アレク・プランタン   作:壱露

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倒れる父

「神父様おはようございます」

 

「ショーン様、おはようございます。今日も感心ですな」

 

週末の休養日。

屋敷を離れられるこの日は、俺にとって唯一の「休養日」だ。

 

 

【 神父モンデールside 】

 

お館様の長男ショーン様は休養日朝の礼拝に、毎週欠かさず参拝している。まだ幼いというのに。

女神様へ感謝する心持ちの良さは実に称賛すべきだ。

ヴィンサンダー家の屋敷には後妻のオリビア様とオリビア様が産んだ弟のシリウス様がみえる。が、親子共々一度も休養日礼拝に来たことがない。

信心深いショーン様だ。

ただ教会の行き帰りは、メイドと2人きりなのは心配だ。

お館様の正当なお世継ぎだというのに。

3歳児に自身の貴い価値や危険性を教え諭す者が屋敷にはいないのか。或いは何か他の理由があるのか。

 

ショーン様は3歳児ながらも闊達で聡い子である。お館様と同じ、誰からも好かれる温かさを感じる。

厩のマシューが危ぶには、継母オリビア様と家宰アダムの2人のショーン様への動きが怪しいと言う。

いつのまにかヴィンサンダー家家宰に収まっていた男、アダム。何度か話もしたが彼は賢い。

まさか2人で何かをすることはないとは思うが…。

お館様ご不在時、ショーン様に何かあってはいけない。気をつけなければ。

 

 

【 メイドタマside 】

 

ショーン坊っちゃんが可哀想。

セーラ奥様が亡くなった上に、後妻のオリビア様には邪険にされて。

お忙しいお館様は近ごろお屋敷に不在がちだ。

お館様と亡きセーラ奥様は、獣人の私にも人族と分け隔てなく接してくれた。

なのに…。

今のオリビア奥様は私を含め獣人を蔑む。卑しい者を見るように。

弟のシリウス様も同じだ。

でもショーン坊っちゃんは違う。お館様、セーラ様と同じに誰にも分け隔てなく優しい眼差しで接してくれる。ただ、ときどきイヤらしい目をして抱きついてくるけど。

それにつけても、近ごろのオリビア奥様とシリウス様のショーン坊っちゃんへの対応は酷い。家宰のアダム様もそうだ。何も言わないどころか、オリビア様と一緒にショーン坊っちゃんを虐めているようにも感じる。

何かあったも私がショーン坊っちゃんを守らなきゃ!

 

 

【 厩の爺、マシューside 】

 

この1、2年。ヴィンサンダー家が何やらおかしい。

馬の世話で汚い身なりのワシがお屋敷内に入ることは稀じゃが、それでもこの異常な空気感はいったい何じゃろう。

昨日はたまたま剪定中の庭で、後妻のオリビア様と家宰アダムが話す会話が聞こえてきた。

内容はわからなかったが、家宰アダムに語りかけるオリビア様の言葉の端々から、2人が家宰とお館様の妻を越えたただならぬ関係じゃろうことが感じられた。

家宰アダムは油断することなく慎重な物言いじゃったが。

後妻のオリビア様はワシら使用人を明らかに蔑視しておる。ヒューマンでない獣人への差別意識はさらに酷い。

獣人メイドのタマが愚痴るのもよくわかる。

お忙しいお館様が屋敷を空ける日も増えた。

もしもショーン坊っちゃんに何かあれば、ヴィンサンダー家の世継ぎは弟シリウス様となるじゃろう。

毎日のように厩に来ては、ワシの昔話を目を輝かせて聞き入ってくれるショーン坊っちゃんは可愛い。

何か起こる前に。

これまで以上にワシが厩からしっかりと見張らなければなるまい。

 

 

 

「父上!父上ー!目を開けて下さい!」

 

「お館様!どうされましたか!お館様ー!」

 

「誰か早く薬師を!」

 

突然父上が倒れた。

 

屋敷内の誰もが右往左往となった。

倒れたままのこの日、父親は目を覚さない。

不安でいっぱいの俺は伏せる父親の横にただ居続けた。

 

 

父が倒れた日の夜。

不安で眠れない俺は食堂へ水を飲みに行った。

すると継母のオリビアと家宰のアダムが、食堂で笑い合いながら酒を飲んでいるのを見つけた。アダムはオリビアの腰に手を回している。

 

「あっ…」

 

思わず固まってしまった俺。

 

「フフフ。ショーン、子どもは早く寝なさい」

 

「そうですよ。ショーン坊っちゃん。おねしょをしないで寝てくださいよ」

 

茫然と2人を見ている俺。悪びれもなく、平然と俺を見返す2人。

 

「うっ、うっ…」

 

何も言葉が出ない。

 

ダッ、、、、

 

堪らず俺はこの場から逃げた。2人に文句も言えずに。

 

(ああ、思ったことを何も言えずに逃げるこの感じ。病いで倒れる前、クラスでハブられたとき家に逃げ帰った記憶と同じ気持ちだ…)

 

部屋に帰った俺は独り布団の中で涙した。

 

 

父上、早く目を覚ましてください!

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