盟友クエスト【完結】   作:皇我リキ

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第二ラウンド

 大地が揺れた。

 

 

 その剛腕で薙ぎ払われた樹木が泥濘に突き刺さり、泥水が視界一杯に広がった。

 その奥から、木々を薙ぎ倒して巨体が迫ってくる。

 

 

「剛纏獣……」

「第二ラウンドと行きますかね。カエデ、頼んだ!」

「分かった!」

 剛纏獣が我々を見付け、咆哮を上げた次の瞬間。カエデは操虫棍を地面に叩きつけ、その軽い身体を浮かせた。

 

 執拗な追跡に苛立っているのか、そもそも噛生虫の毒で暴れているだけなのか。

 剛纏獣はやはりカエデに向けてその剛腕を振り下ろす。カエデは身体を捻ってそれを交わした。

 

 

 やはり彼女の動きは一流。

 ただ、剛纏獣も同じ事を繰り返すだけの脳筋ではない。

 

 

「うわ!? 何!?」

 カエデのサポートを私達がする。もしくは、カエデが作った隙で私達がダメージを与える。

 

 それが我々の作戦なのだと見抜いたとでも言うように、剛纏獣は大きく動きを変えてきた。

 

 

 まず、カエデを狙うのは変わらない。

 しかし、その動きは全て大振り。カエデだけに集中して攻撃するのではなく、大振りでカエデに当たりにくくても、周りを巻き込むような攻撃を繰り返す。

 

 そこまで大振りならカエデにはまず当たらない。彼女の身のこなしは本当に一流だ。

 しかしカエデに当てる気がなくても、その大振りは当たれば人の命は容易いだろう。カエデは無理に攻撃出来ない。そして私達も、剛纏獣の動きが大き過ぎて近付けなかった。

 

 

「コイツ、見た目完全に脳筋なのに俺達の作戦分かってるってか……」

 ツバキが唇を噛んで、カエデに視線を向ける。

 

 良くも悪くも先程までの戦いはカエデの独壇場だった。カエデに余裕があるとしても、このままではジリ貧だろう。先に力尽きるのはこちらだ。

 

 

 私達人間は、どうしてもモンスターに敵わない部分がある。それは、体格とそれに伴う体力だ。

 人間は所詮、獣の中でも弱小な生物に過ぎない。そんな人間がこの世界の理である彼等に立ち向かう為の要素が知恵──つまり作戦。それを封じられてしまえば、私達は彼等からしてみればただの小さな獣に過ぎない。

 

 

 

「カエデ……!!」

「……っと、やばいやばい!」

 さらに、剛纏獣はカエデを岩壁に追い込むように動いている。カエデも流石で、なんとか攻撃は回避しているが危険な場面が増えてきた。

 

 

「このやろ……!」

「ツー君、焦らないで。僕がなんとかする」

 剛纏獣の大振りを盾で受け流し、なんとかその懐に入り込むジニア。彼の槍の切先が厚い皮を貫き、久方振りに剛纏獣が血を流す。

 

 

 流石の巨体も、これには悲鳴を上げた。

 その隙にカエデは距離を取って汗を拭う。しかし剛纏獣はジニアを一瞥した後、直ぐにカエデに視線を戻した。

 

 

 

「マジでコイツカエデしか狙わねーな!!」

「賢いんだね。カエデは大丈夫だから、ツー君は焦らないで。ツー君が焦ったら、何も動かないよ」

「んな事言われてもな……」

 ツバキは苛立ちを隠せないのか、歯軋りをしながら剛纏獣を睨み付ける。

 

 

 ツバキの状況管理力と機転、カエデの機動力、ジニアの冷静さ。どれも一流の狩人として申し分ない力だ。

 しかし、今この状況を打破するにはまだ何かが足りない。ツバキはなんとか剛纏獣に近付こうとしながら、その何かを探している。

 

 一瞬の隙、地形の変化、他の生物の動き。何かあれば、彼なら道を切り開ける筈だ。

 

 

 だとすれば、今は私が──

 

 

 

「ジニア、援護してくれ。私に考えがある」

「え?」

 彼の背後からそう言って、私はすかさず地面を蹴る。姿勢を下ろし、頭上を剛腕がすり抜けた。

 

 

 

「ライラック!? そりゃ無茶だろ!?」

 ツバキの驚いた声が聞こえる。

 そうだ。私は無茶をしている。大きく暴れ回る剛纏獣の懐に、この身一つで潜り込んだ。

 

 

