盟友クエスト   作:皇我リキ

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傀異化ガランゴルム

 剛纏獣の元に一斉に集まる赤い影。

 寄生先の生物の終わりを感じたのか、はたまた別の理由か。

 

 噛生虫達は剛纏獣へと喰らいつき、そして──

 

「しまったカエデ!!」

「え、何──」

 ──剛纏獣から吸い取ったエネルギーを爆発させるように、周囲へと渦を巻くように飛び去っていく。

 

 

 衝撃波が空気を切り裂き、私は無意識に走り出していた。

 

 

「カエデ!!」

 彼女を突き飛ばして、地面に伏せる。頭上を噛生虫達の塊が通り過ぎた。

 

 

「ライラック君!?」

「──っ」

 次の瞬間、大きな影が頭上に落ちる。

 

 剛纏獣の剛腕。

 隙を見せた私を、確実に潰しに来た。

 

 

 死を覚悟する──事はなかった。

 

 

 

「──僕が来なかったらどうするつもりだったの」

 ──ジニアの持つ大きな盾が、剛纏獣の剛腕を受け流す。

 

 

 私が走り出した時、回復が終わったジニアが視界に入っていた。

 しかし、彼の距離からカエデには一歩届かない。

 

 ならば私がカエデを助け、その後の事はジニアに任せれば良い。至極単純な答えだろう。

 

 

「……あぁ、分からない。身体が勝手に動いた」

 相手を信じるとか信頼だとか裏切られるリスクだとか、思考をして答えを出すには仲間として当然だとかそんな()()()はいくらでも出て来た。

 

 

 ただ正直に。

 私は今、身体が勝手に動いたのである。

 

 

 つい先程カエデに自分が口にした事を言い返されたのなら、私は何も言い返せない。

 

 

 

「ツー君に当てられるとバカになるよね。分かる」

「……なんの事だか分からん」

 刹那。

 

 

 攻撃を外した剛纏獣の左右からツバキとカエデが己の得物を叩き付けた。

 最後の力を振り絞って、剛纏獣は天を仰ぎながらジニアに腕を振り下ろす。それも、彼の盾に防がれて。

 

 

 剛纏獣は力尽き、その瞳を閉じた。

 

 

 

「──クエストクリア、と」

 安心したような溜め息を吐いて、ツバキがゆっくりと歩いてくる。

 

 そんな彼の隣からカエデが走って来て、倒れたままの私に手を差し伸べてくれた。

 

 

「ありがとうライラック君! 助かった!」

「……当然の事をしたまで──いや、違うか。無事なようでなによりだ」

 私がそう言うと、ツバキとカエデは目を丸くする。その横でジニアが不敵に笑うのが、どうも気に食わない。

 

 

 

「はいはい、確かに討伐完了だけど。ここは狩場なんだから、気を抜かない」

「そうだった! とりあえず素材だけ貰って、帰って報告しないとね」

 剛纏獣の素材を剥ぎ取り、私達は水没林を後にした。

 

 

 揺れる竜車の上で、私は自分の行動を思い返す。

 

 

「身体が勝手に、か。……我ながら非合理的な言葉を漏らしたものだ」

 ガタガタと揺られながら、ツバキ達三人はぐっすりと寝ている。クエストの後とは思えない程に、安心しきった表情だ。

 

 腑抜けていると、少し前なら腹を立てていたかもしれない。

 

 

 

「安心できているのだな……。友人が──友達が近くにいるからか」

 どこに居ようが変わらないのだろう。

 

 

 裏切られる等と少しも考えず、絶対の信頼があるからこそ、いつでもそうして安心していられるのか。

 私にはそんな相手がいなかった──いや、違う。私は信じ切る事が出来なかった。

 

 

 

「相手が失敗して、自分が割を食っても()()と思える相手。……それが友達、か」

 私はカエデを助けた時、ジニアが動かなければ死んでいたのだろう。

 

 

 それでも()()と思ったのか。

 

 

 動いたのは無意識だった。

 後から考えれば、そもそも同じ目的を持った仲間である私は助けられて当然だろう。私も逆の立場ならそうする筈だ。

 

 しかしそれでも、万が一の事はある。

 

 私はそれでカエデに叱咤した筈だ。

 

 

 それなのに、私はそんな行動を、無意識に行って、そして生きてここに居る。

 

 

 

「信じたのだな……私は」

「ブツブツとなんだぁ? 愚痴かぁ? 勘弁してくれ疲れてるんだ。今日のお説教はまた今度にしてくれ」

 目を擦りながら、ツバキがそんな言葉を漏らした。

 

 私はなんだと思われているのだろうか。

 

 

 

「説教をされる事があると自分で思っているからその口を開いたのか」

「いや、なんかライラックさんはいつもこう……お前は無理をしすぎだ後先を考えろだのなんだの難しい事を仰るので」

「貴様が悪い」

「そんなぁ……。でもアレだよな、今日はライラックも案外無茶してたよな」

 不敵に笑いながら、ツバキは腰を上げて私の隣に座りにくる。

 

