ありふれ世界のサイヤ人   作:M88星雲

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ハジメちゃん、悪堕ち確定。
悪魔が魔王作り出すとかこれもうわっかんねぇなあ。

若干グロ注意。


オルクス大迷宮
宇宙の悪魔、魔王を生み出す。


地下水が川のように流れている所からハジメをおんぶした彩人が出てくる。周りは薄暗いが緑光石の発光のおかげで何も見えないほどではない。

 

「…本当、運が良すぎだよなぁ」

 

落下途中の崖の壁に穴があいており、そこから鉄砲水の如く水が噴き出していたのだ。ちょっとした滝である。そのような滝が無数にあり、彩人とハジメは何度もその滝に吹き飛ばされながら次第に壁際に押しやられ、最終的に壁からせり出ていた横穴からウォータースライダーの如く流されたのである。とてつもない奇跡だ。

 

「この辺りが一番敵の気配が少ない…よし、ハジメ降りな」

 

「…♪」

 

「…ハジメ?」

 

「え、あ!そ、そうだね、降りるね……」

 

そそくさと降りていくハジメ。小さく「彩人君の匂い…」と聞こえたのは気のせいだ……と思いたかったなぁ。

 

「…ここの詳細が分からない以上、動き回るのは不味い。ハジメ、”錬成”で洞窟を作って欲しい。そこを仮拠点にする」

 

「うん、分かった」

 

ハジメが拠点を作っている間に再び気を張って周りを確認する。…この気は。

ふと気づいた途端に二つの尻尾を持つ狼、二尾狼二匹が紫色の雷を纏って突撃してきた。雷撃を気で弾き飛ばす。

 

「…ここでも通用するのか」

 

雷撃を打ち消されて狼が動揺したのか一瞬動きを止める。

すかさず両手から放った気功波で二匹の頭を吹き飛ばす。

 

「…最初から使ってりゃベヒモスもいけただろうがな、進行上仕方ないが」

 

その後ろから新たな気配。

狼共の血の匂いに引き寄せられたか、彩人が振り返ると蹴りウサギがそこにいた。

 

「居るよな、そりゃ」

 

蹴りウサギは無駄に発達した両足を使ってその場で一回転し衝撃波を飛ばしてくる。

衝撃波が岩壁を破壊する轟音が響く。

蹴りウサギは狩った獲物を確認しようと彩人の居たところにゆっくり歩みを進めるがそこにはあるはずの死体はなかった。蹴りウサギが首をかしげると、その頭が落ちた。

 

「油断しすぎだな、首がもろだしだぜ」

 

グルドを倒したベジータのように彩人は蹴りウサギを一蹴する。

しかし余裕を見せたのが間違いだった。

 

「彩人君、凄い音がしたけど大丈夫?」

 

ハジメが洞窟から出ようとしていた。そして彼女の背後には・・・

 

「ハジメ!!でてくるな!早く洞窟内に隠れ・・・!」

 

「グルルルル・・・・」

 

「・・・え?」

 

強敵、爪熊だ。奴はハジメにロックオンしておりハジメは爪熊の声に振り返ってしまい奴から発せられる殺意の強さのあまり固まってしまう。好機と見たか鋭く伸びた三本の爪でハジメを切り裂こうとする。

 

「ハジメぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

彩人は再びハジメと向き合う形で爪熊との間に割り込む。攻撃の間に合う距離ではなかったため全気力で防御する。爪が気で弾かれる、なんて事はなく。

 

「ガハッ」

 

右肩から自身を切り裂く爪が腹部あたりで止まっていた。爪熊はそのまま袈裟切りにしようと力を込めるが動かない。

 

「やられた・・・まんまで…終わるかよ!」

 

最後の力で爪を粉砕する。右肩から右腕が外れそうにプラプラし大きく裂かれた断面から大量の血液と切られた内臓が見え隠れしていた。

 

「彩人君・・・彩人君!」

 

…目の前の光景が暗転していく中で見たのは絶望に満ちた少女の姿だった。

 

「あ・・・そ、んな・・・彩人君・・・が・・・また、ボクを・・・」

 

ハジメは目の前に倒れた男を抱えていた。ちぎれそうな彼の右肩が外れないように。

 

「嫌だよ・・・君がいなくなったら・・・ボクは・・・ボクは・・・」

 

壊れた人形のように光が消えた瞳で腕の中で徐々に温もりを失う思い人を抱えたままうわ言を繰り返す。

それを意にも介さず思わぬ反撃で右手の爪を失った爪熊が苛立ちながら目を血走らせ二人に近づき左手の爪で纏めて切り裂こうとするが、

 

