人を探すという行為が私は苦手だ。
人にはそれぞれの役割があり、日々切磋琢磨している。
騎士は命じられた通りに動くのが仕事だ。
西に行けと言われれば西に行き、南に行けと言われれば南に行く。
他人への命令を一々熟知するのも難しい。
よって、誰が何処にいるのか分からない以上。モンスターを探すように闇雲という事になる訳だ。
まだモンスターの方が痕跡を残してくれる事もある為、人間を探すよりも楽だと言えるだろう。
「さて、アレは用がない時は現れる癖に……こちらから用がある時は消えるのだから苛立たしい。何処だあの男は」
私はよりによって
用があるといえばあるのだが、あの男を探すという行為にどうしても拒絶反応が出る。
そもそも
ハンターならばやはりクエストか。そうなるとエルガドには居ない為探しようがない。
いや、あの男が勤勉にクエストに向かう姿を想像出来ないな。確かに優秀なハンターだが、アレは自分の力を国の為に使おうとしないタイプの人間だ。
で、あればエルガドの何処かで鼻糞でも穿っているに違いない。私もようやくあの男の事が分かってきたのだろう。
「ならば茶屋に居ると思ったのだが……」
しかし、ツバキは見付からなかった。
まさか本当にクエストにでも赴いているというのか。私は彼を見誤っていたのかもしれない。ツバキへの態度を見直すべきだろう。
「そうか、遂にあの男も国への忠義心が見栄えだという事だな。感心した。今度、酒の一杯でも奢ってやろう」
今日は一人の男の成長を実感出来た良い日だ。
しかし、そうなるとツバキが何処に向かったのかを調べなければならない。場合によってはクエストを手伝いに行くのもやぶさかではないだろう。
そうなると尋ねるべき人物は一人しかいない。
「──姫」
「あ、ライラック! クエストですか?」
私が声を掛けると、満面の笑みをで振り向いてくれる一輪の花。
陽の光すら霞む神々しさを放つ国の姫──チッチェ姫が、私に手を振って下さった。
私は今日クエストで命を落としても後悔しないだろう。この笑顔を守る為に働いた己を誇りにすら思う筈だ。
勿論、国の為に全てを捧げると誓ったこの身を簡単に捨てるつもりはない。
例え伝説の古龍がやって来ようが、私は彼女の笑顔だけは救ってみせると──その場で跪く。
「──姫、今日も全てが素晴らしい限りです。しかし、昨日よりお召し物が少し汚れていますね。この糸のほつれは昨日無かった筈です。世話係は何をやっているのか」
「ふふ、今日も面白いですねライラックは」
少し首を傾けて笑う姫があまりにも愛おしい。私は気を失いそうになった。
背後から「キモッ」と誰かの声が聞こえてきたが、意味が分からないので放っておく。
「ところで、何か要件ですか? ライラック」
「あ、いえ。多忙な中、申し訳ありません。……ツバキを探しているのですが、彼が今何処に居るのか知っていますでしょうか?」
姫のあまりの美貌に全てを忘れてしまっていた。
国に全てを捧げると誓った私の心を揺らすとは、流石は姫である。罪なお方だ。
「ツバキさんですか? ツバキさんならお仕事を頼んでいまして!」
「なるほど、彼もやっと国の為に動く勤勉さを身に付けたのですね。姫の一生懸命なお姿をその目に焼き付ければ当然の事ではありますが」
やはり、ツバキはクエストに向かっていたらしい。
あの男への評価は改めるべきだろう。私が愚かだったという事だ。
そもそも、遊んでばかり居るハンターが居る筈がないのである。
私が見たツバキの姿は、少し休暇を取っていた彼の姿に違いない。
そんな彼の一面だけを見て怠惰な存在だと決め付けていた私こそ、思考を放棄した怠惰な存在だったのだ。
彼には謝らなければならないだろう。
「それで、その仕事というのは? こちらも用がある身、彼の手伝いをしても良いと考えていまして」
「本当ですか? ライラック。貴方が居れば心強いです」
「はい、勿論です」
さて、どんなクエストか。
