「な・・・なにあれ・・あんなの・・・知らない・・・」
ミレディが顔面蒼白でつぶやくが、女性陣は全員顔を青ざめている。茶色の培養液に覆われ、頭部は辛うじて金髪が見えるが赤い瞳、胸部の発光体を除けばおどろおどろしいゲル状のバケモノである。香織達はもちろん、ユエ達ですら気を失いかけるほど醜い外見だった。
グルエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
バイオブロリーが雄たけびを上げるとゼリーの触手が魔物を吸収し、バイオブロリーに届けられている。
「……、ど、どうやらここの魔物はこやつのしょ、食料のようじゃな…な、内部の輩が操っているようじゃ……」
「ハジメさん!!魔石は何処ですかッ!!」
よろめきながら分析するティオと泣き叫びながらハジメに問いかけるシア。
「……ない。あいつには、魔石がない」
「ハ、ハジメちゃん? 魔石がないって……じゃあ、あ、あれは魔物じゃないってこと?」
「わからない・・・。でも、強いて言うなら、あのゼリー状の体、その全てが魔石だよ。私の魔眼帯には、あいつの体全てが赤黒い色一色に染まって見える。あと、部屋全体も同じ色だから注意して。あるいは、ここは既に奴の腹の中だよ!」
ただでさえバイオブロリーが計り知れないのにゼリー体も厄介。食事を終えたゼリー体がハジメ達に攻撃を仕掛けてくる。
「だったら焼き払うだけ・・・『グエエアアアアアアアアアア!!』・・・な!?」
ハジメが火炎放射器で迎え撃とうとするがバイオブロリーの目から放たれたレーザーが火炎放射器を破壊した。
「皆下がれ!!ハジメ、床に穴開けろ!今のままだと俺でも勝てねえ!!」
「え・・・わ、分かった!!」
彩人の言葉に一瞬戦慄するが彼の指さす方向に水流渦巻く亀裂があるのに気づいたハジメは〝錬成〟で穴を広げる。
続いてパイルバンカーで穴を広げようとするがバイオブロリーがそれを許すはずもなく両手に気弾を作り出す。
「!?まさか、アイツもサイヤ人!?」
「……なら、あの金髪は…!」
ガウルルルルルガァァアアアアアアア!!
「!?」
「そんな・・・っ!」
「嘘・・・」
ハジメに向かって気弾が放たれる。ユエ、香織、鈴は協力して障壁を張るも容易く突き抜けてしまう。
「波ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
彩人は速攻でかめはめ波を放つも、何とかずらすので精一杯だった。それた気弾が壁に当たり、海水が飛び散ったその時、バイオブロリーは慌てて飛び退きゼリー体で自分を守らせた。
「開いた!皆、息を止めて!」
それと同時にハジメが空けた穴に水があふれ出し吸い込まれていく。バイオブロリーは水流に呑まれる彩人達を攻撃しようとするが海水から離れる仕草をしている。
「(やっぱり海水が弱点か)」
彩人は水流に流され、水中を漂う香織と鈴を抱える。テレパシーでユエ達と別れる事を伝えると『……分かった』と返した。
水流の勢いが弱くなったタイミングで彩人は二人を抱えたまま舞空術で一気に浮上し砂浜へ運んだ。
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砂浜以外はうっそうとした雑木林が広がっていた。周りに敵の気を感じなかった彩人は二人を介抱した。やがて二人が目覚めると、
「「ねぇ、彩人」くん」
「ん?」
「どうして……私達を助けたの?」
「エリリンやおね・・・ユエさんじゃなくて良かったの?」
「・・・あのメンツでやられるわけないだろ。さっきのは例外だがな・・・。それに二人が心配だったからだ」
「・・・そうだよね」
「・・・」
「それよりもハジメからミニ〝宝物庫〟を預かってる。二人共風邪ひくから着替えな」
