「まずは食料集め・・・かな」
彩人を起こさぬように静かに洞窟を出て獲物を探す。幸い爪熊はどこかへ行ったようだ。物陰に隠れながら進むと再び二匹の二尾狼を発見。二尾狼は4~6匹群れで活動する習性がある。彩人が倒した狼の片割れである。
ハジメはその二匹をおびき寄せ前もって作っておいた落とし穴に狼たちを落としその上から錬成で岩の雨を降らせる。
「悪いけど・・・これも生きるためなんだ」
どこか冷めた口調でハジメは錬成で作った螺旋らせん状の細い槍のようなものを取り出す。槍の手元にはハンドルのようなものが取り付けられている。彼女は岩の隙間から狼めがけて槍を突き立て、ハンドルを回して貫いていく。
「やっぱり固いね。ドリルにして正解だったよ」
魔物は強いほど硬いことは知っていたのでハジメはこの武器を使った。情け容赦なく槍ドリルで貫かれて絶命する狼。もう一匹も仕留める。
「・・・さて、これが食べられるか、だけど・・・贅沢いってられないや」
岩を排除して獲物を引きずりながらハジメは拠点へ戻り、彩人の無事を確認してから獲物を食す。
「う”・・・まっずぅ・・・」
硬い筋ばかりで匂いもひどく、しかも生で味も最悪だったがハジメは涙ながらに狼の肉を食す。
神水を飲料代わりにするという聖教教会の関係者が知ったら卒倒するような贅沢をしながら腹が膨れ始めた頃、ハジメの体に異変が起こり始めた。
「ん……?──ッ!?うぐぅ!?」
突如全身を激しい痛みが襲った。まるで体の内側から何かに侵食されているようなおぞましい感覚。その痛みは、時間が経てば経つほど激しくなる。
「ぐぅあああっ。な、何がっ──ぐぅううっ!」
耐え難い痛み。自分を侵食していく何か。ハジメは地面をのたうち回る。地面を這いずりながら自作した神水入りの石製試験管の端をかみ砕き神水を飲む。すると痛みは消えた。だが・・・
「ひぃぐがぁぁ!! なんで……なおらなぁ、あがぁぁ!」
痛みが消えたのは一時的ですぐにまた耐え難い苦しみがハジメを襲う。
ハジメの体が痛みに合わせて脈動を始めた。ドクンッ、ドクンッと体全体が脈打つ。至る所からミシッ、メキッという音さえ聞こえてきた。
しかし次の瞬間には、体内の神水が効果をあらわし体の異常を修復していく。修復が終わると再び激痛。そして修復。
神水の効果で気絶も出来ず、苦しみが長引くばかり。
そもそも魔物の肉は人間にとって猛毒だ。魔石という特殊な体内器官を持ち、魔力を直接体に巡らせ驚異的な身体能力を発揮する魔物。体内を巡り変質した魔力は肉や骨にも浸透して頑丈にする。しかもこの変質した魔力が人間にとって致命的なのだ。人間の体内を侵食し、内側から細胞を破壊していくのである。
過去、魔物の肉を喰った者は例外なく体をボロボロに砕けさせて死亡したとのことだ。実は、ハジメもこの知識はあったのだが、彩人を助けるという強い思考がすっかりその知識を脳の奥に押し込めてしまっていた。
ハジメもただ魔物の肉を喰っただけなら体が崩壊して死ぬだけだっただろう。
しかし、それを許さない秘薬があった。神水だ。
壊れた端からすぐに修復していく。その結果、肉体が凄まじい速度で強靭になっていく。
壊して、治して、壊して、治す。
脈打ちながら肉体が変化していく。
すると、ハジメの外見に変化が現れ始めた。
まず髪から色が抜け落ちてゆく。甚大なストレスで髪の色素、メラニンの生成が止まり色が抜け落ちていき全て真っ白になっていた。
次いで華奢な体が成長し絶壁の胸部も含めて女性らしい体つきに変わっていく。
叫び声をあげながら変化していくその様は、あたかも転生のよう。脆弱な人の身を捨て化生へと生まれ変わる生誕の儀式。ハジメの絶叫は産声だ。
やがて、脈動が収まりハジメはぐったりと倒れ込んだ。
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「・・・・・」
「スゥ…スゥ…」
彩人が目を覚ますと白髪の少女…もとい、魔王モードのハジメが右腕に抱き着いて寝ていた。・・・なんかデジャヴを感じたがそれ以上に心苦しい思いだ。結局ハジメの悪堕ちを回避することはできなかった。他のヒロインズも同じ道を辿りはしないとは思うが…。
「…?さい、と君…?」
まじまじとハジメを見ていると彼女が目を覚ました。
「・・・よお、ハジm「彩人君!」ぐえっ」
目を覚ました途端にハジメが抱き着いてきた。・・・なんか色々成長してね?
