その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。
パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルで香織達へ振り返った天之河。香織達を怯えさせた魔物は自分が倒した。もう大丈夫だ! と声を掛けようとして、笑顔で迫っていたメルド団長に後ろから後頭部を掴まれる。
「ヒィッ」
「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろう…? 崩落でもしたらどうするんだ!」
「す、すいません!」
流石の天之河でもまずかったと分かった…かは知らんが謝罪している。「まったく…」と言いつつもメルド団長はそれ以上彼を責めることはなかった。
その時、ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。
「……あれ、何かな? キラキラしてる……。」
その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。
そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。
「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」
グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなものだ。特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。
「素敵……。」
香織が、メルド団長の簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。そして、チラリとこちらに視線を向けてくる。他のメンツの視線も感じる。・・・運悪く"求婚"というワードで全員顔を赤らめたのに気づいてしまった。俺にとっては絶望の輝きだというのに。
…仕方ない。おめえの出番だぞ、檜山!
「香織、アレが欲しいのか?だったら俺らで回収しようぜ!」
そう言って唐突に動き出したのはもちろん檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルド団長だ。
「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」
しかし、檜山は聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。
騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認する。そして、一気に青褪めた。
「団長! トラップです!」
「ッ!?」
メルド団長も、騎士団員の警告も一歩遅く、檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだ。
「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」
というかそんな激レア鉱石がこんなところにあるわけないのだが…香織に良いところを見せたかったのだろうか。知ってるだけに複雑な気分だ。
そう考えてる間に到着。ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。
先の魔法陣は原作通り転移させるものだったらしい。現代の魔法使いには不可能な事を平然とやってのけるのだから神代の魔法は規格外だ。
もっとも、これはその規格外のほんの一部だが。
転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはありそうだ。天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。
橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。いかにもなバトルフィールドと言える。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。
「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け!急げ!」
雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。
しかし、当然ながら迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……
その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。
──まさか……ベヒモス……なのか……
そう、ベヒモスだ。後ろ?骨です。数百ほどの。
「グルァァァァァアアアアア!!」
「ッ!?」
と、ベヒモスの咆哮で正気に戻ったのか、メルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」
「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」
「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」
メルド団長の鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」と踏み止まる天之河。
どうにか撤退させようと、再度メルドが天之河に話そうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは、撤退中のクラスメイト達を全員轢殺してしまうだろう。
そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。
「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――〝聖絶〟!!」」」
二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。一回こっきり一分だけの防御であるが、何物にも破らせない絶対の守り(尚奈落では(笑)もの)が顕現する。純白に輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ!
衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕される。橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れた。撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。
「ハジメ!すまないが天之河達を後ろに引っ張ってでも連れてきてくれ!このまま行けば間違いなくパニックになる!最悪の場合、犠牲者が出る!」
「……!わかった!」
こうなった以上、出し惜しみしている暇は無い。原作でもここはかなりヤバかったのですぐにハジメに指示を出す。彼女は少し驚きながらも行動してくれた。
そもそもガイコツ兵士トラウムソルジャーは三十八階層に現れる魔物だ。今までの魔物とは一線を画す戦闘能力を持っている。前方に立ちはだかる不気味な骸骨の魔物と、後ろから迫る恐ろしい気配に生徒達は早くも半ばパニック状態だ。
隊列など無視して我先にと階段を目指してがむしゃらに進んでいく。騎士団員の一人、アランが必死にパニックを抑えようとするが、目前に迫る恐怖により耳を傾ける者はいない。
その内、一人の女子生徒こと投擲師の園部優花が後ろから突き飛ばされ転倒してしまった。「うっ」と呻きながら顔を上げると、眼前で一体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。
「あ」
そんな一言と同時に彼女の頭部目掛けて剣が振り下ろされる。
死ぬ──彼女がそう感じたのだろう、目を閉じる。
しかし
「死人を出すわけにはいかないんでね」
「あ…」
「悪いが協力してほしい。数は多いがこっちには力がある。団結すれば勝てねえ相手じゃない」
「う、うん!わかった、ありがとう!」
ハジメ達が天之河を説得している間にパニックになって孤立しているクラスメイトを襲うガイコツ共を次々粉砕する。
「…!と、轟…なんで俺を」
「…今は生きる事だけ考えてな」
その内には檜山達もいたが平等に助ける。しかし無限に湧き出る恐怖でまともに動けていない。騎士団員のアランのフォローもあってなんとか犠牲者はいないが長期戦は不味い。
「皆、バラけるな!数は多いが一体一体はそれほど強くねえ!動きも単調だ!訓練を思い出せ!」
効率を考え一時的に纏めることにした。
なかなかヘイト集めた弊害で『なんでお前が』という顔をされる。
「もうすぐ天之河が来る!勇者の力ならこいつらはゴミ同然!犠牲者は出したくねえだろ!!」
癪に障るが天之河の名前を出すと目の色が変わった。そして…
「幸利」
「サイト!どうしたんだ、いつもと様子が違うな…」
「轟君…」
「…頼みがある」
俺は信頼できる親友、幸利とその彼女、辻さんにある事を話した。
「…信じたくは無いが・・・嘘とも思えない」
「トシくん…」
「悪いが本当だ。じゃ、頼むぜ」
「…あぁ。だが一つだけ言わせてくれ」
「なんだ」
「死ぬなよ、親友」
「…当然だろ。俺は死なねえ」
と同時に駆けつけてきた天之河と入れ違いになる形で俺はハジメのところへ。
丁度ハジメがベヒモスを抑える作戦をメルド団長に伝えている所だ。
「……やれるんだな?」
「やります!」
「…なら、俺も。」
「彩人君!?」
「後ろはあのチート勇者に任せときゃ大丈夫だ。…やるぞ。」
「…うん、君を信じるよ。メルド団長・・・ボク達に任せて下さい」
決然とした眼差しを真っ直ぐ向けてくるハジメに、メルド団長は「くっ」と笑みを浮かべる。
「まさか、お前さん達に命を預けることになるとはな。……必ず助けてやる。だから……頼んだぞ!」
「メルド団長、少しいいでしょうか」
「どうしたんだ?」
俺はハジメの作戦の殿を自分が務めると宣言した。
「危険すぎる!オレはお前たちを死なせるわけにはいかないんだ!」
「そうだよ彩人君!ボクなら大丈夫だから!」
「別に特攻する訳じゃないんスけど…。橋が崩壊したらハジメが逃げ切れない可能性があります。ハジメが安全な所に避難するまで食い止めるってだけで」
「し、しかし…出来るのか?」
「・・・団長、できるかどうかじゃないんです、やるしかないんです。俺は必ず食い止めます」
「…分かった。必ず助けにいくからな」
「ありがとうございます。俺が食い止める時に光で合図します。援護攻撃はその時に」
「ああ、全員で帰るぞ!」
メルド団長はそう言うとベヒモスの前に出た。そして、簡易の魔法を放ち挑発する。ベヒモスは、先ほど自身を攻撃してきた天之河を狙っていた。どうやら自分に歯向かう者を標的にする習性があるようだ。しっかりとその視線がメルド団長に向いている。
そして、赤熱化を果たした兜を掲げ、突撃、跳躍する。メルド団長は、ギリギリまで引き付けるつもりなのか目を見開いて構えている。そして、小さく詠唱をした。
「吹き散らせ――〝風壁〟」
詠唱と共にバックステップで離脱する。
その直後、ベヒモスの頭部が一瞬前までメルド団長がいた場所に着弾した。発生した衝撃波や石礫は〝風壁〟でどうにか逸らす。大雑把な攻撃なので避けるだけならなんとかなる。倒れたままの雫達を守りながらでは全滅していただろうが。
「ハジメ、行けるか?」
「うん、問題ないよ、行こう!」
再び、頭部をめり込ませるベヒモスに、ハジメが飛びついた。赤熱化の影響が残っておりハジメの肌を焼く。しかし、そんな痛みは無視してハジメも詠唱した。名称だけの詠唱。最も簡易で、唯一の魔法。
「――〝錬成〟!」
石中に埋まっていた頭部を抜こうとしたベヒモスの動きが止まる。周囲の石を砕いて頭部を抜こうとしても、ハジメが錬成して直してしまうからだ。
ベヒモスは足を踏ん張り力づくで頭部を抜こうとするが、今度はその足元が錬成される。ずぶりと一メートル以上沈み込む。更にダメ押しと、ハジメは、その埋まった足元を錬成して固める。
べヒモスのパワーは凄まじく、油断すると直ぐ周囲の石畳に亀裂が入り抜け出そうとするが、その度に錬成をし直して抜け出すことを許さない。ベヒモスは頭部を地面に埋めたままもがいている。中々に間抜けな格好だ。
隙を逃さず気力全開でベヒモスの角をかかと落としで粉砕する。
全力で戦えば橋が崩壊するおそれがあるが天之河の最強の技を受けて某伝説のサイヤ人の如く平然としてたし微調整して戦う。
「硬えが問題なさそうだな」
続けて反対側の角も破壊する。
やっつけ仕事だからクソなやつしか作れないの。許してください。
長くなったので次に続く。