盟友クエスト【完結】   作:皇我リキ

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傀異化ジンオウガ

()()光が視界を遮った。

 

 

 雷狼竜から爆発的に放たれる光。

 

 それは雷光虫のソレには見えない。赤黒く、周囲の光を吸い込むような、そんな光である。

 

 

 

「な──」

「伏せろ!!」

 同時に。私の身体は男に突き飛ばされた。

 

 視界に入る赤い光。

 それを纏うのは、胴体と口だけの珍妙な身体に羽が生えた赤い生物──キュリア。

 

 

 私の身体は地面を転がり、雷狼竜から少し離れる。

 

 

「なんだ!?」

 身体を起こすと目に入ったのは、雷狼竜の周りを旋回するように飛び去る噛生虫の姿。

 

 それが周りの木々を、岩盤を抉り取るように飛翔していた。もし直撃していたら、無事では済まなかっただろう。

 

 

「あの男は!?」

 そう思った瞬間、視界に男の姿がない事を認識した。私を突き飛ばしたのは、これを避けさせる為か。

 

 それでは、あの男は──

 

 

「──っぶねぇ!! 殺す気か!? いや殺す気だよな!! いや別にそうでもないか!?」

 男は雷狼竜の直ぐ傍で身体を持ち上げながらそう言う。

 

 私を突き飛ばして、直ぐに雷狼竜の懐に飛び込んだのか。

 かの竜が帯電していれば悪手だが、彼が思っていた通り雷光虫が居ない状態なら、雷狼竜が保持する雷の力は少ない。

 

 

「おい無事か!?」

 男は雷狼竜から距離を取りながら、私に目を向けてそう口を開いた。私は頷くだけにして、雷狼竜に視線を向ける。

 

 

 同時に、雷狼竜は血走った瞳を私達に向けた。

 

 キュリアに生気を吸われ、じきに事切れるだろうその命を燃やし、竜は吼える。

 

 

「苦しいよな、今楽にしてやる……。ライラック!」

「チッ、分かっている!!」

 その眼光が私を捉えた。持ち上げられた前足が降ってくる。

 

 私はそれを横に飛んで交わし、さらに迫る追撃は地面を転がって避けた。

 もはや命の灯火が消える雷狼竜と共存しても意味がないと察したのか、それともキュリアに取って代われて追い出されたのか。

 

 なんにせよ、雷光虫の力を使えないと分かればそれなりの対処で事が済む。

 悔しいが、男──ツバキが言っていた分かっている事の共有は確かに狩りを有利に進める点において重要な事なのかもしれない。

 

 

「しかし、ナンセンスだな。……この私が!!」

 私に攻撃が当たらないと見れば、今度はツバキに狙いを変える雷狼竜。

 

 その巨体を叩き付けるように身体を捻った竜の足に、私は片手剣を叩き付けた。悲鳴が上がり、雷狼竜は血走った瞳を私に向ける。

 

 

「助かったぜ!」

「これで貸し借りなしだ!!」

「なんの話だか……!!」

 ツバキは不敵に笑い、自らから目を逸らした雷狼竜の喉元向けて太刀を振り上げた。

 

 血飛沫が上がる。

 狩場で情けない悲鳴を上げ、逃げる事を恥とも思わずプライドという物を持たない男だが、確かに腕はそれなりにあるようだ。

 

 

 真っ直ぐに伸びた太刀の切っ先が弧を描く。

 

 喉を裂かれた激痛にもがく雷狼竜に向け、切り返しながら一撃二撃。

 続けて身の丈程の刃を身体ごと回転させ、横腹を切り裂き納刀。

 

 

 等身が細く長い、太刀という武器はかなり脆い繊細な武器だ。

 

 扱いを間違えれば宝刀だろうがそこら辺の鉄の太刀だろうが簡単に折れてしまう。

 今の流れでツバキという男が太刀を使いこなしているという事だけは分かった。

 

 

「ひぇ……今ので倒れないのか」

()()()モンスターはキュリアの毒にやられて我を失っている。その命が尽きるまで止まる事はない。そうだろう?」

 ツバキの横に立ち、剣を構える。

 

