トン トトトン
ノックに続けてするりと入室する男が1人。
「マシュー、そっちはどうじゃった?」
「印はどこにもなかったわ」
「やはりの」
「そっちはどうじゃ?お館様の死因は?」
「ノクマリ草の毒じゃ」
「そうか…」
「あたしはこれからお館様の腹を持ってサイラスの元へ行く」
「わかった」
厩の爺マシューの言葉に続いて、モンデール神父が苦々しく呟いた。
「マシューの話が本当になったな。だがなんとしてもショーン様だけは助けるぞ!」
「「もちろんじゃ」」
深くうなづき合う3人であった。
「ではお館様、失礼しますぞ」
「お館様、すぐに済みますからの」
遺体を前にモンデール神父が何かを呟く。
浮遊魔法にて宙に浮かぶアレックス・ヴィンサンダー伯爵の体。
薬師ルキアが血で汚れないよう服を剥ぎ、慣れた手つきで腹を裂いた。
毒物が入っていると思われる胃を瓶に収納し、腹を元に戻す。
痕跡は残らない。
北の辺境伯アレックス・ヴィンサンダーの遺体を前に。
3人の初老の男女がいる。
厩の爺こと、斥候マシュー。
タンクにして聖魔法使いのモンデール神父。
薬師の婆さんこと、近接戦闘支援のルキア。
王都のサイラスなる人物を含めて。
アレックス・ヴィンサンダー辺境伯若かりし頃。
冒険者として、また、武人としてのイロハを叩き込んだ先達冒険者チーム「鷹の爪」。
20数年前。王国中に名を馳せたA級冒険者チームである。
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父上アレックス・ヴィンサンダーの葬儀は粛々と執り行われた。
王国からの使者、周辺諸侯、親族、寄子、家臣、町の有力商人等々の多数の参列者。俺が初めて会う大人ばかりだ。
葬儀とそれに託けた外交的な交渉云々。
俺はただぼんやりとそれを見ていた。
(倒れてから亡くなるまで。父上とは何の話もできなかったなぁ。結局目を覚ましてくれなかったし。最後に父上からかけてもらった言葉。10日ほど前、食堂でかけてもらった言葉が最後だったよなぁ)
「ショーン、弟シリウスと力を合わせて次代のヴィンサンダー家を支えるんだぞ」
父上はこう言って力強く俺を抱きしめてくれた。
(父上はご存知だったのかなー。
俺が継母のオリビアから虐められていたことを。
弟のシリウスからも虐げられていたことを。
家宰のアダムからは無視されてたことを。
ご存知だったら俺を救ってくれたのかなー。
やっぱり知らなかったのかなー。
母上が生きてたらよかったのに。
母上が生きてたら、オリビアに虐げられずに済んだのに。
ああ父上会いたいです。
ああ母上会いたいです。
俺もそっちに連れてってください…)
転生から3年の月日が経ったこの日。
俺は家族も居ない、ひとりぼっちのただの3歳の遺児だった。
もちろんチートも特典も何もない。
生きていたいとさえも思えない。
今は萎えた心がただ膨らむばかりだ。
別れの祭壇に父上を納めた柩が置かれる。
静かにモンデール神父様の説法が続く。
最前列に座る弟のシリウス。
横に並ぶ継母のオリビアと家宰のアダム。
幾人かの親族や有力な家臣の後、最後列に並ぶ俺。
(長男のショーンは無能らしいぞ)
(たしかにぼーっとした目元をしているよな)w
(次男のシリウス様はとても有能らしいぞ)
(3歳なのにあの鋭い目はどうだ)
周囲からはひそひそとさまざまな言葉が飛んでいた。
泣き出しそうな曇天の下。俺は前世の、病床から見える天井の壁を思い出していた。
晴れ間なんかどこにも無い。どこを見てもくすんだままの壁。
またひとりぼっちになった…