濃霧の森を虎の亜人、ジルの先導で進んでいく。
とはいえ一時間以上は歩いているので端麗のザムはよほど俊足なのだろう。
その先へと歩いていくと霧が晴れた所へ出た。アルフレリックによるとフェアドレン水晶という鉱石が霧や魔物が寄り付かなくなるという。でも魔物は比較的、らしいが。
しかしそのおかげで街に霧は無いらしい。こんな鬱蒼とした霧の中で生活するとか嫌すぎる。
「さぁ、着いたぞ…ここが我らの
樹で出来た巨大な門が開かれると同時にアルフレリックが話す。門の先に広がっていたのはまさに別世界。自然の中での生活模様が木々と融合し、ファンタジックな世界が目の前に。
「自然と共に生きてるって感じで・・・とても美しい街だ」
「うん、こんな綺麗な街を見たのは始めて。空気も美味しい」
「ん……綺麗」
三者三様の感想を聞いて亜人族は誇らしげな表情である。耳や尻尾が忙しなく動いている。アルフレリックも
「ほっほっほ、どうやら我らの故郷、フェアベルゲンを気に入ってくれたようだな」
と満足そうに言うのだった。
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「……なるほど。試練に神代魔法、それに神の盤上か……」
彩人達はアルフレリックと対面し話をしていた。オスカー・オルクスが語った世界の真実を。
「あまり驚かないようだが…」
「この世界は亜人族に優しくはない、今更だ。神が狂っていようがいまいが亜人達の現状は変わらん。あるのは自然への感謝だけだ…」
何処か諦めた表情のアルフレリック。
そして今度はフェアベルゲンの迷宮について彩人達に語り始めた。
この樹海の地に七大迷宮を示す紋章を持つ者が現れたらそれがどのような者であれ敵対しないこと、そして、その者を気に入ったのなら望む場所に連れて行くこと
という口伝を大迷宮の創始者リューティリス・ハルツィナが代々伝えてきたという。
迷宮に挑む為に必要な紋章の一つがオルクスの紋章であった為にアルフレリックは驚いた表情を浮かべたのである。
「これの持ち主が資格者……」
しかしながら亜人族全員が肯定的とは限らない。その事で相談しようとしていたが、彩人達のいる部屋の階下が騒がしくなったと同時に彩人達とアルフレリックが腰を上げて下の階へ行く。
すると数人の亜人族がハウリア達を睨み付けていた。
亜人の中でも大柄の、熊の亜人がこちらに気付くと憎しみに染まった表情でアルフレリックに怒鳴り付けた。
「アルフレリック……貴様、どういうつもりだ。なぜ人間を招き入れた? こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど……返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ」
ぎりぎりと歯ぎしりしながらいまにも襲いかからんとしている熊亜人。よそ者が居るのが気に入らないようだ。
「なに、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」
「何が口伝だ! そんなもの眉唾物ではないか! フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないではないか!」
「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」
「なら、こんな人間族の小僧が資格者だとでも言うのか! 敵対してはならない強者だと!」
「そうだ」
フェアベルゲンではその種族の長が長老となりその人をリーダーとして様々な会議を行うがそれも十人十色。口伝を重んじるものもいれば眉唾物と考える者もいる。
熊亜人は人間やハウリアが気に入らない、という部分が多そうだが。
「……ならば、今、この場で試してやろう!」
熊亜人が彩人に向かって突進し、彩人の身長より長く、太い豪腕を彩人の顔面に叩きつける。
特に力自慢の熊亜人の攻撃にハウリア達は青ざめる。
しかしハジメとユエは平然としている。
「フン、避けようともしないとは所詮にんげ………なっ?!」
