若い女性の声が聞こえた。そしてここにいる全員が呆然としている。
「竜が・・・喋った?」
「…言葉を話す魔物なんて聞いたことがない」
ハジメとユエの言葉でシアが何かを思い出して顔色を悪くしていた・・・。
それはともかく竜で人の言語・・・とすると一つの可能性へつながる。
「貴女は竜人族か?」
〝む? いかにも。妾は誇り高き竜人族の一人じゃ。しかし操られていたとはいえ妾を素手で圧倒する者がいるとはのう〟
「操られていた?」
やや弱弱しい声で肯定する黒竜。いつの間にか彩人の隣に居たユエが目を輝かせている。絶滅したはずの種族というつながりから興味津々である。
〝そうじゃ。仮初の主、あの男にそこの青年と仲間達を見つけて殺せと命じられたのじゃ〟
「・・・操られる前は?そもそも竜人族は絶滅したと聞いているが」
〝うむ・・・まずはそこから話さねばな〟
黒竜の話では異世界の来訪者を探る目的で隠れ里からやってきたという。一族の中で魔力探知に優れた者がおり数か月前に魔力の大放出と何者かがこの世界にやってきたと気づいたらしい。
本来竜人族は外界にかかわらないという掟があるが事の重大さからこの黒竜に白羽の矢が立った。情報収集は人の姿で行っていたがこの山脈の近くで魔物を警戒して竜の姿で体力回復の為睡眠をとっていたせいで敵の存在に気づかず、洗脳されてしまったという。
それでも精神力の強い竜人族はそう簡単にはやられはしない。・・・のだが。
〝妾を洗脳した者は闇系統の魔法が天才的であった。妾は為す術もなかった・・・〟
それを聞いて彩人は清水の顔がよぎる。しかし黒竜は腑に落ちない顔をして続けた。
〝じゃが、その者が妾に「済まない」と言うておったのじゃ。黒いフードで顔は良くは見えんかったが泣いておった・・・もしかしたらあやつも無理やりやらされていたのかもしれん〟
「・・・・」
抵抗の甲斐なく黒竜は操られ、魔物の洗脳を手伝わされているときにウィル達に見つかってしまい口封じのために戦わされ、彩人にボコボコにされて我に返った・・・という事らしい。
「……ふざけるな」
事情説明を終えた黒竜に、そんな激情を必死に押し殺したような震える声が発せられた。皆が、その人物に目を向ける。拳を握り締め、怒りを宿した瞳で黒竜を睨んでいるのはウィルだった。
「……操られていたから…ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、ワスリーさんをクルトさんを! 殺したのは仕方ないとでも言うつもりかっ!」
強い口調で弱っている黒竜に詰め寄るウィル。しかし黒竜は一切反論せず受け入れるかのように黙っていた。しかしその態度がきに触ったのかウィルの怒りは収まらず
「大体、今の話だって、本当かどうかなんてわからないだろう! 大方、死にたくなくて適当にでっち上げたに決まってる!」
〝……今話したのは真実じゃ。竜人族の誇りにかけて嘘偽りではない〟
「そんなことが理由に・・・「待って」」
なおも食い下がるウィルと黒竜の間に割って入ったのはユエ。
「……きっと、嘘じゃない」
「っ、一体何の根拠があってそんな事を……」
怒りをつのらせるウィルに、ユエは諭すように言う。
「……竜人族は高潔で清廉。私は皆よりずっと昔を生きた。竜人族の伝説も、より身近なもの。彼女は〝己の誇りにかけて〟と言った。なら、きっと嘘じゃない。それに……嘘つきの目がどういうものか私はよく知っている」
誤解ではあったが、ユエは嘘つきに対して敏感になっている。だからこそ竜人族の誇り高さを知っているユエは黒竜が嘘をついていないと考えたのだ。
〝ふむ、この時代にも竜人族のあり方を知るものが未だいたとは……いや、昔と言ったかの?〟
心なしか嬉しそうな黒竜に、ユエは、
「……ん。私は、吸血鬼族の生き残り。三百年前は、よく王族のあり方の見本に竜人族の話を聞かされた」
〝何と、吸血鬼族の……しかも三百年とは……なるほど死んだと聞いていたが、主がかつての吸血姫か。確か名は……〟
黒竜が名を思い出そうとするとユエは先に話す。
「ユエ……それが私の名前。大切な人に貰った大切な名前。そう呼んで欲しい」
頬を朱に染めながら両手を自身の胸に添えるユエ。彼女にとって竜人族は見本のような存在であるため所々敬意を交えているのはそのためだ。
突然の惚気に女性陣は何か物凄く甘いものを食べたような表情をし、男子達は、頬を染め得も言われぬ魅力を放つユエに見蕩れている。ウィルも、何やら気勢を削がれてしまっている。だが、ウィルは退けなかった。
「……それでも、殺した事に変わりないじゃないですか……どうしようもなかったってわかってはいますけど……それでもっ! ゲイルさんは、この仕事が終わったらプロポーズするんだって言ってたのに!待っている人が居るのに……!彼らの無念はどうすれば……」
※ゲイル氏のお相手は男性です。フルネームはゲイル・ホモルカだそうです。
