盟友クエスト【完結】   作:皇我リキ

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月下雷鳴ジンオウガ

 洞窟に向け、歩いていく。

 

 

「さっさと終わらせて、フィオレーネさんの所に戻るぞー」

 雷狼竜は確かに弱っている筈だ。

 

 立ち回りの相性により時間は掛かったが、自ら私達から離れていったのがなによりもの証拠だろう。

 

 

 四人で確実に雷狼竜を仕留めてフィオレーネさんと合流し鋼龍との戦いに挑むのが、私達の最善の道の筈だ。

 そうだ、ここで別れる理由なんて──

 

 

 

「私は……恐れている」

「僕もだよ」

 知らぬ間に漏れていた言葉に、ジニアが返事をする。

 

 

「ツー君は昔から命大事にがモットーだった。富とか栄誉とかそんなんじゃなくて、命を守る事を一番に考えるハンターなんだよね」

「それにしては危険な事を平然とする」

「命を大事にしてるからね」

「会話が成り立ってないぞ」

 ジニアは「確かにね」と、どこか遠いところに視線を向けた。

 

 

「その命って言葉に色々な命が乗ってるんだよ。僕達クエストに一緒にいる仲間とか、依頼主の命が掛かってる事もある。そもそもそうじゃなきゃ、命懸けのこんな仕事を、あのビビリで根性無しのツー君が続ける理由がないからね」

「ビビリで根性なし……」

 言い過ぎではないだろうか。否定は出来ないが。

 

 

「聞こえてんぞアホジニア」

「事実だからな〜」

「このクエストが終わったら殴る」

「ちゃんと殴ってね」

「キモ……」

 本気で引いているツバキを他所に、ジニアは再び口を開く。

 

 

「だから、命を投げ出すような危ない事をする事もあるけどね。……ツー君は絶対に帰ってくる。だって、命大事に……だからね」

「そうか……」

 いつも、命知らずな無茶な事をする男だとは思っていた。

 

 それは、自分のみならず他人の命を尊重しているが故の行動だったのだろう。

 それでも確かに、彼は無事に帰ってきた。これまでも──これからも、きっと。

 

 

 

「──居る」

 カエデのそんな言葉で、私達は一斉に自らの得物に手を伸ばした。

 

 

 雷狼竜は洞窟の奥で私達を待っていたかのように座り込んでいる。

 あちらもこちらに気が付いたのか、ゆっくりと身体を起こしてその眼光が真っ直ぐに私達を貫いた。

 

 それが合図だと言わんばかりに、噛生虫と雷光虫が雷狼竜から飛び出してくる。

 

 

 

「離れるぞ!!」

 洞窟は狭い。

 

 外と違って逃げ場が限られている上に、攻撃の交わし方を間違えれば仲間に被害が及ぶ可能性もある為合理的な判断だ。

 ツバキの声と同時に私達はお互いから距離を取る。

 

 

 ただし、こうするとお互いの援護が難しい。

 出来るだけ安全に、危険を犯さずに狩りを進める必要があった。

 

 

 より慎重に。そう、ゆっくりと戦えば良い。焦りは命取りになる。

 

 

 

「狙いは──私か……!」

 一斉に飛び出して塊となって向かってくる二種の()を避けた次の瞬間、雷狼竜の巨体が洞窟の天井に近い位置から降って来た。

 

 地面を転がってそれを交わす。

 先程までと違いその後すぐに援護が来る事はない。

 

 

 直ぐに立ち上がり、振り下ろされた剛腕を盾で受け流しながら、剣を振り上げた。

 更に連撃。怯ませるまでには至らないが、雷狼竜の肉を削ぐ。

 

 同時に雷狼竜の身体が光を漏らした。

 電気を纏った剛腕が、眼前を薙ぎ払う。

 

 距離をとって交わして、背後からの足跡を聞いた上で更に後退した。

 

 

「お友達が寒そうにしてるぞー。てかやっぱなんかトロくなったな!」

 啖呵を切りながら振り下ろされるツバキの太刀。鮮血が舞う。

 

 雷狼竜はそもそも寒さに弱いモンスターだ。

 

 

 以前この洞窟で雷狼竜の痕跡を見付けた時も、城塞高地でも寒冷地である付近に雷狼竜が現れた時も、その疑問の答えは見つからないまま。

 

 

 

「動きが遅くなった! これなら行けるよ!」

「無茶しちゃダメだからね、カエデ」

「こっちも寒いっちゃ寒いからな」

 もしも体力の限界を感じて逃げたのなら、自らに都合の良い環境を選ぶ筈だ。

 

 

 私達人間も特別寒さに強い生物ではない。

 しかし、雷狼竜にとっても雷光蟲にとっても、勿論噛生虫にとっても低温の洞窟内が有利になる事はないだろう。

 

 

「何がおかしい……」

 しかし、何かが引っ掛かった。

 

 

 どうして。

 その答えが見付からない。

 

 

 苦手な環境。

 私達は確かに、あまりお互い近寄る事が出来ないというデメリットがある。

 

