盟友クエスト【完結】   作:皇我リキ

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風翔龍クシャルダオラ

 風を操る龍の懐に潜り込む。

 

 馬鹿馬鹿しい作戦だろう。

 仕える相手でもない、他人の為に命を賭けるなんて行為。

 

 私は騎士だ。

 主人に命じられる事をするのみ。

 

 

 しかしこれは命令でもなんでもない。()()()()()()()()である。

 

 

 そんな事に命を賭ける事をなんとも思わなくなったのは──

 

 ──相手が失敗して自分が割を食っても良いと思える相手。……それが仲間とか、友達って言うんだって俺は思ってるからさ──

 

 

 ──きっと彼との出会いが理由なのだろう。

 

 

 

「カエデも、大丈夫?」

「えーと、とりあえず毒投げクナイをグサってすれば良いんだよね! やってみる!」

「うーん、後でツー君にとてつもなくどやされそう」

「カエデなら大丈夫だと信じるしかないか……」

 頭を抱えるジニアの横で、私も一緒に頭を抱えていた。仕方がないとはいえ、ここで危険な手に出るしかないのは王国の騎士の一人として歯痒い。

 

 

「カエデとライラックでクシャルダオラに毒を回したら、僕とフィオレーネさんで一気に叩く。ここまでで勝率三割かな」

「風の鎧を断ったところで、本体の鋼龍が強力な事には変わりがないからな」

 フィオレーネさんはそう言いながら考え込む。

 

 

 彼女は私達が雷狼竜と戦っている間に、鋼龍との戦いで前線を張りながら指揮をしていた。

 鋼龍の恐ろしさは今ここにいる中で一番知っているだろう。

 

 

「ツー君が居たらもう少しまともな案を出してくれたかもしれないけどねぇ」

 その愚痴が漏れる気持ちも分かるが、今はそんな事を言っていられない。

 

 

「行くぞ」

 ジニアの背中を叩いて、私は携帯食料を自分の口に突っ込んだ。今はそのツバキを助ける為に、目の前の障害を排除するのが先決だろう。

 

 

「ネコタクのアイルー達にツバキの救援を頼んだ。私達が一番恐れなければならないのは、鋼龍が雷狼竜の元に向かい、ツバキが巻き込まれる事と自らの安全の崩落だ。最悪でも足止めは果たさなければならない。勿論、鋼龍を討伐あるいは撃退してしまうのが最善だが……気を張らずに戦って欲しい。騎士の代表として皆に願う」

 フィオレーネさんは私達三人の顔を順番に見ながらそう口にした。私達は無言で頷いて、彼女に着いていく。

 

 

 

 

 城塞高地は突風が吹き荒れ、時折夕立のように雨が降り注いだ。

 

 鋼龍は天候すら操るとされている。

 何をどういう原理でそんな事が起きているのか分からないが、今思えばエルガドでツバキが救ったフクズクの雛を襲った突風は鋼龍の接近が原因だったのかもしれない。

 

 

 

「……まずいな。随分と北上している」

 フィオレーネさん達が鋼龍と交戦していた場所に戻ってくるが、そこに鋼龍は居なかった。

 

 それ自体は問題ではないが、かの龍の向かった先は城塞高地の高所。

 ツバキが閉じ込められた洞窟の方角である。その洞窟に近付かれては、ネコタク達の救出も困難だ。

 

 

「急ぐぞ」

 そんな鋼龍を追って、私達も再び高地に向かう。

 

 

 その先で、鋼龍は雪の積もるエリアの中央で辺りを見渡すように徘徊していた。

 

 

 

「何かを探してる……?」

「私達が交戦する前も、あのように何かを探していたようだった。どうする? 仕掛けるか?」

「そうですね、先手で行きましょう。カエデ、ライラック」

 ジニアに言われ、私とカエデは毒投げクナイを片手に姿勢を落とす。

 

 

 鋼龍の頭が私たちの反対を向いた直後――

 

 

「――今!!」

 私とカエデは同時に走った。地面を蹴って、一気に鋼龍との距離を縮める。

 

 鋼龍はしかし、私達が走り始める前に私達に気が付き、反対側を向いている身体をひっくり返した。

 これが古より存在する龍種の防衛本能か。悪態を吐く間もなく、鋼龍が身体を持ち上げる。

 

 

 次の瞬間()()()()()()()()()

 

「ブレスか!?」

 風を操る龍が、その身体から吐き出したのはただの空気だ。

 しかし、そのただの空気は周囲の雪を巻き上げる程の威力を誇り、空気そのものが冷えて氷の槍として私達を襲う。

 

