ニジとサンジの狭間くん(編集中)   作:しぃすけ

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2024/11/11

 01 0806ゼリルしゃべる

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 ――昔々ことだ。

 

 ――大陸スピトゥール

 

 ――魔を司る神カオスラボスと

 聖をつかさどる女神ニューリアの壮絶な戦いがあった。

 

 オーク、スケルトン、デーモン、それから、肉の塊に、一つ目の霧。砂の怪物、スライム、サキュバス、

 瘴気を纏った禍々しい軍勢を従え。【魔物】

 

 人間、エルフ、ドワーフ、虫、魚、鳥、トラ、オオカミ、ヘビ、ユニコーン、ドラゴン、サンダーバード、人魚

【生物】

 血の通った軍勢

 

 無数の魔物が塵と化し、無数の命が多くの血を流し、骸となった。となった。

 

 壮絶な戦いの末、女神ニューリアは魔神カオスラボスを滅ぼし、

 

 海に囲まれた世界の大陸の果てに追いやり、

 世界の果て、やめの世界へと追いやり、

 

 光の壁でその扉を封じた。

 

 ――こうして生き物たちの世界に平穏が訪れたのだ。

 

 ――生き延びた生命は、命を紡ぎ続ける。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 〇もっと馬鹿馬鹿しい話に。

 ・俺が好きなのは人間の乳だ!

 でもぱざら入ってたよ。おっぱいはいい物だって。よくしらねぇけどな。人間なんか興味もねぇ

 ・ちっちゃい仲間、乳はでかい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇その昔、光と闇の戦いがあった。光の使い、ビースト。

 闇の使い、魔物(まぶつ)

 戦いの果て闇は討ち滅ぼされ、ニューリアの体は世界中に散った。

 

 

 

 

 

 夜の草原をオレンジ色の髪を逆立て、山賊と武闘家を混ぜたような服装の少年が死に物狂いで駆け抜けていた。

 

「うおおおおおおおおおお!!!!! 一体何が起きてんだよおおおおおーーーー!!!!!!!」

 

 背後からはゴブリン、スケルトン、オーク、ゴースト、コボルトなど、この付近に出現しうるあらゆる魔物(まぶつ)――闇から生み出される異形の怪物――が一目散に“彼ら”を追ってきていた。

 

「おいお前!本当に何も知らねぇのかよ!!」

 

 少年は元々鋭い目付きをさらに細めて、右手で抱えている“彼女”に問いかける。

 

「知らないって言ったじゃないですか! 気がついたら追いかけられてたんですから!!!!」

 

 “彼女”は女騎士を想起させる凛とした声で抗議した。

 

「つーかそもそもお前、一体何の生物なんだよ!」

 

 ――そう、少年が小脇に抱える彼女は人ではなかった。

 

 彼女はまるで、人の顔くらいの大きさの饅頭を横に二つくっつけたようなフォルムをしていて、肌質や体温、なによりその柔らかさは、人間の“とある部位”に酷似していた。

 

 有り体に言って、彼女はどう見てもおっぱいだった。

 

 

 

 ――――この日、少年《ジュモ・オレンジバック》は拾ったのだ。

 

 

 

 ――――世にも奇妙な、喋るおっぱいを。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 多くの生命で満ち溢れ、天高く伸びた木々がどこまでも広がる《オルバ大森林》森の中。木々の隙間から降り注ぐ陽光が、招かれざる客人達を照らしていた。

 

 五人ほどのの深緑色のフードを被った人間の男たちがニタニタとした笑みを浮かべながら森の出口へと向かっている。

 

「ギャハハ! さすがお頭、まさか本当にフォレストドラゴンの赤ん坊が手に入るとは! こりゃ当分酒代には困りませんなぁ!!」

 

 その言葉通り、先頭を歩く“お頭”と呼ばれた男の小脇には、中に小動物が閉じ込められた檻が抱えられていた。

 

「クルルゥ……」

 

 檻の中で不安げに鳴き声を漏らしたのは、山羊のように渦巻いた角を生やし、苔のような深緑色の鱗に覆われた四つ足の竜――フォレストドラゴンの赤子だ。

 

 男たちは《ビーストハンター》。希少な動物(ビースト)を密猟し、時には貴族の愛玩動物として、時には武具の素材として売り払うロクでなしたちだ。

 

 フォレストドラゴンはこの森の長である。そして、その子供が攫われたということは、森の動物(ビースト)達にとっては大事件だった。

 

 次第に騒がしくなっていく森。――そして、その非常事態にいち早く気づきハンターたちを追う者がいた。

 

「――見つけたぜ、クソ誘拐犯ども……!!」

 

 その逆立ったオレンジ髪と凶悪な目付きは見間違いようもない。少年、ジュモ・オレンジバックだ。

 

 ジュモは吹き抜ける風の如き身軽さで木から木へと飛び移り、ハンター達への距離を詰めていく。

 

「お、お頭、何か近づいて……」

 

 ハンターたちが気づいた時にはもう遅い。

 ジュモは木の上から大きく飛び上がると、めいいっぱいの恨みを込めて一人のハンターを踏み潰した。

 

 ドッッッシーーーーーーン!!!!!

 

「ぎゃあああああ!!!!」

 

 突如起こった地響きと仲間の悲鳴。

 混乱するハンター達の前に、砂埃の中からジュモがようやく姿を表した。

 

 薄茶色のサルエルパンツを鋼の多関節のベルトで締め上げ、

 その上からは、髪色によく似たなオレンジ色のベストを着ている。

 そんな野性味溢れる服装とは裏腹に、額には、小さな二本角の付いた鉢金が、手足には鋼色が鈍く光る無骨なガントレットとレガースが身につけられていた。

 

「やっと追いついたぜ誘拐クソカス野郎ども!! さっさとをその赤ん坊を返しやがれ!!」

 

 ジュモはびしっと檻の中の龍の赤子を指さしながらハンターの頭目を睨みつけた。

 

「な、なんだてめぇ!ふざけやがって!!」

 

 ハンターの一人が、ナイフで咄嗟にジュモに襲いかかる。

 

「遅ぇ遅ぇ!!」

 

 だが、不意打ちだったにも関わらず、ジュモは目にも止まらぬ速さのパンチで男の顔面をぶち抜いた。

 

「ぐぎゃあああっっ!!」

 

 殴られた男が意識を失い、地面に倒れ伏す。

 

 ジュモの、子供らしさの抜けきらない顔立ちと言葉遣いとは裏腹に、その気迫にハンターたちは気圧され、確かな恐怖を覚えていた。

 

「ひぃっ……」

 

「な、なんだよこいつ……!」

 

「てめぇら!! なにガキ一人に何ビビってんだ! さっさと殺せ!!!」

 

 頭目が怒号を飛ばすと、残ったハンター達はナイフを抜き、一斉にジュモへと襲いかかった。

 数にして四人。それも、その全員が生き物を狩ることに長けた手練れだ。

 

「へっ……その程度か」

 

 ――だがジュモは全く怯まず、ハンターたちの背丈よりも高く跳び上がると、軽やかにバク宙をした。

 そしてその勢いで、背後にあった木の幹を蹴って反動を得ると、次の瞬間にはガントレットに包まれた両拳でハンターたちを殴り飛ばしていた。

 

「ぐべらっ!!!」

「ゴフッ!」

 

「もう一撃だぁっっ!!」

 

 ジュモは身を捻りながら再び跳び上がると、ムチのごとき勢いの蹴りを放ち、残る二人のハンターを薙ぎ払った。

 

「かはっっ!!!!」

「げはっ!!」

 

 ――一瞬のうちに取り巻きは全て倒され、残るは頭目ただ一人だ。

 

「ば、馬鹿な……たった二撃で……」

 

「うるせぇ、いいからさっさと赤ん坊を返しやがれ。そいつは森の宝だ。てめぇの汚ねぇ手で触れていいもんじゃねぇ。」

 

「獣人じゃあるまいし、サルみたいな動きしやがって!」

 

 獣人。

 ――な生き物人間。――な生き物動物(ビースト)

 その二つの特徴を併せ持つ希少な種族である。

 

 ――外見的な特徴を持つ獣人は

 中でもサルの獣人はその姿が人間とほとんど見分けがつかないことも多く、言い得て妙。

 

 もしもその金属の尾が毛皮に覆われていたら、頭目はジュモを獣人と見間違えただろう。

 

「ああそうだ、俺は獣人にゃなれねぇよ」

 

「ああん? 何言ってやがる。誰が好き好んで“半端モノ”になんかなりたがるかよ」

 

 ――半端モノ。

 

 獣人をそう呼ぶものも、少なからずいる。

 

「…………す」

 

「あ?」

 

「殺す」

 

 頭目は一つ、ジュものスイッチを踏んだ。

 

「ぐはっ!」

 

 ジュモの育ての親は、(パザラという名前の)猿の獣人だった。

 故にジュモは、獣人を愚弄するものを許さない。

 

 勝ち目がないことを悟った頭目は、抱えた檻の隙間にナイフを差し込むと、中のドラゴンの赤子に当てがった。

 

「動くな! 一歩でも近づいたらこいつの命はねぇぞ!!」

 

「くるるぅ……」

 

「ド腐れ野郎が……!」

 

 こいつはドラゴンを守りたがっている。効果覿面だ。

 

 頭目がニヤリと笑う。

 

「そ、そうだ、分かったならそのまま両手を上げて後ろに下がれ」

 

 ジュモは頭目を睨みつけながらも後ろに下がる。

 

 今最も大切なのは赤子の命を守ること。ジュモはそれを忘れてはいなかった。

 

「そうだ、それでいい……。いいか、俺が森を出るまでそこから動くんじゃねぇぞ……!!」

 

 

 やがで、ジュモとの十分な距離が空くと頭目は安堵した。

 

 ――だが、もう手遅れだ。

 

 なぜなら頭目は、ジュモの地雷をもう一つ踏んでしまったのだから。

 

「みんな! あいつをやれ‼︎‼︎」

 

 叫ぶと同時にジュモの身体が一瞬光に包まれ、細い光の線が四方八方に、まるで何かに導かれるように飛んでいった。

 

「な、なんだ⁉︎ いや、所詮こけおどし――」

 

 ジュモが叫ぶと森のあらゆる方向から木々をかき分ける音が聞こえ始める。そして甲高い遠吠えや、地を這うような唸り声が聞こえてきた。

 

 そして、ジュモの声に応えるかのように、小鳥が、リスが、鹿が、イノシシが、ゴリラが、巨大な蝶が、動く植物が、翼の生えたネズミが、翠色の狼が――森の動物達が、頭目を取り囲むように一斉に現れた。

 

 そして、|ビースト(動物)たちは皆一様に、ジュモから放たれた、淡い光を放っていた。

 

 呆気に取られた頭目の腕を小鳥がつつき、頭目はたまらずナイフを取り落とした。

 

「しまった!」

 

 咄嗟にナイフを拾おうとするが、今度はそれをリスが攫って行く。

 

「なにぃっ!?」

 

 そしてとどめとばかりに、鹿や猪が頭目に向かって突撃し、頭目はいとも容易く吹き飛ばされ抱えていた檻をついに手放した。

 

「ぐああああー!!!!」

 

 駆けつけたジュモが放り出された檻を受け止める。

 

「っぶねぇ!……よし、今檻から出してやるからな! そこの猿! 手伝ってくれ!」

 

 ジュモの呼びかけに答えたストレングス・モンキー(怪力猿)が檻を壊すと、ドラゴンの赤子が元気よく飛び出してきた。

 

『くるるぅっ!!』

 

「よっしゃ! 元気そうで安心したぜ!!」

 

「ひっ……ひいいいいいいいい!!!!」

 

 その様子を見てただ1人、一目散に逃げ出したのは、ドラゴンの赤子という人質を失った頭目だ。

 

 

「クソッ! クソッ!! あのガキまさか

 ビーストテイマー動物使い》だったなんて……!! いや!それにしたって一度にあれだけの動物(ビースト)を操るなんてできるわけがねぇ!一体どんな手を使って……ぐあっ!」

 

 転んだ頭目はついに大木を背にして追い詰められた。

 

「どうやら鬼ごっこも終わりみてぇだな」

 

「ま、待て……! お前ビーストテイマーなんだろ……? ならレアなビースト欲しいだろ……? 知ってる情報全部教えてやる! だからビーストどもを追っ払ってくれ! 命だけは助けてくれよ!!

 

 頭目の言っていることは全て本当だった。希少なビーストの情報は非常に価値のあるものだ。ひょっとすれば、その交渉を聞き入れるビーストテイマーもそれなりにいるだろう。

 

 ――だが、頭目にとって不幸だったのは、ジュモはそれらに価値を見出さないどころか、嫌っていたことだ。

 

「…………くっっっだらねぇ」

 

「は……?」

 

「くだらねぇって言ってんだ。そんなモンになんの価値がある」

 

「か、価値ってそりゃ…………」

 

動物(ビースト)たちは自分の生まれた場所で、いつだって誰だって必死に生きてんだ。……それをレアだの価値だの、人間の都合であいつらの生活を奪いやがって胸糞悪ぃんだよ!!」

 

「お、お前だってフォレストドラゴンが欲しいんじゃ……」

 

「俺は動物(ビースト)たちが『ドラゴンの赤ん坊が怪しい人間に盗られた』って大騒ぎしているやつがいたから協力して追いかけてただけだ」

 

「なんだって……? 一体、何の話をしてやがる。それじゃあまるで、ビーストの声でも聞こえるみたいじゃねぇか……」

 

 

 

「――ああ、聞こえてるぜ? みんなお前をぶちのめしたがってる」

 

 

 

 ――ジュモは、物心ついた時から動物(ビースト)たちの声を聞くことができたのだ。

 

 

 ビーストテイマーは、ビーストと意思疎通を図ることができる。だがそれはあくまで感覚的なものであり、本当の意味でビーストの声が聞こえるテイマーなど、頭目は聞いたこともなかった。

 

 故に、頭目に向かって響く数々の鳴き声も、ジュモにはこう聞こえていた。

 

『悪イ奴!!』

 

『余所者、追イ出ス!』

 

『敵ダ……』

 

『喰イ殺セーー!!!』

 

 ジュモの耳に森の平穏を見出そうとする余所者に鉄槌を与えよという声が響く。

 

「――なあお前ら。こいつの処遇は森のボスに決めてもらう。それでいいよな」

 

「ボス……だって…………?」

 

 顔面蒼白になった頭目に向かって、ジュモは上を指差した。

 頭目は、恐る恐る首を上げる。

 

 ギロリと自分を睨みつける首長の竜と目が合った。

 

 同時に、頭目が寄りかかっていた巨大な木が“宙に浮いた”。

 

「あ……あぁぁぁ……」

 

 頭目が寄りかかってた木。その正体こそ、誘拐されたフォレストドラゴンの親だったのだ。

 

「あばよ、クズ野郎」

 

「ぎゃ……ぎゃああああああ!!!!!!!!」

 

 頭目が最後に見た光景は、自分を押し潰さんと迫り来る、ドラゴンの足の裏だった。

 

 ◇

 

 ずしーん、ずしーん、ずしーん。

 

 遥か遠くまで広がる平原をフォレストドラゴンの巨大な脚が踏みつけていく。

 

 その苔むした大きな背中の上には、オレンジ髪のツンツン頭の姿があった。

 

「いやあ〜、悪いな、乗せてもらっちまって」

 

 背中にはリュックサック、前には助けた赤子を抱いてあぐらをかくジュモ。

 口では遠慮しつつも、ちゃっかりくつろいでいるのであった。

 

「グルルオオ……」

「くるるぅ……!」

 

 ドラゴンの親子が鳴き声をあげる。

 それもジュモには“言葉”として聞こえていた。

 

 

『オマエ、我ガ息子、助ケテクレタ。感謝スル……』

 

『アリガトウ! ニンゲン!!』

 

「おう、次からは攫われないようにお前も強くなるんだぞ?」

 

『ウン! ツヨクナル!』

 

 ジュモは赤子を助けたお礼に、ドラゴンに運んでもらっていた。

 

『進ム方向ハ、合ッテイルナ?』

 

「ああ大丈夫だ。ちゃんと北に向かってる」

 

 ジュモはこの広大な大陸、スピトゥールの最北端にある街、《聖都》を目指す旅人である。

 オルバ大森林に訪れたのはその途中でのことだった」

 

「もうすぐ日が落ちる。送ってくれるのはここまででいいぞ」

 

『ム? 別二、モット遠クマデ運ンデヤッテモイイノダゾ?』

 

「ありがとな。……でも、夜は危ねえからな。帰りに襲われでもしたら面倒だろ?」

 

『……ソレモソウダナ』

 

 ジュモの言う通り、スピトゥールの夜は恐ろしい。なぜなら夜は、闇から生まれし異形の怪物――魔物(まぶつ)が現れるからだ

 

『デハ、私ノ鱗ヲ持ッテイクトイイ』

 

 ドラゴンが体を震わせると、ペリリと鱗が一枚剥がれ落ちた。

 

「いいのか?」

 

 フォレストドラゴンの鱗は万病の薬になる。それ故に欲しがる人間が後を立たない希少品で、市場では常に高値で取引きされている。

 

 ジュモは鱗の金銭的な価値には微塵も興味がなかったが、旅の途中で病を患った動物(ビースト)に出会うこともある。そういった時、鱗は大変ありがたいのだ。

 

「そういうことなら、遠慮なく貰ってくぜ」

 

 ジュモは拾った鱗を後ろ腰のポーチにしまうと、森へ帰っていく親子を見送った。

 

「達者でなーーーー!!」

 

 やがて母親の背の上から手を振る子供の姿がら見えなくなると、ジュモはまた北へと歩き出した。

 

 ◇

 

 日が沈みきる頃になると、ジュモは辺りで一番背の高い木の上に登った。

 

「うし、この木なら大丈夫そうだな……おーい、お前らちょっといいかー?」

 

 ジュモは木の周りを飛び交うコウモリたちを見かけると声を掛ける。

 

『ニンゲン?』

『ニンゲンダ!』

 

「俺が寝てる間、何かあったら起こしてくれないか?」

 

 危険の多いスピトゥール。

 

 故に、夜になれば街の門は固く閉ざされるし、冒険者は二人以上で行動し、夜は必ず見張りをするのだ。

 

 だから、一人旅を続けるジュモはいつも、夜行性の動物(ビースト)に頼んで見張りをしてもらっていた。

 

『ワカッタ! 起コス!』

『何カ! アッタラ!』

 

「よし、たのんだぞ!」

 

 そうしてジュモはコウモリに手をかざすと、頭目の前で見せた手のひらから光の線が2本飛び出し、二匹のコウモリそれぞれの中に吸い込まれていった。

 

 ビーストテイマーが動物(ビースト)をテイムする際に放たれる光――リンクラインだ。

 

 リンクラインが弾かれず、無事吸い込まれれば、それはテイム完了の合図であり、その動物(ビースト)とは心を通わせることが出来るのだ。

 

 そしてテイムされた動物(ビースト)にはある変化が生じる。

 

『身体ガ軽イ!』

『フシギ!』

 

「だろ? 今のでお前らの身体能力が上がったんだ」

 

 

 》

 

 テイムされた動物(ビースト)は能力が上昇するのだ。

 

 それも、絆の強さで変動する

 

 おまけに、通常であればテイムを解除すればこの上昇効果は消えてしまうが、ジュモにテイムされたビーストは、解除後でも能力上昇は解除されない。

 ジュモはこの珍しい現象を、力を貸してくれた動物(ビースト)たちへのお礼だと捉えていた。

 《

 ◇

 

「ぐごお〜〜、ぐがあ〜〜」

 

『『オキロ! オキロ!』』

 

「んが……!」

 

 ジュモが眠りについてから一時間ほど。、イビキをたてながら爆睡するジュモの周りでコウモリたちが騒ぎ始めた。

 

「……何があった!」

 

 事態を把握したジュモは瞬時に飛び起き辺りを見渡すと、木の下で妙なものを見た。

 

「あん? なんだありゃ……」

 

 ジュモの視線の先では、緑色の小さな光が二つ跳ねるように移動していた。

 

動物(ビースト)の目か……? それとも、ホタルか……?」

 

 目を凝らしてみるが、目が覚めたばかりで暗闇に慣れていないジュモでは光の正体は判別できない。

 

『知ラナイ! ナンダロウ!』

『モチモチ! プニプニ! ウゴク!』

 

「はあ? プニプニだぁ……?」

 

 コウモリたちの要領を得ない説明に、ジュモはさらに首を傾げた。

 

「こりゃ、自分で確かめるっきゃなさそうだな……」

 

 ジュモは軽々と木から飛び降りると、足音を消して例の移動する光へと近づいていく。

 

 

 ぽよんっ ぽよんっ ぽよんっ ぽよんっ

 

 確かにプニプニモチモチ何かがジュモの目の前を跳ねていた。

 その“何か”は、球体が二つ隣り合っているような形をしていて、左右の球体の全面の頂点あたりで小さな光が輝いていた。

 

「なんだありゃ、珍しいスライムか……?」

 

 スライム――ゼリー状の体に饅頭のような形の代表的な魔物(まぶつ)の一種である。

 知る限り、体の一部が発光するスライムには覚えがなかったが、

 元より、住処や構成素材の違いにより派生種類の多いスライムのことだ、未発見の種がいたとしても不思議ではない。

 

 気になったジュモは、目の前のスライムもどきを、がばりっ!と後ろから掴みあげた。

 

「きゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

 すると同時にどこからともなく少女の悲鳴が聞こえてきた。

 

「のわあっ! なんだぁ!?」

 

 ジュモはたまらずスライムもどきを宙に放りだす。すると、スライムもどきは空中で体制を整え、ジュモの顔目掛けて飛びついてきた。

 

「このっ! 不埒もの!!!!!!!」

 

「もがっ! もががっ!!」

 

 再びジュモの耳に、凛とした少女の声が届く。

 

(……まさか! こいつが喋ってるのか……!?)

