盟友クエスト【完結】   作:皇我リキ

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鋼龍クシャルダオラ

 鋼龍の周囲に風の鎧は発生していない。

 その代わり、鋼龍は時折苦しそうに首を横に振っている。毒が全身に回り──それで、風の鎧が解けた。

 

 

 

「やっと自由に動ける!!」

 言いながら、カエデは操虫棍を構える。アレだけの立ち回りをしてまだ動けるのだから、彼女は本物なのだ。

 

 しかし、私は違う。

 ジニアの盾で鋼龍の視界から隠れながら、距離を取って回復薬の瓶を開けた。ソレを一気に喉に流し込む。今は真っ当に身体を動かせるように回復するのが私の仕事だ。

 

 しかし、この一瞬の隙すら狩場では命取りになる。

 

 

 だが、私はジニア達を信じた。友に背中を預けた。

 少し前なら考えられなかったかもしれない。

 

 

 

「この好機を逃さずに叩き込むよ!!」

 ジニアが先陣を切りながら、三人は距離を取った鋼龍に突進する。

 

 

「カエデ!」

「うん!」

 肉薄した瞬間、左右に分かれるカエデとフィオレーネさん。

 

「気炎万丈!!」

 その中心で、ジニアが珍しく声を上げながら鋼龍の気を引くように大きく槍を前に突き出した。

 

 鋼龍は槍を避け、眼前に迫るジニアに牙を向ける。

 その牙をジニアが盾で受け止める頃には、カエデとフェオレーネさんが鋼龍の側面から己の得物を振り下ろそうとしていた。

 

 

 しかし、鋼龍は翼を広げ、その風圧で二人を押し除ける。

 己に風の鎧が戻ってきていない事を理解している動きだ。だから、鋼龍は三人から距離を取ろうとする。

 

 

 

「──やはり、跳ぶか!」

 ──それを、フィオレーネさんは読んでいた。

 

 見切った動きで、フィオレーネさんの片手剣が鋼龍の着地と同時に叩き付けられる。

 

 抉れる甲殻と、それをも一緒に切り裂かれた肉。

 初めて見る鋼龍の鮮血は、我々人間と同じ赤色だった。

 

 

 であれば、この存在は《生物》である。

 生物である以上、倒せない道理はない。

 

 

「流石!!」

 反撃に振るわれた鋼龍の前脚を受け止めるジニア。その背後──否、その頭上からカエデが鋼龍の背中を取った。

 

「気炎万丈……!!」

 振り抜かれる操虫棍。同時に鋼龍の翼に突撃する猟虫。

 

 

 鋼龍は背中から鮮血を吹き出しながら、暴れ回って三人を振り解く。

 同時に吐き出されるブレスが雪を巻き上げ、三人は突風により足を取られた。

 

 

「──私もいる」

 追撃の前に、ジニア達と鋼龍の間に割って入る。視界外から回り込んで、片手剣を頭に叩きつけた。

 

 

 

 鋼龍が悲鳴を上げる。

 

 

 

 毒による風の鎧の消滅。

 コレは思っていたよりも我々が有利になるカードだった。このまま一気に叩き込めれば──あるいは、か。

 

 だが、油断はしない。相手は古龍である。

 

 

「ライラック!」

「分かっている……!」

 深追いはせず、後ろに跳んだ。

 

 刹那、鋼龍も後ろに飛び、つい先程私がいた場所をブレスで吹き飛ばす。

 ブレスの直撃した地面には、一面に広がっている筈の雪が見当たらない。

 

 

 本当に毒に蝕まれているのか怪しい所だ。

 

 

 生物の範疇とはいえ、我々人間の理解の及ばない場所にいる存在だということに変わりはない。

 人の想像よりも遥かに長い時を生き、人には手の届かない力を持って自然すら左右する。時に「アレは生き物ではない」と言う者も居るが、頷いてしまえる程に私達と彼等には決定的な壁があった。

 

 しかし、私達はその壁を越えうる力を持っている。

 

 

 

 知識、知略。それらを活かす為の連携、関係。

 個体で完成された殆どの龍にはない、他の生物達から見ても稀な、集合体としての力。

 

 

「カエデ!!」

「任せて!!」

 誰かと──友と力を合わせる事が出来る能力。それが、私達がその高い壁を越える為の力だ。

 

 

「壁際……もう逃がさないよ!!」

 先程のバックジャンプブレスで鋼龍は大きな崖に背中を預ける形になっている。

 

 それにより鋼龍の動きはほぼ半分に制限された。

 そうなれば、少なくとも白兵戦おいてにその動きにくい巨体が柔軟な動きが出来るカエデに勝る理由はない。

 

 

「その先はツバキも居るから! 行かせない!!」

 振り下ろされる操虫棍。

 

 鋼の甲殻に交互に叩き付けられる刃と棍。それに混じって、猟虫が鋼龍の反撃を防ぐように左右を飛び回る。

 振り回される前脚を屈んで避け、その牙を体を逸らして紙一重で交わしながら、ブレスの為に頭を下げた瞬間彼女はその頭を踏み付けて更に舞った。

 