 

「ジニアにお説教されるぞ」

「もうされた後だ」

「お、素直」

「……ツバキ」

「え、なんすか」

 私は少しだけ考えて、彼の目を真っ直ぐに見た。やはり、目が死んでいる。

 

 

「私達は友人なのだろうか」

「まだそんな事言ってんのかお前……」

 呆れたような、そんな声がツバキの口から漏れた。

 

 

「以前、私がカムラの里に滞在していた事を話したのを覚えているか?」

「ん? あー、なんかそんな事言ってたな」

「その時、私を友だと言ってくれる人物に出会った。王国の騎士見習いとして、今よりも未熟で固かった私を友と呼んでくれた人物にだ」

「今よりも固いライラック……。バサルモスもビックリするくらい固かったって事? グラビモスって事?」

「私をなんだと思っているのだ」

「ウルトラ堅物野郎。……いや、最近やっと打ち解けて来たか」

 否定はできないが。

 

 

「で、その人がなんだって?」

「……私は確かにその人物の事を友人だと思っていた。国に帰ってからも、彼とは少しの間文通をしていたのだ。お互い、夢を話すような間柄にまでなった」

 あの頃の私は、彼との文通が唯一の娯楽だった事を思い出す。

 

 

 騎士になる為の厳しい修行。

 勿論、それを苦に覚えた事はない。しかし、どこかで彼との文通を心の支えにしていたのだ。

 

 

「へー、とんでもなく仲良しじゃん」

「そうだったのだろうな。……私は騎士に、彼は狩人に。お互いに何が出来るようになった、これを覚えた等と報告をするだけの文通だった。しかし、私にはそれが楽しかった」

 だからこそ、許せなかったのかもしれない。

 

 

「彼は私より少し年上で、先に夢を叶えた。未熟ながら、里の狩人として働き始めたという報告を受けた時……私は自分の事のように喜んでいたのを覚えている」

「友達が夢叶えたとか言ってたら嬉しいな、確かに」

「しかし、それからしばらくして……彼からの連絡は途絶えた」

 私がそう言うと、ツバキは珍しく表情を曇らせる。

 

 

「何故かは分からない。……彼が今、どうしているのかも分からない。しかし、裏切られたと思ってしまったのだ」

「ライラック……」

 こんな事をツバキに言っても仕方がない。

 

 

 しかし、私は彼に謝らなければならない。

 

 

「剛纏獣は本来、大人しく心優しいモンスターだ。……それがこんな場所にまで来て暴れるにはそれなりの理由があった」

「傀異化だな」

「……彼にもきっと、何か理由があったのだ。私はそれを、勝手に裏切られたと勘違いした。勘違いしていた」

 何処かで分かっていた事ではあった。

 

 

 狩人との連絡が途絶える理由等というのは簡単に想像がついてしまう。それに、彼は誠実な人だった。

 

 

「……彼はきっと、もうこの世には居ないのだろうな。ツバキ、カムラの里で私よりも少し歳上の狩人が殉職したという話を聞いた事はないか? もし可能なら、私に教えて欲しい」

 それでも()()。それが友人だとしたら、私は彼が今どうしているのかを知りたい。

 

 

 もし彼が生きていて、私を裏切っていたのだとしても、それでも私は()()

 彼との思い出は、私にとってそれほどまでに大切な物で、今なら私は()()と思えるだろう。

 

 そして、私が勝手に裏切られたと思い込んでいただけならば、謝罪をしたい。

 

 

 

「……俺の兄貴」

「ツバキの兄?」

 短い言葉が彼の口から漏れて、私の脳裏に彼の顔が思い浮かんだ。

 

 

「凄く勇気があって、周りからも期待されてて……良い人でさ」

 そうだったな。

 

 

「……俺のせいで死んだんだよ。だから、ライラックを裏切ったのは兄貴じゃない。……俺なんだな」

「……いや」

 竜車の外の空を見る。無数の星が、大地を照らしていた。

 

 

()()んだ。……やっと、私も謝る事が出来る」

「ライラック……」

 彼はもう居ない。

 

 

 私の独りよがりだったのだろう。きっと、私は空から笑われている筈だ。

 

 

 

「ツバキ、彼の事を少し教えてくれないか。私は所詮、一時の友人だったに過ぎないからな」

「……よし、長くなるぜ。俺の最悪な武勇伝も交えて話すとするか」

「あぁ。……頼む」

 私はそれで良い。

 

 

 私は、友を拒まなくて良いだろうか。

 

 

 

 彼が許してくれるのなら。私は再び──

 

 

 

「──友達、か」

 ──再び、友と呼べる仲間と出会えた事を彼に伝えたい。


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