 

 普段から様々な動物(ビースト)と会話するジュモが驚いているのには理由があった。

 

 普段ジュモがビーストと会話をする際、動物(ビースト)の言葉はジュモにテレパシーとして伝わり、他の人が聞いた場合にはただビーストが鳴き声をあげているだけのように聞こえる。

 

 だが、ジュモはびりびり鼓膜が震えるのを感じたことで、このスライムもどきは、テレパシーではなく、実際にしゃべっているのだと理解したのだ。

 

 そしてジュモは、スライムもどきを引き剥がそうとする最中、さらなる疑問に苛まれる。

 

(なんだこいつの体……スライムのくせに妙にあったかくて弾力があるような……)

 

 いかにスライムが多種多様とはいえ、特有のぬめりとした粘着質の体を持っているという点はどの種類にも共通している。

 

 だが、いまジュモの顔に伝わっているのは、程よい弾力感の何かに柔らかく挟まれているような感覚と、心地の良い温度だった。

 

 ――――――それはまるで。

 

「ぶはあっ‼︎」

 

 ジュモは力任せに、顔にはりついたスライムもどきを引き剥がす。

 そして、ジュモは自分が大きな勘違いをしていたのだと悟った。

 

 ――ジュモに張り付いた彼女はスライムではなく、おっぱいだった。

 

 ――――スライムではなく、おっぱいだったのだ。

 

 その乳房の付け根の先に、本来ついているべき女体はなく、その容貌はまるで、大きな饅頭を横に二つくっつけたような外観をしていた。

 

「………………は?」

 

 ジュモが口をあんぐりと開かれる。

 訳もわからずおっぱいを左右に引っ張ってみるが、不思議なことに左右の乳房が離れることはなく、その谷間が少しばかり深くなるだけだった。

 

 さらに珍妙なことに、ジュモが見た2点の光はそれぞれの乳房の先端から、乳首を覆い隠すように放たれていた。

 

 おっぱい単体とはいえ、完全に人間のおっぱいだ。この光がなければ、公衆の面前に出ることはできなかっただろう。

 

「ちょっ、ちょっと!いい加減私を揉みしだくのを辞めなさい!」

 

 ピシャリと言い放たれたことでジュモは完全に理解する。

 

 ――やっぱり、さっきから喋っているのはこのおっぱいなのだ、と。

 

 ジュモはとりあえず、肺の空気を全て吐き出して叫んだ。

 

「おっぱいがしゃべったあああああああああああああ!!!!!!!!!!!??????」

 

 ……こんな状況で叫ぶのはごく自然なことだ。誰だったジュモのようになるだろう。

 

 だが、今回はタイミングが最悪だった。

 

「そんな大きな声を出しては奴らが……!」

 

 ざりっ、ざりっ

 

 何者かが地面を踏みしめる音が、おっぱいの言葉を遮った。それも、一つだけではない。次第に聞こえる音は数十に増え、それと同時に『ギャルル……』と人でも、動物(ビースト)でもない。”異形“のうめき声が聞こえてきた。

 

 子供ほどの背丈に濁った緑色の皮膚にギラついた瞳をした小鬼――ゴブリン。スピトゥールのどこにでも出現する低級の魔物(まぶつ)だ。

 

 現れたのはゴブリンだけではない。スケルトン(骸骨)ゴースト(霊体魔)オーク(豚頭人)コボルト(犬頭人)……それから空にも飛行系の魔物(まぶつ)が数種類。

 この辺りに出現する魔物(まぶつ)どもがこぞってジュモたちを取り囲むように現れた。

 

「おいおい……」

 

 ジュモの額に冷や汗が垂れた。

 ジュモが肝を冷やしているのは、何もジュモ達を取り囲んでなおまだ余りある数だ。

 

 ――魔物(まぶつ)どもは、まるで何かに誘い出されたかのようだった。

 

「奴ら、私を執拗に追いかけてくるんです! ようやく巻けたと思ったのにあなたが大声で叫ぶから見つかってしまったではないですか!」

 

「あぁ⁉︎ 知るかそんなもん! つーかそもそも先に悲鳴を上げたのはそっちだろうが! いや、そうじゃねぇ! なんでおっぱいの癖に喋ってんだよ! 一体何なんだテメー!!」

 

「それが人に質問をする態度ですか! 貴方! 非常識で無礼な人ですね! 後ろからいきなり触られたら、誰だって叫ぶに決まってるじゃないですか!!」

 

「喋って動くおっぱいがジョーシキどうこう言ってんじゃ――」

 

「ギャアアアア!!」

 

 二人の会話を遮るように飛び込んできたゴブリンが、おっぱいに向かって棍棒を振り下ろす。

 おっぱいは成すすべなく、その身に攻撃を受け――――ることはなかった。

 

 ガギンッ! と金属を殴りつけた音が響く。

 

「っぶねぇ……。油断してんじゃねぇぞ、このおっぱいが」

 

 ゴブリンとおっぱいの間に割って入ったジュモが、ガントレットで攻撃を防いだのだ。

 

「貴方、どうして……」 

 

「なんつーか……。困ってる動物(ビースト)が目の前にいたら助けちまう性分なんだよ」

 

「貴方は……脚も、翼も、尻尾もない。こんな私を見て、私をビーストだというのですか……?」

 

 おっぱいの言う通り、彼女は動物(ビースト)には決して見えない。その奇怪な外見は、ジュモが彼女をスライムだと誤認したように、どちらかと言えば魔物(まぶつ)のように見える。

 

 ――だが、それでもジュモは、彼女を動物(ビースト)だと判断した。

 

「俺は、お前が人間には見えない。……俺は人間が嫌いだ。お前が人間だったら、助けなかった」

 

「そ、そうではなく……!」

 

「――なら!!」

 

 ジュモはゴブリン振るった棍棒を跳ね返すと、ガラ空きになった腹に鋭い蹴りを放った。

 急所を的確に蹴り抜かれたゴブリンは他の魔物(まぶつ)を巻き込みながら大きく吹

 き飛び、崩壊した体は黒い霧となって、ジュモの腰に下がった、収魔結晶へと吸い込まれた。

 

 これこそが魔物(まぶつ)にとっての死だ。闇が形を持って生まれた彼らの死は、一片の肉体も残らず、故にそれに気づき弔う同胞もいない。

 

 ――当たり前だ。そもそも魔物(まぶつ)には、ココロなんてものはないのだから。

 

「お前は死んでも欠片ひとつ残らない、血も涙もない魔物(まぶつ)か?」

 

「――それは。――それだけは違います」

 

 彼女はきっぱりと言った。その言葉からは、彼女の強い心と、強い意思を感じさせた。

 

 彼女の言葉を聞いたジュモがニッと口角を上げる。

 

「生き物は、人間、魔物(まぶつ)動物(ビースト)、そのどれかに当てはまる。俺みたいな野生児のガキだって知ってる常識だ。――なら、人間でも、魔物(まぶつ)でもねぇお前はきっと……いや、間違いなく動物(ビースト)だ」

 

 ジュモ達を包囲していた魔物《まぶつ》が一斉に飛びかかる。

 ジュモはおっぱいを左腕で抱え込むと、迫るオークを踏み台にして大きく飛び上がった。

 

 

 ^

 

 

「きゃっ!」

「荒っぽくなるから、ちゃんと捕まってろよ!」

 

 ジュモの意思に応じてベルトがほどけ、うねりだす。

 ベルトは後ろ腰の一点で固定されていて、そこから伸びる様は、本物の尻尾のようだった。

 

橙猿の尾(モンキーテール)!!」

 

 ジュモの声に応じ正面の木に向かって勢いよく伸びたベルトが枝に巻き付いた。

 

 ビーストを模した

 絡繰(からくり)武具である。

   

 ジュモの装備、

 

 獣形装(ビースティック・アームズ) である。

 

 

「まずはここを突破するぞ!」

 

 ジュモは体を振り子のようにスイングさせ、勢いよく空中へと飛び出した。

 

「上から来ます!3体!」

 

「オラァ!! 剣虎の爪(タイガークロー)!!」

 

 その合図ジュモは素早く反応すると、右腕のガントレットから三本の鉤爪がせり出し、襲いかかる

 インプ(魔妖精)を切り裂いた。

 

「とにかく今は全力で逃げるぞ!!」

 

「一五度の方向!」

「どっちだ!」

 

 

 ◇

 

 魔物(まぶつ)の包囲網から一度は抜け出したジュモ達だったが魔物の勢いは衰えず、引き続き追いかけられながら草原を駆け抜けていた。

 それどころか、やっと数を減らしたと思っても新たな魔物がどこからか合流してきて、追手の数は増える一方だった。

 

「次から次へとキリがねぇ!おい、こいつら明らかにお前を狙ってるだろ!お前一体何なんだよ!!」

 

「私だって知りませんよ!!」

 

「はあ⁉︎」

 

「私何も覚えていないんですよ! 目が覚めたら深い洞窟の中にいて、気づいたら追いかけられてたんですから!!」

 

「何言ってんだお前!冗談はそのおっぱいだけにしろ!」

 

「私だって好きでこんなおっぱ……胸みたいな見た目してるわけじゃないんですよ! だからその……お、おっぱいって言うのやめてくれませんか!」

 

「そうは言ってもおっぱいはおっぱいだろうが!」

 

「安直にもほどがあります! 第一、私にはちゃんと名前が……いえ、思い出せないんでした」

 

「なるほどな、要はお前に名前がありゃいいんだろ?」

 

「はい?……いえ、そうかもしれませんが……」

 

 するとジュモは走りながら器用に首を捻り、うんうんと考え始めた。

 

「なあ、パイパイとニュウニュウ、どっちがいい⁉︎」

 

「なんですかその名前は!どっちもお断りです!」

 

「はあー⁉︎折角考えてやったってのに、文句の多い奴だな!」

 

「だってその名前どちらも胸からの連想でしょう⁉︎ 嫌ですよそんなの!! つけるならもうちょっと普通の名前にしてください!」

 

「普通だぁ⁉︎ くっそ……俺苦手なんだよそういうの……!」

 

 再びうんうんと考えた後、ジュモは何かを思いついたようだった。

 

「じゃあゼリルってのはどうだ!」

 

「ゼリル……? 素敵な響きですね――これも胸の別称などではないでしょうね」

 

 おっぱいが訝しげに尋ねる。

 

「うるせぇ、前に人間の町で見かけた菓子の名前からとったんだよ!なんか文句あるか⁉︎」

 

 どうせまたクレームを入れられるのだろうと身構えるジュモ。帰ってきた返事は意外なものだった。

 

「――いえ、あなたが付けてくれたこの名前、気に入りました。今から私はゼリルと名乗ることにしましょう。だからあなたも、私のことはゼリルと呼ぶように」

 

「わ、わかったよ……。ゼリル、ゼリルだな?」

 

「はい、よろしい」

 

 実のところゼリルはジュースなどの飲料を固めた菓子で、適度な弾力がありプルプルとしている。

 つまるところ、それもおっぱいから連想されたものであるが、ゼリルがその事実を知ることになるのは、もう少し先の話だ。

 

「あなたの名前も、教えてくれませんか? 動物(ビースト)の守り手殿」

 

「そんな大層なもんじゃねぇよ。俺はジュモ。ジュモ・オレンジバック。ビーストテイマーってやつらしい」

 

「らしい?」

 

「俺は森でビースト(動物)と一緒に暮らすうちに自然とテイマーの力を身につけてたみたいでな。俺としちゃ、ビースト(動物)と仲良くしてるだけだからあんまり自覚ねぇんだ」

 

「森で……?」

 

「ああ。ガキの頃、天蓋孤独になってな。森に住んでたパザラ――オレンジバック(猿)の獣人に拾われて以来、俺は森でビーストと一緒に生きてきた」

 

 オレンジバック――長い尾と、名の通り背中側になるにつれ濃くなっていくオレンジ色の体毛が特徴のサルの一種である。その獣人がジュモの育ての親だった。」

 

「では、ジュモの名前は」

 

「ああ、オレンジバックってのはパザラの種族から取ってる」

 

 

 

 

 

 

「――そんなわけで、俺にとっちゃビースト(動物)と獣人が同族でな。自分たちの都合でビースト(動物)の命を弄ぶ人間が、俺は大嫌いなんだ」

 

 

 だからジュモは、あのビーストハンターのような男は、絶対に許さないのだ。

 

「――ジュモ、あなたのことが今少し、わかりました。その上であなたは伝えておこうと思います」

 

「ああ? こんな状況で何言おうってんだ」

 

 もっと説教っぽく

「いいですかジュモ、人間が敵だというあなたの考えには賛成できません。時に悪事を働く人間がいることもまた事実ですが、それは彼らの置かれた境遇や環境が彼らをそうさせたのです。真に悪である人間など――――」

 

「説教垂れてるとこ悪いがゼリル」

 

 ジュモが、足を止めた。

 

「……わりぃ、しくじった」

 

「……はい?」

 

 夜の逃走劇は、追ってが人間ならば逃げ手が有利に進むが、魔物(まぶつ)が相手では大きくなハンデを背負わされることになる。闇の住人である魔物はよく夜目が効くし、反対に人間は夜目が効かない。それがつまりどういうことかと言えば――進む道を、大きく間違える可能性があるということだ。

 

 ――ジュモの眼前には、行く手を遮るようにどこまでも続く、大きく、そして深い谷が広がっていた。

 大型の飛行ビーストをテイムできれば飛び越えることができるのだろうが、運悪く、夜空にはコウモリ一体飛んでいなかった。

 

 振り返ると、合流に合流を繰り返し無数に増えた魔物(まぶつ)たちが赤い目を光らせ、刻一刻と距離を詰めてくる。

 

「この崖を飛び越えるのは無理だ。そしてお前を守りながらこの数の魔物(まぶつ)の中を切り抜けるのも無理だろうな」

 

「……そう、みたいですね」

 

「自殺はいけまんせの説教!!」

 

 

「ばーか、そんなつもりねぇよ! お前の命は大事だ。だが、俺は俺の命も大切にしてんだ!1」

 

 ジュモはそう言い切ると、再び助走を付け、走り出そうとした。

 

 

 

「なりません‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

 

 

 驚いたジュモが、足を止めた。

 

「あなただけが身を投げ打つなど、あってはなりません。……私は、自己犠牲のような考え方は――否定しませんが、私は嫌いです」

 

「ならどうしろってんだ」

 

「――最後の最後まで共に、命ある限り必死に足掻く――というのはどうでしょう」

 

 その言葉に、ジュモはまた、ニッと笑った。

 

「その考え方、気に入ったぜ……‼︎ 俺だってこのまま死にたかねぇ!」

 

 ジュモは、今度こそ助走をつけながら谷へと飛び込んだ。

 

槍蜥蜴の尾(リザードテール)‼︎」

 

 尾の先端がジャギン!と槍のように変形し、壁に向かって勢いよく打ち込まれる。

 だが、尾は岸壁を穿つことなく空を切った。

 

「クソッ!」

 

 ジュモががむしゃらに再び尾を放とうとした時、聞こえたのはゼリルからの助言だった。

 

「ジュモ! ベルトを腰から外して下さい! 腕の長さ分リーチが伸びます‼︎ タイミングは私が合図します!」

 

「そういうことなら任せたぜ……‼︎」

 

 ジュモは外したベルトを手に持ちかえると、ゼリルからの合図を待った。

 

 落下を続けていると、壁が突き出るように大きく隆起した箇所があった。

 

「ジュモ! あそこを狙うのです‼︎」

 

「分かってる! 槍蜥蜴の尾(リザードテール)‼︎」

 

 ジュモが再びベルトを伸ばすと、槍のように尖った先端が壁へと突き刺さった。

 

「よしっ!」

 

 ジュモはそのまま、向こう岸の石壁にとりつくべく、ベルトの先端が突き刺さった箇所を軸にスイングさせた。

 そして、ガントレットから伸ばした爪を壁に食い込まさんとした、その時だった。

 

 ガギンッ‼︎

 

 食い込みが甘かったのだろう。ベルトの先端が岩から外れ、ジュモは再び宙へと投げ出された。

 

「クソッタレが」

 

「ジュモ! 諦めてはなりません‼︎」

 

「んなもんわかってる! けどこの状況で一体何を――」

 

「――祈りましょう」

 

 ゼリルが落ち着き切った、凛とした声色で告げる。

 普段のジュモであれば、素っ頓狂な声を上げるか、文句を言っていただろう。

 だが、ゼリルからは有無を言わせない迫力があった。

 

「……分かったよ、ただ諦めながら死ぬよりかは、いるかもわかんねぇ女神に祈るほうがよっぽどマシだ‼︎」

 

 ――女神ニューリア。

 

 かつての聖と魔の戦いにおいて、魔人カラボスを打ち破った末、傷ついた自らの体を世界中に散らばせたという女神であり、このスピトゥールで広く信じられている『聖教』の唯一神だ。

 

 だが、森で育ったジュモにとって、神だの教えだのと言うものはどれも嘘くさいものであり、当然信じてなどいなかった。

 故に、ゼリルの呼び掛けがなけらば、ジュモが祈ることは決してなかっただろう。

 

 だから、だろうか。

 ジュモたちが谷底に身を叩きつけられんとしていたその瞬間。

 ――奇跡が起きた。

 

 ジュモの体を、淡い緑色に光る球体が包んだ。

 そのまま地面に衝突し、ドガン‼︎ と轟音が鳴り響くが、ジュモは負傷どころか、衝撃一つ感じなかった。

 

「助かった……のか?」

 

 身を包んでいた球体が消滅すると、ジュモは恐る恐る立ち上がった。

 

「おいゼリル、なんだか分からんが俺たち助かったぞ!」

 

 ――返事がない。

 

「ゼリル?」

 

 腕の中のゼリルを見たジュモは、ある異変に気づく。

 

「ち、乳首が――‼︎」

 

 そう。ゼリルの乳房の先端から放たれていた光が消え、隠されていた乳首が露わになっていたのだ。

 

「まさか、死んでねぇよな……?」

 

 ジュモがゼリルの胸に耳を当てると、しっかりと心臓の鼓動が聞こえてくる。

 

「気絶してるだけ……なのか? ったく、目でもついてりゃそれも判るってのに、こう言う時おっぱいってのは不便だよなぁ……」

 

 

 そして、ジュモは一つ気になることがあった。

 ジュモを守るように、光る球体が現れたかと思えば、ゼリルの光が消えていたという事実を。

 

「……ひょっとして、お前が守ってくれたのか?」

 

 ジュモがぼやくように尋ねるが、ゼリルはまるで寝息をたてるように、静かに胸を上下させるだけだった。

 

 ◇

 

「よっ……ほっ……よっ……はっ……」

 

 一定の間隔で聞こえてくるジュモの声に、ゼリルは目を覚ました。

 

「ん……。えーと……ちょ、ちょっと一体今どういう状況ですか⁉︎ 何も見えません!」

 

「やっと起きたのか、つーかお前の目ってどこだよ」

 

「そ、その……乳首のあたりから視界の情報を得てます」

 

「ああ」

 

 ぺろん、と服を捲り、ゼリルを露出させた。

 見ると、光が灯ってた

 

「……しょうがねーだろ、背中に縛り付けたら落とした時に助けられねぇんだから」

 

 そう。ゼリルが驚いたのは崖を登る上で、ジュモが選択したゼリルを運搬する方法だった。

 

 そびえたつ断崖絶壁を上り切るには両手を空ける必要があった。そして、そのためには、抱えたゼリルを体のどこかに縛り付けておかなければならなかった。

 

 

 考えた末、ジュモが出した結論は、“ゼリルを自分のベストの中に入れる”ことだった。

 

 そして、それはあたかも、ジュモが巨乳……いや、爆乳の持ち主になっているかのようだった。

 

「……! そうです、私たち確か谷底へ落ちて……」

 

「覚えてねぇのか?」

 

「……はい?」

 

 ジュモは、ゼリルに突如現れた光の球体のことを話した。

 

「――光の球体、ですか。私にそんな力があるのでしょうか……?」

 

「さあな」

 

