【オルクス大迷宮】
それは、全百階層からなると言われている大迷宮である。七大迷宮の一つで、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現する。
にもかかわらず、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気がある。
そのため冒険者などが利用する宿場町、【ホルアド】が存在する。新兵訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まる事になった。
「よく頑張ったかどうかは知らんがとうとう迷宮入りの時が来たようだな…明日だけど」
某MADの名言のもじりを言いながら個室で夜景を眺める彩人。他は二人部屋、三人部屋なのだが正直詮索されるのは不味いのでむしろ好都合だった。
原作同様のメンバーで迷宮に入るのだが…。結末が分かっているだけに鬱いなぁ…
そして聞こえるはずのノック音・・・が聞こえねえ。
「?このあたりで香織がくるんだが…。ここのフラグがないと奈落行きの確率が下がるんだが…ま、いっか。現実でヘイト溜めたし」
ということで寝た。
次の日、起きると。
「・・・衣服が減ってる」
使用済みの服や下着が消えていた。昨夜感じた複数の気配は洗濯の為と思いたい。
そしてオルクス大迷宮の入り口にやってきた。迷宮というより何かの博物館を思わせる文明的な入口である。
メルド団長を先頭に迷宮の中に入っていく。
縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり辺りが照らされ、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、オルクス大迷宮は、この巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。
しばらく何事もなく進んでいると広間に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは七、八メートル位ありそうだ。
物珍しげに辺りを見渡している一行の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。皆さんご存じねず〇男です。
「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」
もとい、ラットマンです。筋肉モリモリマッチョマンの変体ネズミDA☆
正面に立つ光輝達――特に前衛である雫の頬が引き攣っている。やはり、気持ち悪いらしい。
間合いに入ったラットマンを光輝、雫、龍太郎の三人で迎撃する。その間に、香織と恵里、そして鈴が詠唱を開始。魔法を発動する準備に入る。訓練通りの堅実なフォーメーションだ。
全員原作通りの外見、技を披露する。
「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」」
聖剣で切られるわ籠手越しで殴られるわ、剣で斬り割かれるれるわ螺旋の炎で消し炭にされるわで周りは歓声をあげているもののラットマンが不憫に感じる。今の天之河達にはラットマンなど敵ではない。
「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」
生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド団長。しかし、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルド団長は肩を竦めた。
「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」
炭化した魔石を持ちながら話すメルド団長の言葉に香織達魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるのだった。
「メルド団長、次俺がいきます」
実践訓練のために志願する。
「む?彩人、焦らずともお前のパーティーの番は…」
「俺一人で行きます」
「な…ま、まあここは一層目だから強い敵は出て来んし万が一の時は騎士団が援護に入るからな。しかし無理はするな。危険だと思ったらすぐに下がれ、いいな?」
「はい、ありがとうございます」
再び現れたラットマンに歩みをすすめる。
「!?あ、アイツ素手だぞ!」
後ろから聞こえる声。まあ、そういうことだ。武闘戦士は魔力を持たないがゆえにアーティファクトの武具を使えない。しかも普通の武具では心許ないのだ。しかし俺には気がある。
「彩人君…」
香織の声が聞こえた。周りもどよめいている。
「…はぁっ!」
足に纏った気を放って一瞬でラットマンに肉薄する。
いきなり接近されて動揺したラットマンの首を手刀で捉える。首があらぬ方向に変形し絶命させる。
その背後から別個体が飛び掛かってきたがしゃがんでかわし、無防備な胸部に一撃。骨を砕き内蔵を殺傷させその勢いで押しつぶし破裂させる。
さらに左右から二体挟み撃ちで襲ってきたが垂直に飛んでかわし上を向いた瞬間に両手でアイアンクローをお見舞いし頭部を握りつぶす。
「…終わりました」
「うむ、素晴らしい成長だ…」
無表情で返り血を浴びながらラットマンを討伐する姿は戦士というより暗殺者だったそう。
