盟友クエスト【完結】   作:皇我リキ

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休息パーティ

 ハンターになったらモテると思っていた。

 ツバキがハンターになった理由を聞いて、私は頭を抱える。

 

 

 彼には兄がいた。

 ツツジという名前の、操虫棍を扱う新米ハンター。私が幼少の頃にカムラの里を訪れた際、友人となった少年である。

 

 彼はアオアシラというモンスターと戦い、命を落とした。

 兄に憧れていたツバキは、そんな彼の遺体を見てしまい──ハンターになる夢を一度諦めたらしい。

 

 

 そんな彼が再びハンターの道を目指した理由は、彼の大切な友人達であるカエデとジニアとの関係だったという。

 一人里を離れてハンター修行をしていたカエデが里に帰ってきた時、ツバキは彼女に見栄を張って自分もハンターになったと嘘をついたらしい。

 

 良い加減な所は変わっていないが、そんな見栄から今の彼にまで成長したという事だ。彼の本質は元からハンターであったのだろう。

 

 

 そんな彼が憧れた兄──ツツジ。

 

 私は幼少期の頃、ツバキの兄とは知らず彼と交流を続け──彼は狩場で命を落とした。

 そうして文通が途絶える。彼の事情も知らず、彼を心のどこかで支えにしていた私は身勝手に彼に裏切られたと勘違いをした。

 

 

 違うか。

 勘違いした訳ではない。自分の都合の良いように、思い込もうとしたのだろう。

 

 彼が死んだと、思いたくなかったのだ。

 自分の事を裏切ってくれても良い。だけど、生きていて欲しかった……友だから。

 

 

 

「ツバキ……」

「ん?」

「……今度、カムラに寄ることがあったなら彼の眠る場所に案内してくれないか」

「ん……。分かった。今度行こうぜ、皆で」

「あぁ……」

 だから、私は彼に謝りたい。

 

 

 彼を信じられなかった事を。彼の心を踏み躙った事を。

 

 

「……約束だ」

 自らが勝手に曇らせた自分の心が、晴れていくような。そんな気がする。

 

 

「おう。……しかし、なんか天気が怪しいな」

 そんな私の気持ちとは裏腹に、竜車から眺める空は厚い雲に覆われて暗くなっていた。

 

 

 

    ◆ ◆ ◆

 

 友人とはなんなのだろう。

 

 

「貴様ら……良い加減にしろ。今すぐに私の家から出ていけ」

「そんなこと言うなよ。俺達友達だろ」

「そうそう。僕達の仲じゃないか」

 頭を抱えながらそんな事を考えた。目の前でボードゲームに勤しむ()()を眺めながら。

 

 

 剛纏獣──ガランゴルムの討伐から数日。

 無事に任務を遂行した私達は、エルガドに戻り暫くの休暇を過ごしている。

 

 本来ならば一つの任務を終わらせた所で、次の任務を探すのが騎士の勤めだ。

 

 

 しかし、バハリ殿が今回の異変には古龍が関わっている可能性があるとして、今その調査をしている。

 いざという時に動く事が出来るよう、私にはエルガドに待機するように命じられてしまった訳だ。剛纏獣の傀異化についての報告はバハリにも届いているであろうし、特にしなければいけない事があるのも事実か。

 

 

 ──それは良い。

 

 

「人の部屋で遊ぶな」

「此処以外居場所がないんだからしょうがないだろ」

「そうそう。なんならラッ君も遊ぼうよ。楽しいよ、すごろくゲーム」

「やらないと言っているだろう。私は勉学で忙しい。……そもそもツバキ、お前には貸し出してある宿舎があるだろう。あと変な呼び方をするなジニア」

 気色の悪い笑みで私を誘ってくるツバキとジニアにそう言って、私は手に持っている本に再び視線を落とす。

 

 

 待機休暇と言われようと、成すべき事を成すのが騎士の勤めだ。

 しかし、この二人にはそんな私が暇に見えているらしい。困った友人である。

 

 