「お、おう。そうだな」

「ならば、その命を取るまでだ」

 確かに腕は立つのかもしれない。

 

 

 しかし、私とて王国の騎士だ。この男にばかり手柄を取られる訳にはいかない。

 

 

「私が隙を作る。一撃で決めろ」

「突然無茶言うじゃん!!」

 ツバキは口を開けて固まる。

 

 確かにこの男からは覇気も志も感じられない。しかし、狩猟の──狩人(ハンター)としての腕は確かだ。

 

 

 態度は好かんが、姫やフィオレーネさんがこの男を信じているという事は紛れもない事実なのだろう。

 

 

 

 ならば、認めるしかない。

 

 

 

「雷狼竜よ、今その苦しみから解放してやろう」

 叩き付けられた剛腕を踏み付け、その腕を駆け上がった。

 

 そして剣を引き摺るように腕を引きながら持ち上げ、雷狼竜の背中に足を掛けながら頭部の角に片手剣叩き付ける。

 

 

「──跳べ」

 そのまま頭を蹴り飛ばすと、雷狼竜は激痛から流れるようにがむしゃらに駆けた。

 

 目の前が見えているのか見えていないのか。竜が進む先は瓦礫の壁である。

 

 

 刹那。

 

 轟音と共に、その頭部を勢いよく壁にぶつける雷狼竜。

 

 

 脳震盪を起こしたのか、竜は短い悲鳴を上げて仰向けに倒れた。

 

 

 

「そんじゃま、やれと言われたからにゃ、やるしかあらんわな……!!」

 私が着地すると同時に男は低く構える。

 

 

 その姿に一瞬、昔の記憶が重なった。

 

 

 

「──っぅ」

 ──刹那の残影、疾風の如き。

 

 

 息を止めた男は次の瞬間、刹那の内に回転。

 

 倒れてもがく雷狼竜の頭に斬撃が叩き付けられ、あまりの刀身の速さに納刀から数瞬遅れて血飛沫が舞う。

 

 

 雷狼竜は瞳孔を開き、一度首を持ち上げようとしてそのまま倒れた。

 

 その瞳から光が消えていく。

 一つの命が終わりを迎え始めた。

 

 

 

「クエストクリアだな」

「……ふん。貴様の実力だけは認めてやる」

「あ、はい……そうですか。……ん? キュリアが……」

 雷狼竜の体から、その生命を吸っていた噛生虫が飛び立っていく。

 

 失われた命から吸えるものはない。

 噛生虫は用が済んだ亡骸に興味すらないように、飛び立っていった。

 

 

「まったく……薄情な奴らだよなぁ。いや、そういう生き物だってのは分かるけど」

「彼らのソレは共存ですらない。用がなくなれば、捨て置くのは当然だろう」

 噛生虫は対象の生命を奪い去り、同時に暴れさせる事で生息域を拡大し──次の寄生先を見つけ出す。

 

 

 それが本来の主を失い、生きる為に進化した彼等の生態だ。我々人間からしても厄介だが、生き物とはそういうものだろう。

 

 

「お、雷光虫」

 ふと一匹の雷光虫がツバキの目の前を通過した。

 

 ソレはゆっくりと雷狼竜の元に向かっていく。

 

 

 

「悪いな……。お前の友達、苦しんでたからよ」

「虫に言葉は理解出来ないだろう」

「気持ちは大事だろ」

「……ふん。それに、()()等ではない。彼等はただお互いに利用し合っているだけだ。それこそ、共存関係という生き物が取った道だろう」

 雷光虫は天敵であるガーグァから身を守る為、雷狼竜は己の力を強化する為。

 

 彼等はその目的の為に、行動を共にしているに過ぎない。

 

 

 そこに友情関係等──

 

 

 

「そうか? 難しい話は分からん」

「お、おい……キサマ」

 ──倒れた筈の雷狼竜が瞳を開けた。

 

 まだ息があったらしい。しかし、時期に朽ちるだろう。

 そもそも瞳を開けられる程の体力が残っていた事が疑問でならない。

 

 