 狭い洞窟。

 しかしそれは、雷狼竜とて不利な事には変わりがない。

 

 私達よりも巨大な身体を持つかの竜は、この狭い洞窟で動きを大きく制限されていた。

 それこそ私達が手間取っていた大きく動く突進を連発出来ないでいる。

 

 

 

 では()()()()

 

 

 どうして奴は()()()()()()()()

 

 

 

 あのとき見付けた痕跡から分かる事は、奴は態々この場所で氷狼竜と戦ったという事だ。

 

 気温は勿論、この狭い洞窟では小柄な氷狼竜が有利な筈。

 あの時少なくとも雷狼竜は私達との戦いで瀕死の重傷を負っている。今回も、追い詰められてここに来た。

 

 何か理由がある筈。しかし、それが分からない。

 

 

「カエデ、洞窟の端はまずい」

「え? あ、うん!」

 切り替わりながら。

 

 私達は、雷狼竜を追い詰めていく。

 

 

 気が付けば雷狼竜は防戦一方となり、討伐まであと僅かだと感じさせる程に動きが鈍くなっていた。

 

 何もおかしな事はない。

 このまま雷狼竜を討伐してしまえば、それで済む話だろう。

 むしろ、想定以上に任務に時間をかけてしまいこの後の古龍との戦いへの影響を気にするべきだ。

 

 

 何が引っ掛かっていたのか。

 結局そんな事は分からずに、私達は雷狼竜を囲って得物を構える。

 

 

「みんな、畳み掛けるよ」

「悪いけど、今回こそちゃんと命を貰ってくからな」

 ツバキがそう言って踏み込んだその時。

 

 

 ──雷狼竜が吠えた。

 

 

 洞窟に響き渡る咆哮。

 雷を纏い、金色に光る雷光虫。その光に当てられて、雷狼竜は眩い程の青白い光を纏う。

 

 どこにそれ程までの力が残っていたのか。

 私達は無意識に後ずさっていた。それは、生き物としての生存本能だったのか。狩人としての長年の直感か。

 

 

 どちらにせよ、ソレは正しかったのだろう。

 

 

 

「え、なんか凄い揺れて……」

「冗談でしょコレ……」

 小さくて狭い洞窟が大きく揺れ始めた。

 

 洞窟の周りを雷光虫の放った電撃が駆けずり回る。

 その電撃は岩盤を割り、洞窟に振動を響かせ、今にもこの洞窟を崩さんと強く、激しくなっていた。

 

 

「この野郎洞窟ぶっ壊して俺達生き埋めにする気か!? ふざけんな馬鹿野郎!! 逃げろぉぉ!!!」

 ツバキが言うまでもなく、私達は走って逃げる。洞窟の出口へと。

 

 

 

 なるほど。

 

 

 そういう事か。

 

 

 

 雷狼竜がこの場所で氷狼竜と戦った痕跡。

 私とツバキが戦ったあの時、雷光虫が雷狼竜と共に居なかった理由。

 

 

 そもそもが逆だったのだ。

 

 雷狼竜は私達と戦った後に氷狼竜と戦ったのではない。

 氷狼竜と戦った後に私達と戦ったのだろう。

 

 

 この洞窟を崩壊させる程の電力。

 雷光虫の消耗も激しい筈だ。しかし、多少洞窟を崩した所で巨体を持つ雷狼竜へのダメージは少ない。

 

 

 

 これは憶測だが、なんらかの理由で雷狼竜と氷狼竜は縄張り争いを始めたのだろう。

 そして追い詰められた雷狼竜は洞窟で──今この瞬間と同じ手口を使い氷狼竜を追い払った。

 

 力を使い果たした雷光虫の休眠中、弱っていた雷狼竜に付け行ったのが噛生虫なのだろう。

 

 

 雷光虫の献身的なまでの強力に、騎士として生物としての尊敬まで感じた。

 

 

 そもそもが憶測だが。しかし、ここに来てこの攻撃に気がつくのが遅れたのは私達の敗因だったのだろう。

 

 

 

「ツバキ!! 早くしろ!!」

「分かってますよ!!」

 雷狼竜に踏み込もうとした所で洞窟の崩壊が始まったツバキは、逃げるのが一瞬遅れていた。

 

 私達は振り向かずに洞窟の出口へ走る。洞窟の奥からは雷狼竜の咆哮が響き渡っていた。

 

 

 岩盤が落ちてくる。

 出口が見えた。ただ走る。間に合わなければ、死ぬ。

 

 

「……っ」

 頭に降って来た岩に、私は一瞬意識を失い掛けた。

 

 人の心配をしている場合ではない。そう思いながらも、足が前に動かない。

 

 

 

 ここまでか──

 

 

 

「ライラック!!」

 大きな声が響いて。

 

 

「──は?」

 私の身体を、彼が押す。

 

 

 

 私は洞窟から突き飛ばされた。同時に、背後で洞窟が崩れ落ちる。

 

 

「……は?」

 振り向いた。

 

 

 

 そこには瓦礫しかなかった。

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