以前二人で何故か釣りをしに行った時、バハリ殿と遭遇して行った調査。
バハリ殿はそれからも一人で調査を進めていたようである。
その結果を彼が知らせてくれたのだ。
「──調査の結果、バハリ殿が見つけた鱗からジンオウガの痕跡が見つかった」
「ジンオウガ……」
その名を聞き、ツバキは珍しく神妙な表情を見せる。
「やっぱり、俺達が倒したと思ってたジンオウガは生きてたんだな……」
「後悔しているのか?」
あの時、しっかりとその命を絶っていたら──そんな事が頭を過ったのだろうか。
「不甲斐なさ、みたいな事を考えるならそれもあるけどな。それよりも、今はこれから先どうなるのかを考えてる」
しかし、ツバキは真っ直ぐ前を向いてそんな言葉を漏らした。
なる程に彼らしい切り替えの速さだと納得してしまう。
「過ぎた事は仕方がない。私もその場にして、お前に従ったのだから文句を言える立場ではない。……ただ、もし私達の
「そうだな。とりあえず詳しい事はまたバハリさんに聞くとして、ライラックが居てくれてるとはいえ俺には重い問題になってきたし。……やっぱ助け求めるか」
そう言いながら、ツバキは港に視線を向けた。
「助け?」
「今日、カムラの里から船が来るって話でさ。フィオレーネさんも帰ってくるし、多分俺の友達も来てくれると思うんだよな」
「友達……以前言っていた里の友人か。優秀なハンターなのだとか」
「それはもう俺より凄いのなんの」
そんな会話をしながら港へ。
「お、船着いてるじゃん」
「予定より早いな」
「風強かったし。そのせいかもな」
「なるほど。風か」
フクズクの雛が落ちたのも風が強かったからだったか。
その風の影響もあって、私達が
「ツバキ!!」
スッと、船から飛び降りる赤い影。
まるで夜の森を駆ける迅竜が如く身のこなしで、一人の女性がツバキの上に落ちてきて彼を下敷きにした。
「グハッ!!」
「なんだ!? 人が降って来た!?」
私は驚いて目を丸くする。
見たところ迅竜──ナルガクルガの素材を使った装備を着込んだツバキと同年代の女性だ。
しかし、彼女はまるでモンスターのような身のこなしで船の甲板から飛び降りて来たのである。
彼女がツバキの言っていた
「アレ? ツバキが消えた」
彼女は赤い髪を揺らしながら辺りをキョロキョロと見渡してそんな言葉を漏らす。目が合った私はいたたまれなくなって彼女の下を指差した。
「重いっす」
「なんでそんな所に居るの!?」
「お前が踏み潰したんだよ!!」
起き上がって声を上げるツバキ。
「女性に向かってその態度は何事だ」
「いや、これは俺悪くなくない!?」
「今のはカエデが悪いかもね。でも元気そうで何よりだよ、
もう一人。
船から降りて来た千刃竜装備の金髪の男が、ツバキの肩を叩いてそう言う。彼もツバキの友人のようだ。
「ご、ごめんねツバキ!」
「いや素直に謝られるといたたまれなくなる。てか二人とも来てくれるとは思わなかったわ。ありがとな」
苦笑いしながら、ツバキは二人にそう告げる。
「里は大丈夫なのか?」
「ウツシ教官も居るし、愛弟子が困っている今! 二人が行かなくてどうするって、心良く送り出してくれたよ」
「教官らしいな……暑苦しい。助かるけど」
「でも、ツバキが戻ってこないから何事かと思ってたけど……また何か問題でもあったの?」
「ちょっとな……」
ツバキ曰く二人共優秀なハンターという事だ。エルガドにとって心強い存在という事は確かだろう。
「っと、紹介してなかった。こっちのやかましいのはカエデ。俺の幼馴染で操虫棍使い。バカだ」
「カエデです! よろしくね──今バカにされなかった!?」
「気のせいじゃよ」
「あはは、そうだよカエデ。気のせい気のせい」
「そんでこっちの顔が良いけど中身がダメなのがジニア。こっちも幼馴染でランス使い。バカだ」
「ジニアだよ。よろしくね」
「ライラック。王国の騎士だ」
二人の手を取って、私はそう挨拶をした。完全にバカだと言われていたが気のせいなのか。
友人をバカにしているツバキの誠実さはともかく、人柄は
彼にこのように友人がいる事に驚く事はない。
「この固いのはライラックな。崩れると面白いから仲良くしてやってくれ」
「何が面白いだ。騎士として礼儀は尽くすが、いつも言うように友人を作るつもりはない」
そう言って私は三人に背中を向けた。
ツバキの友人が居るのなら、私が行動を共にする必要はないだろう。
エルガドは忙しい。仕事の分担が出来るのなら、それに越した事はない。
勿論、必要な時は騎士とハンターとして手を取る事はあるだろうが。
「そんなこと言うなよぉ〜。俺達もう友達だろぉ〜」
「くっつくな気持ち悪い!!」
背中を向けた私の背後から、変な声を漏らしながら引っ付いてくるツバキを私は引き剥がした。
なんのつもりだこの男は。
「まー、まー、せっかく知り合えたんだから一緒にご飯でもどう? 僕達も船旅で疲れてお腹ペコペコなんだよね」
「そうそう! せっかく久し振りにエルガドに来たんだから何かここでしか食べられない物食べたいな!」
「と、お二人も申しておりますので。ライラック、ちょっと飯案内してくんない?」
「……はぁ?」
もしやと思うが──
「宜しくね、ライラック」
「お願いしまーす!」
「……は、はぁ」
──この二人もツバキと同じなのか。
私は、二人の事を紹介したツバキの言葉を思い出す。
「──バカだ」
──バカ、なのだ。
「……私も暇という訳では」
「親交は大事だと私は思うぞ、ライラック」
遅れて船から降りて来たフィオレーネさんが私の肩を叩いてそう口にする。
「お疲れ様です、フィオレーネさん」
「私の留守の話も聞きたい。どうだ?」
「……そういう事なら」
私の返事を聞くと、フィオレーネさんは満足気な表情で先導してツバキ達と食事をする場所を探し始めた。
「フィオレーネさん聞いてくれよ。この前ライラックと釣りに行ったんだけどさ」
「ほぅ、ライラックと釣りか。良く付き合ってもらえたな」
「騙されただけです」
「ツバキは人を騙すのが上手いからな」
「俺の事そんな風に思ってたんですか!?」
「はは、良い意味で言ったつもりなのだが」
「笑う所じゃないですよ!!」
フィオレーネさんとは殆ど入れ違いになって、私がエルガドを離れてから話す機会がなかったからだろうか。
「フィオレーネさん私お腹減りましたー」
「すまない、積もる話は後の方が良いな。さて、カエデとジニアにはカムラで世話になった。今度は私の番という事だ」
「やったー!」
「では、お言葉に甘えさせてもらいましょうか」
「お前ら遠慮ないな……。一応この人それなりに偉い人だからね。俺がいうのもなんだけど」
「私達の仲だ。遠慮しないでくれ」
彼女は少し変わった気がする。彼女は凛々しく、固い印象があった。
変わるのが悪いという訳ではない。ツバキに絆されたと言えば聞こえが悪いが、今の彼女の方が精神的に安定しているようにも見える。
私はどうだ。
いや、私は──
「おーい、ライラック。置いてくぞ〜」
「分かっている」
──私は、変わる必要はない。