顔を真っ青にするクラスメイトを尻目にもう少し戦う感覚を取り戻すために前線に立つ。問題の20層までに感覚が戻ってきたのだが、ここで問題が。
トラップ対策として〝フェアスコープ〟というものがある。これは魔力の流れを感知してトラップを発見することができるという優れものだ。迷宮のトラップはほとんどが魔法を用いたものであるから八割以上はフェアスコープで発見できる。ただし、索敵範囲がかなり狭いのでスムーズに進もうと思えば使用者の経験による索敵範囲の選別が必要、というアーティファクトだ。
しかしこのまますべてのトラップを解除されると奈落行きが出来ない可能性がある。
その為にも勇者様(笑)の天之河に頑張ってもらわねば。まずは…
「メルド団長、少し下がります」
「おお、そうか。お前が戦うと魔石を無傷で回収しやすいのだが…まあ無理は禁物だ。下がって良いぞ」
「ありがとうございます。失礼します」
メルド団長の発言にクラスメイトが苦笑いする。まあ大体オーバーキルして魔石も滅茶苦茶なんて事がある以上、何も言わなかった。
ちなみに魔石とは魔物を魔物たらしめる力の核をいう。強力な魔物ほど良質で大きな核を備えており、この魔石は魔法陣を作成する際の原料となる。ある意味魔力の塊と言える。
相変わらず見事な剣さばきの雫、絶大な威力の魔法を放つ香織、鈴、恵里。ハジメは…錬成をフル活用して魔物とわたりあい、騎士団員に関心されていた。
俺が下がった後にとうとう20層。そして、ヤツらの気配。
「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」
メルド団長の忠告が飛ぶ。
その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。
「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」
メルド団長の声が響く。天之河達が相手をするようだ。飛びかかってきたロックマウントの豪腕を坂上が拳で弾き返す。天之河と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができない。
坂上の人壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。
直後、
「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」
部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。
「ぐっ!?」
「うわっ!?」
「きゃあ!?」
体をビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないものの硬直してしまう。ロックマウントの固有魔法“威圧の咆哮”だ。魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる。すでに知っている俺は奴から離れて耳を塞いだのでなんてことはないがまんまと食らってしまった光輝達前衛組が一瞬硬直してしまった。もっとも、雫は何かを感じて耳を塞ぎ効果を軽減させたようだが。
ロックマウントはその隙に突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ香織達後衛組に向かって投げつけた。見事な砲丸投げのフォームで! 咄嗟に動けない前衛組の頭上を越えて、岩が香織達へと迫る。
香織達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。避けるスペースが心もとないからだ。
しかし、発動しようとした瞬間、香織達は衝撃的光景に思わず硬直してしまう。
なんと、投げられた岩もロックマウントだったのだ。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて香織達へと迫る。その姿は、さながらル○ンダイブだ。「か・お・り・ちゃ~ん!」という声が聞こえてきそうである。しかも、妙に目が血走り鼻息が荒い。香織も恵里も鈴も「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった。
「かあっ気持ち悪い…やだおめぇ…」
バニッシュ移動で飛び掛かってくるロックマウントの腹部に移動し気を流し込んで内部破裂させ、落下の衝撃を抑えるのと念の為に地面にあおむけで地面につく寸前に背骨を粉砕する。すぐに元の場所にもどる。
「な、何…今の」
ロックマウントが飛び掛かってきたと思ったら勝手に落ちていったんだからそういう反応になりますわ。
「こらこら、戦闘中に何やってる!」
メルド団長が一喝する。
香織達は、「す、すいません!」と謝るものの相当気持ち悪かったらしく、まだ顔が青褪めていた。
舞台は整った。さあ、やってしまえ~!
「貴様……よくも香織達を……許さない!」
どうやら気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしい。 (このご都合解釈)困ったもんだ…
「万翔羽ばたき、天へと至れ──〝天翔閃〟!」
「あっ、こら、馬鹿者!」
凄まじい斬撃が放たれる。さ、奈落落ちの準備だあ!
バニッシュ移動:短距離を高速で移動する舞空術の派生。残像が残るほどのスピードがありとっさの回避では瞬間移動より優秀。