「・・・(キ゚ッ」

 

これ以上彼を傷つけるなと言わんばかりの殺気に満ちた目で睨まれ流石の爪熊も委縮する。

 

「―------"錬成"」

 

ハジメは彩人を抱えたまま洞窟に逃げ込み、錬成で壁を作る。普段のハジメからは想像できないパワーとスピードだが火事場の馬鹿力というべきか。逃すものかと一瞬あっけに取られた爪熊もハジメ達を追う。

 

「〝錬成〟!〝錬成〟!〝錬成〟!」

 

ハジメは原作よりも錬成の技術が向上し爪熊のパワーでも爪ありきでないと壊せない強固なものとなっていた。しかも右手の爪は彩人に破壊された為効率も悪く二人は確実に爪熊と距離を離す。獲物が遠ざかる感覚を探知したか爪熊の怒号が響く。

ハジメはそれでも錬成を止めない。爪熊への恐怖はあったがそれ以上に彩人を守ろうとする意志が彼女を動かしていた。

 

「〝錬成〟!〝錬成〟!〝錬せ〟…きゃ!?」

 

当然魔力は無限ではなく錬成を行いすぎた結果、ハジメの魔力は枯渇した。

ハジメの身体から力が完全に抜けて、指一本動かなくなり倒れ込む。

 

「……ごめん…ね?」

 

脱力して腕を離してしまい彩人が離れてしまう。遠のく意識の中、ハジメはそう呟いて完全に気を失う。

そんなハジメと彩人の頬にはポタポタと水が滴り落ちていた。

 

ぴちょん……ぴちょん……

 

水滴が頬に当たり口の中に流れ込む感触に、ハジメは意識が徐々に覚醒していくのを感じた。そのことを不思議に思いながらゆっくりと目を開く。

 

(……生きてる? ……助かったの?)

 

疑問に思いながらグッと体を起こそうとして低い天井にガツッと額をぶつけた。

 

「あ痛っ!?」

 

自分の作った穴は縦幅が五十センチ程度しかなかったことを今更ながらに思い出し、ハジメは、錬成して縦幅を広げるために天井に手を伸ばす。

 

そしてハッとする。

 

「・・そうだ、彩人君!」

 

爪熊に右肩から腹まで切り裂かれた彩人の姿がハジメの脳裏に浮かび彼女は最悪の展開を想像し半狂乱になりながら少し離れたところに居る彩人に駆け寄る。彼は自身が流した血だまりの上にいたが裂かれたはずの彼の体は健康体そのもので、眠っているらしく小さな息遣いが聞こえた。

 

「良かったぁ・・・良かったよぉ・・・でも、どうして?血もまだ乾いてないのに・・・」

 

ハジメが彩人の周りの血だまりに触れるとヌルヌルとした感触が返ってくる。まだ辺りに流した血が乾いていないのだろう。やはり、彩人が大量出血したことは夢ではなかったようだし、彼の衣服が大きく割かれているので切られたのも本当。しかし血が乾いていない以上、そんなに時間は経っていないはず。

 

にもかかわらず傷が完全に塞がっていることに、ハジメが疑問を感じていると再び頬や口元にぴちょんと水滴が落ちてきた。それが口に入った瞬間、ハジメは、また少し体に活力が戻った気がした。

 

「……まさか……これが?」

 

 ハジメは先程魔力切れになったことよる気怠さに耐えながら右手を水滴が流れる方へ突き出し錬成を行った。

そうやってふらつきながら再び錬成し奥へ奥へと進んで行く。一応彩人を安全なところへ移動させたあとで。(流石に今のハジメに彩人を担ぐ力は無い)

 

不思議なことに、岩の間からにじみ出るこの液体を飲むと魔力も回復するようで、いくら錬成しても魔力が尽きない。ハジメは休まず熱に浮かされたように水源を求めて錬成を繰り返した。

やがて、流れる謎の液体がポタポタからチョロチョロと明らかに量を増やし始めた頃、更に進んだところで、ハジメは遂に水源にたどり着いた。 

 

「こ……れは……。」

 

そこにはバスケットボールぐらいの大きさの青白く発光する鉱石が存在していた。

その鉱石は、周りの石壁に同化するように埋まっており下方へ向けて水滴を滴らせている。神秘的で美しい石だ。アクアマリンの青をもっと濃くして発光させた感じが一番しっくりくる表現だろう。

 