「……もっと愛想のよい返事をしてくれたっていいのではないですか? それに、私の身を案じてくれるのは有り難いですが、私の収納場所は、もう少し何とかならなかったのですか……?」

 

「うっせぇ。俺だって他の方法があるならそうしてる。自分におっぱいがついてる見たいで気持ちワリーし、ずっとふにょふにょしたのが肌に触れてて変な感じするんだよ。文句があるなら他の方法を言ってみろ!」

 

「…………確かに。屈辱ですが、今はこの方法がベストだと、私も同じ結論に辿り着きました。ズボンの中に仕舞われるよりはよかったと考えるようにしましょう。

 

「ズボンか……、それは考えてなかったな」

 

「本当にやめてください‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

 売り言葉に買い言葉。その後も乳首の光が戻っただの、セクハラだのと、ゼリルとジュモは喧騒を撒き散らしながら崖を登り切った。

 

「ジュモ、空が……!」

 

「ああ、夜明けだ――」

 

 ジュモが空を見上げると、長かった夜が明け、煌々とした朝日が差し込みはじめるところだった。

 

 集まっていた魔物(まぶつ)も日の光を避け、散り散りに逃げていく。そして、逃げ遅れ、日光に触れてしまった魔物(まぶつ)は、一瞬にして消滅してしまった。

 

魔物(まぶつ)が……」

 

「これでようやく、落ち着いて話ができそうだな。お前これからどうするんだ?」

 

「どうする……ですか?」

 

「ほらアレだよ、目的っつーか、なんつーか。魔物(まぶつ)のこととかは覚えてたみてーだし、自分がどこから来たとか、何か他に覚えてることとかねぇのか?」

 

 ジュモの問いに、ゼリルは「目的、と言ってよいのかはわかりませんが」と前置きをして答えた。

 

「私は、どこかに行かなければならない気がするのです」

 

「へえ、そりゃどこだ?」

 

「それは……わかりません」

 

 それを聞いたジュモは、「ぷっ」と吹き出した 

 

「ぎゃはは! そんなことだろうと思ったぜ」

 

「な……! 何も笑うことはないじゃないですか!」

 

「なあゼリル。俺と来ないか?」

 

「あなたにも、何か目的があるのですか?」

 

「そういや、まだ言ってなかったな」

 

 そういってジュモは、胸元にしまってあったペンダントを引き抜いた。

 

「俺はこいつをパザラの妹に渡すために聖地に向かってる」

     

【パザラの遺言だ】このへんいれる???→読み直して確認

 

 

「わざわざ聖地に……?」

 

「届けてくれって、パザラの最期の言葉なんだ」

 

「最期……?パザラさんはもう……

 

「ああ、殺された。人間に。

 

[ジュモ、それは――」

 

「あー、やめだやめ。せっかくの旅の始まりに湿っぽい話は無しだ」

 

 

 

 

 ジュモは、指で地面にスピトゥールの大地を描いた。

 スピトゥールの大地は海に囲まれており、北に行くにつれ大地が狭まっていく、雫のような地形だ。

 

「聖地ってのはここだ」

 

 大陸の最も北、最も細い部分をジュモは指さした。

 

「この天辺の場所がジュモの目的地なんですね」

 

「なんでもここは世界の果てらしい」

 

「世界の果て……ですか?」

 

「……正直俺もイマイチ信じていなんだけどよ、なんでも聖地には強い聖なる力を操る聖女がたくさんいて、闇の国の入り口を塞いでるんだってさ」

 

「なんだか壮大な話ですね……その、闇の国、というのは?」

 

 ゼリルの脳裏に浮かんだのは、先ほどまで自分を執拗なまでに追いかけていた魔物(まぶつ)たちだ。

 

「そうか、ゼリルは『聖魔大戦』も知らないんだったな」

 

「はい……」

 

「このスピトゥールには、反対側があるんだ」

 

 ジュモは雫型のスピトゥールの大地のさらに北に、鏡写しになったもう一つの雫型の大陸を書いた。

 二つの雫型の大陸が線対称につながり、大地の形はあっという間に雫から、八の字型に変わった。

 

「この反対側の大陸ってのが闇の国だ。そして、俺たち住むスピトゥールは昔、『光の国』って呼ばれてたらしい」

 

 そうしてジュモは『聖魔大戦』を語り出した。

 

「その昔、闇――魔物(まぶつ)を司る魔神カラボスと、聖物――俺たち人間や、動物(ビースト)を司る女神ニューリアの戦いがあった。

 戦いの結果、闇の勢力は負けて、光の大陸から闇の力は排除された。

 境目では光の壁を貼って封印している」

 

 

「今、壁の向こうはどうなっているのですか?」

 

「……さあな。復活した魔物(まぶつ)がうじゃうじゃ犇いてるかもしれないし、大陸がなくなってるのかもしれん」

 

「――パザラの妹が聖地にいる、ということは、妹様は、聖女なのですか?」

 

「さあな」

 

「パザラが妹の話をするなんて、あの時がはじめてだった。でも最後に言うくらいなんだ、きっと何かワケがあるんだろう」

 

 

 ―― だから俺は、いかなくちゃならない。

 

「ジュモ、私の成すべきことがわかるまで、旅にお供してもよろしいですか」

 

「ゼリル……。よし、じゃあ決まりだな。じゃあ次の目的地は――」

 

 ジュモが言いかけたその時、ゼリルから放たれている光が、眩く輝きはじめた。

 

「きゃああっ!」

 

「うおっ! なんだ!」

 

 そして次の瞬間。光はと光線(ビーム)なってジュモの頬を掠めながら、彼方へと放たれ始めた。

 

「熱っ……くねぇ……? つーか、今度は一体なんだよ!」

 

「――ジュモ、分かりました」

 

 慌てふためくジュモとは反対に、ゼリルは落ち着き払っていた。

 

「あ?」

 

「この光が指し示す先に、私が目指すべき場所があります」

 

「そうなのか? でもよぉ……」

 

「信じられないというならジュモ、私の体を反対方向に向けてみてください」

 

「反対に……? まぁいいけどよ」

 

 ジュモは言われた通りにゼリルを持ち上げ、反対側に向けようとするが――

 

「うおっ‼︎」

 

 ジュモの怪力をも上回る勢いで、ゼリルはすぐに元の方向へと向いてしまった。

 それはまるで、方位時針が北を指し続けるかのようんだった。 

 その勢いに振り回され、吹き飛ばされたジュモが地面に転がる。

 

「これでわかりましたか?」

 

「……ああ、まるで何か、強い力に引っ張られてるみてーだった」

 

「私も同じように感じました。――だからきっと、この光は私を導く光なのです」

 

「真北の方角か……確か『ジラーマ』っつー人間の街があったはずだ。避けて通ろうと思ってたが、仕方ねぇ」

 

 

「じゃあよろしくな」

 

 ジュモはリンクラインを出した。

 だが、それはゼリルに吸い込まれることなく、弾き出された。

 

「あ?」

 

 知らない現象だった。

 

「どうかしましたか……?」

 

「お前本当にビーストか?」

 

「もう!」

 

「こ、断るなら今のうちですよ!」

 

「ばーか、もう俺はお前と旅することに決めたんだよ、今更そんなことどうでもいい問題だ」

 

 ジュモは立ち上がる。

 

「さあ行こうぜ、ゼリル」

 

 こうして、野生児ビーストテイマーと野良おっぱいの旅が幕を開けた。

 

 ちなみに、ジュモがバックパックを、寝床にした木の上に置き去りにしたことに気づいたのは、この直後のことである。

 

 

 ◇

 

「はあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜…………」

 

 ジュモは大柄なシカの動物(ビースト)、『ケリュー・ディアー』の背に跨りながら、大きなため息をついた。

 

「さっきからため息ばかりついて……、聞かされるこっちの身にもなってくださいよ」

 

 呆れたように返答するのは、ケリュー・ディアーの首元に跨がった――もとい、へばりついているゼリルだ。ケリュー・ディアーが地面を蹴るたびに、その乳房がばるんばるんと盛大に揺れている。

 

「だってよ〜〜〜〜……」

 

 そうぼやくジュモの背にはバックパックはないままだった。

 

 ――遡ること、一時間前。

 バックパックを木の上に置き忘れてきたジュモは、大型鳥のビーストの力を借りて谷を超え、寝床にした木まで戻ったのだが……。

 

「――パックがねぇ‼︎」

 

 木の上に登ってみても、そこにパックはなかった。

 

「本当にこの木で合ってるんですよね?」

 

「ああ、それは間違いない。でも一体どうして……」

 

 するとジュモは、パックを盗んだ犯人の痕跡を見つけた。

 

「なるほど、そういうことか……」

 

「ジュモ、何か見つけたのですか?」

 

「ゼリル、これ見てみろ」

 

 ジュモが指差した木の幹には、小さな傷があった。

 そして、よく見ればその傷は、一定の間隔で木の幹についているようだった。

 

「ジュモ、これは?」

 

「一度降りるぞ」

 

 ジュモはゼリルを抱え地面に降り立つと、今度は地面を指さした。

 

「これ見りゃ分かるだろ」

 

 そこには、寝床にした木を登ったであろうお、小さな動物(ビースト)の足跡と、それからバックパックを引きずっていったであろう跡が残っていた。

 

「ひょっとして、この足跡の主が、バックパック消失の犯人だと?」 

「ああ。多分シーフラビットの仕業だな」

 

 シーフラビット――二足歩行に進化したウサギのビーストで、その最たる特徴は珍しい物を見つければ、それが何であろうと巣穴に持ち帰ってしまう手癖の悪さだ。

 

「あいつら、珍しいものを見るとすぐ盗んでっちまうからな」

 

「では、この足跡を追いかければパックが見つかるわけですね」

 

「まあな。だけど、追いかけるのは辞めだ」

 

「え?」

 

「あいつらが物を盗っちまうのは本能だからな。人間が欲に眩んで盗むのとは訳が違う。それにこの跡をよく見てみろ。行きの足跡に比べて、すげぇ地面が抉れてるだろ? 俺のバッグにゃ色んなもんが詰まってた。だから普通には運べなくて、地面を思いっきり蹴って、少しずつ押しながら運んでったはずだ」

 

「痕跡からそんなことまで……」

 

あいつら(ビースト)と暮らしてきた時間が長いからだろうな、何となく分かっちまうんだよ。どれだけ頑張って運んだのかも。だから、俺はあいつらからバッグを奪って頑張りを無駄にしたくない」

 

 

 

 ――ということがあったのだが……

 

「自分でバッグを取り返さないことを選んだのだから、もっと堂々としてなさい!」

 

「そうは言ってもよぉ、あのバッグには旅の途中で出合ったビーストからもらった物とか、色々入ってたんだぜ? それとこれとは話が違うんだよぉ……」

 

「あっ! こらっ! なんで私を揉むんですか!」

 

 ジュモは腹いせとばかりに無言でゼリルを揉みしだき続けた

 

「……改めて見ても、やっぱ人間のおっぱいだよ……」

 

「やめてください! 私だって、水面に映る自分の姿を見て仰天したんですから」

 

「つーか、この光も一体なんなんだ?」

 

 ジュモは好奇心のままに、両手でゼリルの両の光――すなわち乳首のある位置をつついた。

 

「ひゃんっ‼︎」

 

「なっ……なんだよ妙な声だして!」

 

「あなたこそ何考えてるんですか!」

 

「だっ、だってほら、光ってるに触ったらどうなるのかとか、色々気になるだろ!」

 

「信じられません! 次に同じことしたら絶好――は、私が困ってしまうので――二度と口を聞きませんから‼︎」

 

「分かった、悪かったって……」

 

「それで?」

 

「あ?」

 

「それで、何か分かったんですか、私のちく……胸の光を触って」

 

「あー……いや……」

 

「なんですか、分からなかったのならそれはそれでハッキリ言いなさい」

 

「他の部分と違って、ちょっとだけ固かった」

 

「当たり前でしょう⁉︎」

 

「――あ」

 

「今度は何ですか?」

 

「分かったっつーか、その光を隠してたら、どうなるんだろうなって」

 

「どうなる……とは?」

 

「その光って、聖術の光に似てるんだよ。もしかしたら魔物(まぶつ)どもはその光に誘われてゼリルの元に集まってきてるんじゃないかと思ってよ」

 

 聖術――主に聖女など、素質を持ったもののみが扱うことのできる術であり、その光は淡い緑色をしている。

 

「つまり、私が昨夜追われていたのは、この光が剥き出しになっていたからであり、光を隠してしまいさえすれば追われることもなくなる、と」

 

「まあな。俺も聖術のことはよく知らねーから、多分だけどな」

 

「……しかし成程、試してみる価値はありそうですね」

 

「ただ、光を隠すってなるとどうしたもんかねぇ。バックがありゃ、その中にしまったんだけどよ」

 

「やるからには、徹底的に光を遮断できるようにしてくださいよ。たとえば、何かで私の全身をくるんでしまう、とか」

 

「……! なるほど、その手があったか」

 

 ◇

 

 あれから数刻が経ち、草原には、再び夜が訪れようとしていた。

 ケリューディアーはナワバリへと返し、現在ジュモたちは、通常時の速度はイマイチだが、とにかく逃げ足の速さに定評のある馬のビースト、『エスケープ・ホース』の背に乗っていた。

 

「(ジュモ、現在の状況はどうです?)」

 

 ジュモの腕の中から、やけにくぐもったゼリルの声が聞こえてくる。

 

「ああ。まもなく日が暮れそうだ。……それにしても今のお前、“サザダンゴ”みたいだな」

 

 サザダンゴとは、その名の通り、ダンゴをサザと呼ばれる植物の葉で包み蔓で縛った菓子である。

 

 ジュモが似ているといったのもそのはずで、今のゼリルは大きな植物の葉で全身を包み、蔓で縛ることで光が外に漏れないようにしているのだ。

 

 それからすぐに夕日が沈みきり、いよいよ検証が始まり、結果はすぐにわかった。

 

 

「駄目じゃないですかあああああああああ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

 ――ダメであった。

 

「俺に聞くなあああああああ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

 この阿鼻叫喚の状況からわかるように、検証は大失敗。ジュモは今日も魔物(まぶつ)の大群に追われることとなっていた。

 

「なんであいつらゼリルに気づけるんだよ‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

「全身を包んでなお光の遮断が不十分だった、もしくは私が狙われることと光の見える見えないに因果関係はなかったということではないでしょうかあああああああ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

 

「この状況の中冷静な考察ありがとうよ‼︎‼︎ 頼むエスケープホース‼︎ 全速力で頼む‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

『ブルヒヒヒヒャーーーン‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎(言ワレ無クテモ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎)』

 

 この瞬間、ジュモとエスケープホースの思いが心の底から一致したことで、テイムによる能力上昇が上乗せされ、エスケープホースは見事なまでに魔物(まぶつ)の軍勢から逃げ切り、やがてまた朝が来た。

 

 ◇

 

 朝日が大地を照らす中、ジュモとゼリルの旅は二日目を迎えていた。

 ちなみに、エスケープゴートはあの後すぐに逃げ出してしまったので、現在乗っているのは、背中に大きなコブが一つついた馬、『ハンプ・ホース』だ。

 

「ひ、酷ぇめにあった……」

 

「それは私のセリフですよ馬鹿者!」

 

「お前だって俺の作戦に賛同してただろうが!」

 

「それは……そうですが」

 

「ったく夜になるたびあの調子じゃ命がいくつあっても足りなねぇ。街に行ったらどうにか解決する方法を見つけねぇと……」

 

 そうしてジュモが何か策を考えようとした時、ジュモはあることに気づいた。

 

「あーーー‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」  

 

「どうしました⁉︎」

 

「そうだ、ギルドカードもバッグの中だ……」

 

「ギルドカード……?」

 

「ギルドカードってのは、自分がどの程度の冒険者かって情報を書いてくれて……まあ俺はそっちのほうはどうでもいいんだけどよ……それがないと街に入るにも金が必要なんだよ!」

 

 そう言ってジュモがポーチの底から出したのは、数枚の硬貨だった。

 

「これじゃ、〇〇〇〇が買える程度だ……」 

 

「なるほど、このままでは街に入ることすらできない、ということですね」

 

「そういうことだ。街に入りたかったらお前も何か作戦考えてくれよな」

 

「そうですね、うーん……」

 

「あ! 天才的な作戦を思いついたぜゼリル。お前の魔物(まぶつ)を引き寄せる特性を利用するんだ」

 

「私の……ですか?」

 

「ああ、まず適当な商人か何かの馬車を見つけるだろ? そして『今夜お前は魔物(まぶつ)に追われる。死にたくなければ俺を護衛につけろ』って言うんだ。一度は断られるかもしれねぇが、夜になりゃゼリルのせいで大量の魔物(まぶつ)が押し寄せてくる。そうなったら商人は俺たちを雇うしかなくなるわけだ。どうだ、俺のこの名案は」

 

「却下です」

 

「なんでだよ」

 

 長文お説教

 

 

「相手に不条理を押し付けるそのやり方が気に入りません。それに、商人を連れて魔物から逃げ切れる保証はありません」

 

「……やり方が気に入らねぇってのは知ったこっちゃねぇが、逃げきれない可能性があるってのは確かにそうだな」

 

「単純に、商人に物を売るというのやり方ではダメなのですか?」

 

「……! 確かにそうかもしれねぇが、売るっつっても何売ればいいんだ? 知っての通り俺は今何にももってねぇぞ」

 

「そうですね……道中、薬草や果実を採っていっていはいかがでしょうか」

 

「その手があったか! よしゼリル、その作戦でいくぞ」

 

 ◇

 

 ジュモ達は街までの道中、薬草や果実を、動物(ビースト)に在処を尋ねながら集めた。

 現在、ジュモが背負ったお手製の植物のツルで作ったカゴの中には、それらがぎっしりと詰め込まれていた。

 

 そして、街に大分近づき、街道に差し掛かったところで、ジュモたちはついに二頭の馬が率いる荷馬車を見つけた。馬車の手綱を握っているのは、顎髭を蓄えた男だ。きっと商人だろう。

 

 ジュモはハンプ・ホースを馬車の横に付けると、商人との交渉を始めた。

 

「おいテメェ!」

 

「ヒッ! と、盗賊‼︎」

 

「誰があんな奴らと!」

 

「こらジュモ!」

 

「うわあ! おっぱいがしゃべった‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

 動揺した商人が手綱を無理やり引っ張ったことで、混乱した馬は暴走し、街道から外れた明後日の方向へと走りだしてしまった。

 

「馬鹿野郎‼︎」

 

「ジュモ追いかけてください!」

 

 岸壁が迫っていた。

 

「うわあああああ‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

 ジュモはハンプ・ホースの背から飛び出し、暴走する馬車の正面へと周りこんだ。

 

「止まれえぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎‼︎」

 

 ジュモの両手からに伸びたリンクラインが馬に届き、理性を取り戻した馬が必死にブレーキを掛ける。だが勢いは戻らない。

 

「大樹象の足棘《エレファントスパイク》 !」

 

 ジュモはレガースの足の裏からスパイクを迫り出させ、正面から馬車を抑え込む。

 

「うぎぎぎぎぎぎ……!」

 

 そして、すんでのところで馬車は踏みとどまった。

 

「っぶねぇ……」

 

「ジュモ、大丈夫ですか……!」

 

 ゼリルもハンプホースに乗り、ジュモのところに歩いてくる。

 

 おっぱいが喋っているところを再び目撃し、それが現実だと悟った商人は、力なく馬から降りた。

 

「あ、あんたら何もんだ……何が目的なんだ……」

 

「俺たちは、あんたに物を売りたい」 

 

「……はぁ?」

 

 

 

 再び街道近くまで戻った一向は、改めて顔を合わせていた。

 

「……で、その喋るおっぱいは一体なんなんだ」

 

「おっぱ……まあいいでしょう。私のことは珍しい動物(ビースト)とでも思っておいていただければ。それから、おっっぱいではありません、ゼリルです。そしてこちらはジュモです。」

 

「お、おう……。ビーストとこんなに流暢に会話するなんて、妙な感じだ。……こんなビーストがいるなんて、聞いたこともねぇけどよ……つーことは兄ちゃんがテイマーか?」

 

「ああ」

 

「……分かった。まずはその売りたいものとやらを見せてくれ」

 

 結局、商人は少し考えたあと、ジュモ達の取引を聞くことにした。 ジュモ達が幸運だったのは、この商人が生粋の珍しいもの好きのギャンブラー気質だったことだ。

 

 ジュモは、リュックから道中で採っておいた果物を見せた。

 

「ふむ……、どれもこの辺りで採れるもんではあるが、質がいい全部合わせて2000リアってところだな」

 

「……それじゃ足りねぇ。もっと高くならねぇのか」

 

「無茶言うな。その変の商人じゃ、難癖つけてもっと安く買い叩いてるところだ。交渉に応じてやってるだけでも有り難く思って欲しいもんだ」

 

「ぐぬぬ……」

 

「それより、そんな珍妙なビースト連れてるくらいだ。もっと珍しいもん持ってないのか? 毛皮とか鱗とか」

 

