ありふれ世界のサイヤ人   作:M88星雲

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奈落の底へ急降下ジェットコースター~♪
落ちていく、よ~カオスの園へ~♪


いつか地上に帰りたいと天井を眺めていたな・・・

彩人がベヒモスに向かっていく間にトラウムソルジャーの方は、どうやら幾人かの生徒が冷静さを取り戻したようで、周囲に声を掛け連携を取って対応し始めているようだ。

 

「待って下さい! まだ、ハジメちゃんと彩人くんがっ!」

 

撤退を促すメルド団長に香織が猛抗議した。

 

「ハジメ達の作戦だ! ソルジャーどもを突破して安全地帯を作ったら彩人の合図を確認したら魔法で一斉攻撃を開始する! もちろんハジメ達がある程度離脱してからだ! 魔法で足止めしている間にハジメ達が帰還したら、上階に撤退だ!」

 

「なら私も残ります!」

 

「ダメだ! 撤退しながら、香織には天之河を治癒してもらわにゃならん!」

 

「でも!」

 

なお、言い募る香織にメルド団長の怒鳴り声が叩きつけられる。

 

「二人の思いを無駄にする気か!」

 

「ッ──」

 

メルド団長を含めて、メンバーの中で最大の攻撃力を持っているのは間違いなく天之河。少しでも早く治癒魔法を掛け回復させなければ、ベヒモスを足止めするには火力不足に陥るかもしれない。そんな事態を避けるには、香織が移動しながら天之河を回復させる必要があるのだ。

 

「天の息吹、満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん――〝天恵〟」

 

香織は泣きそうな顔で、それでもしっかりと詠唱を紡ぐ。淡い光が天之河を包む。体の傷と同時に魔力をも回復させる治癒魔法だ。

 

メルド団長は、香織の肩をグッと掴み頷く。香織も頷き、もう一度、必死の形相で錬成を続けるハジメともう一本を破壊しベヒモスに攻撃する彩人見た。そして、天之河を担いだメルド団長と、雫と龍太郎を担いだ騎士団員達と共に撤退を開始した。

 

トラウムソルジャーは依然増加を続けていた。既にその数は二百体はいるだろう。階段側へと続く橋を埋め尽くしている。

だが、ある意味それでよかったのかもしれない。もし、もっと隙間だらけだったなら、突貫した生徒が包囲され惨殺されていただろう。実際、最初の百体くらいの時に、それで窮地に陥っていた生徒は結構な数いたのだ。

 

 それでも、未だ死人が出ていないのは、ひとえに騎士団員達のおかげだろう。彩人の一声以上に彼等の必死のカバーが生徒達を生かしていたといっても過言ではない。代償に、既に彼等は満身創痍だったが。

 

騎士団員達のサポートがなくなり、続々と増え続ける魔物にパニックを起こし、魔法を使いもせずに剣やら槍やら武器を振り回す生徒がほとんどである以上、もう数分もすれば完全に瓦解するだろう。

生徒達もそれをなんとなく悟っているのか表情には絶望が張り付いている。誰もが、もうダメかもしれない、そう思ったとき……

 

「──〝天翔閃〟!」

 

純白の斬撃がトラウムソルジャー達のド真ん中を切り裂き吹き飛ばしながら炸裂した。

橋の両側にいたソルジャー達も押し出されて奈落へと落ちていく。斬撃の後は、直ぐに雪崩れ込むように集まったトラウムソルジャー達で埋まってしまったが、生徒達は確かに、一瞬空いた隙間から上階へと続く階段を見た。今まで渇望し、どれだけ剣を振るっても見えなかった希望が見えたのだ。

 

「皆! 諦めるな! 道は俺が切り開く!」

 

そんなセリフと共に、再び〝天翔閃〟が敵を切り裂いていく。天之河が発するカリスマ(?)に生徒達が活気づく。

 

 

「お前達! 今まで何をやってきた! 訓練を思い出せ! さっさと連携をとらんか! 馬鹿者共が!」

 

皆の頼れる団長が〝天翔閃〟に勝るとも劣らない一撃を放ち、敵を次々と打ち倒す。

いつも通りの頼もしい声に、沈んでいた気持ちが復活する。手足に力が漲り、頭がクリアになっていく。実は、香織の魔法の効果も加わっている。精神を鎮める魔法だ。リラックスできる程度の魔法だが、光輝達の活躍と相まって効果はばつぐんだ。

 

治癒魔法に適性のある者がこぞって負傷者を癒し、魔法適性の高い者が後衛に下がって強力な魔法の詠唱を開始する。前衛職はしっかり隊列を組み、倒すことより後衛の守りを重視し堅実な動きを心がける。

 

治癒が終わり復活した騎士団員達も加わり、反撃の狼煙が上がった。チートどもの強力な魔法と武技の波状攻撃が、怒涛の如く敵目掛けて襲いかかる。凄まじい速度で殲滅していき、その速度は、遂に魔法陣による魔物の召喚速度を超えた。

そして、階段への道が開ける。

 

「皆! 続け! 階段前を確保するぞ!」

 

天之河が掛け声と同時に走り出す。。

…ある程度回復した坂上と雫がそれに続き、バターを切り取るようにトラウムソルジャーの包囲網を切り裂いていく。

 