「・・・」
熊亜人は絶句した。ハウリア達はおろか他の亜人族も目の前の光景が信じられなかった。
「ゆ、指一本で…止めてる………」
誰かの一言通り、熊亜人の拳は彩人の右手の小指一本で止められていた。
「俺は弱くはありません。ですがあなた方と殺し合いするためにここにいるわけではない、どうか殺意を抑えていただけるか?」
「なっ…人間の癖に………へし折ってくれる!!」
彩人の発言に気を悪くして更に力を込める熊亜人。
「・・・・」
「んぐぅぉぉぉぉぉおおおお!!」
当然微動だにしない。
「そろそろ諦めていただけるか」
「まだだぁぁぁぁ!!」
今度は拳のラッシュを放つ。が、
「がああああああああ!何故だ!何故当たらん!!」
「・・・指で止めてますし」
一発の威力は落ちてるとはいえ連続で放たれる拳を全て指で止める彩人。亜人族は勿論ハウリアやアルフレリックも驚愕していた。
…何故かドヤ顔するハジメとユエ。
「さっすが彩人君、相手にならないね」
「…ん!」
やけくそで放たれる拳は単調であり怒りに支配されている熊亜人のラッシュ、スタミナが持つはずもなく……
「はあっ……はあっ………」
「・・・これで認めていただけますか?」
しかし熊亜人は更に怒りの形相で、
「誰が認めるものか!!…貴様ァ……いつか借りを返してやる!!」
と叫んでフラフラの状態で去っていった。
「それで、お次はどなたで?」
彩人の一言に頷く者は居なかった。
その後、アルフレリックの鶴の一声で一応、会議は始まった。現在、当代の長老衆である虎人族のゼル、翼人族のマオ、狐人族のルア、土人族(俗に言うドワーフ)のグゼ、そして森人族のアルフレリックが彩人達の前に座っている。
アルフレリック以外は最強格の熊亜人(さっきのやつはジンという名前)を手玉に取った彩人を警戒している。
「俺達はあくまでも樹海の迷宮に向かいたいだけでありあなた方に好き好んで危害を加えるつもりは無い。しかしそちらが殺意を持って襲ってくるとなればこちらも相応の手段を取らざるを得ない…。亜人族皆さんの意見をまとめて頂きたい」
「・・・・・」
グゼが彩人を睨み付けている。原作と違いジンが自滅しただけなので彩人を糾弾する理由が無い。しかしジンとは親しい関係であったため彩人が気に入らないのだ。
「確かに、この少年は、紋章の一つを所持しているし、その実力も大迷宮を突破したと言うだけのことはあるね。僕は、彼を口伝の資格者と認めるよ」
続いて狐人族の長老ルアの一言をきっかけに他の亜人族も思う所があるものの同意の意志を見せた。
その意見を総括すべくアルフレリックが彩人に話す。
「轟彩人。我らフェアベルゲンの長老衆は、お前さんを口伝の資格者として認める。故に、お前さんと敵対はしないというのが総意だ……可能な限り、末端の者にも手を出さないように伝える。……しかし……」
「亜人族にも様々な考えを持つ者がいる。絶対とは言えませんね」
「ああ。知っての通り、亜人族は人間族をよく思っていない。正直、憎んでいるとも言える。血気盛んな者達は、長老会議の通達を無視する可能性を否定できない。特にジンの種族、熊人族の怒りは抑えきれない可能性が高い。アイツは人望があったからな……」
「それは周りの反応理解している。本音をお聞きしたい」
今の彩人は戦士の顔になっている。敬語を交えても彼の放つプレッシャーがアルフレリックに決意の固さを物語る。
「お前さんを襲った者達を殺さないで欲しい」
「手加減しろ、と?殺意を持った相手に?」
「そうだ。お前さんの実力なら可能だろう?」
「…それは可能だ。しかし殺し合いとなれば話は別…、敵に情けなど無用。本当に同胞を守りたいと思うのなら全力で止めて頂きたい」
善処はするが全面的に肯定出来ないと彩人が付け加えると
虎人族のゼルが口を挟んだ。
「ならば、我々は、大樹の下への案内を拒否させてもらう。口伝にも気に入らない相手を案内する必要はないとあるからな」
彩人は表情をくずさずゼルの方を向く。元よりハウリア達が案内役だからだ。しかしゼルは勝ちを確信したかのような表情を浮かべた。