 そう言われ、ジュモは自分のポーチにフォレストドラゴンの鱗が入っていることを思い出し、取り出した。

 

「そ、そいつはフォレストドラゴンの鱗じゃねえか! そうそう、そういうのを待ってたんだよ! さあ交渉をはじめようじゃねぇか」

 

「――いや駄目だ。こいつは金に換えるためにもらったもんじゃねぇ」

 

「……はぁ、そうか。それじゃあ交渉は終わりだ。珍しいもん見せてもらった例に、それは2100リアで買い取ってやる」

 

 そうして、商人は荷物をまとめ始めた。

 

「待てよ」

 

「なんだ? これ以上値段を釣り上げろってのは無理だぞ」

 

「あんたの荷物の中、コロカの葉だろ」

 

 コロカの葉――クスリである。

 

「へぇ、カマかけて脅そうってか」

 

「カマじゃねぇさ、実際聞いたんだ」

 

「聞く? 誰に」

 

「カーマとルーシュ」

 

「……あ?」

 

 商人の顔からサアっと血の気が引いていく。

 なぜなら、その名前は、実際に馬に付けた名前だったからだ。

 

「どこで聞いたんだ」

 

「決まってんだろ、あいつらに聞いたんだ」

 

「冗談はよせ」

 

 

「俺はビーストの声が聞こえてなぁ。あんた感心したぜ、見かけによらず、あいつらのこと大事にしてんだな。こまめに蹄の手入れしてくれてありがたがってるぜ」

 

「そんな……ばかな」

 

「ただ、手入れの時、ガールフレンドの愚痴を言ってくるのは不満だってさ。商人のグルゼさんよ」

 

 それは、二頭の馬しか知り得ない事実であり、ついでのように名前を言い当てられたのでは、商人――グルゼは信じざるをえなかった。

 

 

「……参った。こっちも訳ありでね、チクられて商人免許を剥奪されちゃ困るのさ」

 

 そういってグルゼは5万リラを差し出した。

 

「毎度――例に教えておいてやる。ルーシュの後ろ右脚が痛むらしい。街に行くんだろ? 診てやってくれ」

 

「なんだって……? 疑わしいが、おまけにこれも持っていきな。お古だが、使い勝手はいいはずだ」

 

 商人は、ジュモにリュックを渡した。

 

 

 

「あんな奴に弱みを握られるとは、最悪の日だ」そう思いながらジュモ達の背を見送るグルゼ。

 

 一応ジュモの言う通り、獣医にルーシュの足を見せたところ、本当に骨のヒビと関節の炎症が見つかったのは、別の話だ。

 

 

 

 ジュモとゼリルの会話

 

 

 

 

 

 02 ジラーマの街

 

 ジュモ達は無事街に入ることができた。

 

 途中、ゼリルのことを不審に思った衛兵と、それにジュモが噛みつき、独房にぶち込まれそうになるなどあったものの、概ね無事である。

 

 スピトゥールでは、――のため、北に行くほど強力な魔物(まぶつ)が湧くが、そのんで言えば

 

 

 ジラーマの街は、スピトゥールの大地の南部に位置するため強力な魔物(まぶつ)も少なく、なおかつ東西の中心にあるため来訪者が多く、交易の盛んな街である。

 

 また、周辺に村が多いため、お登りで冒険者になる物が多い街でもあった。

 

 

 

 

「うげぇ……やっぱり街は人が多すぎて嫌気が刺してくるな……」

 

「ここがジラーマの街ですかー」

 

「街は初めてか?」

 

「はい! 建物も、服装も、市場も、活気付いています!」

「ジュモ! あれは露天ですか?」

「ぜひ見に行きたいです!」

 

「人混みやだぜ……」

 

「そうとは言わず!」

 

「げぇ……」

 

 ジュモは露天へ行き、

 ゼリルを見た人はどよめく。

 

 

「はいよってうわあ! おっぱいが喋ってる!」

 

「この装飾品は、何の素材でできてるのですか?」

 

「お、おう……こいつは〇〇つーここらで採れる石を加工したもんだ」

 

「なるほど……ではこれは……」

 

「なあ兄ちゃん、なんなんだ」

 

「ビーストだ」

 

「いや、どう見てもおっぱい――」

 

「おっぱいに擬態するビーストだ」

 

「ああ、兄ちゃんの趣味か……悪いことはいわねぇ、憲兵に見つからないうちにもっと別のもんに擬態させとくんだな。ちなみの俺はおっぱいよりケツ派だ」

 

「……ありがとよ」

 

「で、何か買っていってくれるのかい?」

 

 

 

 

 

「悪い、金ねぇんだ」

 

「なんだい、冷やかしなら帰んな帰んな!」

 

 

「ああ! もっと色々なものを見たかったのに!」

 

「お前のせいで面倒なことになっただろうが……。それより、あの光のことはどうなったんだよ、何か思い出したとか、体に変化があったとか」

 

「そういえば……特に変わったことはありませんね……」

 

「あれだけ派手な光線出しといてそれかよ」

 

「出したくて出したわけでは!」

 

「はあ……もう一回出してためすっきゃねぇか。それにしても、ここじゃ目立っちまうしなぁ……」

 

「そのことなんですがジュモ、 おそらく出せません。力が出ないのです」

 

「なるほどなあ、休めばまた撃てるようになんのかなぁ」

 

「そういうことですので、私の件は後回しにして、まずはギルドカードの件をすましてしまってはいかがでしょうか。

 

「だな。さて……ギルドギルド……」

 

 ジュモが街を歩いていたところだった。

 

 

「道を開けてくれ!」

 

 冒険者、男を連れている。

 

「ぐあぁ……」

 

「しっかりしろ、教会までもう少しだけ。聖女様に治してもらうぞ!」

 

「怪我、でしょうか……?」

 

 ゼリルが心配そうに尋ねる。

 

「毒だ。魔物に毒をもらったんだ」

 

 見物人の男が「またか……」と声を漏らす。

 気づいたゼリルが、話しかけた。

 

「頻繁にあるのですか?」

 

「ああ、ここのところ……うおぁっ!? おっぱい⁉︎」

 

「なんですか、いきなり失礼ですね」

 

「しゃ、喋ったああああ⁉︎⁉︎」

 

「あー……こいつは俺のテイムしたビーストだ」

 

 

「ビーストって、一体何の!」

 

「それより、ああいうの、よくあるのか?」

 

「あ、ああ……。最近になって近くに毒を持つビーストが大量に湧くようになってな。元々高額だった解毒薬がさらに跳ね上がって、貧乏な冒険者じゃ、ああやって急いで帰ってきて聖女様を頼るしかないんだ」

 

「聖女というと、確か街ごとに派遣されている聖術使いの女性、でしたよね」

 

 人間さながらの知性で話す正体不明のおっぱいに男はギョッとしながらも返答した。大したキモである。

 

「あ、ああ……、数年前に教会に派遣されてきた聖女、ヒルナ様だ。薬と違って教会は寄付で成り立ってるからな、金もかからないんだ」

 

「なるほど、寄付ですか」

 

 

 

 

「でも、湧き出る魔物が変わるなんて妙だな」

 

 ジュモがそう思うのは当然だった。

 魔物が変わるのはかなりレアケース。異変、である。

 

「ああ。だから教会とギルドが協力して原因を探ってるんだが、いまいち進展がないらしい」

 

 

「成程、ご丁寧に対応いただき、ありがとうございます」

 

「い、いやいいんだ……それより、もしよかったら、ちょっとでいいから触らせてもらっても……」

 

「辞めなさい破廉恥な‼︎‼︎‼︎」

 

 ゼリルに向かって手をワキワキと伸ばす男を一喝。

 

 

 

「そ、そうか……」

 

「なあアンタ、この街のギルドってどこだ?」

 

「ああ、ギルドならあっちだ」

 

「そうか」

 

「ジュモ、お礼を言いなさい」

 

 素っ気なく立ち去ろうとするジュモを、ゼリルが一喝する。

 

「……わかったよ…………ありがとよ」

 

「あ、ああ……」

 

 そう言って、男の前からジュモたちは去っていった。

 

「何だったんだ……」

 

 ドッと疲労感が押し寄せた。

 

 ◇

  

 

 

 

 才能能力(ギフトスキル)の説明入れる 

  

 

 男の案内通りに大通りを進んでいくと,

 

 ジュモたちは周囲の建物よりも一際大きく、屋根の上には建物の前に来ていた。ギルドである。

 

 ギルドに入ろうとするジュモに、ゼリルが話しかけた。

 

「ところでジュモ」

 

「なんだ」

 

「露天に行った時や、先ほどの男性の反応。もしかして今の私って、とても目立っているのでは?」

 

 

「そりゃな」

 

「衛兵の方も、とても驚いていましたね」

 

「だろうな」

 

「ひょっとして、このままギルドに入っては、大騒ぎになってしまうのでは?」

 

「あのおっさんがくれたバッグの中、入ってるか?」

 

「……少々ボロく、木は進みませんが、致し方ありません」

 

 

 気を取り直して、見えないようにし、ジュモはようやくギルドへと入った。

 

 巨大な木製の扉を引き、中に入ると、その賑やかさにジュモは思わず顔を顰めた。

 

 中では、武具を装備した人々が。談笑する者、飯を食う者、酒を飲む者。

 

 中には巨大なボードに、魔物(まぶつ)の討伐や、それから凶暴な動物(ビースト)の討伐の依頼書後が張り出されている。

 

『あのボードには一体何が貼られているんでしょう』

 

 ジュモの脳内にゼリルの声が響く。

 

「うおっ!」

 

 突然声を上げたジュモを不審がる視線が向けられる。

 

「げぇ……」

 

『ひょっとして、私の声が聞こえてしましたか?』

 

「(まあな。つーかお前、見えるのかよ)」

 

『自分でも驚いています。』

 

「(これはクエストボードつって、魔物討伐の依頼が張り出されてる。依頼を達成できたら、金がもらえる仕組みになってるんだ……確か)」

 

『はっきりしないですね……』

 

「(しょうがねぇだろ、依頼なんて受けたことないんだから)」

 

『そうなんですか?』

 

「(ああ、金なんて滅多に使わないから、収魔結晶に溜まったのを監禁した分でことたりるしな)」

 

『……? クエストを受けずに魔物を倒しても、報酬はもらえる、ということですか?』

 

「そういうことになるな」

 

 ゼリルが張り出された文章を読むと『――のため、至急討伐希望』

 と書いてあった。

 

「なるほど、緊急性が高いものは、依頼主が出資することで、冒険者はただ討伐するよりも高い報酬を得られ、依頼主は早急に討伐してもらえる、双方にメリットのある仕組みということですね。なるほど、考えられた仕組みです」

 

「……読んだだけでよくそんなことが分かるな」

 

「……? でも、魔物は倒すと霧になって、収魔結晶に吸い込まれてしまいますよね。討伐の証拠はどうするんですか?」

 

「それはー……あー……」

 

 天を仰ぐジュモ。

 困り果てている初心者と思われたのか、受付嬢が話しかけてきた。

 

「ご不明点がございましたら、お答えしましょうか?」

 

「ああ、ちょうどよかった。依頼された魔物を倒した証拠ってどうするんだ?」

 

「はい、それについては倒した魔物の霧は、しばらくの間は、その魔物ごとの性質を持ったままになっておりますので、クエスト出発時に収魔結晶を空で出発していただき、吸収された霧の内容量で判断いたします。

 例えば、ゴブリン十匹の討伐クエストでしたら、帰還された際に、結晶に内包された魔霧の濃度がゴブリン十体相当でしたら、クエスト達成とみなされ、報酬が支払われることになっています」

 

「は〜〜」

 

『ジュモ、ありがとうございます、納得いたしました。』

 

「他にご質問などございますか?」

 

「ああそうだ、ギルドカード無くしちまって再発行したいんだけど」

 

「ギルドカードの発行については二階で承っております」

 

「そうか、ありがとよ」

 

 ジュモは受付の指示に従って、取得試験の受付を行なっている二階へと上がった。

 

 開けた間取りとなっていた一階とは異なり、二階はいくつかの部屋に分かれている。

 

 受付前の椅子には、真新しい軽装備の少年やおどおどした少女といった、初めてカードを取得するであろう面々から、見るからに荒くれ者のような風貌の者までいる。こちらはおそらく,ジュモと同じように再取得する者だ。

 

 ジュモが窓口に向かい、眼鏡をかけた職員へ早速話しかけた。 

 

「なあ、ギルドカード作り直したいんだけど」

 

『ジュモ! 敬語!』

 

「……ですけど…………」

 

「は、はい。ギルドカードの再発行ですね。まずはお名前を伺ってもよろしいでしょうか」

 

「おう、ジュモ・オレンジバックだ」

 

「ではジュモ様、以前、当ギルドでカードを発行されたことはありますでしょうか?」

 

「ねぇ……ですけど、それが何か変わるん……ですか?」

 

「はい、当ギルドでの発行履歴がある場合、既に身元が確認済みとなり、再発行試験が免除となります。履歴がない場合は、発行試験を受けていただくこととなります」

 

「試験だあ……? あの面倒なのをもっかい受けなきゃならねぇのかよ……です」

 

「ジュモ様が仰っているのはおそらく、ギルドカード初発行時に行う、三日間に渡る試験ですね。今回は再発行とのことですので、ジュモ様に受けていただくのは一日間の実地試験となります」

 

「一日くらいならまあ、いいか……。どっちにせよ面倒だけど」

 

「かしこまりました。お一人での申請でしょうか」

 

「ああ」

 

「そうしますと、本試験は三人で受けていただく試験のため、他の受験者と合同で行っていただくこととなります」

 

「げっ……」

 

「試験内容は、ジュモ様を含めた三人パーティでのDランクの魔物(まぶつ)討伐依頼となります。予め組んだパーティでの受験が推奨されておりますが、どうなさいますか」

 

「その場で出会した人間と行動するのは面倒だが、予め仲間をつくるのはもっと面倒だ。このまま受ける」

 

「かしこまりました、本日は適性検査のみ行い、出発は明日早朝となります。よろしいですか?」

 

「いーよ。どうせ駄目っていっても日付は変わらねぇんだ」

 

「では、適性検査を行いますので、あちらへお進みください」

 

 ジュモは受付の案内に従って廊下を進んでいる最中、ゼリルが久しぶりに話しかけてきた。

 

『なるほど、再発行には試験を受ける必要があるのですね』

 

「ったく、見ず知らずの人間と試験だなんてやってられねぇぜ」

 

『初回の時はどうだったのですか?』

 

「あー、確か初回の時は、他のやつらがへっぴり腰のザコで使い物にならねぇから一人でさっさと終わらせちまったよ」

 

『ジュモ、そういった言葉遣いは慎みなさい。皆駆け出しなのですから、弱いのは当たり前でしょう』

 

「へいへい、さっきからお前は母親かよ……」

 

『共に行動する以上、人様に迷惑を掛けることは許しませんからね』

 

「そう言うのを言ってんだよ……」

 

『それにしても、ジュモは試験を受けた時から強かったんですね』

 

「まあ、魔物(まぶつ)と戦うなんざ日常茶飯事だったからな」

 

 

『……? 魔物は暗闇があればどこからでも出現するのですよね、ならば魔物と戦う機会があるのは街で暮らしていても同じでは?』

 

「それがどうも、街の中には魔物が湧かないらしい。それに、外から入ってこようとする魔物は、壁と衛兵が全部食い止めるからな」

 

『街の中に湧かない、とはそれまた珍妙な』

 

「あー……なんだったか。そうだ、逆だ」

 

『逆、ですか?』

 

「ああ。スピトゥールには”魔除け地”つって、どういうわけか、夜になっても魔物(まぶつ)が湧かないどころか、近寄りすらしない場所がたまにあってな。そこを見つけて街をつくったらしい。

 

『なるほど、理解しました』

 

「そりゃよかった、もう着くぞ、またしばらく黙っててくれよな」

 

『そんな言い方はないでしょうに』

 

 ゼリルは不満げに言うと、また黙ってしまった。

 

 廊下の突き当たりの部屋には、大きな机、手前側には金属性の防具に剣を背負った冒険者の男が、奥にはギルド職員の女性。

 

 男が手に持った拳大の大きさの八面サイコロを振るう。

 目が出ると、

 

「職業適性は『戦士』、『聖力』は一。自己申告通りですね」

 

 

「次の方〜、えーと、ジュモ・オレンジバック様ですね?」

 

 職員は、窓口とは違う、快活な女性だった。

 

「おう」

 

「ではこれよりジュモ様には女神の手のひら(オンザボード)を行っていただきます。説明はご必要ですか?」

「いらな――」

 

『要ります』

 

「……やっぱ聞かせてくれ」

 

 無視しては後が面倒そうだから――と、ジュもは渋々説明を受ける。

 

「はいはい、わかりました〜」

 

 そう言って職員はサイコロを手に取った。

 

「ジュモ様には今から、

 女神の手のひら(オンザボード)

 

 才能は女神様が与えてくれるもの、女神様次第ですからこう言う名前なんです。

 

 机の上でサイコロを振っていただきます。

 

  

 

 そして、その結果であなたの職業適正と聖力をジャッジすることができちゃうのです!」

 

 

 そう言って職員が卓上にひかれたシートを指す。

 シートには、紙面いっぱいの三角形が描かれており、三角形の頂点にはそれぞれ、『力』、『技』、『精神』の文字が描かれている。

 そして、三角形の中に描かれているものこそ、様々な職業の絵が絵だ。

 

「そしてこれが職業表です! サイコロを振ってもらって、力のカテゴリには剣士や武闘家みたいな筋力が求められる職業が。技のカテゴリにはシーフやアサシン、アーチャー、レンジャーみたいな器用さが求められる職業が、精神のカテゴリには魔法使いや、踊り子、歌姫なんかの、精神力を使用して、不思議な力をあやつる職業が描かれています!」

 

「サイコロの出目は、聖力の強さを表しています。サイコロの出目が四以上でですと、適性があるとみなされ、剣士ならば聖剣士。特に、魔法使いや踊り子ならば、聖女や聖人となります。ジュモ様、以前の結果は?」

 

「ああ、ビーストテイマーで、聖力は二だったな」

 

「かしこまりました。テイマーですと、ここになりますね」

 

 職員は『技』と『精神』の間。そして、『力』からは最も離れた場所を指し示した。

 

「では、お投げください」

 

「おう」

 

 ジュモがサイコロを転がすと、サイコロはまるで意志を持っているかのようなら挙動で、三角形の最も外側にあるビーストテイマーの絵柄へ向かって転がっていく。

 勢いをつけすぎたのか、サイコロは一度三角形の中から飛び出したものの、再び中に戻りテイマーの絵柄の上に戻った。

 

 そして、後はサイコロが止まり出目が出るのを待つだけというところで、異変が起きた。

 

「お?」

 

「ええっ⁉︎」

 

 起きたこと、それは――

 

「サイコロが……」

 

「止まんねぇ……?」

 

 職員が目を見開いた。

 その言葉通り、サイコロは止まらずに、ビーストテイマーの絵の上で回り続けていた。

 

「前はこんなことなかったぞ、どうなってんだ」

 

「え、えーと私にもわかりません! こんな事初めてで……。おかしいですね、サイコロは絶対のはずなんですが……ジュモ様、以前検査したときと比べて何か変わったところはないですよね? 何らかの加護のついた装備を身につけているとか……」

 

「装備……? いや、いつもと変わらねぇけど……」

 

 その間も、サイコロが止まる気配はない。

 

『ジュモ、私を置いてもう一度サイコロを振ってみてください』

  

「あ? ……やってみるか」

 

「はい?」

 

 不思議そうに首を傾げる職員をよそに、ジュモが再びサイコロを振るう。

 すると、先ほどと同じ挙動で転がったサイコロは、今度はすぐに“二”の出目を出して止まった。

 

「お、とまった」

 

 

「ああ……! 先輩たちにも見てもらおうと思ったのに! ……失礼しました。たしかに……ジュモ様は聖力二のビーストテイマーとしての適性があるようです」

 

「おう。じゃあもう帰っていいのか?」

 

「は、はい……◯日後にきてくださいね!。それにしてもなんだったんでしょう……一応、先輩に報告しなきゃ……!」

 

 ぐう〜と、ジュモの腹が鳴った。。

 

「あの〜、よろしければこの辺りの美味しいお店、お教えしましょうか?」

 

「……肉を使ってない料理が美味い店で頼むぜ」

 

  

 ◇

 

「『〇〇』、『〇〇』……どれもうまそうだな……」

 

 職員の勧めで入った食堂でメニュー表を眺めるジュモ。

 

 要望通り、

 その他、エルフなど、 

 

 ビーストを連れて入れるため、

 テイマー御用達である。

 

 

 入店時、ゼリルの姿を見た店員に当然ギョっとされたが、「ビースト連れ込みしていいんだろ?」の一言で押し通した。

 

「なあ、さっきの適正検査のとき、なんでお前を置けばサイコロが普通の動きになるってわかったんだ?」

 