そうして、遂に全員が包囲網を突破した。背後で再び橋との通路が肉壁ならぬ骨壁により閉じようとするが、そうはさせじと天之河が魔法を放ち蹴散らす。

クラスメイトが訝しそうな表情をする。それもそうだろう。目の前に階段があるのだ。さっさと安全地帯に行きたいと思うのは当然である。

 

「皆、待って!ハジメちゃんと彩人くんを助けなきゃ! ハジメちゃんと彩人くんがたった二人であの怪物を抑えてるの!」

 

香織のその言葉に何を言っているんだという顔をするクラスメイト達。そう思うのも仕方ない。なにせ、ハジメは"無能"、彩人はヘイトマシマシの"足手まとい(?)"扱いだからだ。

 

だが、困惑するクラスメイト達が、数の減ったトラウムソルジャー越しに橋の方を見ると、そこには確かにハジメと私の姿があったことだろう。

 

「なんだよあれ、何してんだ?」

 

「あの魔物、上半身が埋まってる?」

 

「角も無くなってる!」

 

次々と疑問の声を漏らす生徒達にメルド団長が指示を飛ばす。

 

「そうだ!ハジメ達がたった二人であの化け物を抑えているから撤退できたんだ!前衛組!ソルジャーどもを寄せ付けるな!後衛組は遠距離魔法準備!彩人の合図を確認次第一斉攻撃で、あの化け物を足止めしろ!」

 

ビリビリと腹の底まで響くような声に気を引き締め直す生徒達。中には階段の方向を未練に満ちた表情で見ている者もいる。

無理もない。ついさっき死にかけたのだ。一秒でも早く安全を確保したいと思うのは当然だろう。しかし、団長の「早くしろ!」という怒声に未練を断ち切るように戦場へと戻った。

 

「・・・ハジメ、あと何回いける?」

 

「あと二回…魔力値が増えたからこれなら間に合うね」

 

希望に満ちた表情のハジメを見て、ベヒモスに攻撃しながら俺は少し考えた。ハジメを奈落行きに連れていくべきか。・・・出した答えはNOだ。純粋で優しいハジメをここでも魔王にしていいものか、と考えたからだ。移動面や物品の管理等は色々困るがね。

 

「悪いが次で最後だ。後ろの準備が整ったみたいだしな、次に錬成したら階段に向かって走れ。全力でな」

 

「え、でも…」

 

「魔力がカラになった時に万が一ってことがあるかもしれないだろ?俺の事は心配するな」

 

「…信じていいよね?必ず帰ってきてね」

 

「ああ。生きて、な」

 

「――〝錬成〟!・・・・・待ってるからね」

 

最後の錬成を終えて俺の横を駆け抜けていくハジメ。

自分を拘束し続けたハジメを睨みつけるベヒモスの顔面に俺は右足で回し蹴りを入れた。

 

「何処見てんだ?今の相手は俺だ」

 

ベヒモスの左頬が凹み、長い首がゆっくりと戻ってきて俺にターゲットが移る。

 

グルァァァァァアアアアア!!

 

怒りのあまり咆哮し拘束していた石壁を破壊する。

 

「彩人くん!」

 

「まだだ!彩人の合図が無い!」

 

「でも、このままじゃ…!」

 

今にも突進してきそうなベヒモスの前に立つ彩人を見て香織が飛び出しそうになるがメルド団長が抑える。

攻撃魔法の準備をしている者、階段前でガイコツを抑えている天之河たちも走るハジメも、

 

「はやく逃げて」

 

と叫んだ。

 

「・・・ここだっ」

 

すると彩人は何とベヒモスにむかっていったのだ。

誰もが終わった、と思ったが。彩人はベヒモスの顔の前で両手を額にかざして叫んだ。

 

太陽拳!!!!

 

すると彩人の額を中心に凄まじい閃光が放たれた。ベヒモスは視覚を潰され、橋を破壊しかねない勢いで暴れ始めた。

その隙に地面を蹴って一気に階段方面へ飛ぶ。

 

「今だ!総員、撃てぇぇぇ!!!」

 

合図を確認したメルド団長の合図でベヒモスに無数の色とりどりの魔法弾が放たれる。

 

「彩人君!」

 

助かったと思ったのか命の危険下にあるにも関わらずハジメはこちらを振り返り笑顔で待っていた。

・・・しかし。

 

炎属性の魔法弾がハジメを狙って飛んできた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「…無駄に頭回るな、アイツ」

 

俺は瞬間移動でハジメの背後に回り魔法弾を受ける。

 

「さ、い…と…君?」

 

気を張るのがわずかに遅れ、ダメージをくらう。目を見開いたハジメをよそに振り返るとやっぱりアイツ(・・・)がニヤニヤと笑みをうかべていた。

そいつに気を取られたせいで橋の崩壊に気づけず石畳が揺れ始め、同時に床が抜ける。

ハジメも巻き込んでしまった。

 

「彩人くん!ハジメちゃん!」

 

香織の叫び声が聞こえた。一瞬だが飛び出そうとしている香織が雫や光輝に羽交い締めにされているのが見えた。他のクラスメイトは青褪めたり、目や口元を手で覆ったりしている。メルド達騎士団の面々も悔しそうな表情で俺達を見ていた。

 

「(ヘイト集めしていたから自業自得だが…ハジメは関係ないだろうに)」

 

光が途絶えていく中でそんな事を考えていた。

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