ハジメは一瞬、その美しさに目を奪われた。

そして縋り付くように、あるいは惹きつけられるように、その石に手を伸ばし直接口を付けた。

すると、洞穴を進んでいたがために所々に出来ていた擦り傷が急速に治っていく。

 

やはり、ハジメが生き残れたのはこの石から流れる液体が原因らしい。治癒作用がある液体のようだ。

 

「もしかしてこれ・・・図書館の本にあった・・・」

 

ハジメはその石は〝神結晶〟と呼ばれる歴史上でも最大級の秘宝で、既に遺失物と認識されている伝説の鉱物であることを思い出した。ハジメは錬成訓練の他に図書館へ通い知識を身に着けていた。その中にあった知識である。原作のように邪魔されることがなかったのも幸運と言える。

 

神結晶は、大地に流れる魔力が、千年という長い時をかけて偶然できた魔力溜りにより、その魔力そのものが結晶化したものだ。直径三十センチから四十センチ位の大きさで、結晶化した後、更に数百年もの時間をかけて内包する魔力が飽和状態になると、液体となって溢れ出す。

 

その液体を〝神水〟と呼び、これを飲んだ者はどんな怪我も病も治るという。欠損部位を再生するような力はないが、飲み続ける限り寿命が尽きないと言われており、そのため不死の霊薬とも言われている。神代の物語に神水を使って人々を癒すエヒト神の姿が語られているという。

 

ようやく死の淵から生還したことを実感したのか、ハジメはそのままズルズルと壁にもたれながらへたり込んだ。

 

「戻らなきゃ」

 

原作ではハジメはここで心が折れてしまうのだが彩人の存在がハジメの支えとなっていた。

それは、迷宮入り前日のイベントに関係している。"同盟"のメンバーでその日も彩人と添い寝しようと彼の個室に来た時、中から会話が聞こえ、新たな同志かと聞き耳を立てたとき、

 

「…詳しい理由は分からないけど、この世界ではサイヤ人は神に逆らって世界を滅ぼそうとした不倶戴天の神敵って所だね」

 

「人間族を敵に回す訳か」

 

「ところがどっこい、魔人族の神にも牙を向いたって話だから、魔人族もサイヤ人を恨んでる」

 

この会話を聞いてしまった。宗教に支配されたこの世界では神の敵など許しはしないだろう。最悪彼が殺される可能性もあった。幸い彼がサイヤ人の力を持つのを知っているのは自分たちだけ。本当はいますぐに乗り込んで協力したかったが自分たちの行動で彩人を不利な状況になるかも知れないとして知らないフリをし、陰から彼を支えようと考えた。(ついでに万が一の為と称して彩人の使用済み衣服を頂いた。)

 

兎に角、そんなことがあったので、ハジメの心は折れずにいる。

 

(でも、どうすれば…)

 

ハジメは今も自分たちを狙っているであろう、爪熊を想像するがどうすれば勝てるのかなんて思い付かない。

そして、原作より黒く染まっているその思考は、原作より圧倒的に早くずれ始める。

戻った先で、ハジメは眠ったままの彩人の頭を優しく撫でながら思考をまとめていく。

 

(そもそも、なんでこんなことになったんだろう?)

 

(なんで彼が苦しまなきゃならないの?彼が何をしたの?)

 

(なんでこんな目にあってるの?なにが原因?)

 

(まず、神は理不尽に誘拐した……)

 

(そして、あいつは彩人君を裏切った……)

 

(あの熊は彩人君を傷つけた……。隠れなかったボクも悪いけど……。)

 

 

次第にハジメの思考が黒く黒く染まっていく。白紙のキャンパスに黒インクが落ちたように、ジワリジワリとハジメの中の美しかったものが汚れていく。彩人の思いとは裏腹に彼女は一つの答えにたどり着いてしまった。

 

(ボク・・・いや、私は(・・)何を望んでる?)

 

(私は彼の幸せを、そして〝生〟を望んでる)

 

(それを邪魔するのは誰?)

 

(邪魔するのは敵。)

 

(敵とはなに?)

 

(私と彩人君の邪魔をするもの、理不尽を強いる全て。)

 

(なら私は何をするべきなの?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──なぁんだ。簡単じゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──全て。私と彩人君の敵を全部。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──神様だって、世界だって、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──殺して、壊して、何も出来なくしちゃえばいいんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──彩人君、私が絶対に……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その姿は紛れもなく。

 

 

 

 

 

この世界に、魔王が誕生した瞬間だった。




ヤンデレ表現ムズい。
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