 

 反射的にソレを避けなければ、舞い上がった雪に埋もれるか吹き飛ばされていた筈だ。

 

 

「だが、後隙がある……!!」

 左右に分かれた私とカエデは、挟み込むように鋼龍に肉薄する。

 

 同時に感じる浮遊感。

 体が思うように前に進まない。鋼龍の身体を覆う風の鎧──これ程の物とは。

 

 

 そうしてこちらの動きが抑制される中、鋼龍は自由に動く事が出来る訳だ。

 振り回される尻尾を後ろに倒れ込むようにして避ける。それが精一杯。動きにくい。

 

 

「──しかし」

「──貰った!!」

 私に視線を割いた鋼龍の側面から、カエデが毒投げナイフを叩き付けた。

 

 舞う火花。

 毒投げナイスはその鋼の甲殻を少しだけ削り込む。

 

 

「浅いか……!」

 まだだ。どのみち、何発か打ち込まなければ毒の効果も薄い。

 

 

 鋼龍がカエデの攻撃にイラつき、気を取られた事でその反対にいる私は再び自由になった。

 立ち上がり、毒投げクナイを握り締め、風の鎧で揺れる身体を足でしっかりと支え──私は鋼龍の首筋に毒投げナイフを叩き付ける。

 

 

 

「──まだか……!!」

 振り払われる前脚。避ける事は叶わず、私は咄嗟に盾を前を突き出した。

 

 

 身体が雪の上を転がる。カエデの声が聞こえた気がしたが、耳鳴りで何も聞こえない。

 揺れる視界を振りながら身体を起こす。眼前に巻き上がる雪。直感で横に飛んだ。ブレスか。

 

 

「ライラッ君!!」

「気にするな!!」

 視線を上げる。カエデはなおも鋼龍に張り付いていた。かの龍を取り囲むように発生している風の鎧の影響をものともせず、彼女は執拗に毒投げクナイを鋼龍に叩き付ける。

 

 何故あのような芸当が可能なのか。

 

 

 振り回される前脚。

 カエデは横に逸れるようにソレをかわし、回転しながらナイフを振った。

 身体を持ち上げる鋼龍。カエデはまるで風で舞う花弁のように何かに持ち上げられているような仕草で鋼龍から距離を取る。

 

 

「──なるほどな」

 ──そうか、彼女は鋼龍の風の鎧を()()しているのだ。

 

 風に抵抗するわけではなく、ソレに身を任せて動く事で最小限のエネルギで身体を動かせる。

 考えてやっているのか分からないが──いや、多分無自覚にやっているのだろうが。適応と純粋な狩人としてのセンスが彼女のその動きを実現させているのだ。

 

 

 だとすれば、私はソレを真似ればいい。

 

 

 私はツバキのような突拍子のない発想力も、カエデのような天性の才も、ジニアのような柔軟さもありはしない。

 しかし、私には積み重ねてきた研鑽がある。騎士として己の思い描いた動きを再現する為の身体作り。それを持って、己の責務を全うするのが私の仕事だ。

 

 

 

「──攻略したぞ……!! 風の鎧!!」

 ──肉薄する。

 

 

 毒投げクナイの刃は大した切れ味も鈍器としての物量も持ち合わせていない。

 しかし、その刃に塗り込まれた毒は、この鈍を叩き付けた肉に確かに毒を蓄積させる物だ。

 

 鋼の肉体へ。

 まるで岩を削っているかのような感覚を覚えながら、クナイを何度も同じ場所に叩きつける。

 

 首元の関節部分。

 振り払われる前脚、振り下ろされる牙。それを、かの龍が巻き起こす風の鎧の流れに任せて避けながら、ただひたすらに毒投げクナイを叩き付けた。

 

 

「ライラッ君!!」

「風が……」

 身体が浮き上がるような感覚が消え失せる。

 

 

「──ナイス!!」

 ──同時に、ジニアの盾が私に振り下ろされた鋼の爪を受け止めた。

 

 風に任せて避けようとしていたソレは、私の前に立った彼の盾に直撃する。

 風が止んだ事に気が付かなかった。そのまま続けていれば、私は今目の前にある鋼に潰されて肉片になっていただろう。

 

 

「一旦引いて、ボク達の出番だ」

 背中越しにそう言って、ジニアが槍を引いた。同時に飛び上がるようにして私達から距離を取る鋼龍。

 

 その周囲に風の鎧は発生していない。

 その代わり、鋼龍は時折苦しそうに首を横に振っている。毒が全身に回り──それで、風の鎧が解けた。

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