俺が産まれて(母が亡くなって)しばらく。
「お館様、未だお悲しみのところ申し訳ありませんが、早くに新たな奥方を迎えなければなりますまい。お世継ぎの養育にも母親の存在は欠かせませんし」
辺境伯家の家宰であるアダムが言う。
細身の長身。神経質そうな外観の男である。
一代にして領爵、辺境伯となったヴィンサンダー家は、歴史がない。
寄子はいるものの、その関係性も未だ希薄と言えた。
近隣諸侯は元より、中央への顔繋ぎ、寄子を含む家臣の育成、安定した領地経営等々。
世継ぎの育成は、共に急務である。
「幸い寄子の男爵家に見映の良い娘がおりますので、すぐに手配致しますがよろしゅうございますか?」
「あいわかった」
「では早速男爵家へ向かいます」
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家宰のアダムは新たなヴィンサンダー家の内儀を迎えるべく、婚儀を画策したその日の夜。
小さな屋敷で。
それでも平民のそれよりは大きい、貴族の屋敷で。
その一室の扉をノックもせずに開ける男。
家宰のアダムである。
部屋にはアルコールが染みついた臭いが漂う。
半裸のままベッドに横たわる女の腰を抱きながらアダムが言った。
「オリビア、計画通りだ。支度しろ。これから楽しくなるぞ」
「わかったわ、アダム」
ニヤリと笑い合う家宰と女。
こうしたことともつゆ知らず。
父上は新たな妻を、俺は継母を迎えるのだった。
【 辺境伯アレックス・ヴィンサンダーside 】
家宰のアダムが連れてきた後妻のオリビア。若く見栄えも悪くない、自信家の女だった。
亡くなった前妻のセーラは、病がちで何事につけ控えめだったのとは真逆である。
酒を好んで飲むオリビアは、時に饒舌に語った。
「ショーン様の養育はわたくしにお任せ下さいまし」
オリビアの時折り見せる目つきの鋭さが気にはなったが、家宰のアダム曰く、長くこの地にある没落男爵家ならではの生活の辛さ所以だという。
長い戦乱を超え、わがヴィンサンダー家に下ったというオリビアの男爵家。
さぞや辛苦を舐めたことであろう。
忙しい私に替わり、今はショーンの養育を第一に任せたい。早く弟か妹が産まれれば良いのだが。
ショーンは、目元がセーラによく似た優しさがある。強く逞しく、それでいて民に優しい男として次代のわがヴィンサンダー家を背負う明るい男に育ってほしいと思う。
オリビアにはそのしっかりとした養育を望む。
オリビアは息子を「ショーン様」と呼ぶが、後妻とはいえ家族となったのだから呼び捨てで良いというのだが…。
セーラが亡くなって以来、私も体調が優れない。
まだ幼いショーンのためにも、そして領地領民のためにも私ががんばらねば。
辺境伯と呼ばれるアレックス・ヴィンサンダー。最愛の妻の死と愛する息子の誕生を一度に味わった日より。
運命の歯車が下り始めていることに気がつかないでいたのだった。