 前脚よりは細いが、それでも人間の胴体よりも大きな脚を振り回す剛纏獣。

 身を守る為には小さな盾でそれを受け流しながら、私は腹部の下に転がり込む。

 

 

「──私が道を作る。切り開け、ツバキ!!」

 剣を振り上げ、鮮血が頭上から降り注いだ。

 

 流石に腹の下に潜り込まれては、剛纏獣も私を無視する事は出来ない。そして腹の下の小さな獣に大ぶりの攻撃は意味がない。

 剛纏獣は私を振り払おうと、姿勢を上げて両腕を私に向けて振り下ろす。

 

 太刀や大槍のように大きな武器を持っていれば、これを交わすのは容易ではない。それこそカエデのような機動力があっても難しい筈だ。

 

 

 だが、私の得物は片手剣──(つるぎ)である。

 一撃の重みはないが、それを補う瞬発力が私にはある。

 

 

 私とて伊達に王国の騎士をしている訳ではない。この狩人達に勝るとも言わずとも、誇れる技術を持ち合わせている筈だ。

 

 

 この力を、彼等を信じて使う事が出来れば、どのような逆境も潜り抜けられるだろう。

 

 

 

「その程度で捉えられると思うな!!」

 肉薄。

 

 身体がぶつかり合う距離で、剛纏獣は私を握り潰そうと何度も腕を振った。

 それを交わし、受け流しながら、私は剣を振り回す。

 

 

 これで、細い道は出来上がった筈だ。

 

 

 ツバキなら、この道を切り開ける。

 私はどこかで彼を──いつのまにか信用していた。

 

 

 

「カエデ!!」

「分かった!!」

 カエデが跳ぶ。剛纏獣の頭上を通り抜けて、反対側へ。

 私とカエデに地と空から挟まれて、剛纏獣は一瞬動きが止まった。

 

 

「──痛いの行くからなこの野郎!!」

 刹那。

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 一体どうして。そう思った次の瞬間、剛纏獣の左腕が地面に叩き付けられ、同時に鮮血を吹き出す。

 

 

「よっしゃ大ダメージ!!」

 あの剛腕を地面に叩き付ける程の腕力をツバキは持ち合わせていない。何をしたのか。一瞬私には分からなかった。

 

 道は作ったが、どう切り開いたのか分からない。

 

 

「高い所苦手だけど頑張った甲斐がありましたよっと! ライラック、助かった! ちょい下がれ!!」

 太刀で切り払いながら、剛纏獣と距離を取るツバキ。

 

 

 そうか、この男。

 剛纏獣がカエデを追い詰める為に使った()()に登って落ちてきたのか。

 

 私には想像も付かない作戦に、苦笑いが溢れる。

 

 

 剛纏獣はあまりの衝撃に混乱しながら、周りを彷徨く小さな獣を振り払う為に姿勢を落として身体を回転させた。

 

 こればかりは懐に居ては避ける事は出来ない。私は地面を転がって、なんとか攻撃範囲から脱出する。

 しかし、それでは隙だらけだ。

 

 次に剛纏獣が狙うのは間違いなく私だろう。

 

 

「無茶するじゃん、さっきカエデの事怒ったのに」

 だが、私の前にジニアが立ち塞がった。いくら剛纏獣だろうが、大きく動いた後に急いで追撃しようとしても大した攻撃は出来ない。

 

 小振りの剛腕を、ジニアが私の目の前で受け止める。

 

 

「後で謝罪しよう」

「気に食わない澄まし顔」

 不敵に笑い、ジニアは大槍を剛纏獣の剛腕に突き刺した。ツバキが付けた左腕の傷に、槍が深く突き刺さる。

 

 

 剛纏獣は悲鳴を上げながら背後に転がった。激痛に踠き、叫ぶような咆哮が水没林の木々を震わせる。

 

 

 その瞳は真紅に染まり、白い息を漏らしながら、ゆっくりと立ち上がった剛纏獣は地面に自らの剛腕を叩き付けた。

 

 

「激おこプンプン丸じゃん」

 ツバキが苦笑いを溢す。

 

 

「第三ラウンドって事かな」

「く、来るよ!」

 剛纏獣とてやられてばかりではない。

 

 

「ツバキ、ここからが本番だ」

「分かってる。ちょい休憩したかったけど、そんな訳にも行かなそうだな」

 王域三公の一柱。その力はこの程度でない事を私は知っていた。

 

 

 

 剛纏獣が吠える。

 揺れていた木が吹き飛び、岩盤が砕け、大地が燃えた。

 

 

 これが剛纏獣の本気。

 

 ここからが、本当の戦いである。

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