「俺の借りてた部屋はカエデに貸してるんだよ。レディーファーストって奴だ。いやー、流石俺、男前だぜ」

「だからと言って私の部屋に転がり込んでくる必要はないだろ……。そもそもジニアはともかくツバキとカエデは──」

 ツバキ達のエルガドへの貢献を考えれば、その口一つで部屋の一つや二つは簡単に借りられる筈だ。

 

 

「──そういうんじゃないよ」

 言いかけた私の言葉を遮るジニア。

 

「……そうなのか?」

「うん。お互い、お子ちゃまだからね。あはは……僕からしても困ったものなんだよ」

 そんなジニアの言葉を聞いて、ツバキは「あん? 誰がガキだと?」等と漏らしている。彼の反応を見る限り、ジニアの言葉は本当らしい。

 

 

 私はてっきりツバキとカエデは恋仲なのだと思っていたが、どうやらジニアの言う通りツバキはお子ちゃまらしい。

 

 

「……ふん、がんばれ」

「何を上から目線に!! うるせぇよ!! こっちは張っちまった見栄のせいで変な尊敬されてそういう目でまったく見られてないの!!」

 少し顔を赤くして声を上げるツバキ。どうやらその気はあるようだ。

 

 ただ、彼女の態度と彼のその言葉通り、どうもカエデからツバキへの感情は尊敬である。

 

 

「てか、ライラックはそういうの無いの? お前チッチェ……姫様にデレデレだったよな」

「あ、ツー君が話を逸らした」

「うるせぇ黙って逸らさせろ」

「私は姫様を守る為に存在しているし、彼女の存在に忠誠を誓っている。カエデから貴様へと向けられている尊敬という感情も勿論有している。……しかし、恋仲になろう等とはまるで思っていない。そのような汚れた発想は持ち合わせていない」

「え、なんでそんな俺を攻撃するの? やめて? 辛い」

 自分から売った喧嘩だろうに。

 

 

「……ただ、私とカエデでは立場も違う。カエデが自らを貴様と対等だと感じる時が来たのなら、そういう感情も生まれるだろう」

「やだ突然フォロー入れてくれるライラック君好き。惚れちゃった」

「キモい、死ね」

「あまりにも辛辣で泣きそう」

 勝手に泣け。

 

 

 

「──あ、ツバキ達もやっぱり此処にいた! ねー、今からパーティ? 宴? やるから三人共準備手伝って欲しいな!」

 ツバキ達と話していると、話題にも上がったカエデが私の部屋を訪ねてきた。私の部屋を溜まり場か何かと勘違いしていないだろうか。

 

 

「お前またそんな急に。別に良いけどね、そういうのはもう少し早めに連絡しなさい」

「良いねー。勿論僕達は手伝うよ。よし、二人とも行くよ」

「まて、何故私が参加する前提で話を進めている」

 そもそも私は騎士としてこの休暇を有意義に過ごそうという計画があり、それを邪魔してくるバカ二人の忠告から話をしていた訳だが。

 

 

「いやいや、普通なんかパーティやるのに友達誘わない事はないだろ。別に断られたらそれはそれとしてな」

 真顔で当たり前のことのようにそんな言葉を漏らすツバキ。

 

 

 友達、か。

 

 別に慣れた訳でも、諦めたわけでもない。

 だだそれは、私が認め、受け入れた関係である。

 

 

「……仕方がない。付き合って──」

「チッチェちゃんも来るって言ってたよ」

「──参加させて頂く!! 否、私が参加せずして誰が参加するというのだ!! 姫の隣に座り、その可憐な笑顔を守るのはこの私だ!! 会場は何処だ? 私が姫に相応しい宴の準備を完遂する!!」

「キモ」

 ツバキの戯言が聞こえた気がするが気にすることはない。これはわたしの仕事であり、使命なのだ。

 

 

 

 そうして私とツバキ、ジニアにカエデの四人で宴の準備をする。

 

 そもそもどのような目的を持った宴なのか聞いた所、私とジニア達の親睦会らしい。ツバキでは無いがもっと早く言えとカエデを叱責しようとした所──提案者が姫だと聞いて私は悶えた。

 