「うーん……強いていえば、なんとなく、でしょうか。前回ジュモが検査を受けた時と明確に違うことといえば、私がいることくらいでしょうし」

 

「それもそうか……。でもなんでだ……?」

 

「さあ……?  ジュモとゼリルは共に首を傾げる。

  

 ……! ジュモ、誰か来ます」

 

 

 

 

 

「――理由、知りたい?」

 

 そんな声が聞こえたと同時に、ジュモの視界に栗色のロングヘアが映り込む。

 

「あ? 誰だ……?」

 

 ジュモは声の主を、頭から足元まで確認すると、仰天した。

 

「ち、ちちち、痴女⁉︎⁉︎」

 

 

 声の主は、修道服“らしき”ものを身につけた二十歳ごろの女だった。

 というのも、彼女の服は修道服というにはあまりに露出の多い服装だったからだ。

 

 上半身は幅の細いチューブトップのみを身につけ、その帯の上下からはたわわに実った果実がはちきれんばかりに溢れ、下半身は鼠蹊部がはみ出るほどローライズのミニスカート。

 

 白を基調とし、金のラインが入った服装であり、首から下げられた聖印のペンダントが、辛うじて彼女が聖教の人間であることを示していた。 

 

 通常、教会の修道服は、頭に頭巾を被り、上下一体となった純白の貫頭衣の形状で、足首を覆うほどの長い丈が特徴であることを踏まえると、彼女の服装がどれだけ異端なものか察することができるだろう。

 

「痴女って、おっぱい連れ歩いてるキミにだけは言われたくないなぁ」

 

「だ、だってそんな露出の多い格好してるやつは痴女が娼婦だって、パザラがいってたぜ」

 

「キミねぇ……。まあいいや、話はご飯でも食べながらしようよ。おいしいんだよ? ここのカレイ」

 

 女はジュモの問いには答えないまま、しれっとゼリルの隣、ジュモの斜め前の席へと座った。

 

「おい」

 

「すみませーん、注文いいですかー! あ、そうだこの子は何食べるの?」

 

 女は給仕を呼ぶと、ジュモに問いかけた

 

「いえ、私は食事を取りませんので」

 

「うわあ! この子しゃべるんだー! すみませーん! カレイ二つでー!」

 

「おいって!」

 

「なによー、さっきから」

 

「こっちの台詞だ、座っていいなんて、俺もゼリルも言ってねぇぞ」 

 

「へぇ、この子ゼリルって言うんだ。……ところでこの子、一体ナニ?」

 

 女の目が細められる。   

 

「……何って、どういうことだ」

 

「そうね、キミの世間知らずっぷりを見るに、先に名乗ったほうが早そうかな」

 

 そう言うと、彼女は胸を張って答えた。

 

「私はヒルナ、このジラーマに派遣された聖女よ」

 

「あ、アンタが聖女ォ……⁉︎ 信じられるか!」

 

「はあ、言うと思ったわ」

 

 ヒルナがパチンと指を鳴らすと、他の客が次々にヒルナの存在に気付いたようだった。

 

 

 

「なあ、あれ聖女様だよな!」

「本当だ、ヒルナ様だわ!」

「ヒルナ様ー!」

「こっち向いてくれー!」

 

「やほ〜〜」

 

 ヒルナが手を振ると店内が色めきだった。

 

「うおー!ヒルナ様がこっち見てくれたぞ!」

「きゃ〜〜!」

「ヒルナ様ー! 好きだー‼︎」

 

「……マジみたいだな」

 

「こうなっちゃうから、解きたくなかったんだけどなぁ」

 

「そうだ、アンタ今何したんだ!」

 

「何って、まあ聖力をコントロールして気配を抑えてただけだって。それでもやっぱり、ゼリルちゃんは気づいてたみたいだけど?」

 

「……でもあらら、やっぱりおちおち話してもいられない雰囲気になってきちゃったね」

 

 ジュモたちの周りに集まる人、人。

 

「続きは教会で話そうか?」

 

 ヒルナが机を離れようとする。

 ジュモはヒルナの手を引いてそれを止めた。

 

「待った」

 

「きゃっ、ちょ、ちょっと急にどうしたの?」

 

「まだ飯が来てねえぞ」

 

「はあ……、おかみさーん、さっきの包んでくれるー?」

 

 ◇

 

 歩きながら飯を食べ終えたジュモ。

 

 

「ここが教会よ」

 

 初老の神父が出迎える。

 通されたのは礼拝堂だった。 

「お帰りなさいませ、ヒルナ様。……して、あの方達は」

 

「客人よ」

 

「……かしこまりました」

 

 神父はジュモたちを見ると、いかにも何か言いたげな表情を浮かべたが、グッと堪えたようで、そのまま引き下がった。

 

「あの絵が気になる?」

「女神ニューリアよ。みんなを癒すの。」

 

「流石にこれで信じたでしょう?」

 

「あ、ああ……でも何だってそんな格好を」

 

 現に今も、ヒルナ後ろを歩くジュ目の視界には、背中と、ひらめくスカートのスリットから覗く尻たぶがジュモを釘付けにしていた。

 いくら人間を嫌っていようと逃れることのできない、生物としての性である。

 

「まず、キミが知ってる教会の服装ってのは多分、聖女見習いが着ている聖衣――修道服のことね。ほら、頭巾かぶってるやつ」

 

「ええ、私もジュモからそう聞いております」

 

「聖衣は貴重品だから、見習いの子達は借り物なんだけど、実力が一定以上になって正式に聖女として認められると、自分専用の聖衣を作ってもらえるの」

 

「なるほど、それでその格好なのですね」

 

「そ」

 

「まてよ、それじゃアンタがそんな痴女みたいな格好してる理由にはなんねぇぞ」

 

「キミ、私に興味津々だね、興奮しちゃった?」

 

「……ッ! バカ言え!」

 

「それはさておき、この服装の理由は、身軽な方が私の戦闘スタイルに合ってるから。というか、君だって裸同然の格好じゃない。なんなら、おっぱいを連れた半裸の冒険者がいたって、噂になってたわよ?」

 

 

 

 

「それに、私程度の聖力ならこのくらいの布面積でも十分抑えられるし」

 

「聖力を抑える、ですか?」

 

 ゼリルが尋ねると、ジュモも首を傾げた。

 

「まさにそれこそ、キミたちにとって最も重要な部分だ」

 

「まずキミたち、そんな状態でよく無事にこの街まで辿り着けたね。魔物に襲われまくっただろうに」

 

「無事なもんか、何回も死にかけたぞ」

 

「魔物に襲われる原因に心当たりは?」

 

「――私、ですよね」

 

「そう。厳密に言うなら、キミから漏れ出す聖力の気配が、魔物を惹きつけてる。魔物に取って聖力は恰好の養分だからね」

 

「やっぱこれは聖力の光だったのか……」

 

 ジュモが無意識にゼリルの光に触れる。

 

「ひにゃんっ‼︎ 辞めなさいジュモ‼︎」

 

「やべっ、つい……」

 

「あはは、光って見えてないけど、やっぱりそこは乳首なんだ」

 

 ヒルナは笑いながら、ジュモたちの前で手を開くも、ぽう、と淡い緑色の光を放った。

 

「ほら同じでしょ? 聖力をコントロールできれば、魔物を祓う以外にも、治癒や、さっきみたいに気配を遮断したり、色々できるんだ」

 

「――さて、いよいよ本題に入るね。聖女として、キミたちをこのまま野放しにしておくわけにはいかない。いくら街の中が魔避地とはいえ、キミは前例のないビーストだ。どんなイレギュラーを呼び寄せるかわからない」

 

「選択肢は二つ。その子を教会で保護するか、彼女も聖衣を身につけて旅を続けるか。「言葉を話せる」、そして「聖力を持っている」あたり、多分だけど、キミはおそらく聖獣として扱われるだろうから、そう悪い待遇じゃないと思うよ」

 

 だが、ゼリルの返答は早かった。

 

「……ご提案ありがとうございます。しかし、私はジュモと共に旅をすることに決めていますので」

 

「……そっか。私もそう答えると思ってた。

 でもね、こっちとしても聖力を出しっぱなしで行動されるわけにはいかないんだ」

 

「じゃあどうすりゃいいってんだよ」

 

「キミたちには、聖衣を渡す代わりに、おつかいを頼まれて欲しいんだ」

 

「聖衣?がありゃ、ゼリルから漏れ出す聖力を封じ込められるんだな」

 

「そう言うこと。まあ、厳密には封じるんじゃなくて、魔物から感知されにくくする、って感じなんだけど」

 

「で、おつかいってのは?」

 

「その前にジュモくん、キミの等級は?」

 

「等級?」

 

「うん、ギルドカードの」

 

「あーえっと……そうだ、ギルドカードは盗られたんだったな」

  

 ジュモがガハハと笑う。

 

「ええ⁉︎」

 

「等級は……あれだ、銅等級とかいってたな」

 

 鉄等級。

 鉄→銅→銀→金→プラチナ→ミスリル→オリハルコンからなる、冒険者の能力と功績を示す等級である。

 

「……おかしいわね、キミはもっと実力あると思うんだけど……」

 

「ああ、要するにアンタは、俺がおつかいをこなせるかどうか、俺の強さを知りたがってるわけか」

 

「等級って、多分昇格試験っやつに合格すると上がるんだろ?」

 

「え? 当たり前じゃない」

 

「俺、面倒だから一回も受けたことないんだわ」

 

「はあああああ⁉︎」

 

「あ? どうした急に?」

 

「ね、ねぇキミ……今、昇格試験を受けてない、って行った……?」

 

「おう」

 

「はあ〜〜〜〜」

 

 ヒルナが頭を抱えるのも無理はない。なにせ、冒険者にとって等級とは最も重要視されるものだからだ。

 

 等級は冒険者の能力と功績を示すものであり、当然等級の高さによって受けられる依頼、収入、待遇などが大きく変わる。

 

 

 だがそれはあくまで、人間の中での話だ。

 人間の街に滞在することを好まず、金銭にも執着のないジュモにとってそれはあまり関係のない話だったのだ。

 

「……じゃあ質問を変えるね。あなたが今まで倒した魔物の中で、最も強かったのは何?」

 

「あー……、あのゴツい鎧つけたオーガかな」

 

「アーマーオーガ⁉︎ 銀等級でも上澄みじゃない!」

 

「あいつらに囲まれたときは流石にヤバかったな……」

 

「しかも集団個体……。そうなると実力はおそらく金等級、もしくはそれ以上ね……」

 

「よくわからんが、すごいのか?」

 

「鉄等級から金等級まで上がるには、筋のいい冒険者でも数年掛かるからね……ともかく、それならお願いしても大丈夫そうね」

 

「人間の助けをするのは癪だがゼリルのためだ、しかたねぇ。で、結局俺たちはどこで何を取ってくりゃいいんだ? それに、等級を確認したってことは、それなりに危険な魔物と遭遇する可能性があるってことだろ?」

 

「話が早くて助かるよ。キミたちに取ってきて欲しいものは『ポワラスの花』。解毒薬の材料って言えば分かるかしら」

 

  ヒルナが胸の谷間から手帳を取り出す。

 

「おっ、おま、どこからそれ出して……!」

 

「ナ・イ・ショ」

 

 ヒルナは手帳をパラパラと捲り、翡翠色の花が一輪描かれたページをジュモたちへ見せた。

 

「解毒薬って……そういや、毒持ちの魔物が増えてるって」

 

「もう知っていたみたいね。丁度さっきも治癒をしてきたところよ」

 

 はあ、とヒルナは少し疲れたような様子でため息をついた。

 

「おい、大丈夫なのか」

 

「……実のところ、この異変が起きてから、治癒が間に合わずに、それなりの人数が亡くなっててね。原因の調査も難航してるから、少し疲れちゃってね。私が直接調査に参加できれば、もっと調査が進むんだろうけど……いつ怪我人が出るかわからないから、街を離れるわけにもいかなくてね」

 

「解毒薬は貴重だって話だったけどよ、ポワラスの花ってのはそんなに珍しいのか?」

 

「ポワラスの花は、この街の北部に生息してるんだけど、数も少ないし花が小さいから、見つけることが難しいの」

 

「それを俺たちに取って来いってこか?」

 

「ええ、そんなポワロスの花にも見つける方法があってね。それは、ポワロスの花が持つ聖力を探知すること」

 

 ジュモ、ヒルナ。二人の視線がゼリルへと注がれる。

 

「聖力を探知……ですか?」

 

「ええ、だってキミ、今私の聖力も感じてるでしょ?」

 

「そうなのか?」

 

「はい、そういえばヒルナ、あなたが現れる際も、何か気配のようなものを感じました。そして今も、それがあなたの中にあることを、感じています」

 

「うん、上出来だね。じゃあ」

 

 ヒルナが、また胸元から取り出したのは白い、聖衣の切れ端だった。

 

「またそこから……」

 

「ふふ、胸だけじゃないよ?」

 

 今度は、スカートの中に、上から手を入れると、小さなクナイが出てきた。

 

「どういうことだよ!」

 

 そしてヒルナは布をクナイで切り初め、硬貨ほどの大きさの円を二つ切り出した。

「はい、できた」

 

 そしてそれをゼリルに見せつける。

 

「これは、ええと……」

 

「ほいっ」

 

「ひにゃんっ!」

 

 そしてヒルナは、切り出した聖布をゼリルの光――乳首へ押し当てた。  

 

「な! なにするんですか!」

 

 ヒルナが手をはなすと、聖布はぴたりとゼリルに張り付き、そして、光も収まっていた、

 

「ふう……よかった〜……これで聖力の放出が止まったね。成功成功!」

 

「おい、まさか聖衣って、これのことじゃないだろうな」

 

「あははー……」

 

 ヒルナが目を逸らす。

 

「これが聖衣……?」

 

「いやー、さっき話した通り、聖衣って高級品でさー、無断で渡したってバレると私もとんでもなく怒られちゃうんだよねー……。いや〜、放出箇所がちく……胸のてっぺんに集中しててよかった〜!」

 

「おい」

 

「……はあ、事情はわかりました。見た目はどうあれ、効果があるのならいいでしょう」

 

「そう言ってもらえると助かるなぁ。本当はすぐにでも行ってほしいけど、じきに日も沈んじゃうからね、出発は明日の朝で頼めるかな」

 

「わかった」

 

「それから、これ」

 

 ヒルナがジュモに差し出したのは、透き通った青色の液体が入った小瓶だった。

 

「こっちも希少品だから、二つしかあげられないけど、解毒ポーション」

 

「いいのか?」

 

「聖衣を渡したってのに、毒で死なれちゃ困るからね。頼んだよ?」

 

「そうだ、ポワロスの花をくれないか?」

 

「花を? 用意できなくはないけど、どうして?」

 

「見つけるのにどいつもこいつも苦労してるんだろうが、考えがあ

 ってな」

 

 

 ◇

 

 

 

 

 こんな状況になったのは、数時間前まで遡る。

 

「いいこと思いついた! 今日はここに泊まっていきなよ」

 

「い、いや、やめとく」

 

「今からだと宿を取るのも大変だと思うよ、ギルドカードも持ってないし」

 

 思い出されるのは街に入った時のことだ。

 あのときは、金はないし、衛兵に詰められるしで、大変だった。

 

「……頼む」 

 

 どうやら、断りたい理由がありそうなジュモだったが、背に腹は変えられなかった。

 

 ◇

 

 ジュモたちが案内されたのは、決して豪華とはいえない簡素な部屋だが、清潔だ。

 

「小さいけど浴場もあるから、ぜひ使ってね」

 

 ヒルナが去っていく。

 

「風呂か……どうすっかな」

 

「ジュモ、私も入りたいのですが……」

 

「ん? おう、入ればいいじゃねぇか」

 

「ですがその……私は自分で体を洗えないし、うっかり湯船に沈んでしまうとも限らないわけで……」

 

「……つまりなんだ、俺に入れろと?」

 

「……はい」

 

「………………まあ、しょうがないわな」

 

 ジュモはしばらく躊躇したが、仕方なく了承した。

 

 脱衣所にて。

 

「そういえば、お前のこれは剥がすのか?」

 

「剥がす……んでしょうね」

 

 ジュモがゼリルのニップレ――もとい、聖衣を剥がそうとすると、ゼリルが後ずさった。

 

「自分で剥がしますから!」

 

「いや、自分じゃ剥がせねぇだろ」

 

「そうでした……」

 

 

「何言ってんだか……あ? 結構強く引っ付いてるんだな」

 

 思うように聖衣が剥がれず、カリカリと引っ掻くようにして剥がそうと奮闘するジュモ。 

 

「あっ……ひっ……ひにゃっ……」

 

「みょ、妙な声だすなっての!」

 

「しょっ……しょうがないっ……でしょうっ……!」

 

「よし剥がれた……」

 

 発光している。

 

「じゃ、いくぞ」 

 

 

 浴場は、確かに公衆の浴場と比べれば小さく、入れて五人程度のものだったが、ジュモたち二人が入るには、十分な広さだった。

 

「こら! 湯船に浸かる前に体を洗いなさい」

 

「っと、そうか」

 

 ゼリルは適当なところに置いておき、適当に全身を洗い終えると、次はゼリルが現れる番だった。

 

 ジュモはゼリルを膝にのせると、石鹸を泡だて、ゼリルの柔肌を洗っていく。

 

 もにゅり、もにゅ、むにゅ、むにゅり、

 

「すっげぇ……」

 

「今度はなんですか」

 

「」

 

 

 

「なんつーか……あれだな……」

 

「エロいな」

 

「なっ! やめてくださいケダモノ!」

 

 

「なあ、乳首も俺が洗うのか?」

 

「……くっ、お願い……します」

 

 そんな紆余曲折あり、ジュモたちはようやく湯船に浸かることができた。

 

 

「「はああ〜〜極楽極楽」」

 

 

「ところでジュモ、はじめはどうして泊まることを拒否しようとしたのですか? ありがたい申し出だったじゃないですか」

 

「いや……その……」

 

「なんですか、歯切れが悪いですね」

 

 ジュモと出会ってから、まだ数日のゼリルだったが、なんだが、今のジュモは控えめというかなんといか、新鮮な感じだった。

 

 ガラガラ

 音が聞こえた。

 

「あれ? もう湯船使っちゃってるんだ」

 

「な、ななな……!」

 

 ――な髪。一糸纏わぬ聖女ヒルナだった。

 

「な、なんでここに!」 

 

「なんでって、もしゼリルちゃんを洗うなら私が洗ってあげたほうがいいかなって思ったんだけど、必要なかったみたいだね」

 

「お、おう……」

 

「洗っちゃうからちょっと待っててねー」

 

 それからどしたの

 

 

「あ、待っててくれたんだ」

 

「……おう」

 

「やっぱり気になっちゃうよね」

 

 ヒルナが胸を持ち上げる。

 

 それと、君のことが気になって。

 

「あ? 君のことも聞いてみたくて。だって普通じゃないでしょ? あの装備だってめずらしいしし。」

 

「見たところ、だいぶ戦い慣れしてるみたいだけど」

 

 それは、ジュモの体の傷を見てのことだった。

 

 

「俺は聖都を目指してる」

 

「聖都にいる、俺の育ての親の妹にこのネックレスを渡せってことらしい」

 

「それで、こいつは光差す道の方向に進んでる。それまで一緒に旅してるってわけだ」

 

「そうなんだ」

 

「あんたは聖都に行ったことがあるか?」

 

「ううん、あそこに行くのは、防衛の聖術に秀でた子たち。あたしは攻撃。そんなに優秀でもなかったから」

 

「……でも、こんなことになって、正直困ってる。君たちなら何かしてくれるんじゃないか――なんて、勝手に思ってる」

 

「ああ、勝手な期待だな」

 

 

「……聖女ってんなら聖獣ユアルンを知ってるか?」

 

「ユアルン……ええ、聞いたことがあるわ、角と翼の生えたユニコーンだって。でも、今は消息不明って聞いてる。」

 

「やっぱりそうか。俺の故郷の森を守ってたんだ。だけど出ていっちまった。」

 

「ごめん、知らないな」

 

「そうか」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 ジラーマの街を出たジュモたちは、街の北東に位置『ケーネの森』へ訪れた。

 

 まだ日は高く、夜までには時間があるが、安心していられるのは、日差しを遮るもののない平原にいるうちだけだ。

 闇から湧き出る魔物が現れるのは、何も闇夜だけではない。

 

 深い森、洞窟、薄暗い場所であれば、魔物は節操なく湧き出てくるのだ。

 

 相変わらず、背中の籠にゼリルを入れたまま、ジュモは森へと足を踏み入れ、歩き出した。

 

「ゼリル、聖力は感じるか?」

 

「いえ、とくにこれといったものは感じませんね……彼女の言った通り、花の放つ聖力は、それほど大きいものではないのでしょう」

  

「そうか、ならやっぱり花をもらってきておいて正解だったな」

 

 ヒルナからもらったポワロスの花をジュモは取り出すと、地面に木の実をばらまいた。

 

「おーい、誰か手伝ってくれないかー!」

 

 すると、リスやネズミなどの小動物。それから、鳥が集まってきて、木の実をついばみはじめた。

 

「なあお前ら、この花知らないか?」

 

 ジュモは動物たちに匂いを嗅がせていくと、口々に答えが帰ってきた。

 

『知ラナイ!』『知ラナイ!』『知ラナイ!』『知ラナイ!』『知ラナイ!』『知ッテル!』『知ラナイ!』『知ラナイ!』『知ラナイ!』『知ラナイ!』『知ラナイ!』

 

「うーん、誰も知らねぇか……」

 

「……ジュモ、今一人だけ、知っていると答えていませんでしたか?」

 

「本当か! どいつだ!」

 

「ええと、一斉に喋られたのでそこまでは……」

 

「仕方ない、もう一度聞くか。お前ら、この花知らないか?」

 

『知ラナイ!』『知ラナイ!』『知ラナイ!』『知ラナイ!』『知ラナイ!』『知ラナイ!』『知ラナイ!』『知ラナイ!』『知ラナイ!』『知ラナイ!』『知ッテル!』『知ラナイ!』『知ラナイ!』『知ラナイ!』『知ラナイ!』『知ラナイ!』

 

「ちょ、ちょっと待て! さっきより増えてないか⁉︎」

 

「じゅ、ジュモ、いました! そこのリスです!」

 

「こいつか!」

 

 ジュモが指を指す。

 

「違います! その二個右隣!」

 

「こいつか!」

 

「そっちは左です!」

 

「じゃあこいつだな!」

 

 ジュモがリスを拾い上げると、リスは首を傾げていた。

 

「この花の咲いてる場所、知ってるか?」

 

「知ッテル!」

 

「よしきた、案内してくれ!」

 

 ジュモの手から放たれたリンクラインがリスに届くと、

 駆け出したリス追って、森の奥へと向かっていく。

 

 

 

「仕方がないでしょう。どうやら、この聖衣というものはよほどの貴重品みたいですから。それにしても、もう少し面積を多くいただけたらよかったのですが……」

 

「いいじゃねぇか、それでもちゃんと効果はあるみたいだしよ」

 

 ジュモに言われ、ゼリルははっと気づく。

 

「そういえば、さっきから魔物(まぶつ)に遭遇していませんね。……たしかに効果はあるみたいです」

 

「ああ。昼とはいえこれだけ薄暗い森。魔物だってそこらに湧いてるんだ。昨晩までの調子じゃ、今頃とっくに追いかけられてるはずだぜ」

 

「……でも、魔物というのは本当に不思議ですね。何もないところから湧いてでてくるなんて」

 

 《ここまでで足りなかた魔物(まぶつ)の説明を入れる〉

 

 リスが立ち止まると、そこには確かにポワロスの花が咲いていた。

 

「お、あったぞ」

 

「確かに、微かですが、聖力を感じます。なるほど、採集してしまうとやはり聖力は薄れるようですね」 

 

「ありがとな。他に咲いてる場所は知ってるか?

