盟友クエスト【完結】   作:皇我リキ

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無双ジンオウガ

 意思の疎通。

 それが雷狼竜にはない私達の強力な武器である。

 

 

「ツバキ!」

「任せた!」

「んー! 任せて!」

 反射的に振り返る雷狼竜。ツバキの攻撃の後隙を逃さんと振り回される剛腕。

 

 大振りの硬直で動けないツバキを、カエデの猟虫──モミジ──が連れ去るように引きずった。

 

 

「あ、直接助けてくれるんじゃないんだ!? お前本当にもう!!」

「ナイスモミジ! ジニアお願い!」

 言いながら、カエデは空気を潰した雷狼竜の前足を切り付ける。

 

「おっけー、任せて」

 モミジに引きずられて距離を取ったツバキに向けて放たれる雷光蟲の塊。眼前にジニアが立ち、それを防いだ。

 

 

 そうして三人が作った隙に、私は雷狼竜の懐に潜り込む。

 

 意識は全て雷光蟲に注ぎながら、感覚に任せて己の得物を振り続ける。

 眼前を横切る剛腕。意識外の尻尾。反射神経で避け、盾でイナシながら、私はその時を待った。

 

 

「──今か……!!」

 一瞬。

 

 視界に光が入って、私は何も考えずに飛び退く。

 次の瞬間雷狼竜を光が包み込んだ。同時に、雷狼竜の視線が私を貫く。

 

 

 足を止めない。

 飛び退いたまま、転がるようにしてその場から離れた。背後から空気が潰れた音がする。

 

 

「反応が早過ぎるよこの子!」

 私を狙った隙をカエデが突こうとした。しかし、雷狼竜は一瞬でカエデに反応して体制を整える。

 

 

 噛生虫はツバキが上手く引き受けて居るが、怪異化や噛生虫との協力がなくとも雷狼竜というモンスターは強敵だ。

 

 俊敏な動きと、それに勝る強力。

 小回りの効く私とカエデなら多少の時間は向き合える相手だが、ツバキとジニアの得物では相性が悪い。

 

 

 それ故にツバキは噛生虫の気を引き、ジニアは私とカエデの援護。

 私とカエデで雷狼竜を削る。

 

 特に長い話し合いをした訳ではないが、私達はそういう()()()()()が出来た。

 しかし、それでやっと五分といった所なのだろう。ジリ貧とまではいかないが、私達の相手は雷狼竜だけではない。

 

 

「この後クシャルダオラと戦うと思うと反吐が出そうだよ……」

 ジニアがそんな言葉を漏らした。

 

 この任務の後、私達は鋼龍との戦闘も視野に入れておかなければならない。ここで体力を消耗するのを良しとは言えないだろう。

 

 

 

「キュリアが行ったぞ!」

 ツバキが叫んだ。

 

 どうやら、噛生虫はツバキをどうにかするのを諦めたらしい。ここに来て、噛生虫は雷狼竜の元に戻っていく。

 

 連携が再び並んだ。もどかしさに歯を食いしばる。

 

 

「ジニア!」

「分かってるよ!」

 雷狼竜の元に戻った噛生虫達は、赤黒い光を漏らしながら塊で動いて雷狼竜の周囲を回り始めた。

 

 物量による物理的な攻撃。

 雷光蟲の電撃より驚異は低いが、問題はそこじゃない。

 

 

「電撃も来るよ!!」

 ジニアの声が耳に響く。

 

 雷狼竜と雷光蟲がそれを狙って行ったかは定かではないが、噛生虫の影に隠れて雷狼竜から雷光蟲達の塊が電気を帯びながら周囲へ放たれた。

 

 

「見えない……っのに!」

 狙ってそれをやったのかどうか。

 

 カエデが回避の偶に隙を晒す。同時に雷狼竜は地面を踏み抜こうと脚の筋肉に力を入れた。

 

 

「カエデ……!」

 それよりも早く、私の身体が動く。

 

 カエデに飛びかかろうとしたその身体の後ろ足に、剣を叩き付けた。

 

 

 同時に地面を蹴る雷狼竜。

 その軌道は少し逸れて、カエデはその隙に立ち上がる。

 

 

「ライラッ君!」

 当たり前の事をしただけだ──とは、口にしない。その暇もない。

 

 

 雷狼竜は飛び付いた勢いのまま、再び地面を蹴って雪の積もる大地を走り回った。

 舞い上がる雪。噛生虫にも増して視界が悪くなる。

 

 人間とは掛け離れた体躯を持ってして、己の身体そのものを重量物として叩き付ける単純な攻撃──突進。

 しかし、私達のような貧弱な生き物はそれだけで簡単に命を散らす生き物だ。

 

 私達の視界を遮っている噛生虫すら轢き殺す勢いで、その巨体が地面を駆ける。

 

 

「それが一番ズルいんだよな……!!」

 所詮は貧弱な小さな生き物。

 

 

 私達人間は、その小さな身体で攻撃を交わす事が出来ても彼等を追い掛ける事は出来ない。

 