「ハウリア族に案内してもらえるとは思わないことだ。そいつらは罪人。フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与える。何があって同道していたのか知らんが、ここでお別れだ。忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪。フェアベルゲンを危険に晒したも同然なのだ。既に長老会議で処刑処分が下っている」
ゼルの言葉を聞いたシア泣きそうな顔をし、他のハウリア達は諦めたような表情だ。情の深さと言うべきか甘さと言うべきか、誰もシアを責めない。
「長老様方! どうか、どうか一族だけはご寛恕を! どうか!」
「シア! 止めなさい! 皆、覚悟は出来ている。お前には何の落ち度もないのだ。そんな家族を見捨ててまで生きたいとは思わない。ハウリア族の皆で何度も何度も話し合って決めたことなのだ。お前が気に病む必要はない」
「でも、父様!」
カムの制止も聞かず涙ながらに土下座するシア。
しかしゼルの話す現実は無慈悲であった。
「既に決定したことだ。ハウリア族は全員処刑する。フェアベルゲンを謀らなければ忌み子の追放だけで済んだかもしれんのにな」
シアは絶望に満ちた表情で泣き崩れた。他の長老も特に何も言わない事から本当であろう。皮肉にもハウリア族の家族を思う行動が自分たちを追い詰めていた。
「そういうわけだ。これで、貴様が大樹に行く方法は途絶えたわけだが? どうする? 運良くたどり着く可能性に賭けてみるか?」
いつの間にか顔を下に向けている彩人を見て要求を呑んでもらおうかという態度のゼル。…しかし、彩人が顔を上げた途端、ゼルは竦み上がった。
「いいや、あくまでも俺達の案内役はハウリア族だ」
「っ………?!」
彩人の顔が、戦闘民族サイヤ人となっていたからだ。ユエとハジメは彩人の答えを既に理解しているので黙っている。
特に威圧している訳ではないが圧倒的強者のオーラがゼルに襲いかかる。
「そちらにも譲れないものがあるのは理解している。しかしハウリア族を処刑するというのなら俺達の行く手を阻むも同然」
椅子を降りて泣き続けているシアの頭にそっと手を乗せ、長老達を見据える。頭の感触に気付いたシアが彩人を見上げる。
「それでもハウリア族に手を出すというのなら…俺は一切の容赦はしない」
「彩人………さん……」
彩人は約束は果たすという思いで言っているのだがハウリアの為にフェアベルゲンを敵に回せるという意志がシアの心に響いていた。
「………、本気かね?」
アルフレリックが鋭い視線を彩人にぶつける。しかし、
「当然だ」
更に鋭い目付きで言い返す彩人にアルフレリックはたじろぐ。
「…っ、フェアベルゲンから案内を出すと言っても?」
「断る。ハウリア族以外に頼むつもりはない」
一切引かない彩人に同胞の助命を約束させようとアルフレリックは凄まじいプレッシャーに耐えながら提案を続ける。
「な、なぜ、彼等にこだわる。大樹に行きたいだけなら案内人は誰でもよかろう」
ふと彩人はシアに視線を向ける。シアはずっと彩人を見上げていたので視線が合う。すぐに彩人は目線を長老達に戻したが普段とは間反対の戦士たる彩人の表情にシアは鼓動が早くなるのを感じていた。
「約束したからだ。案内と引き換えに助ける、と」
「……約束か。それならもう果たしたと考えてもいいのではないか? 峡谷の魔物からも、帝国兵からも守ったのだろう?」
「一度決めたら最後まで守り通す、それが約束だ。良い条件があるから鞍替えするなんざ………
彩人はハジメとユエを見た。二人は知っていたように彩人に笑顔を向けていた。
「…最早何を言っても無駄か」
引かない姿勢を見せた彩人にアルフレリックは諦めたような表情を浮かべ、
「ならば、お前さんの奴隷ということにでもしておこう。フェアベルゲンの掟では、樹海の外に出て帰ってこなかった者、奴隷として捕まったことが確定した者は、死んだものとして扱う。樹海の深い霧の中なら我らにも勝機はあるが、外では魔法を扱う者に勝機はほぼない。故に、無闇に後を追って被害が拡大せぬように死亡と見なして後追いを禁じているのだ。……既に死亡と見なしたものを処刑はできまい」