 

「頭!!」

 振り下ろされる刃。

 

 同時に私とフィオレーネさんが左右から挟み、鋼龍に片手剣を叩き付けんと走る。

 

 

 

 このまま一気に攻め立てる──そうやって踏み込んだ刹那。

 

 鋼龍が空を舞う。

 

 

 

「飛んだ!? カエデ!!」

「うわ!?」

「カエデ!!」

 まるで踊るように、かの龍は体を捻るようにして突然浮き上がったと形容する方が正しく思えた。

 羽ばたく動作など全くなく、まるでそこには重力がないと勘違いしそうになる程に。人の何倍もあるその身体が空中に浮いたのだ。

 

 弾き飛ばされたカエデは、しかし流石の身体能力でバランスを崩さずに着地する。

 鋼龍はその着地点を狙ってか口を大きく開いて体をのけ反らせた。

 

 

 

「ブレスだ!」

 フィオレーネさんの声と同時に放たれる空気の塊。咄嗟にカエデは体を捻って近くまで走ってきたジニアの後ろに隠れる。

 

 放たれたブレスはジニアが盾で受け止めるが、急制動

 で彼もバランスを崩した。

 

 

 さらに連撃で放たれるブレス。

 ジニアとカエデが、まるで風に吹かれた紙のように舞い上がる。

 

 

 

「ジニア!! カエデ!!」

「よそ見をするな、ライラック!!」

 一瞬の隙。

 

 頭上から振り下ろされる鋼の剛腕。反射神経だけでソレを避けて、なんとか反撃しようと剣を振った。

 

 

「……っ」

 しかし、その切先は虚しくも空を切る。

 

 

 

 空は生き物の領域ではない。

 風も重力も全ての存在に等しく、空を自由に移動出来る生物は居ない。

 

 空を()()という行為は、生き物が空に近付く為に会得した力だ。

 

 ある者は大きな翼を羽ばたかせ、身体を空に持ち上げる。

 ある者は身体を紙のように軽くして、風に揺られるように空に浮く。

 

 

 ただし、そのどれも空を自由に移動するのとは程遠い。

 

 

 

「空に存在しているとでもいうのか……!」

 しかし、この龍は空を自由に移動しているかのように、自由自在に空を舞っていた。

 

 飛行能力が高いとされる火竜のそれとすら比べ物にならない。

 

 

 

 本当にコレが生き物なのか、甚だ疑問に思わされる。

 

 

 

「二人とも! 目を!!」

 ジニアが叫んだ。

 

 刹那、手で目を覆い隠す。それでも手と瞼を貫通する程の光が眼前で弾けた。

 

 

 閃光玉。

 生き物の視界を焼く道具。

 

 流石に目が見えていない状態で空を飛ぶのは不可能だろう。鋼龍は勢いよく地面に転がり落ちるが、直ぐに身体を起こした。

 

 

 しかし、その一瞬の隙を見逃すわけにはいかない。

 私とフィオレーネさんで挟み、刃を叩き付ける。

 

 身体を回転させる鋼龍。

 しかし、振り解かれる訳にはいかない。鋼龍が再び空に戻れば、形勢は逆戻りだ。

 

 

「……逃さん!!」

 硬い鋼の甲殻が頬を擦り、爪が脇腹の防具を割く。

 

 だがここで引く訳にはいかない。ダメージを抑えながらも、鋼龍に必死に張り付いた。

 

 

 

「……っ、もうか!?」

 しかし、鋼龍は一瞬顔を横に振って再び空に舞い上がる。

 

 まるでその場所こそが己の真の居場所だとでもいうように、その身体はあまりにも自然に空中に存在していた。

 

 

「私も空なら負けないよ……!!」

 私の背後から、操虫棍を使って空に飛び上がるカエデ。

 

 そんな彼女を切り裂こうとする牙を避け、操虫棍の刃が鋼龍の腹部を切り裂こうとするが鋼龍は身体を逸らしてそれを避ける。

 空中で身体を捻って振り回される操虫棍。それを前脚で振り払いながら、鋼龍は彼女よりも華麗に身体を捻ってカエデに尻尾を叩き付けた。

 

 

「カエデ!!」

 あの剛纏獣をも翻弄したカエデの空中戦。それすらも圧倒するというのか。

 

 

「……っ、まだ!!」

「カエデ、無理しないの!!」

 ジニアの言葉も聞かず、(龍の領域)へと跳び上がるカエデ。

 

 ブレスを避けるどころか、それをも利用して浮き上がった彼女は、鋼龍の背後を取るように跳ぶ。

 

 

 ジニアはそう言うが、私達はあまりのんびりしている訳には行かない。

 毒により風の鎧の消失がいつまで続くかも分からないからだ。永遠に風の鎧が纏えなくなった訳ではないだろう。

 

 

 それに──

 

 

 

「──だって、()()()()()()()()()()()()んだよ!?」

 ──私達の大切な存在の命が今、脅かされようとしていた。

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