食事を取りながら私はカエデとジニアという人物を観察する。
ツバキの友人という事もあり、悪い意味ではないが田舎臭い振る舞いを取るのがカエデという少女の印象だった。
食事の合間にツバキに対してあんな事があったこんな事があったと、仕切りに話す所から見て彼女は──
「惚れているのか?」
「あ、分かる? 察しがいいね。だからカエデの事は狙っても無駄だよ。僕でも落とせなかったんだから」
──彼女、カエデはツバキに惚れているに違いない。
そう確信した私に、もう一人のツバキの友人であるジニアが話しかけて来る。
「ツー君が硬いって言ってたから、君はそういうの気にしないと思ってたんだけどな」
ジニアは整った顔立ちの瞳を片側だけ閉じた。私は目を細めて彼から目を逸らす。
「私も人だ。そういう感情は心得ているし、人の恋路を邪魔する程冷めてもいない。私がそのような男に見えるか」
「いや。ただ、ツー君の言ってる通り堅苦しいなって思って」
ジニアは満面の笑みで私をバカにすると、再び片目だけを開いて口を開いた。
「こういう話はさ、もう少し楽しそうにしようよ」
「楽しむ理由はない。私は騎士だ。今は食事という機会で情報交換をする場だと心得ている」
「そういう所なんだよねぇ。ま、確かに……崩れたら面白そうだけど」
「ツバキといい貴様といい……」
私をなんだと思っているんだこの男達は。
「──そんな訳だ、食事も落ち着いた所でライラックとツバキも含めた四人とも聞いて欲しい」
ジニアと話をしていると、フィオレーネさんが口元を吹いてから口を開く。流石、上品な振る舞いだ。
「カエデとジニアは知ってるが、エルガドに古龍が近付いてきている可能性がある。その正体も、目的も、まだハッキリとはしていない」
「古龍が……?」
私が言葉を漏らすと、フィオレーネさんは「そうだ」と短く首を縦に振る。
古龍。他の竜や獣とは一線を画す存在。
その力は自然そのものとさえ言われ、命一つで小国を滅ぼすのも容易な生き物だ。
私がエルガドに戻る前の任務で相対したオオナズチも、古龍と呼ばれる存在である。
ツバキの里──カムラを襲ったのも、ナルハタタヒメとイブシマキヒコという一対の古龍だったか。
そして我らが王国の厄災の一つ、フィオレーネさんがここに居るツバキ達と協力して打ち倒した深淵の悪魔も古龍の一種だった筈だ。
「分かっている事は一つ。ここ最近の異様な風の強さと、生態系の異常だ」
ソレは、そこに存在するだけで自然そのものに多大な影響を与える。
ここ最近の城塞高地の生態系が荒れていた理由も、その古龍が原因なのだろうか。
「風か……」
珍しく、ツバキが神妙な面持ちで目を細めた。
「私達よりも、カムラのハンターであるツバキ達の方が思う所があるか」
フィオレーネさんがツバキやカエデ、ジニアに目を向ける。
「因縁ではありますからね。風神と呼ばれた古龍……百竜夜行の原因となった一匹も風を操る古龍だったので」
一番初めに口を開いたのはジニアだった。
風の神とまで呼ばれる龍ならば、話の流れにも納得が行く。
「あんなんと戦うのは二度とごめんだけどな」
「後は、ユクモ村で話を聞いた事があるアマツマガツチも嵐を操るモンスターだったと思うよ」
溜め息を吐くツバキの隣で、カエデがもう一匹の古龍の名前を出した。
ユクモ村といえば有名な土地であり、アマツマガツチという古龍の伝承は私も知っている。
どちらにせよ、古龍である以上おそろしい存在である事には変わりない。
「てか、異様な風の強さなんて俺は初耳だが?」
「今さっきフクズクの巣が風で飛ばされたばかりだろう」
「確かに。……いやでも、あれくらいだったら普通の強風だろ」
「言われてみればそうだが……」
確かに風が強いとは言うが、その程度時々ない話ではない。フィオレーネさんが異様とまでいう理由がツバキと私は分からずに首を傾げた。
「エルガドはまだ何も起きてなかったんだ」
そうすると、今度はカエデが首を傾げる。
「どういう事だ? カムラの里で何かあったのか?」
「うん。えーと、ね……大雨が降ったの。それと嵐。それだけなら、普通の嵐だと思った。……けど、その嵐は一週間以上続いたんだよね」
「嵐が一週間以上!?」
それほどまでに長く嵐が続く事はありえない。
確かに、そうなると異様とも言える状態だ。