「う、うん・・・ありがとう・・・」
「あ、そ、そうだね・・・」
彩人から指輪をわたされていそいそと岩陰に行く二人。ここぞという場面でアプローチしないのとさっきの反応から二人の内心を察する彩人。彩人自身は気で水分を吹き飛ばしたので必要なし。
「お、おまたせ・・・」
「着替え終わったよ」
「よし、じゃあ皆と合流するぞ。・・・と言ってもこの密林を抜けるしかないがな」
「ひぅっ…虫はいやぁ・・・・」
「悪いが我慢してくれ、鈴。密林以外に進める場所は無いんだ」
「・・・・分かった」
意気消沈しながらも彩人のそばに寄りそう鈴。香織も彩人達に続くも彩人の近くに居るのにも関わらず二人の心は晴れなかった。
「これは・・・まるで
「すごい……帆船なのに、なんて大きさ……」
「でもなんでこんなに…」
密林を抜けた先には数百メートル以上ある巨大な帆船が大量に放置されていた。大砲の有無はあれど激しい戦闘の跡が多く残っているため戦艦がほとんどを占めている。
「中央の船・・・客船か?」
「多分そうかも。装飾とか見ても豪華だし……」
「ひょっとして襲われてたのかな」
三人が客船に近づいた次の瞬間。
――うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
――ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
「!!」
「彩人くん!ま、周りが!」
「な、何!?何が起きたの!?」
多くの人間の怒号と同時に空間が歪みだし三人は戦いの最中の船の甲板の上に居た。ボロ船どころか多くの新品の船上で兵士が武器片手に戦いを繰り広げている。
「な、何がどうなってるの…!?」
「私、夢でも見てるのかな?」
「・・・残念ながら現実みてえだ」
武器がかち合う音、飛び交う魔法弾、燃え上がる船体、石化するマスト、飛び散る血しぶき、海へ落下する者の断末魔。間違いなく戦火の真っ只中だ。そうしているうちに火球が三人に向かって飛んでくる。彩人は気弾で迎え撃つが、すり抜けてしまう。
「・・・っ、面倒な・・・!」
「私に任せて!〝光絶〟!」
鈴の障壁が火球を防ぐ。またもや飛んでくる火球を彩人は殴り飛ばすと、
「・・・!・・・っつ・・・・」
「彩人くん!〝天恵〟!!」
普段なら余裕で弾き飛ばせるはずの低級魔法で拳を焼かれた彩人。すかさず香織が傷をいやす。
「厄介だな・・・ここで魔力無しが効いてくるとは・・・」
「どういう事?」
「香織、鈴、ここはお前らが頼りだ。俺の気がまるで通じねえ。だが魔法なら通用するみてえだ」
彩人が言うと同時に三人の後ろで一人の男性が倒れた。
「だ、大丈夫ですか!?い、今回復を『うがぁ…』・・・・え?えっ? ど、どうして……」
香織は確かに〝回復魔法〟を使った。だが次の瞬間男性はうめき声をあげて消滅してしまった。
「・・・どうやら魔法なら何でも効くらしい」
「……それじゃあ、わ、私……あの人を殺し……」
「香織、回復魔法をかけられて消滅する人が居るか?」
「あ…うん、そうだね…ごめんなさい。ちょっと取り乱しちゃったけど、もう大丈夫」
「・・・、まずいな。鈴、香織、俺に掴まれ。飛ぶぞ」
「「・・・え?」」
鈴と香織が周りを見ると武器を持った男たちが三人に襲い掛かろうとしていた。慌てて彩人に抱き着く二人を何とか支え、舞空術で飛び去る彩人。しかし
『全ては神の御為にぃ!』
『エヒト様ぁ! 万歳ぃ!』
『異教徒めぇ! 我が神の為に死ねぇ!』
囲んでいた男たちが目を血走らせ涎をまき散らしながら三人を見上げて叫んだ。今の状況を一言で表すのなら"狂気"だろう。よく聞けば他の兵士も神の名を叫んでいる。名は違うのだが一部の兵士は彩人達を標的にしているため狂気にとらわれた表情で届きもしないのに三人に攻撃しようと武器を振り上げ、マストからジャンプして海へと落ちていく。時間が経てば経つほど狂気の兵士たちは増えていく。