「良かったぁ…彩人君、生きてるよぉ…」
「あぁ、生きてるぜ」
心配かけさせるまいと笑みを浮かべるがハジメは申し訳なさそうに、
「ごめんね…あの時私が隠れていれば…」
「・・・過去の事だ。今俺は生きてる。お前が助けてくれたんだろ?サンキューな」
「あ・・・えへへ・・・彩人君が褒めてくれたぁ・・・」
ハジメの罪悪感を和らげるためとはいえ効きすぎじゃね?というレベルでハジメはデレデレ状態になる。
「それはそうとハジメさんよ、その変貌の説明を求む」
「ふふふ・・・え?あ、ああ・・・これはね・・・」
待つことしばし。
ハジメが魔王モードになった理由を聞くとやはり魔物の肉によるものだった。
「ハジメ、魔物の肉は余っているか?」
「え・・・まさか食べる気なの?!さっきいったようにアレは・・・」
「食べると全身に強い痛みと苦痛、だろ。リスクはでかいがリターンも多い」
「・・・・・君が言うなら私は従うけど…コレだよ」
「それじゃ、地獄へ行ってくるか。・・・いただきます」
ハジメが差し出した魔物の肉を喰らう彩人。
全て食い切ったところで神水を飲む。・・・・が、
「・・・グガアァッッ‼!!!!!・・・ア"ッ…ガアァァァ・・・あ"あ"っ"」
彩人はハジメ以上に苦しみ始めた。
「さ、彩人君!ど、どうしよう・・・私もこうだったのかな・・・でも、なんとか・・神水を」
苦しむ彩人を助けようと神水片手に彼に近づこうとするハジメ。しかし・・・
「ウゥ・・・アァ・・・グウゥゥゥアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「きゃあぁぁ!!」
彩人を中心にすさまじいエネルギーが拡散していく。見えない壁に突き飛ばされるハジメ。
そのエネルギーを感じ取った魔物は萎縮し洞窟を中心に迷宮全体が地震のように揺れた。地上にまで影響を及ぼしホルアドの町の周りに無数の雷が落ちる。
「GHOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAH!!」
次の瞬間、天にも轟くような彩人の叫びとともに放たれた覇気が二人の居る岩壁を吹き飛ばしハジメが気が付いたときには彩人を中心としたクレーターがあるのみだった。しかしハジメと違い全体的に戦闘向きな筋肉がついた以外に外見の変化は無く髪も黒のままなのでハジメはすぐに彩人だと気づいた。
「こ、これが…サイヤ人の力・・・?」
圧倒的なオーラを放つ彩人を見つめるハジメはそっとつぶやくのだった。
超回復という現象がある。筋トレなどにより断裂した筋肉が修復されるとき僅かに肥大して治るという現象で骨なども同じく折れたりすると修復時に強度を増す。サイヤ人は死の淵から復活すると強化されるのだがそれも超回復によるものだが一般人の比ではない。ハジメが苦しんだようにサイヤ人にとっても魔物の肉は毒となる。神水との死に際復活が短時間に連続かつ高速で行われた結果、異常なほどのパワ-アップを遂げたのだ。
「・・・くっ、無理な強化はやっぱきついな・・・」
「もう、無理しすぎだよ!…覚醒した彩人君、かっこよかったけどさ」
「・・・すまねぇ」
拠点が焦土と化したので別の洞窟にてハジメと彩人は休んでいた。
「ステータスプレートでも見るか?」
「・・・あ、忘れてた」
「・・・・・・」
こんなやりとりの後、二人はそれぞれのステータスを確認する。
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轟彩人 17歳 男 レベル:8
天職:武闘戦士
(気力開放時)
筋力:700(1050)
体力:650(975)
耐性:580(870)
敏捷:820(1230)
魔力:0
魔耐:0
技能:言語理解・胃酸強化
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南雲ハジメ 17歳 女 レベル:9
天職:錬成師
筋力:170
体力:420
耐性:145
敏捷:380
魔力:500
魔耐:480
技能:錬成・魔力操作・胃酸強化・纏雷・言語理解
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「「なんでやねん」」
二人のツッコミが重なった。
ちなみにマリー・アントワネットもストレスで白髪になったらしい。