「手加減したのか。無駄に命を苦しめる行為だ、それは」

「してないしてない。俺は本気で殺す気でやった。そんな事出来る実力なんてねーよ。……けど多分さ、友達が来たから」

「は?」

「最期の別れって事なんじゃないか? 頑張って目、開けたんだろ。……俺達はもう行こうぜ」

「そんな訳があるか。……おい、待て!」

 両手を頭の上に置いてベースキャンプに向かうツバキ。

 

 

 私は小さな光が寄り添う雷狼竜を尻目に、彼の跡を着いて歩いた。

 

 

「そんな訳が……あるか。そうでなければ何故、彼は──」

「あ? どうかしたか?」

「……なんでもない。とっとと歩け」

「へ、へぃへぃ」

 苦笑いしながら前を歩く男の姿と、()()()()の姿が重なる。

 

 

「……否、私に友人はいない」

 首を横に振って、その幻覚を振り払った。いやでもチラつく顔がボヤけていく。

 

 

 

 ──彼は、私との約束を破った。友人等ではない。

 

 

 

 

 エルガドに戻るまで、私はツバキと口を交わす事はなかった。

 

 気まずそうな顔で視線を泳がせる姿はあまりにも情けない。静かに時を過ごすという事を知らないらしい。

 

 

 しかし、彼の実力だけはそれ相応だと認めるしかないだろう。

 

 結果こそが全てだ。私はそうやって生きてきた。

 

 

 

「──無礼を詫びさせてほしい」

「──なんで急に!? 道中何も喋らなかったくせに!!」

 エルガドに着き、姫とフィオレーネさんの前で私はツバキに頭を下げる。

 

 これは騎士としての責だ。

 

 

 私は実力者を愚弄し、非礼を働いたのである。今ならば、姫やフィオレーネさんが仰っていた事も理解出来た。

 

 

 

「キサマは確かな実力者だ。姫やフィオレーネさんがそう口にしながら、私はそれすらも信じられなかった。……姫、私を罰してください」

「頭を上げてくださいライラック。私は気にしていません……!」

 なんとお優しい方だろう。

 

 しかし、姫が許しても本人がどう捉えるかだ。

 

 

 この無礼を償うにはどうしたら良い。私には分からない。

 

 

「……良く分からんけど、突然変な行動しないでくれよ気持ち悪い」

「気持ち悪い!?」

 ツバキの言葉に私は目を丸くする。

 

 この男、誠心誠意頭を下げている私の事を気持ち悪いと言ったのか。

 

 

「無礼もクソも、俺の態度が気に食わなかったけど……その? なんていうの? 一緒にクエスト行って俺の事認めてくれたって事で良いんだろ?」

 言いながら、ツバキは片手を私に向けてこう続けた。

 

 

「一回一緒にクエスト行ったんだ。これで俺達もう友達だろ?」

 不敵に笑う男の顔を見ながら、私は顔を上げる。

 

 

 

 私はこの男を最大限の表現で侮辱した。それなのに、彼は何も気にしていないように見える。

 

 プライドというものがないのか。

 

 

 しかし、彼はクエスト中──狩人(ハンター)としての自らを私に見せ付けた。

 

 

 彼は正真正銘、カムラの里の猛き炎なのだろう。

 

 

 

「──なるほど」

 私は頭を上げて、ツバキという男の死んだ魚のような目をまっすぐに見た。

 

 

「な? これで俺とお前は友達──」

「誰がキサマ等と友達なんて物になるか!! 私はキサマの実力を認めただけで、キサマの人柄まで認めたつもりは微塵もない!! まずは姫への無礼を改めよ!! そしてその死んだ魚のような目付きをなんとかしろ!!」

「はぁぁぁあああああ!? 目付きはどうしようもないだろうがよ!! 目付きは!!」

 エルガドに私とツバキの怒号が響き渡る。

 

 

 姫達は苦笑いをしているが、やはり私はこの男を認める訳にはいかない。

 

 

 

「なぜそうもキサマには覇気がないのだ!! もう少し背筋をシャキッと伸ばせ!! 目付きを何とかしろ!!」

「どうしろってんだよ!! 俺に目付きをどうしろってんだよ!!」

 認める訳にはいかないのだ。

 

 

 騎士として。──ライラックとして。

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