「・・・二人共、悪いがこの場一帯に魔法を撃ってくれ」
「え・・・あ・・うん、回復魔法なら・・・」
「障壁でもいいならいけるよ!」
「そうか、なら頼む。この戦いを終わらせるにはそれしかねえ・・・!」
ふたりの魔法で狂気の兵士たちは一掃されたが目の前で仲間がやられているのに狂った笑いを浮かべながら魔力の壁に特攻し、消滅していく。行き過ぎた信仰の末路と言うべきか。味方を巻き込む前提の魔法もそれを裏付ける要因にほかならず無残にも消えていった。
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兵士を一掃したのち空間が歪み元の砂浜に戻された。
「……うっ、げほぉ、かふっ、ごめ゛……」
「…かはっ…ごぷっ……ゲホゲホ……」
「・・・二人共、よく頑張った」
もどるやいなや鈴と香織は恐ろしさのあまり嘔吐した。彩人にこんな姿を見られたくはなかったが二人を心配する彼が背中をさすってくれたおかげで二人は楽になった。
「ごめんね…彩人くん」
「彩人・・・ごめんね・・・」
「・・・まぁ、あんなのを見たらな・・・・俺も流石に恐怖を感じたぞ。妄信的な奴は何人か見てきたがあそこまで行くと最早狂気だ・・・とりあえず今は休め。魔力も回復させておくんだ」
「…うん、そうだね。…でもさっきのは何だったんだろう」
「ここの廃船と関係があるのかな?」
「可能性は高い。周りの戦艦に近づいた時戦争の世界になった・・・しかも俺達に襲い掛かるというおまけつき。試練としては勿論、これがこの迷宮のコンセプトなのかもな」
「コンセプト?」
「あ、【グリューエン大火山】でティオさんが言ってたのだね?」
グリューエン大火山に同行していない香織に鈴が補足説明をする。
「だとしたらここのコンセプトは……狂った神がもたらすものの悲惨さを知れ……かな?」
「まあ、そんなところだろうな」
そういうと二人は先ほどの光景をおもいだしたのか再び口を抑える。彩人が香織と鈴の手を握ると二人は少し驚いたがすぐに安堵と嬉しさが混ざった顔になり冷静さを取り戻す。
「彩人くん、ありがとう」
「そういえば彩人もキツかったんじゃないの?」
「まぁ、キツくないかと言われれば嘘になる。でも見慣れているし・・・奈落の底で魔物に襲われて死にかけたときハジメが変貌してさ・・・俺が正気を失ったらどうなることやら」
「「その話詳しく」」
「・・・いや、その魔物はハジメがズタボロにしたから・・・」
先程までの弱弱しい雰囲気から一転表情を失う二人をなんとかなだめた。気を取り直して問題の豪華客船に足を踏み入れる。全長300m超、10階建ての巨大な帆船である。見事な外観に三人は目を奪われたが彩人の舞空術で船に乗り込むと空間が歪んだ。
「二人共、気を引き締めろ。碌な世界じゃないだろうしな」
「……うん。大丈夫だよ」
「私も平気」
覚悟を決めた三人の眼前に広がる光景は・・・煌びやかなパーティーの光景だった。星の輝く夜に巨大な帆船の上で人間族、亜人族。魔人族が楽しげに談笑しながら所せましと並んだ料理を食している。
「パーティー……だよね?」
「なんだかとっても楽しそう」
「気で探って・・・悪意を感じないな」
船上に居る者から見えない位置で様子をうかがう三人。すると船員らしき人物が数人、テラスで一服しながら談笑していた。
『ようやくこの時が来たな』
『ああ、長かったぜ。でもこれで戦争とはオサラバだ』
『なんか和平条約?かなんかで決まったらしいぜ。ま、何にせよ今夜で全て終わる』
そんな会話が聞こえた。甲板でも異種族同士で和気あいあいとした会話が行われている。皆笑顔だった。