「フィオレーネさんが船でカムラに来てから少しして嵐が来て、それからずっと一週間以上ね。流石にこれはおかしいってなって、僕とウツシ教官で大社跡を覗きに行ったんだけど……その時、嵐の中に黒い影が見えたんだ。僕の目がおかしくなければ、確実に嵐の中に何か生き物がいた」
「大雨と嵐なら、私にも心当たりがある」
ジニアの言葉を聞き終えてから、私は挙手して口を開く。
フィオレーネさんが「なんだ?」と視線を送ってくれたのを確認してから私は続きを話そうと席を立った。
「エルガドに戻る前の任務で私は霞龍──オオナズチという古龍と対峙していました。かの龍と対峙する為に資料を漁っていた時、近しい種という所から鋼龍──
「クシャルダオラか……。であれば、今我々が持ち得る情報の中ではイブシマキヒコ、アマツマガツチ、クシャルダオラという可能性が出てきた訳だな。勿論、他の可能性もある。我々の知らないモンスターという可能性も。しかし、無知である相手よりは対策は取りやすいというものだ。この三種の対策は取っておいて損はないだろう」
そう言うと、フィオレーネさんは立ち上がる。
「報告をまとめ、提督やバハリに話をしてくる。四人とも、ありがとう」
「あ、待ってくれ。俺も少し気になる事があって」
「私も、一つ耳に入れてもらいたい情報が」
そんなフィオレーネさんを、私とツバキが手を伸ばして止めた。
風とは関係ないかもしれないが、城塞高地で起こっている異変はそれだけではない。私とツバキの見解の一致だろう。
「気になる事?」
「──ソレは俺から話そうかな」
「──バハリ……!?」
突然現れたバハリ殿が立っていたフィオレーネさんの肩を後ろから掴んで、彼女を無理矢理座らせた。
彼は眉間に皺を寄せるフィオレーネさんに両手を向けながら真隣に座ると、立っていた私にも座れと目で諭してくる。
「せっかく帰ってきたのに俺を食事に誘わないなんて、つれないんじゃない?」
「食事はともかく。今から話をしに行くつもりだったのだが」
「それじゃ、ちょうど良いね。俺もフィオレーネに話があったんだ。これなんて言ったっけ? 相思って奴」
「そのおかしな髪を燃やすぞ」
フィオレーネさんは少し変わったと思っていたが、何も変わっていないようだ。いや、これはバハリ殿が悪い。
「久方振りの再会にしては冷たい態度だけど、フィオレーネがまた独りで抱えてない事を確認出来たから良しとしようか。さて、本題に入るんだけど……エルガドでも嵐とは違う問題を持ち上げてる所でね」
「違う問題?」
「傀異化モンスターによる影響か、それとも別の何かによる影響か。とにかく城塞高地の生態系がおかしくなってる。ツバキやライラックに調査協力をしてもらってるんだけどね、これの原因究明がどうも難航しててね。勿論、さっきの古龍が原因なのかもしれないけど」
「私とツバキで一度討伐した……いや、し損ねたジンオウガが傀異化して暴れ回っているというのが今の見解です。しかし、どうもジンオウガは見付からず、時間が経っても影響が収まらない」
本来なら傀異化したモンスターはキュリアに命を蝕まれ、短い時間で命を落とす。
しかし、城塞高地の生態系の異常は治る気配がない。
「──そういう事だから、フィオレーネやカエデちゃん達にも城塞高地の生態系の異常を調べて欲しいんだよね。そっちの嵐の古龍については、俺が調べる事にするよ。適材適所って奴。どう?」
エルガドの現状を話し終えたバハリ殿は、フィオレーネさんやカエデ達にそう話を持ちかけた。
現状、私とツバキだけでは人数が足りないというのは確かだろう。適材適所、人海戦術。バハリ殿らしい、正しい見解だった。
人手があるのなら、手分けして様々な調査も可能だろう。
ツバキは勘が働く狩人だ。調査のメインは彼やその仲間達に任せ、私はその補助を行えるように別の問題を潰してくるという行動も可能である。
であれば、早速姫様に現場のエルガドのクエストを確認するべきか。
「そんな訳でライラック、ツバキ。それにカエデちゃんとジニア。君達
「──なるほど。であれば私は別行動……いまなんと?」
席を立って姫様の元に向かおうとするが、妙な言葉が聞こえて私は聞き返した。
今、四人と言わなかったか。
「うん。だから、ライラックとツバキとカエデちゃんとジニアの四人でクエスト」
「はぁ?」
どうしてそうなるのか。
「俺達パーティだし普通じゃね?」
私は、どうやら知らない間にツバキの