 

 リスは首を横に振った。

 

「そうか、じゃあな」

 

「では、また探し直しですね」

 

「ちょっとまて」

 

 ジュモに耳に、そんな最中、魔物の唸り声、少女の叫び声、そして、ビーストの鳴き声が聞こえてきた。

 

「誰か戦っている。それにビーストもいる。」

 

  ◇

 

 少女、ローロリーデは、窮地に陥っていた。

 

「最悪だわ」

 

 魔物が密集するナワバリに足を踏み入れてしまったらしい。

 

 

 

 

 少女視点に。

 

 ジュモが聞いた戦いの音――その発信地では、赤い髪を大きなポニーテルに結い、茶色い外套を纏った少女、今まさに魔物に囲まれている最中だった。

 

 彼女はローロ・リーデ。

 

 毒も受けてしまった。

 

 少女は、自分の身長よりも長い槍を必死に振るう。

 その傍には、高さ三、四十センチほどの幼いクリムゾン・ドラゴン紅飛竜と、ルビー・パロットと紅玉鳥が少女を守るように懸命に戦っていた。

 

 

 

 少女を囲むのは、

 歩くキノコ、トキシック・マッシュ

 毒ガエル ポイズン・トード

 毒サソリ ヴェノムスコーピオン

 アシッドスライム

 

 毒蛇。

 どれも、毒を持つ魔物だ。

   

 理由は、

 

 少女は、自身がこんな状況に陥っている経緯を思い出す。

 

 

 

(なんたって、アタシがゼイラーのいいなりになんか!)

 

 

 絶対絶命かと思われたその時、

 

 ローロの目に映ったのは、力強く逆立つ橙色の髪と、肩のったおっぱいのような何かだった。

 

 

 ◇

 

 

 アシッドスライムを追記。体の中を動き回るコアを狙う。

 

「レッドリドラ、それに人間のガキか! 一人で何してやがる!」

 

「まずはジュモ、助けなさい!」

 

「たりめぇだ!」

 

 少女にスティング・ヴァイパーが襲いかかる。

 

大蟷螂の刃(マンティス・サイズ)!」

 

 ジュモは両手のガントレットから、カマキリのような鎌が伸び出で、ジュモはヴァイパーが少女に噛みつくよりも早く、輪切りに切り刻んだ。

 

 突然現れたジュモに魔物たちも驚いたのか、動きを一瞬止めた。 

「今だ! そいつらを抱き抱えろ!」

「えっ……」

 ジュモが少女に、ビーストを抱き抱えるよう指示する。

 少女がビーストを抱き抱えたのを確認すると、ジュモは少女を掴み、真上に投げ飛ばした。

 

「きゃああっ!」

 

「ジュモ、一体何を!」

 

「今のうちに仕留める!」

 

 ジュモは、右手の鎌で、トキシック・マッシュの胴体を水平に切り裂いた。

  

「ひとつ!」

 

 そしてすぐさまポイズン・トードの背後に周り、両手の鎌を振り下ろす。

 

「ふたつ!」

 

 ヴェノム・スコーピオンが両手の鋏をジュモに振るうが、それもいなし、腕の付け根に鎌を振り下ろし切断する。

 暴れ狂ったスコーピオンが、ジュモに尻尾の針を伸ばすが、ジュモは、左手で尻尾の根本を掴むことでそれを止め、今度は右手で鎌を振り下ろし付け根から尻尾を断ち切った。

 

「みっつ‼︎」

 

 そしてジュモは、甲殻に覆われていない、尻尾の切断面に鎌を突き刺すと、スコーピオンも霧となって消滅した。

 

 そして、そのタイミングで、少女が地面へと落ちてきた少女を、ジュモは軽々と受け止めた。

 

「よっと」

 

「アンタ……一体……」

 

 少女がジュモに驚いた表情を向ける。

 ジュモは少女を下ろすと、少女は、ふらりと地面へと倒れそうになる。

 

「おい! 大丈夫か!」

 

 ・真っ先にビーストの心配する? 再考。

 

 見ると、ローロの顔色が土気色になっていた。

 それを見たジュモはすぐに気づいた。

 

「毒か……」

 

「ヴェノム・スコーピオンの毒を貰ったわ、それに、トキシック・マッシュの胞子も少し吸った」

 

「解毒薬は!」

 

「持ってるわけないでしょ、あんな高級品」

 

 影響は、こんな小さな少女にまで及んでいた。

 

「ジュモ――」

 

「分かってるよ」

 

 状況を把握したゼリルが、少女に解毒薬を飲ませるよう指示するよりも早く、ジュモはポーチから小瓶を取り出した。

 

「飲め。話はそれからだ」

 

「そんなお金、持ってない……」

 

「いいから飲め! ガキの命より大事なもんなんかあるか!」

 

「なら! 私よりこの子を!」

 

 そう言って少女が差し出したのは、同じく毒を受けたのだろう。痙攣を起こしはじめているルビー・パロットだった。

 

「お前……」

 

 ジュモは、自分の命よりも、ビーストの命を優先しようとしたゼリルに驚いた。

 

「安心しろ、解毒薬はもう一本ある」

 

 ジュモは小瓶を少女に渡すと、ルビーパロットを腕に抱いた。

 

「ちょっと、その子は」

 

「安心しろ、こんなんでも俺もテイマーだ」 

 

「え……?」

 

「悪い、お前の状態に気づくのが遅れた。飲めるか?」

 

「当たり前でしょ、子供扱いしないでよね」

 

「お前じゃない」

 

 ジュモはパロットの頭を上を向かせると、垂らすように少しずつ薬を飲ませ始めた。

 

「アンタ本当に……」

 

「ああ。一気に飲ませると、気管とか変な場所に入ったりするからな」

 

 パロットに薬を飲ませ終えると、少しずつではあるが、症状が改善していった。

 

「大丈夫か?」

 

『ダイジョウブ! デモマダキモチワルイ……』

 

「すぐに吐き気も治るから安心しろ」

 

「そんなことまでわかるの……?」

 

「ああ、俺はビーストの声が聞こえるんだ」

 

「うそ……」

 

「それにあいつら結構馬鹿だからな〜、言ってることが意味わからなかったり、的外れだったりすることもある。ゼリルを見つけたときも、見張りを頼んでたコウモリたちは『プニプニ!』とかいってたんだぜ」

 

 

「お前も、このままじゃロクに動けないだろ。ここに来るまでの間にほら穴があった」

 

 ◇

 

 キャンプ、聖結晶――魔物は暗闇から湧き出る故、周囲に湧かないようにするアイテムである。

 

「それで、なんだって一人でこんなところにいるんだ?」

 

「それは……」

 

 ドラゴンが話す。

 

「ゼイラー……? そいつに命令されてきたのか?」

 

「言葉がわかるの? それに、そのおっぱいも何!?」

 →話を聞くのはこれを解消してドタバタが収まった後。

 

 0

「ご主人?大丈夫か?」

「大丈夫?」

 

 

「ジュモ、彼女は怖い思いをしたんですよ、それなのにいきなり詰めて、最低です!」

 

「なっ、俺のせいかよ!」

 

「へゃっ! おっ、おっぱいがしゃべった……!」

 

「ええ、私はゼリル、ええと……」

 

「見たまんま、喋るおっぱいだ。詳しいことは俺にもわからん」

 

「ジュモ! そのいい方はあんまりでしょう!」

 

 

「わかった、落ち着いたらしゃべれそうなことだけ話してくれりゃいい」

 

 ◇

 

  

「一人でポワロスの花を取ってこいって、ゼイラーに言われたんだ。私は探し物くらいしか能がないから、って」

 

 

「そんな勝手な話があるかよ!」

 

 話を終えたジュモは、苛立ちに任せて木の枝を蹴りとばした。

 

「そのゼイラーって野郎、会ったら絶対にぶっ殺す」

 

「ジュモ」

 

「俺は傲慢で自分勝手な野郎が一番嫌いなんだよ」

 

「仕方ないの、私は……弱いから」

 

「あ?」

 

「私は、またこんな小さい子たちしかテイムできないの。それも二体が限界。それに、この子たちの考えてることを汲み取るのも苦手で……それで……仲間が一人死んだの」

 

「斥候としてこの子達を飛ばしたの。戻ってきたこの子たち、すごく焦ってた。それで、気持ちが汲み取れなくて、――の群れに襲われて死んだ。この子達は、私たちに逃げるよう伝えようとしてくれてたのに……それに私は、槍だってうまく扱えない」

 

「ねえ、アンタテイマーていいったわよね、ならどうしてどうして武器の才能能力(ギフトスキル)もないのに一人でそんなに強いの? ビーストを連れてないの……?」

 

「どうしてって言われてもなぁ……」

「ジュモ」

 

「……わかったよ。俺がギフトスキルなしでもあいつらを簡単に倒せたのは、俺がガキの頃からずっとあいつらと戦ってきて、どこを攻撃すりゃいいのか、とか大抵わかってるからだ」

 

「子供のころから? それってどれくらいから……」

 

「さあな、物心ついた時から、鍛えられてたぜ」

 

「俺がビーストを連れてないのは、あいつらが傷つくところを見たくないからだ。それに、あいつらにも家族がいて生活がある。そこをテイムしちゃ悪いだろう。……それに、俺は一人でも戦えるからな」

 

「そう、なんだ……でも、その気持ちはわかるかも。この子、お母様の形見だから」

 

 

 

 

 

 

「……アンタ、めちゃくちゃだけどすごいかも。ねえあんた、等級は?」

 

「またこの話か……、ギルドカードは紛失中、紛失前は銅等級だ」

 

「はあ……? あんた馬鹿じゃないの?[#「?」は縦中横] そんなんでどうやって稼いでるのよ」

 

 冒険者の収入源。それは、魔物を狩って集まったマソに応じてもらえる金額だ。そして、等級によってかかるボーナスが大きく変わってくる。

 これは、冒険者の意欲向上、そして、適切な場所へ冒険者を派遣、依頼するための強さの管理する必要があるからだ。

 

「人間の街なんて滅多に入らないからな。困ることないんだ」

 

「つい今朝ごろ困っていたような気もしますが?」

 

「それは別だろ!」

 

 

「――ってビーストは――を分担してるんだ。現に今、俺は中々みつからないからってポワロスの花を探しにきてる」

 

「あんたも?」

 

「あ? お前が探してるのって、もしかしてポワロスの花か?」

 

「その……」

 

「あ?」

 

「ええ、協力しましょう」

 

「協力してあげてもいいわよ」

 

「っちぇっ、かわいくないガキだぜ」

 

 ◇

 

 手伝わせてよ。この子達、探し物は得意なんだから!

 

 ああ、よく懐いてる。大切にしてるんだな。

 

「じゃ、そいつらにも手伝ってもらおうかな」

 

「にも……って、あんたその子しかビースト連れてないじゃない。それでどうやって探すっていうの?」

 

「あ? そんなの近くにいるビーストの力を借りりゃあいいだけの話じゃねぇか」

 

「テイムするってこと……? そんな時間かけられるわけないじゃない」

 

「あ? そんなに難しいことか?」

 

 ジュモは先ほどと同じように森のビーストたちを集めた。

 

「頼んだぞ」

 

 すると、ジュモから無数のリンクラインが放たれ、ビーストたちはそれぞれの方向へと散っていった。

 

「うそ……」

 

 その光景にローロは驚愕した。

 

 

 

「ありえない! 〇〇の〇〇だってこんなことできない! あんた一体何者! ミスリル等級? ううん、テイマーでミスリルなんてそれこそありえない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一人でぶつぶつ何言ってるんだ?」

 

「あ、あんた等級は!」

 

「ええっ! あんた何者!」

 

「何って……何でもねーよ。さっきもいったろ、ただの旅人テイマーだ」

 

「ビーストを連れ歩かずに謎のおっぱいを連れ歩いて、魔物は得体のしらない絡繰武器で自力で倒す、あげくビーストを大量テイム。それがただの旅人なわけないでしょ!」

 

「その――ジュモのテイムはそんなに珍しいものなのですか?」

 

「珍しいっていうか、前代未聞よ。さっきもテイムには時間がかかるっていったでしょ。普通テイマーっていうのは、数種類のビーストをテイムして躾けて、絆を深めながら育てていくものなの!」

 

「そうなのですか? だとすると、ジュモはそれらから随分と外れているように思えますが」

 

「だからさっきからそう言ってるでしょ!」

 

 ――そう。ここまではジュモと0ゼリル。世間知らずの野生児と、

 記憶喪失のおっぱいの二人旅だったからその多くはスルーされて

 きたが、この二人、相当のイレギュラーである。

 

 

 

 

「テイマーの中で、銅等級以上の人が、どのくらいか知ってる?」

 

 銅等級。ようやく単身でもゴブリンなどの最下級モンスターを複数相手取ることができると判断される、ようやく冒険者になったと言える階級だ。

 

「さあ……」

 

「百人に一人。はじめの一歩とされる銅等級でさえ、それだけの人数しか上がれない。」

 

「そこまでいけばテイマーは強いけど、でも、それだけ強くなれるのは一握り。大抵は冒険者を諦めて、配達や採取専門の仕事につくの」

 

「なんでだよ」

 

「聞いたことない?「テイマーが一体のビーストを扱えるようになるまでに、剣士は5つの剣技を習得する」って。テイマーがビースト依存。それに、ビーストの面倒もみなきゃいけないし、」

 

「ビーストテイマーはハズレギフトなの。でも、あんたがテイマーとしての新しいノウハウとか持ってたら、それも変わるかもと思って」

 

「期待しすぎだ。……それにしてもギフトだのハズレだのくだらねぇ。

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

「なら、お前にビーストを倒し方を教えてやる」

 

「魔物は体が魔素だけで出来てるくせに、大概はビーストや植物に似てる。だからそれらの特徴とか急所が分かってたら対応は難しくない」

 

「たとえばトキシック・マッシュ。こいつは揺らしたり、笠に攻撃を当てたりすると毒の胞子を撒き散らすから、柄の部分を横に切り裂いて倒す。ポイズン・トードは喉元の毒袋を破裂させないように攻撃する。ヴェノム・スコーピオンなら殻の隙間を狙って攻撃するって感じだ」 

 

 

 

「そこまで言うなら、お前の戦い方を見てやる」

 

「わかった」

 

 ローロと出歩き、戦闘になる。

 

 ゾル・スラッグ。

 体のあちこちから、粘液に塗れた突起がでているのが特徴。 

 

 ワームだった。

 

「やってみろ。あいつは比較的危なくない」

 

「うげぇ……あいつ苦手なのよね」

 

 ローロが槍を振おうとすると、ゾル・スラッグの突起が伸び出し、触手になった。

 

「ひっ!」

 

 ローロはそれに目線をと取られ、足元に広がるゾル・スラッグの分泌液に気づかなかった。

 すべった。

 

 ローロは咄嗟に体をのけぞらせるが

 

 触手に絡め取られる。

 

「ひゃああ!」

 

 全身をなめられまくる。

 

「槍から手を離すな!」 

 

「わ、わかった!」

 

 槍をぶんぶん振るう。ローロ。

 だが当たらない。

 

「毒は大丈夫なのですか?」

 

「毒はないから安心しろ――体の穴に触手をねじこんで、体内から殺そうとしてくるけどな」

 

 現に今も、ローロの体を宙吊りにしながら、ローロの(くち)とズボンの中へと、触手を滑り込まそうとしていた。

 

「ひぃ〜〜〜〜‼︎」

 

 

「ジュモ! 彼女を早く助けなさい!」

 

「まだ大丈夫だ」

 

 それを聞いたローロは精一杯の力で口をとじ、股の前に手を持ってきて、足を閉じた。槍を取り落とした。

 

「あれのどこが大丈夫なんですか⁉︎」

 

「ありゃぁだめだな……」 

 

 ジュモは鉤爪で触手を切り裂くと、ゾル・スラッグはあっという間に塵となり、落下してきたローロを受け止めた。

 

「最悪! そういう魔物(まぶつ)なら先に教えなさいよ!」

 

「でもそれじゃあ訓練にならないだろ」

 

「次は教えなさい!」

 

「ああそうだ、ゾル・スラッグに捕まった時は、股を守っても意味ねぇぞ。やつらが狙うのは、体内に繋がってるケツの穴だ」

 

「最ッッッッ低‼︎」

 

 

 ◇

 

「じゃあ戦いやすい魔物ってなら、あのコボルトでどうだ?」

 

 ジュモが指差すと、ゴブリンもジュモたちに気づいたようだ。

 

「ゴブリンは群れると狡猾な手もつかってくるが、一体のときは所詮単純な攻撃しかできないバカだ。」

 

 ……事前に攻略法教えなさいよ

 

「わかった。ただし、毒を持ってない獲物だ」

 

 

「……動体視力はいい。良すぎるくらいだ。だが体が追いついてない。お前、運動得意なほうじゃないだろ」

 

「う……」

 

 

「槍をしっかり構えて、最小限の動きで対処できるようにしろ」

 

 うまくいかない。

 

「……全然うまく振れてねぇ。根本的に槍に向いてないんだよ」

 

 ピンチになったところをジュモが駆けつけて倒す。

 

「あ、ありがとう……」

 

「さて、どうするっかな……」

 

「どうかしたのですか?」

 

「二度、魔物と戦ってわかったことがある」

 

「ローロ、お前は多分槍が向いてない」

 

「そ、そんな! なんだってんだ!」

 

「さっきもいったとおりだ。……動体視力はいい。良すぎるくらいだ。だが体が追いついてない。お前、運動得意なほうじゃないだろ」

 」

 

「……でも、私は槍がいいんだ」

 

「あ?」

 

「ジュモ、まずは話を聞きましょう」

 

「……そうだな、悪かった」

 

 ローロが語ったのは、自分の生い立ちと母親のことだった。

 

「お母様が槍使いだった。だから私も槍が扱えるはずなの」

 

 

 

 お母様は私なんかと違って、子供のころからすごいテイマーだった。ドラゴンに乗って、槍を振るうペガサスナイト。それがお母様。でも私は、こんな小さな子しかテイムできないし、うまく指示も出せない。……それに、斥候だってろくにできない役立たず、それが私。それに、槍だってろくに振れない」

 

「ギフト外の能力は弱い。私、お母様みたいにはなれない」

 

「……そうか」

 

「ジュモ、なんとかならないのですか」

 

「本人が言うんだからどうしようもねぇ」

 

 

  ゼリルがローロのセラピストとなることで、やりへの固執から解き放つ?