 面と向かってその剛腕を振り下ろすだけで私達人間は死ぬ生き物だ。

 しかし、それを掻い潜るだけで反撃の余地があるのに対し──突進は私達を殺すには大袈裟だが反撃の隙を与えないという利点もある。

 

 

 避けるだけなら難しくない。

 しかし、これは消耗戦になる。今の私達の状況を考えれば、好ましい所ではない。

 

 

「……さて、どうするか」

 ツバキもそれは分かっているようだ。視線を左右に動かし、突破口を探している。

 

 

「一か八かするか?」

「バカを言うな。来るぞ……!」

 突進に反撃は出来ない。これはある意味では間違いだ。

 

 避けなければほぼ死ぬ。このほぼに賭けて、カウンターを狙う事は万が一にも不可能では無い。不可能ではないだけだが。

 

 

「この後、私達が何と戦うかを考えろ……!」

「それはそうなんどけどよぉ……」

 上手く行ったとして、消耗するのは間違いない。

 

 私達はこの雷狼竜を討伐後、古龍である鋼龍と戦わなければならない。ここでの消耗は、無視出来る被害ではなかった。

 

 

「──傀異克服、こうも厄介とはな」

 ──そして、私達は想定よりも遥かに長い間消耗戦を強いられる。

 

 

 それから雷狼竜は接近戦を避けて突進や遠距離攻撃による反撃不可能な攻撃を徹底してきた。

 

 通常のクエストであれば、剛纏獣との戦いの時のように消耗戦の中で隙を見つければ良い。

 しかし、私達にはあまり時間をかけて良い理由がない。まるで、雷狼竜はそれを分かっているかのような戦い方をする。

 

 

「この野郎ここに来て逃げるのかよ!!」

 そして今に至り、雷狼竜はその場から城塞高地の奥にある洞窟の中へと逃げていった。

 

 以前ツバキと氷狼竜の討伐で訪れた洞窟。

 寒さに弱い筈の雷狼竜だが、何が目的で自ら城塞高地でも最も気温の低い場所に向かったのだろうか。

 

 

「ったく……骨が折れそうだぜコレ」

「え!? ツバキ! 大丈夫!?」

「比喩表現ね!! お前はピンピンしてんな!! 俺はお前が怖いよ!!」

 地面に倒れながら元気にツッコミを入れるツバキ。私はお前のその緊張感のなさも怖い──が、今はそんなツバキが羨ましい限りではある。

 

 

「このまま戦うのはあまり良い状況ではないぞ」

 ツバキの横に立ちながら、私はそんな言葉を漏らした。

 

 

 現状、特に大きな被害もなく雷狼竜の体力を削れている。こちらも消耗しているが、ダメージという点では殆ど皆無である。

 

 しかし、この後の事を考えればやはり無視出来ない消耗だ。

 

 

「それもそうなんでございますよねぇ……。この後クシャルダオラだもんなぁ……考えたくもない」

 ツバキはゲッソリとした表情で、雷狼竜が向かっていった洞窟に視線を向ける。

 

 

「二手に分かれるのも視野だな。俺が残って雷狼竜と戦って、その間に三人にはクシャルダオラの方に行ってもらう」

「正気か貴様」

「最悪俺が時間稼ぎ側になってクシャルダオラをなんとか出来た方が……被害的には抑えられるんじゃないか?」

「馬鹿を言うな!」

 私は、気が付けば淡々と口にするツバキの胸倉を掴み上げていた。

 

 

「ライラック……?」

「いや……すまない」

 ツバキを放して、自分の頭を抑える。らしくない事をした。

 

 

「──だが、それはあまりにも危険だ。このまま四人で戦えば、雷狼竜は安全に討伐出来る」

 ──しかし、()()を私は無意識で恐れてしまったのだろう。

 

 

 彼と出会ってから半年と経たない。

 

 

 しかし、私は彼を友人として認めてしまった。

 

 

 出会ってからというもの、全ての任務を共にしている。ツバキが私の知らない所で任務に着く──そう考えた時、脳裏に過去の友人の顔がチラついてしまった。

 

 

 彼の兄、私の友人だった彼の顔が。

 

 

 

 私は……また、失うのが恐ろしい。

 

 

 

「……俺が信じられないってか?」

「……いや、そういう訳ではない」

「まぁ、気持ちは分かるけどな」

 いつものような態度で、ツバキはそう口にする。

 

 

「俺がジンオウガと戦ってる間に怖くなって一人で逃げ出すんじゃないかって心配してんんだな? 全く、信用されてないなぁ」

「逃げるのか!?」

「ワンチャン逃げる」

 この男は狩人としてのプライドはないのか──いや、そうではないのだろうな。

 

 

「……逃げるよ。死にたくないしな。……さっきのは冗談だ。冷静に考えて一人でジンオウガとなんか戦いたくねぇ。さっさと終わらせて、フィオレーネさんの所に戻るぞー」

 立ち上がり、洞窟に向かって歩き始めるツバキ。

 

 

 そうだ、私は心配しているのだ。

 

 

 

 

 ──友人の命を。

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