「こんな時代があったんだね」
「なんだかこっちまで嬉しくなっちゃうよ」
「条約で終戦か・・・憎しみもあるだろうにここまで穏やかになるとは・・・相当な苦労があったんだろうな」
「きっと、あそこに居るのは、その頑張った人達なんじゃないかな? 皆が皆、直ぐに笑い合えるわけじゃないだろうし……」
「そうだろうな」
和やかな雰囲気に三人の頬も思わず緩む。すると甲板に用意された壇上に荘厳な服装の初老の男性が登った。彼がてを振るとその場にいた全員の表情が真剣なものになり敬意を込めた目で彼を見つめる。その彼の傍らには側近の男とフードを被った人物が。
すると初老の男性がスピーチを始めた。
『諸君、平和を願い、そのために身命を賭して戦乱を駆け抜けた勇猛なる諸君、平和の使者達よ。今日、この場所で、一同に会す事が出来たことを誠に嬉しく思う。この長きに渡る戦争を、私の代で、しかも和平を結ぶという形で終わらせる事が出来たこと、そして、この夢のような光景を目に出来たこと……私の心は震えるばかりだ』
どうやら一国の王である彼が中心となり和平へと導いたらしい。周りの彼に向ける敬意の理由を察したが、彩人は彼の気が徐々に悪意に染まっていくのを感じていた。
『――こうして和平条約を結び終え、一年経って思うのだ………………実に、
王の言葉に騒然とする一同。しかし演説は終わらない
『そう、実に愚かだった。獣風情と杯を交わすことも、異教徒共と未来を語ることも……愚かの極みだった。わかるかね、諸君。そう、君達のことだ』
『い、一体、何を言っているのだ! アレイストよ! 一体、どうしたと言うッがはっ!?』
アレイスト王に質問した一人の魔人族が背後に居た兵士に胸を剣で貫かれる。
『陛下ぁ!』
『しっかりなさってください!』
『くそっ、心臓を刺された!血が止まらん!!』
倒れた魔人族に複数の男女が駆け寄る。それを見ている王はそれでも演説を止めない。
『さて、諸君、最初に言った通り、私は、諸君が一同に会してくれ本当に嬉しい。我が神から見放された悪しき種族ごときが国を作り、我ら人間と対等のつもりでいるという耐え難い状況も、創世神にして唯一神たる〝エヒト様〟に背を向け、下らぬ異教の神を崇める愚か者共を放置せねばならん苦痛も、今日この日に終わる! 全てを滅ぼす以外に平和などありえんのだ! それ故に、各国の重鎮を一度に片付けられる今日この日が、私は、堪らなく嬉しいのだよ! さぁ、神の忠実な下僕達よ! 獣共と異教徒共に裁きの鉄槌を下せぇ! ああ、エヒト様! 見ておられますかぁ!!!』
狂気にとらわれた表情でにへらと笑いつつ恍惚の表情で天を仰ぐアレイスト王。彼の合図と共に複数の兵士が現れて参加者に襲い掛かる。マストの上に陣取った部隊の魔法攻撃、甲板上の武器を持った兵士。海上にもボートに乗った兵士が待ち構えており何が何でも逃がさないという意思が伝わる布陣だった。
「ひ・・・・」
「ううっ」
「鈴、香織」
再び目の当たりにした狂気に充てられる鈴と香織。彩人が船内に入っていくアレイスト王の後に続くフードの人物から銀色のきらめきを見たが何かを判断する前に空間が歪んで船上へと戻された。
ぶっちゃけ勇者(笑)は
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流石に反省して更生
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反省するけど更生しない
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反省しないけど態度は改善
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反省しないし改善しない