 

 その後も、辺りのビーストの力と、ゼリルの聖力探知の力で探した。

 

「ジュモ、この先に、大量の反応があります」

 

「本当か!」

 

 少し開けた場所に、ポワロスの花畑ができていた。 

 

「うわあ!」

 

 かけていくローロ。だが、ジュモの野生の勘が、警鐘を鳴らしていた。

 

 咄嗟にジュモが周囲を見回すと、花畑の中に、ぼろぼろになった金具のついた布の切れ端がみえた。

 

(服……?) 

 

「待て!」

 

 咄嗟に

 

 

 ゾッとした。まずい!  

 

 ローロが踏み入れると、足に糸が巻きつき、ローロは宙吊りになった。

 

 上を見ると蜘蛛が。

 

「きゃああああ!」

 

 だが、ジュモとの戦闘の成果だろう、ローロは槍を手放さす、糸めがけて振るい、自力で脱出することができた。

 

「よくやった!」

 

 

 

 

 蜘蛛降りてくる

 

「でけぇ蜘蛛だ、なるほど、ここを餌にして、やってきた人間を喰らってたわけだ」

 

 

「〇〇! 銀等級クラス!」

 

「ジュモ、倒せる?」

 

「ああ、倒して花を持って帰ろう」

 

 ローロめちゃくちゃ下がる

   

「私、いつもこうしてたから」

 

「……かえってやりやすいからいいか」

 

 爪を出して飛びかかる。

 

 スキュラと互いに突撃、

 腹の下へスライディング爪を突き立てるが、火花がちるだけで今ひとつ。

 

『こいつ……爪じゃだめだ。ハンマー!』

 

 

 鋭い前足と何合か打ち合う。

 パリイをとる。

 しかし尻から糸を出し、後退されてしまう。

 

 ちょこまか逃げ回りやがって

 

 スキュラが糸を吐き足場にねばねばネットを展開。

 

「ちぃっ!」

 

 空中戦ならオレだって負けてらんねえぜ。

 

 片手のハンマーを解除。

 

 足をサル、しっぽ解除。

 

 壁をけり、岩のつららにつかまり空中でうちあう。

 

 スキュラのバランスをついに崩し、腹を剥き出しにして落ちた。

 

 落下の勢いでハンマーを――!!

 

 スキュラがキエエーーと叫んだ。

 

「きゃあああ!」

 

 なにっ!

 

 もう一匹の大蜘蛛がローロを襲う。

 

 一撃目はやりで防いだが、取り上げられてしまう。

 

 素手。ピンチ。

 

 ジュモが駆けつける。

 

 射撃。

 

 口に入って怯み。

 

「こっちだ!」

 

 蜘蛛が飛びかかってくる。

 

 下にもぐりハンマー!

 

 

「ジュモ後ろ!まだ!」

 

 

 

 蜘蛛の最後の力をふり絞った攻撃で、ジュモは背を惹かれ、スライディングはとまり、蜘蛛の着地点で止まる。

 とどめの直前でローロへ駆け寄ったため、とどめをさしきれていなかったのだ

 

 くそ!

 

 ジュモに蜘蛛の毒牙が迫る!

 

 やってやらあああ!

 

 ぐちゅ、と、ジュモの手に牙がのめりこむ深いな感覚が襲う。

 

 口の中に手を突っ込み、タイガークロー! 

 

 ぐぎゃあ!

 

 まだだ! とげ!

 

 蜘蛛消えた!

 

 後ろの蜘蛛も消えた。   

 

「ジュモ! 大丈夫か!」

 

「てて、してやられたぜ……」

 

 傷跡の付近から、紫色に変色していっている。

 

 

 彼の表情は苦痛に歪んでいた。額には冷たい汗が滲み、皮膚は青白く変色し始めている。呼吸は荒く、喉の奥でかすれた音を立てながら、体が徐々に力を失っていく。 

 

 彼の体温はどんどん低下し、呼吸は浅く、乱れていく。顔色は次第に土気色になり、目の下には濃い影が浮かび上がっていた。

 

「ジュモ、薬は……!」

 

「ローロ、使った二本が最後だったんです。……ローロ、ポワロスの花から解毒薬は作れないのですか!」

 

 

 

 

 

 ローロは首を横に振った。

 

「解毒薬を作るには、ポワロスの花以外にも、――草が必要なの。でも持ってきてなくて……」

 

「こういうのは、いつもやらされてるから」

 つたで腕を縛る。

 

 

 

 

 

 いつの間にか、心配したビーストたちが、ジュモの周りに集まり始めていた。

 

「なら、こいつらに集めさせればいい。匂い、形、色、なるべく細かくイメージするんだ」

 

「……わかった、やってみる。 」

 

 ローロは頭の中に薬草のことを思い浮かべる。

 

 すると、ビーストたちはそれぞれの方向へと散っていった。

 

「みんな……」

 

「へへ、できんじゃねぇか」

 

「あとは、無事に―草が手に入れば。

 

 ローロは自分のリュックから乳鉢と乳棒、それから小さな鍋を取り出した。

 落ちている枝を素早く集めて薪を組むと、

 

「リド、フレイム」

 

「ぎゃお」

 

 火が着くと、鉄鍋を起き、水を入れた

 

「ポワロスの花は煮る必要がある」

 

 ポワロスの花が煮立つころには、――草が集まっていた。

 

 それらを乳鉢の中ですり潰すして、ようやく解毒薬が完成した。

 

「突貫で作ったから工程は荒いけど、素材が新鮮な分、効くはずだ。苦いけど我慢して」

 

 ジュモに飲ませる。

 

「がはっ、苦げっ! うぇっ! げほっげほっ!」

 

 徐々にジュモの顔色が戻っていく。

 

 

「死ぬかと思った」    

 

 それを見た二人は安堵した。

 

 

 ◇

 

 

 ポワロスの花をたっぷりと採取した二人は森を後にした。

 

 テイム、やってみろ。その場でだけだ。

 

「そっか、一時的なテイムなんて、考えたことなかった。」

 

「恐れず、自分の気持ちを伝えるんだ」

 

 

 

 テイムできた。

 

 よし、帰るぞ

 

 動物をテイムして帰ってきた。

 

 街へと戻った。

 戻るころには夜になるところだった。

 

「俺たちは花をヒルナに渡しに行くけど、お前はどうするんだ?」

 

「ヒルナって、聖女ヒルナ様⁉︎」

 

「おう」

 

「アンタ、ヒルナ様から依頼受けてたのか!」

 

「まあ色々あってな」

 

「な、なあ私も行っていいか? あたしもヒルナ様に会いたい」

 

「おう、勝手にしな」

 

 

 そうして教会へ向かう最中、飲食店のある通りを通っている最中のことだ。

 

 外で飲んでいる男達。

 目があった。いや、厳密には目があったのはローロだ。

 

 黒髪をオールバックにした巨漢。

 

 

「おう、おそかったじゃねぇかチビ。とっくに野垂れ死んだかと思ったぜ」

 

「「「ギャハハハハ!」」」

 

「ゼイラー……」

 

「で? ポワロスの花は持ってこれたんだんろうな」

 

 バッグを開こうとする

 

「よこせ……へぇ……ザコの癖によくやったじゃねぇか」

 

 どうやらジュモの存在にも気づいたようだ。

 

「なるほど、どうせ、その男に譲ってもらったってクチか」

 

「なあアンタ、そんな使い道のねぇガキ助けてなんのつもりだ?」

 

「あ?」

 

「助けたところで価値なんかねぇだろ」

 

「ははーん、体目当てなら悪いが、そいつはうちの所有物(メンバー)だ――」

 

「――あんたがどこの誰でもいいが、貸し出すなら一晩10万、きっちり払ってもらうぞ」

 

 ギャハハハと男たちが笑う。

 

 俯き黙り込むローロ。ぐすん。

 

 

 ばごん!

 

 ジュモがゼイラーを殴った。

 殴られたゼイラーは、机をひっくり返しながら店の中まで転がっていった。

 

「なにすんだテメェ!」

「そうだそうだ!」

 いきりたった男たちが武器を抜く。

 

「話を聞いた時から、死ぬべき人間だと思っちゃいたが、今決めたぜ、テメェを殺したいって思ってたところだったんだ。テメェみてぇなクズ野郎は生きてちゃいけねえ。だから、俺が殺してやるって言ってんだよ」

 

「ジュモ! なにやってるんだ! いくらアンタがつよいからって、ゼイラーは銀等級なんだぞ!」

 

 血管を浮き立たせたゼイラーが現れる。

 

「てめぇ……なんだかしらねぇが死にてぇなら殺してやるよ!」

 

 ゼイラーが剣をジュモに向ける。

 

『ジュモ』

 

「止めようったって無駄だぜ」

 

『――――殺さず、他の方々に迷惑がかからない程度にこらしめてやりなさい』

 

「――――はいよ」

 

 

 

 

 

 ジュモは、男たちをボコボコにした。

 

 

「テメェ、名前と等級は」

 

「ジュモ・オレンジバック。銅等級。」

 

 ゼイラーは高速で大剣を振る。

 戦士のギフトの賜物だ。

 

「おら死ねっ!」

 

 軽々と避けたジュモは無言でゼイラーの腹を殴る。

 

 ゼイラー白目をむいてその場でダウンした。

 

「けっ、口ほどにもねぇぜ」

 

 ジュモはゼイラーの腹を踏みつけると、骨の折れる音がした。

 

「ぎゃああっ!」

 

 次はどいつだ?

 

「ひっ、ひいい!」

 

 ローロを侮辱した男の胸ぐらを掴みあげたその時。。

 

「そこまで!」

 

「あ?」

 

 止めたのは、教会にいたヒルナのそば付きだった。

 

「騒ぎと聞いて跳んできてみれば、あなたでしたか」

 

「ああ、お前は聖女のところの……」

 

「リーデルです」

 

「原因はあなたと彼らにあるようですが、一応、敬意をお聞きしましょうか」

 

「わ、私が悪いんだ!」

 

「ふむ」

 

「私がひどいこと言われてるのを聞いて、ジュモは怒ってくれたんだ」

 

「経緯はわかりました……今回に関しては、無罪放免でいいでしょう」

 

「ちょうどいい、ポワロスの花を持ってきたところだ」

 

 

「ああ、持ってるぜ」

 

「では、今からヒルナ様に渡してもらえますか? あなたも来るといいでしょう」

 

 ◇

 

 リーデルにヒルナの元まで案内されたジュモは、経緯を話した。

 

「ポワロスの花が大量なのはいいけど、面倒ごとまでもってこいって言った覚えはないよ?」

 

「しょうがないだろ、あんなクズ」

 

「クズかあ、私も」 なるほど、『黒黒牙の団』か。一度来たことがあったけど、そのときも、私が聖女な手前、取り繕って意はいたけど、横暴さが隠しきれてなかったね」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「ああ、君は別だ、君は黒牙の団の被害者だからね」

 

「でも……」

 

「でも、ジュモくんが助けに入ってくれてよかったよ。

 黒牙の団の行動は目に余る」

 実際に死者が出ていたとは。

 

「もっと事前になんとかできなかったのかよ」

「この毒騒ぎで手が回らなかった――というのは言い訳にはできないね」

 

 黒牙の団を抜けるいい機会だ。

 

「だな、よかったじゃねぇか」

 

「うん!」

 

「さ、そろそろポワロスの花をもらおうか」

 

 

「おおー! 上出来だよ。群生地でも見つけたの?」

 

「ああ、でっけぇ蜘蛛が人間を誘き出すための狩場にしてやがったけどな」

 

「……なるほど、通りで情報が上がってこないはずだ」

 

「あやうく死ぬとこだったぜ」

 

「君が?」

 

「もう一体いやがってな。ローロが襲われてしかたなく。」

 

「大蜘蛛が二体も……やっぱり異常みたいね」

 

 

「報酬は前払いって話だったけど、追加であげてもいいくらいだ」

 

「解毒薬をつくる副産物で、いろんな強力な成分ができてね。」

 

 ヒルナが取り出したのは、三つの小瓶だった。

 

「それぞれ炎上、凍結、麻痺の薬だ。これを刃物とか矢尻に塗って魔物(まぶつ)を攻撃すれば、まあそれなりの効果は保証するよ? ……って、なんだかあんまりお気に召してないって顔だね」

 

「それと、ローロ、君には少ないけどこれを」

 

 昼なが麻袋を渡す。

 

 ローロがぱあっと明るくなった。

 

「だ、だめです受け取れません!」

 

「お詫びの気持ちだ」

 

「あー、まあいいや、もらえるってならありがたくもらっておくぜ」

 

「これで私も一安心かな。」

 

 眠ってしまった。

 

「ヒルナ様はお疲れなのです。寝かせてあげてくださいませ」

 

 ◇

 

 

 

 

「……ジュモ、ありがとう。なんだかすっきりしたよ」

 

「俺もムカついてたからな」

 

「これで、あんなやつらとおさらばだな」

 

「……ああ、そうだな」

 

 答えるローロの表情は明るくない。

 

「そうだ、あんたに食べさせたいものがあるんだ」

 

「おっ、食い物か? 教えてくれよ!」

 

 ローロに案内されたのは、いい感じの店。

 

「あらローロちゃん、久しぶり。あら、そちらの方は」

 

「こいつはジュモ、今日助けてもらったんだ」

 

「あら、それじゃあおもてなししなきゃね。注文ははちみつパイと紅茶でいいわね?」

 

「うん!」

 

「よく来るのか?」

 

「たまに。お金ないから。でも、おばちゃん優しくて」

 

「そうか」

 

「おお、うまい」

 

「私も食べたいです」

 

「ジュモ、お前はこの後どうするんだ?」

 

「ああ、こいつの旅をしててな、この街がこいつの目的地じゃtないってわかったら、ギルドカードが手に入りしだいここを出る予定だ」

 

「そっか……すぐ行っちゃうんだな」

 

「まあな。お前はまだこの街にとどまるのか?」

 

「うん、そうかな。この店もあるし」

 

「おう、そか、お前も達者でやれよ」

 

「よかったら、私たちと来ませんか?」

 

「いや……私は、いいよ、アンタ達にはついていける気がしないしね」

 

「おう、そか」

 

 店を出た。

 

「じゃあまたな」

 

 

「彼女は、勇気が無かっただけなのでは?」

 

「さあな、でもあいつはあいつで元気にやるだろ」

 

「そうですね」

 

 

 

「いっとくけど、私、処女だからなっ!」

 

 ◇

 

 うーん、結局お前の目的地ってなんなんだ? この街じゃないのか?

 うーん、厚生んgあ惰性あん以上、なんとも……。

 

 この街を回ってみよう

 

 でも、ゼリルは聖力がつかえるんだ。

 でも、考えられるとしたら教会だよな。

 教会には、大きな絵画が。

 これは……

 ニューリアとカラボスが争った聖魔大戦だ。

 魔物(まぶつ)と聖物が争って、 

 

 まったく、不思議だよな

 

 君たちも大概不思議だよ。

 

 それに起毛、半裸の男がおっぱいと幼女を誘拐してたって。

 

 

 よう、あmんときのおさん。

 

 助かった。

 

 そういえば、薬物が必要な理由ってなんだったんでしょう。

 うっ……ううっ……

 それは、手術の様子だった。

 最近、こうなった。

 どくの魔物(まぶつ)が湧き出してからだ。 

 

 なんと言うべきか、体が闇に侵されている。

 商人のmすmね。

 ゼリル。

 

 ゼリルと意見が対立? 逸れる?

 ゼリル誘拐?

 

 

  盗賊を許すパート。ゼリルの正義を見せる。ジュモの人嫌いを見せる。ただし今回は、情状酌量の予知あり、とする。

 

 ・犯罪を行うのは大人である→子供だと、そら許すだろってなる。・国のトップに問題はない、こととする。→ヒルナへのヘイト管理

 となると?

 ・下っ端の政治家のせいか、毒魔物のせいか、雇用主のせい。

 

 ・雇用主のせい?

 

 大人→家族がいる。妻? 子供? 

 子供が病気?

 →聖女が直せない?

 直せるよ

 直せない理由があるよ?

 

 

 

 」

 

「あ?」

「どうしました?」

 

「いや……」

 

 ジュモが一人の男を見た。

 

 男がすれ違う瞬間、ジュモの腰に手を伸ばした。

 

「盗みはいけねぇなぁ!」

 

「ひ、ひいっ!」

 

 殴ろうよするジュモ

 

「待ってください!」

 

「分かってる、殺すな、だろ。死なない程度ぼこぼこにして、衛兵に突き出すよ」

 

「そうではなく、話を聞いてみましょう」

 

 

「何言ってんだ、こいつは、ポーチを盗もうとしたんだぞ!」

 

 ポーチには、ビーストからもらったものが入っている。だから怒っているのだ。

 

「ジュモの気持ちはごもっともです。だからこそ、話を聞きましょう」

 

「なんでそうなるんだよ」

 

「なにか理由があるからこそ、犯罪にはしったのです。――彼には許されるチャンスがある。」

 

「たっ、頼む……! せめて明日まで待ってくれ!」

 

 明日まで――。その言葉が気になったジュモは力を弱めた。

 

「……とりあえず話だけは聞いてやる」

 

「あ、ああ……」

 

 男は話し出す。

 

「――娘の治療のために、金が必要なんだ」

 

「教会にいけば、金は掛からないんだろ?」

 

 男は首を横に振った。

 

「娘の病は、教会の聖術じゃ治らないんだ」

 

「嘘じゃないだろうな」

 

「……ついてきてくれ」

 

 十歳前後だろうか、ベッドに横たわった少女。痩せている。

 

 

「……私は商人をやっていて、妻を早くに亡くして、この子を連れて旅をしていたんだ。あの日も、いつものように、日が上る頃に街を出て、宿駅を目指した。だが、その日は空に分厚い雲が空に掛かり、暗闇になった」

 

「魔物……」

 

「ああ、私たちは魔物に襲われ、護衛のおかげでなんとか一命は取り留めたものの、娘は重傷を追ってしまった」

 

「この街につき、すぐに教会で治療をしてもらい、身体に受けた傷は完治したのだが、娘は眠り続けることになってしまった。精神的なショックを受けたことが原因で魂が眠りについてしまった。」

 

 

 

「教会で診てもらったら、『魂隠れ』と診断された」

 

「魂隠れは、魂が眠りについてしまって、身体はどこにも異常がないのに、目覚めないという症状なんだそうだ」

 

「それが、教会じゃ治せないってのか?」

 

「教会治せるのは、毒や風邪や怪我などの症状だ。だが、魂の病は、王都や聖都にしかいない、魂の扱いに長けた聖女でないとできないんだそうな」

 

「今は流動食を食べさせているが、すぐに衰弱死してしまう。

 

「だが、この街から王都までは遠すぎる。とてもじゃないが、今の娘を連れたまま過酷な旅をすることは不可能だ」

 

「私は、商人時代の伝手を使い、『目覚めの石』を取り寄せることにした。手元に払えるだけの金がないにも関わらず」

 

「はじめは、この街で手元に残っていた商品を売り金を稼いだ、次に物を売った。だがそれでも足りず、そしてもう、明日の朝が約束に日になってしまった。私は……私は、数日前からスリを始めた。」

 

 手紙には、〇〇リル

 

 男は土下座をした。

 

「どうか許してくれ……!」

 

「ジュモ」

 

「……わかってるよ」

 

「いくらあるんだ。」

 

 ジュモは、鱗を差し出した。

 

「ジュモ、それは」

「……〇〇リルに価値があるって聞いた。ガキを助けるんだろ」

 

「罪のないものから奪ったことは、償うべきです。ですが今は、彼女を目覚めさせることだけを考えなさい。事情は、聖女ヒルナを通して、他のものに説明します」

 

「あんた……」

「いいのかよ、勝手にそんなん約束して」

 

「聖職に勤める者なら、理解を示すでしょう」

 

 それにしてもその手紙、ウェールズ、聞いた名ですね――そうだ、ジュモあの商人ではないですか?」

 

「ああ、そういえばそんな名前だったような……」

 

「ウェールズ氏は――で――な容姿でしたか? あ、ああ間違いない。あんたら、ウェールズを知ってるのか」

 

「ジュモ」 

 

「ああ、少なくとも俺たちに仮がある。こう伝えてやれ『ぼったくりやがったら、秘密をバラす』って」

 

「あ、ああ……ありがとう」

 

 恐怖で。

 

 

 

 明日の朝取引がある。それまでに

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 翌日ジュモは予定通り講習に参加していた。

 

 現在は移動中だ。

 

「それでは、今からあなた方三名にはパーティを組んでいただきます」

 

 ジュモ、それから、荒くれ者のような剣士と、女の射手(アーチャー)だ。

 

「キリーよ」

「ガリオスだ」 

 

