アレク・プランタン   作:壱露

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002 企み

 

俺が産まれて(母が亡くなって)しばらく。

 

「お館様、未だお悲しみのところ申し訳ありませんが、早くに新たな奥方を迎えなければなりますまい。お世継ぎの養育にも母親の存在は欠かせませんし」

 

辺境伯家の家宰であるアダムが言う。

細身の長身。神経質そうな外観の男である。

 

一代にして領爵、辺境伯となったヴィンサンダー家は、歴史がない。

寄子はいるものの、その関係性も未だ希薄と言えた。

近隣諸侯は元より、中央への顔繋ぎ、寄子を含む家臣の育成、安定した領地経営等々。

世継ぎの育成は、共に急務である。

 

「幸い寄子の男爵家に見映の良い娘がおりますので、すぐに手配致しますがよろしゅうございますか?」

「あいわかった」

「では早速男爵家へ向かいます」

 

 

 

 

家宰のアダムは新たなヴィンサンダー家の内儀を迎えるべく、婚儀を画策したその日の夜。

 

小さな屋敷で。

それでも平民のそれよりは大きい、貴族の屋敷で。

その一室の扉をノックもせずに開ける男。

家宰のアダムである。

 

部屋にはアルコールが染みついた臭いが漂う。

半裸のままベッドに横たわる女の腰を抱きながらアダムが言った。

 

「オリビア、計画通りだ。支度しろ。これから楽しくなるぞ」

「わかったわ、アダム」

 

ニヤリと笑い合う家宰と女。

 

こうしたことともつゆ知らず。

父上は新たな妻を、俺は継母を迎えるのだった。

 

 

【 辺境伯アレックス・ヴィンサンダーside 】

 

家宰のアダムが連れてきた後妻のオリビア。若く見栄えも悪くない、自信家の女だった。

亡くなった前妻のセーラは、病がちで何事につけ控えめだったのとは真逆である。

酒を好んで飲むオリビアは、時に饒舌に語った。

 

「ショーン様の養育はわたくしにお任せ下さいまし」

 

オリビアの時折り見せる目つきの鋭さが気にはなったが、家宰のアダム曰く、長くこの地にある没落男爵家ならではの生活の辛さ所以だという。

長い戦乱を超え、わがヴィンサンダー家に下ったというオリビアの男爵家。

さぞや辛苦を舐めたことであろう。

忙しい私に替わり、今はショーンの養育を第一に任せたい。早く弟か妹が産まれれば良いのだが。

ショーンは、目元がセーラによく似た優しさがある。強く逞しく、それでいて民に優しい男として次代のわがヴィンサンダー家を背負う明るい男に育ってほしいと思う。

オリビアにはそのしっかりとした養育を望む。

 

オリビアは息子を「ショーン様」と呼ぶが、後妻とはいえ家族となったのだから呼び捨てで良いというのだが…。

 

セーラが亡くなって以来、私も体調が優れない。

まだ幼いショーンのためにも、そして領地領民のためにも私ががんばらねば。

 

 

辺境伯と呼ばれるアレックス・ヴィンサンダー。最愛の妻の死と愛する息子の誕生を一度に味わった日より。

運命の歯車が下り始めていることに気がつかないでいたのだった。

 

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