彩人から返却されたペンダントを握りしめ、黒竜を殺すべきだと主張するウィル。恨みつらみはそう簡単には消えはしない。
それを聞いた黒竜は懺悔するかのように話す。
〝操られていたとはいえ、妾が罪なき人々の尊き命を摘み取ってしまったのは事実。償えというなら、大人しく裁きを受けよう。だが、それには今しばらく猶予をくれまいか。せめて、この危機を脱してから頼む。魔物の大群が迫っておるのじゃ。竜人族は大陸の運命に干渉せぬと掟を立てたが、今回は妾の責任もある。放置はできんのじゃ……勝手は重々承知しておる。だが、どうかこの場は見逃してくれんか〟
それを聞いてその場の全員が魔物の大群という言葉に驚愕をあらわにする。自然と全員の視線が彩人に集う。いつの間にかリーダー扱いされていたようだ。
彩人の答えは、
「魔物の襲撃の証拠がない以上、嘘をついてないとは言えないな、ここで終わらせる」
と気を纏った。
〝待つのじゃー! お、お主、今の話の流れで問答無用に止めを刺すとかないじゃろ! 頼む! 詫びなら必ずする! 事が終われば好きにしてくれて構わん! だから、今しばらくの猶予を! 後生じゃ!〟
「そんなことは関係ない。再び洗脳されたら面倒だ。周りへの被害がな」
とてつもない殺気を放って黒竜に手刀を叩き・・・・・・込まなかった。
〝・・・?〟
「・・・と言いたいところだが魔物の襲撃が嘘だという証拠もない。ウィルさん、この竜を預からせてもらいます」
「さ、彩人さん!?な、なぜ・・・」
「もし本当に魔物の大群が攻めてくれば被害は想像もつかない。より多くの命が失われる・・・」
「で、でももし嘘だったら」
「その時は俺が責任を持って消し飛ばしますよ」
「・・・・!」
彩人の強いまなざしにウィルは根負けしたのか「お願いします」と言った。
〝ほ、本当に殺されるかと思うたぞ・・・〟
「済まない。でもこうでもしなきゃ彼は譲らないだろうから・・・。それと、このことを知らせるためにも人の姿になってもらえるか?」
〝う、うむ・・・丁度竜化を続けるだけの魔力が少なくなってきておった所じゃ。すぐにでも解こう・・・〟
すると黒竜が着物を着た黒髪金眼の女性の姿に変わる。20代前半、170cm近くあり、ゼータに勝てずとも劣らないプロポーションだったので彩人を除く男子生徒が前かがみになり女性陣の目はゴキブリを見る目となっていた。
「面倒をかけた。本当に、申し訳ない。妾の名はティオ・クラルス。最後の竜人族クラルス族の一人じゃ」
身なりを整えて背筋を伸ばし、凛とした佇まいはまさしく誇り高き竜人族に相違なかった。
黒竜改めティオの話では黒ローブの男は魔物の群れの主にのみ洗脳を施すことで、効率よく群れを配下に置いているという。ティオが見たときの魔物の数は6000から7000程。
そしてその男が黒髪黒目の人間族で、まだ少年くらいの年齢であると聞いて愛子と綾子が絶望感に包まれるが、ティオの話では老人と人型の魔物三体に命令されたその男が「もう嫌だ・・・帰りたい・・・」とつぶやいた途端に悲鳴を上げて魔物の洗脳を再開したらしく操られている可能性がほぼ確定した。
その一方でハジメが遠くを見て「これは・・・不味いかも」とつぶやく。
「7000どころかもう一桁追加されるレベルだよ・・・まいったね」
「は、早く町に知らせないと! 避難させて、王都から救援を呼んで……それから、それから……」
ハジメの報告に慌てる愛子。チートスペックとはいえ戦闘に恐怖心を抱く園部達や非戦闘系の愛子、戦闘経験の乏しいウィル。彩人達が桁外れとはいえ戦える状態ではない。一刻も早く町に危急を知らせて、王都から救援が来るまで逃げ延びるのが最善だ。
「だが、本当に来てる以上やるしかねえだろ・・・幸利も助けたいしな。とりあえず町に戻る。こんなところで殲滅戦は分が悪すぎる」
「轟君・・・ありがとう」
綾子に礼を言われつつ、彩人は再びアクセルをウルの町まで行かせる。
「まぁ、あるじ……コホンッ、彼の言う通りじゃな。妾も魔力が枯渇している以上、何とかしたくても何もできん。まずは町に危急を知らせるのが最優先じゃろ。妾も一日あれば、だいぶ回復するはずじゃしの」
ティオも賛成する。全員とりあえず帰還で意見がまとまったのでアクセルの気を捕らえ、瞬間移動する。
町の入口前に移動したのちウィルが危機を知らせるべく走り出す。
魔力切れのティオをだれが運ぶか男子生徒でじゃんけんになったがゼータが無言でティオを運んで行き、男子生徒たちは「スイカが四つ・・・」と前かがみになったそうな。
清水は・・・(生存は確定)
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彩人達と一緒に行く
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愛ちゃん護衛隊に復帰
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胃薬もって迷宮組・・・