に呼び出したVectorがそれを的確に撃ち抜く。サプレッサーによってほとんど音もなく撃ち出された弾は呪霊の核をきれいに壊し、呪霊は何もできずに消えていった。

 

 異変に気づいた一般人が騒ぎ出す。混乱と恐怖に染まった悲鳴が街中に響き、そしてそれは伝染していく。それを無視して駅の中に入るルートを探し、そこへ向かって歩み出す。

 

 

「全人形に通達、派手に暴れてやれ。数を出してきたことを後悔させるくらいにな」

 

 

 派手に暴れる、それが何を示すのかを知っているのは奏とその人形達のみ。その一声を聞いても、いつも通りに動くのが戦術人形である。了解の意が一斉に届く。それに満足げに笑った奏は、自分が持つ呪力を一切渋ることなく解放していく。

 そこら辺で銃声が響く。人形達が走っては撃ち、その前には為す術もなく撃たれる呪霊が居る。

 帳が降りていることで呪霊も人形も見える一般人は、突然の銃声と化け物のパーティに悲鳴を上げて逃げていく。

 外へ外へと逃げる一般人に逆らうように、下へと降りていく奏。銃声は下に行くほどに多くなり、そして上に上がってくる一般人の数は減っていく。

 

 

 自分の中に残っている残影が未来もどきを見せてくる。

 

 

 その先にいたのは、最強と未確認とされていた特級呪霊が複数立っていた。

 

 

「あいつ、最強を名乗ってるんだからあたしたちが居れば邪魔になるよ」

「知ってるよ、Vector。だからここで観戦さ。五条がきっちり特級を仕留めるまで、だけど」

「・・・」

 

 

 Vectorは何も言わなかったが、その顔には少し悲しげな雰囲気が漂っている。きっと分かっているのだろう、この後になにがあるのか。どうなるのかが。

 

 

「なら、今のうちに言っておく。──ありがとう、さようなら」

「・・・うん、私の方こそ。こんな情けない指揮官に付いてきてくれてありがとう」

 

 

 五条が特級呪霊を祓い、そしてその奥の影から静かに「そいつ」が現れる。残影が叫ぶ、あれを止めろと。その声に逆らわず、呪力を込めた足で地面を蹴り、五条とそいつの間に立つ。油断してた五条は無限越しとはいえ、あっさり押し出されて体勢を崩す。

 代わりに、奏を縛り付けるように動き出した物は五条を縛ることはない。

 

 

「──奏!!」

「黙っとけ、五条。これは私の意思、私の仕事、そして最期だ」

「おっとこれは、予想外だな・・・!そんなことをされては困るよ、奏ちゃん」

「ハッ!他人の外面被った変態に言われたくもない。とっとと失せろ、偽物が」

 

 

 封印のために奏を縛るソレは情報を得るために動き出す。だが、ソレを妨害するように人形の情報を流し込めば、動くはずの呪物は「一人の人間」という上限を超える物を抑えきれずに動きを止める。

 その対価に、今まで以上に体の奥底から大切な物がゴッソリと持って行かれる気配がした。そして同時に、逃れられない寒さもやってくる。

 

 いち早く気づいたのは、やはり五条だった。六眼で異変に気づいたのだろう。同時に、今まで隠していた事もばれたに違いない。

 何が起きているのか、見て、理解して、そして五条は叫んだ。

 

 

「何をやっているんだ奏!今すぐ・・・今すぐそんな事は止めろ!」

「言ったはずだ、五条。これは私の意思であり、最期だと。──私は寿命を対価に今を得ている。それだけの話」

 

 

 強い力に耐えきれない、より多くの呪力を得なければ勝てない。何を差し出せばソレを得られる?縛りか、いいや足りない。命か?それでは今を生きれない。

 

 なら、先を差し出せばいい。

 

 

 寿命を対価に膨大な呪力と操作力、そして矛盾をそのままにしておく。それがこの命に科した縛りであり、契約。

 もとより長く生きられないことは知っていた。それが今日、今来ただけのこと。

 

 残影が叫んだこのときを変えられればいい。ただ只管にそのことだけを考えて生きてきた。正直、ギリギリだったが間に合えば問題ない。一応、保険も掛けていたがこのままであれば使うことなくいられるだろう。

 

 

───秀内奏は、五条悟の封印を防ぐために生きていた。

 

 

 滲む視界と自身を食らっていく寒さ。逃れられない体の奥底から湧く恐怖を意地とプライドで隠し、目の前で苦虫を噛んだ表情をする「最強の片割れだったもの」を見る。

 

 

「お前は五条の封印のために奔走した。私はそれを防ぐために未来を差し出した。掛けた時間は違えど、掛けたモノはお前以上だったよ。どっかの知らない呪詛師さんよォ」

「・・・ハッ、まさか、こんな小娘にプランを壊されるなんて、予想外もいいところだよ。だが、どうせお前が死ねば──」

「これは二度と使えない。悪いが、私がそうさせた」

「は・・・?」

 

 

「──ルール違反、この中には一人以上入れない。だが、現状入っているのは二人なんだよ」

 

 

 バキン、と金属が割れるような音と共に封印が壊れ、靄となって消える呪物。強力であるが故の縛りは、今このときにおいて致命的な弱点だった。 

 一人しか封印できない箱に、二人の魂。それは、明確なルール違反だ。

 

 最早立つことすらできないほどに食われたが、役目は果たした。

 

 

 

 

 無様な顔をした死人に、最強が襲いかかる声がしたが「私」はそれを最期に見ることも聞くこともなく果てた。

 

 

 

 

 

 

 

「さようなら、私たちの指揮官。私たちの人形」

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