 

「交流は仕事において連携に繋がる大切な行事と知るとは流石姫……」

 そう苦し紛れに語った私を揶揄った三人を殴ったのはさておき。

 

 

 姫の計らいにより開かれた宴。

 騎士として休憩日に勉学に励みたかったのは嘘ではない。しかし、こうして()()と時間を過ごすのも悪い事ではないのかもしれない。

 

 

 

「ツバキ」

「あ? なんだ。お前も団子食う? バサルモスの涙味」

「なんだその味要らん」

「じゃあなんだ?」

 よく分からない味の団子を食べながら、ツバキはいつも通りの死んだ魚のような目を私に向ける。

 

 

「これからもエルガドの為に力になってほしい。……それだけだ」

「そんな当たり前の事を……。俺達友達だろ? カムラとエルガドも、なんつーかな? 同盟? 仲間? 友達だし?」

「盟友か?」

「そうそれ! 盟友」

 このバカと話していると、どうにかなってしまいそうだ。

 

 

 いや、もうどうにかなってしまったのだろう。

 

 

 

「盟友、か」

「なんか響きが格好良いな。普通に友達って言うよりさ」

「そうかもな、盟友」

 そう言って、私はツバキにジョッキを向ける。ツバキは不敵に笑い、短く返事をして私のジョッキに自分のジョッキをぶつけた。

 

 

 

「ライラック」

「姫……!!」

 宴も終盤。

 

 酔い潰れるか踊り狂っているツバキ達を横目に呆れていると、姫の声が聞こえて振り向く。

 

 このような煩い場所でも気品さを失わない可憐な姿。

 私は直ぐに跪いた。

 

 

「この度は私等の為に宴を提案していただき、ありがたく思います」

「頭を上げてください、ライラック。今日の主役はあなた達なんですよ?」

 なんとありがたき言葉か。

 

 

「ライラック、ツバキ達とは仲良くなれましたか?」

「それは……はい」

「素直になりましたね」

 不敬と分かりつつも、笑顔を見せてくださる姫から私は目を逸らす。

 

 

「……私は騎士として、誤った道を進んでいるでしょうか」

「いいえライラック。あなたは、何も変わっていません」

「変わっていない……?」

 私は騎士に友人等必要ないと思っていた。

 

 裏切られるのが恐ろしく。そんな気持ちを隠すように、私は友人という関わりから逃げて来た。しかし私は変わっていないと、姫は語る。

 

 

「ライラックは元から面白い人でした。だから、変わったのではなくて……一皮剥けたという感じですね!」

「姫……」

 華やかに笑う姫。

 

 面白い人という印象だったのが、どういう評価なのかはともかく──姫が私を見て笑ってくれているという事実だけがそこにあった。

 ならば、何も間違っていない。私は、何も疑う必要はないのだろう。

 

 

 

「ライラック」

 ふと、背後から名前を呼ばれた。

 

 姫との会話を邪魔する者は誰だろうと許さないと一瞬思ったが、声の主が分かって私は思考を切り替える。

 

 

「バハリ殿……」

 私の背後に立っていたのは、全身泥だらけで苦笑いを溢しているバハリ殿だった。

 

 

「宴の最中に悪いね。ただ、思ってたより事が急に動いてるんだ。ライラック、ツバキ達を呼んで来てくれないかい?」

 言いながらも、テーブルの上に城塞高地の地図を広げ始めるバハリ。彼のその焦り方は、起きている事態が急を要するということを物語っている。

 

 

 私は姫に挨拶を済ませ、バカをやっている三人を呼び出した。

 

 

 

 私とツバキの関係をなんというだろうか。

 

 友人。

 確かにその通りなのだろう。私は彼を友人だと認めている。

 

 ただ、敢えて他の表現をするのならば──

 

 

 

「──我が盟友よ、力を貸して欲しい」

 ──盟友。その言葉を、私は選びたい。




今年のハーメルンでの活動はこのお話の更新で終了となります。最近はこの作品しか書けていませんが……。

それでは皆様よいお年を。また来年からもよろしくお願い致します。
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