簡単な物だとツバキ一人でなんとでもなる筈だ。しかし、姫がこう言う以上それなりの難易度に違いない。心を切り替えなければ。
「ではライラック! まずは翔蟲でツバキさんと合流して下さい。今丁度上に登っていった所なので、ライラックは木材と釘を持っていって頂ければきっとツバキさんも助かります!」
「はい?」
上に登っていった、と姫は仰ったのだろうか。
まるで意味が分からない。そして何故か姫は頭上を指差している。
「上……?」
意味も分からず頭上を見上げた。
クエストボードの背後にある何の為に建てられたのか分からない木造の足場。
クレーンを増築しようとして辞めたのだったか何だったか。もはやただの高台である。
そんな建てるだけ建てて放置されている高台を見上げると、一人の男がその上で私達を見下ろしていた。
「お、ライラック! なんだ? 手伝ってくれるのか?」
「……姫、ツバキの仕事とは?」
「あの高台、知らない間にフクズクの巣が出来ていたようでして! それはよかったんですが、
何をやってるんだアレは。
「な、なるほど……」
いや、落ち着け。姫の言う通り、小動物に心優しく振る舞う行為は何も悪い事ではない。フクズクは愛玩動物として皆に好かれている訳でもある。
しかしそんな場所に居たのかツバキ。分かるわけないだろ。そしてお前を見直してしまった私の気持ちを返せ。いや遊んでいる訳ではないが。いや遊んでるだろアレは。
もうどうにでもなれ。
◆ ◆ ◆
謎の高台はツバキの手により謎の増築をされ、足場が強化された。これなら多少強い風が吹こうが巣は大丈夫だろう。
「おー、よしよし。もう大丈夫だぞ」
フクズクの子供を撫でるツバキ。そこに狩人の威厳はない。
もはや建築士か何かだろうコレは。
「手際が良いな。釘を打つ動作にも無駄がなかった。……しかし、ハンターの仕事ではないな」
「まぁ、本業農家だったしな」
コレがカムラの里の猛き炎か。
「あ、でも手伝ってくれてありがとな、ライラック。おかげで昇り降りしなくて良くて助かったわ」
「それくらいの事しかしてないがな。別に私が居なくても多少作業時間が変わる程度だろう」
一応手伝いはしたが、材料等を運んだ程度だ。特に必要はなかっただろう。
「それに、貴様に用事があって探していただけだ」
「いや、俺高い所ダメだからよ。昇り降りするの怖いからマジで助かったわ」
「なんて情けない男なんだお前は。高所恐怖症でなぜここに登ったんだ……」
「トラウマがあるんですよ……高い所。でも、まぁ……フクズクの子供が可哀想だったからね?」
良い奴ではあるのだ。良い奴では。
「馬鹿が……」
「純粋に罵倒じゃん」
「褒めたのだ」
「何処が!?」
言いながら、私は高台を降りる。ツバキは本当に高い所がダメなのか、恐る恐るといった感じで降りてきた。
途中、強い風が吹いて涙目になったツバキの顔のなんと情けない事か。
「流石ツバキさん! 見事クエストクリアですね。ライラックもご苦労様です」
クエスト扱いだったのですか今の。
「得意分野だ。任せてくれ」
狩猟を終えた後のような顔で堂々とするな。ハンターの誇りはないのか。
「で、用事って何だ?」
何故か姫から報酬を受け取り、振り返ってそう言うツバキ。話の途中だった事を私も思い出す。
「そうだった。その為に態々貴様を探したのだ。……バハリ殿から連絡が入ってな。貴様の耳にも一応入れておこうと思ったのだ」
「バハリさんから?」
彼の名前を出すと、ツバキは少しだけ目を細めた。
以前二人で何故か釣りをしに行った時、バハリ殿と遭遇してから行った調査。
バハリ殿はそれからも一人で調査を進めていたようである。
その結果を彼が知らせてくれたのだ。
「──調査の結果、バハリ殿が見つけた鱗からジンオウガの痕跡が見つかった」
──それはきっと、私とツバキで初めて行った狩猟で相手をしたジンオウガなのだろう。
何故か、そんな確信が私にはあった。