「アルフレリック! それでは!」
そう話したアルフレリックに反論するゼル。しかしアルフレリックは曲げなかった。
「ゼル。わかっているだろう。この少年が引かないことも、その力の大きさも。ハウリア族を処刑すれば、確実に敵対することになる。その場合、どれだけの犠牲が出るか……長老の一人として、そのような危険は断じて犯せん」
「しかし、それでは示しがつかん! 力に屈して、化物の子やそれに与するものを野放しにしたと噂が広まれば、長老会議の威信は地に落ちるぞ!」
「だが……死んでは元も子もあるまい?」
「ぐっ………」
ゼルは納得行かない表情を浮かべながらも同胞が死ぬ可能性を回避したいのは変わらない為、渋々口を閉じた。
「……と言うわけだ。ようやく現れた口伝の資格者を歓迎できないのは心苦しいが……」
「…気にしないで頂きたい。譲れないものがあるとはいえかなりの無茶振りをしていることは理解している。理性的な判断を下さった事に感謝する」
戦士から人に戻った彩人はアルフレリックに頭を下げたのち、席を立つ。ハジメとユエも続いて席を立つ。
亜人達は彩人のプレッシャーにやられ、ほぼ全員がぐったりとうなだれていた。
出発の準備をする彩人達をよそにポカーンと呆然としているハウリア族。
「…?何をポカーンとしてるんだ、早く行くぞ」
彩人の言葉で我を取り戻したハウリア達は慌てて三人の後を付いていく。
一応、アルフレリック達も門まで見送りしてくれる。
その途中、オロオロしながらシアが彩人に訊ねた。
「あ、あの、私達……死ななくていいんですか?」
「さっきの話の通りだ。聞いてなかったのか?」
「い、いえ、聞いてはいましたが……その、何だかトントン拍子で窮地を脱してしまったので実感が湧かないといいますか……信じられない状況といいますか……」
シアも含めた全ハウリアが困惑していたが。
「素直に喜びなよ、助かったんだからさ」
「…ハジメさん」
「ハジメの言うとおり。彩人に助けられた、だから喜べばいい」
シアの近くに居たハジメとユエがシアに言う。シアはそれを聞いて彩人の方を見る。視線を背中に感じた彩人がシアの方に顔だけを向けて、
「約束、したからな」
「ッ………」
と返した。その時、シアの心臓がドクンと大きく跳ねた。
シアは〝未来視〟が使えるとはいえ未来は確実ではない。その為どこかで彩人が自分たちを見捨てるのではないかと不安しかなかった。にも関わらず彩人は自分たちを守ってくれただけでなく約束を守り通すと宣言までしてくれた。
たとえ他意が無くともユエとハジメの言うとおり、自分たちを守ってくれる存在が居ることを実感した。
その時、シアの心臓が再び大きく跳ねた。それは安堵か、それとも…。
シアは二人の言うとおり、喜びを行動表現することにした。
「彩人さ~ん!!ありがどうございまずぅ~!」
「ごおっ?!いきなり抱きつくなっつってんだろうが!!」
「…むっ」
「いいなぁ……」
絶対放さないと言わんばかりに彩人を抱き締めるシア。その笑顔は緩んでも頬は紅く染まっていた。
「…シア、どう?」
「いい感じ。でも“同盟“入りにはまだまだ遠いかな」
二人の会話は彩人のみに聞こえていた。
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「「「「……」」」」
「また、感じたね」
「ええ。でも、“まだ“早そうね」
「やっぱり彩人はスゴいなぁ、どんどん女のコ落としちゃうんだもん」
「僕達もそうだけどね」
「私達もまだ見ぬ“同志“の為にも強くならなきゃね」
「「「「ウフフフフフ………」」」」
「…俺、迷宮組辞めるわ」
「…………うん、私も」
そんな会話があったとか。
やっぱり長くなりましゅ…
ミレディちゃんは・・・
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ハーレム入り
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無☆視☆
-
破壊しつくすだけだァ!