 射手が尋ねる。

 

「あれ? 受付にいる人ですよね? 試験の講習もするんですか?」

 

 尋ねられた職員は深い溜息をついた。

 

「現在は毒を持つ魔物(まぶつ)が大量発生している非常事態のため、解毒魔法を使えるという理由で私も駆り出されることになったんですよ。ちなみに、次同じ質問したら不合格にしますので」

 

「はっ、はい……」

 

「あなた方には、銅等級以上の魔物(まぶつ)合計五体の討伐をお願いいたします」

 

「五体? おいおい、それだけでいいのかよ」

 

「ええ、毒の魔物(まぶつ)は対処を間違えると非常に危険ですので、その対処の仕方を見るだけで大方の実力はわかります。それに、長期になればなるほど毒を受けるリスクも上がりますので」

 

 本当は、事態が収束するまで試験を中止にすればいいものを……。

 

 ◇

 

 森についた。

 

 

「で、彼が前衛、私が後衛なのは決まりとして、あなたは? えーと、武闘家?」

 

「いや、俺はビーストテイマーだ」

 

「はあ? いやいや、テイマーなのにビースト連れてないじゃん」

 

「面倒になってきたな……」

 

 ジュモは魔物(まぶつ)をさくっと倒した。ローロのときと同じ容量で。

 

「ほら、五体倒した。これでいいんだろ?」

 

「……単騎でそれだけの実力があれば合格ですが……、いかんせん、ジュモ様はビーストテイマーということで、テイマーとしての能力も見せていただきませんと……」

 

「あ? 倒せたんだからそれでいいじゃねぇかよ」

 

「……決まりですので」

 

「あ? じゃあ何すりゃいいんだよ」

 

「ええと……本来ビーストによる索敵および、ビーストに指示を出しての戦闘を見せていただければいいのですが、ジュモ様はビーストを連れていないため……」

 

「ったく、わかったよ、おーい」

 

 鳥がやってくる

 

「この付近にいる魔物(まぶつ)を見つけてくれるか?」

 

『ワカッタ!』 

 

 テイム完了

 

「な!」

 

 すぐに戻ってくる。

 

「あっちか、――が一匹、――が一体だとさ」

 

 そんな、言葉がわかるわけ……

 本当に……」

 

 ジュモは小石を拾いあげると

 

「これをあいつらの向こうに落としてくれ、」

 

 鳥が石を落とすと、意識がそっちへ向いた。

 

 ラピッドショット。

 

 急所にあたり消滅。

 

「ビーストに戦わせたくねぇんだ、これでいいか?」

 

「……は、はい」

 

「私より射撃正確かも……」

 

「……で、では、ジュモ様は合格とし、見学に」

 

「けっ……」

 

 その後、2人の試験。

 

「馬鹿らしくなるぜ」

 

「しょうがないでしょ、さっさとやるわよ」

 

 ゴブリンだ。

 

「げっ、アレ、手に持ってるの、毒槍?」

 

「ゴブリンまで毒を使い出す、か。嫌気がさすぜ。ま、いっちょやるとするか」

 

 ガリオスが片手剣をゴブリンへ振りかぶる。

 ゴブリンは槍を構え、それを防いだ。

 

「甘い!」

 

 ガリオスは左腕のバックラーを、剣を防ぐことに集中し、がら空きになった顔面に殴った。

 

 姿勢が崩れ、地面に仰向けになったところを、両手で剣を構え突き刺した。

 

「GYAAAA!」

 

 ゴブリンが霧になり、ポーチに吸い込まれた。

 

 

「あーやだやだ、泥臭いったらありゃしない」

 

「ふん、前衛の影に隠れてこそこそ攻撃するしか脳のない臆病者には言われたくないな」

 

「なに、やろうっての」

 

 それを見ていた職員はため息をついた。

 どうやら、こう言った言い合いは冒険者の間ではよくあることらしい。

 

「やれるもんならな」

 

 ガリオスが挑発すると、キューチーは弓を引き、それを見たガリオスが盾を構えた。

 

「あっ」

 

 キューチーが放った弓は、ガリオスに当たることはなく、ガリオスの背後に迫っていたナメクジの眉間に刺さった。

 

「あら、後衛がいてこその前衛でしょ?」

 

「ちっ……」

 

 その後も、度々衝突しながら、ガリオスとキューチーは討伐を重ねていった、そんな時だ。

 

「ぐわああああ‼︎‼︎‼︎」

 

 森の明後日の方向から、男の悲鳴が聞こえてきた。

 冒険者なら誰もが一度は聞いたことのある、絶命する時の声だ。

 

 各々が武器に手を掛ける。

 

 バサバサと飛び立つ鳥をジュはテイム

 

「何があった!」

『蜘蛛、赤い、人、まだいる、小さい子、』

 

「赤い蜘蛛……。ガキがまだいるらしい」

 

 ジュモはかけだした。

 

「ちょっと! ……状況確認のため私も伺います。試験は一時中断としますが、先に帰還しても構いません。

 

「バカ言うなねーちゃん、この程度にビビってて何が冒険者だっての」

 

「同感。さっさとあの問題児を追うわよ」

 

 ◇

 

 ジュモが悲鳴の聞こえた方向へ赴くと、そこには惨状が広がっていた。

 先ほどの悲鳴の主だろうか。巨大な蜘蛛の魔物が冒険者を食らっていた。

 鋭い脚。昨日、ジュモが戦ったばかりの魔物、災いの蜘蛛(スパイダー・スカージ)だ。

 だが、その体は紅い。返り血に染まったようなドス黒い色をしていた。

 

 蜘蛛は、次の獲物を見定めようと、八つのめをギョロリと動かした。

 視線の先には、必死で逃げる小龍を連れた、紅い髪の少女――ローロだった。

 

 蜘蛛が、ローロに糸を放たんとしたその瞬間、ジュモがローロを攫いっていった。

 

「ガキってのは、お前のことだったか」

 

「ジュモ……!」

 

「よう、またピンチか」

 

「気をつけて、あいつ!」

 

 ローロが言葉を言い切る前に、大蜘蛛はジュモたちに向けて糸を放った。

 

 ビュン、と空気を切り裂きながらジュモの顔の近くを横ぎった。

 

 ばしゅ、とジュモの頬が切れ、ジュモの頬に血が滴っていく。

 

「――見えなかった」

 

「あいつ! 特殊個体(イレギュラー)だ!」

 

「ご無事ですか! っ! 酷い!」

 

「真っ赤な 災いの蜘蛛(スパイダー・スカージ)とは、特殊個体か、腕の見せ所ってもんよ!」

 

「よせ馬鹿野郎!」

 

 ジュモの叫びも虚しく、戦士は大蜘蛛へ剣を振るった。

 

「あ……?」

 

 だが次の瞬間、戦士の腹には、拳大の穴が空いていた。そして、血を撒き散らしながら、うつ伏せに死んだ。

 

 ――その場を、絶望が支配した。 

 

「ぜ、全員撤退! 街へ戻り救援要請を!」

 

「あいつから逃げ切れっての!」

 

「固まっていては一網打尽にされてしまいます。ここは散り散りになって逃げましょう! 幸運を!」

 

 職員は小杖を振るり「〇〇」と唱えると、その場にいた冒険者たちの体が淡く光った。

 

「なんだってお前一人でこんなところにいやがる!」

 

「ゼイラーたちの囮にされたんだよ!」

 

「まだあいつらとつるんでたのか! 昨日あいつらとは縁を切れっていっただろうが!」

 

「……あんた分かってない! 黒牙の団を抜けてそこからどうしろって言うの!」

 

「あ? しらねぇけどそりゃ、他のパーティに入るとか、パーティを作るとか、いくらでもやりようはあるだろうがよ」

 

「ジュモ、あんた全然わかってない! 私みたいな弱小テイマーがパーティに入れてもらえると思ってるの? 人が集まると思ってるの⁉︎」

 

 

「私は、アンタみたいに一人で生きていける、たくましくいきていけるわけじゃないの!」

 

「ローロお前……」

 

「でも、この結果がこの様。散々こき使われて、あげく囮にされる。蜘蛛の餌くらいしか価値のない、娼婦以下の存在、それが私」 

 

「――ならなんで、そこまでして冒険者続けようとすんだよ」

 

「……ローロ、お前に話がある」

 

「な、なに……」

 

「だがそれは、ここを逃げ延びてからだ!」

 

 

 

 

 ジュモの視界の端に、スイングで

 飛行物体が映る。それは、スパイダースイングする蜘蛛の姿だった。

 

「きゃあああああ‼︎」

 

 悲鳴が上がる。悲鳴の主は、あの弓士だ。

 

「ちっ、あいつがやられたか」

 

「ジュモ! 彼女を助けに行きましょう!」

 

「無理だ! あいつはもう手遅れだし、こっちはガキ連れてるんだぞ!」

「ですが……!」

 

「どっちが大事か、考えてみろ」

 

 

「選べるわけ、ないでしょう……自分の意思で危険な場所に身を飛び込ませたとて、それは死んでいい理由にはなりません。」

 

 

「……ジュモ、約束してください。もし目の前に助けられる命があったら、人間でも、救うと」

 

「……わかったよ、」

 

「ゼリルあんた……」

 

「……だがこの分じゃ、俺たちも危ない」

 

 

 ――そして、その時はふいに訪れた。

 

 ジュモたちが逃げた先で出会ったのは、大蜘蛛に襲われている黒牙の団であった。

 

「あいつらか……、ちょうどいい、このまま囮になってもらって俺たちが逃げる時間を稼いでもらうぞ」

 

「ジュモ! 約束が違うではないですか!」

 

「人間も助けるって話だろ? まさか、あんな奴らまで助けろっていうんじゃないだろうな」

 

「当たり前でしょう。彼らも、罪人である前に、人間であり、命です」

 

「街のときはまだ余裕があった、だが、今回は無理だ。こっちが死ぬかもしれねぇんだぞ!」

 

  ゼリルの成人キャラがが野党を説得するイベント?→命までは取らない→理由を聞く。赦す。悪党、改心する。

 

「……わかりましたっ!」

 

「はあ⁉︎ お前一人で行ったところでなんにもできねぇだろ!」

 

「それでも、私は行きます――私の心が、そう叫ぶのです」

 

 

 ゼリルはジュモの方から飛びおりるよ、蜘蛛のいるところまで飛び込んだ。

 

「さあ! 狙うなら、私を狙いなさい‼︎」

 

 全員の視線がゼリルに向かう。

 

「今のうちに逃げなさい! 早く!」

 

 

「あの馬鹿っ……‼︎」

 

「ゼリルを追うべきか」「ローロを救うべきか」。

 

「弱い癖に威勢だけは一丁前で! あんなのと、やってられるか……!」

 

 ジュモは、大蜘蛛に向かうゼリルに背を向け、逃げようとした。

 

「――私にはわかるよ、ゼリルの気持ち。力もないのに、志だけは曲げられない頑固者」

 

「それで死んだら、元も子もねえだろ……」

 

「ねえジュモ、どうやっても勝てない魔物にビーストが襲われていたとしたら、ジュモは助けに行く?」

 

「当たり前だろ」

 

「それが、悪いビーストだったとしても?」

 

「当たり前だろ、あいつらはそう言う生き物だ。」

 

「だったら、それはジュモの志だ。じゃあもう簡単だよ、ゼリルにとっての人間はきっと、ジュモにとってのビーストと同じなんだ。だから、無謀でも、体が動いてしまう。動かずにはいられないんだ。」

 

 ジュモは、はっとした顔をした。

 

「……お前は、どうなんだよ。お前はあいつらに死んでほしいだろ」

 

「……あいつらは、許せない。憎んでる。でも、死んでほしいかと言われたら」

 

 ローロは、笑顔で言った。

 

「生きたまま、苦しみながら償ってほしい。それで、頭下げさせるんだ!」

 

「ははっ! そりゃいい!」

 

 ジュモは、ゼリルと大蜘蛛の間に割って入った。

 

「言っておくが、お前みたいなクズを助けに来たわけじゃない。

 俺は、お前の願いを叶えてやる、そう決めたんだ。

 

 

 そして、ここで死ぬより、苦しみながら償うってのに、少し興味が湧いただけだ!」

 

「……ったく、このっのわがままおっぱいが!」

 

「なっ!」

 

「ちっくしょう! これが終わったらあとでしこたま揉みしだいてやるからな!」

 

 

 

 

 

  ゼリルが盗賊を許したことで入手したアイテムが役立つ 

 

 

 

 

 

 

 

 ジュモがゼイラーの元へ向かうと、ゼイラーは身体中が血に塗れ、その大剣も中程でへし折れてしまっているが、腐っても銀等級といったところだろうか、辛うじて五体満足でその場に立っていた。

 

「ちくしょう……!」

 

「しゃきっとしやがれクズ野郎!」

 

 ジュモは大蜘蛛の前に飛び込むと、眼球めがけて両腕の正拳突きを繰り出した。

 大蜘蛛はそれをバックステップで避ける。

 

「もってけ針鼠の針(ヘッジホッグ・スパイク)‼︎」

 

「GYAAAAAAA」

 

 二段階攻撃で繰り出された針がいくつかの眼に刺さり、悶絶の声が上がる。

 

「ボロ雑巾の荷物野郎はとっとと帰れ!」

 

「あ、ありが……」

 

「さっさと行け! ローロ! お前もゼリルを連れてとっとと逃げろ!」

 

 ジュモリュックを下ろすとローロに向かって投げつけた。

 

「わかった!」

 

 

 

「ジュモ! 私は!」

 

「お望み通りあのクズ野郎は助けてやったぜ、文句ないだろ」

 

「私たちがここにいてもジュモの邪魔になるだけだ! ゼリルいくよ!」

 

 

 お荷物やろうはいらねぇ、さっさと逃げな!」

 

「これでいいんだろ!」

 

 ◇

 

 ジュモを残し、街へと向かうローロとゼリル。 

 

「ローロ! あのままではジュモが!」

 

「分かってる! だから今は街に戻って救援を呼ばなきゃいけないんだろ!」

 

「でも!」

 

「気持ちはわかる! アンタ冷静になりな! 分かるだろ! 私たちじゃ何もできないんだよ!」

 

 それは、ゼリルを守るべき対象として見ているジュモとは違い、人として見ている、対等な存在として見ているローロだから言えたことだった。

 

「自分が何もできないせいで、二回もジュモに助けられた」

 

「アンタは、どのくらいジュモに助けられたの?」

 

「……出会った時と、それからはずっと、魔物に追われる私を抱えたまま、街まで――そうですね。ジュモと出会ってから私はずっと、彼に守られてきました」

 

「リド! 索敵お願い!」

 

 レッドリドラについていき、森の中を駆けて行く。

 

 リドラはとまり、あたりを見まわした。ハチに囲まれていた。索敵効果で上回られたのだ。

 

 

 こうしている間にも、ジュモと大蜘蛛が唾鍔迫り合う音が聞こえてくる。

 

『GYAAA……』

 

 耳に深いな音が聞こえてくる。

 

 だが、二人の行手を阻むように、数体のスティング・ビーが現れる。

 

「逃げるよ!」

 

 ローロは咄嗟に逃げ出すが、スティングビーの移動速度はローろより速かった。

 

 次第に近づいてくる背後からの羽音に、ローロは足が竦みそうにそうになる。

 

「ローロ! なるべく木の隙間を潜り抜けるように!」

 

「わ、わかった!」

 

 ローロはゼリルのアドバイスに従って、

 

「そこ! 滑り降りて!」

 

 ツタに引っかかり、槍を手放してしまう。

 

「あっ!」

 

「立ち止まらないで!」

 

「でもっ!」

 

「槍は後で取りに来ればいい、今は走って!」

 

 ローロは再び走りだした。

 

「いけない……、街への方角からズレてきています!」

 

 次第に、ローロの身を包んでいたバフが消え始めた。

 

 身体能力が急に変わったことでローロは足をもつれさせた。

 

「きゃあっ!」

 

「ローロ!」

 

 すかさず、倒れ伏したローロにスティング・ビーが襲い掛かる。

 

「ぎゃら!」

 

 射線上に、ドラゴンが割り込み、フレイムブレスを吐き出し、防いだ。

 

「ドラちゃん!」

 

「ローロ立って!」

 

「うっ……」

 

 ローロは、自分の足に生じた痛みに顔を歪める。

 

「あはは……今ので足、捻っちゃったみたい」

 

「そんな……」

 

「もうダメみたい……」

 

「諦めてはなりません!」

 

「諦めるなって……、どうすればいいのさ……」

 

「ドラちゃん! 十秒堪えてください」

 

「ドラアアッ!(まかせろ‼︎)」

 

 ドラゴンは巨大なブレスを吐くと、炎の壁を作った。

 

 炎の苦手なスティング・ビーは後ずさる。

 力を使い果たしたドラゴンは、よろよろと地面へ下がっていき倒れ込んだ。

 

 だが、これもあくまで一時的なものだ。ゼリルが言った通り、十秒もすれば炎の壁は消え失せ、怒り狂ったスティングビーが襲いかかってくるだろう。

 

「ローロ、これを!」

 

 ゼリルが持ってきたは、弓だった。

 あの弓

 

「弓……?」

 

「彼女が遺したものです。これなら、動けなくても使えます」

 

「でも私、弓なんてほとんど触ったこと――」

 

「――やるしか、ありません」

 

「……そうだ、やるしか、ない。やるだけやってみる。最後の最後まで、足掻いてみせる」

 

 ローロは弓を手に取ると、片膝立ちのまま矢を番え、引き絞った。

 

「私は……母様みたいな一人前のテイマーになるんだ。そのためには、こんなところでくたばってたまるか――――‼︎」

 

 炎の壁が消えると同時にスティング・ビーの毒刺がローロへと迫る。

 ローロは弓を放ち、ばすん、と放たれた矢が一体の胴体を貫いた。そればかりか、その背後に構えていたもう一体をも貫いた。

 

「やっ、やった……!」

 

「ローロ! まだきます!」

 

 

 

「ローロ、後ろは渡しが見ます」

 

 

「一五度!

 三十度!」

 

 

 ローロの瞳に、炎が揺らめいた。

 それは、炎の壁か、あるいは――

 

 

 ローロは、見事全てのスティングビーを撃ち抜いた。

 

「信じられない……本当に私がやったんだ」

 

「ええ、ローロ、あなたの才能です」

 

「でも、この足じゃ街へは……」

 

「あの大蜘蛛はジュモが食い止めてくれています。彼女は今ごろ街に着いていることを祈りましょう」

 

「……ジュモを助けに行こう。弓なら遠くからでも攻撃できる」

 

「……ローロ、これを」

 

 ゼリルが差し出したのは、ヒルナから受け取った異状薬、凍結、石化だ。

 

「これ……ヒルナ様からもらった異常薬……」

 

「毒、麻痺、凍結……これは?」

 

「石化薬、と言っていました」

 

「珍しいわね」

 

「じゃあ、ジュモのところに急ごう」

 

「でも、足が……」

 

 するとローロはハンケチーフに麻痺薬を漬けると、負傷した足首に塗布した。

 

「これなら痛みは感じない。大丈夫よ」

 

「ローロ!」

 

 ◇

 

 街の方角へと駆けていくローロとゼリルを横目で見送ったジュモは、目の前の大蜘蛛と対峙していた。

 

 前回と同じように戦おうとするが……。

 

「腹の下に潜らせちゃくれなさそうだな」

 

 飛んでくる糸を切り払おうとするが、ガキンとなる。

 超硬度。

 

「なにっ!」

 

 ジュモは糸を避けながら接近。

 

 前足の攻撃を避け、足の間接に攻撃。歯が通らない。

 

 殴るが、大きなダメージになった様子はない。

 

 尻尾がジュモを刺そうと動く。

 防ぐ、ジュウと溶ける。

 

 あっぶねぇ。

 

 作戦変更だ。

 

 ジュモは木々の隙間を這うように逃げはじめた。

 

 追い付かれそうになれば、小回りの効いたフェイントをかけ。

 

 折れそうな木を利用。

 蜘蛛、木の下敷きに。おまけのストンプ。

 

 ばきり、

 

 腹はそのままだが、背中にヒビ。中から白いものが見える。

 

 

 もういっぱつくらわせればよさそうだ。

 

 ベルトを槍に変化。投げる。

 リザードテイルスロー

 

 ばきりっ!!

 

 闇が吹き上がる。

 

 ぬるりと白い女が。

 

「――超特殊個体」

 アラクネ。

 

 

「なんだよ……」

 

 「一丁前におっぱい晒しやがって! わけわかんねぇがそんな柔らかい部分みせていいのかよ!」

 

 女が人差し指をジュモに向けた。

 

(ヤバイっ……!)

 

 ドシュ、と、ジュモの腹に糸が刺さる。

 

「あ?」

 

 最悪の予感。

 

 ジュモを弄ぶあのように、振り回し投げた。

 

「ぐああっ!」

 

 ジュモは立ち上がった。

 

「何かと思えば、まさかそっちからも糸がだせるのかよ……!」

 

「コロ……ス……」

 

 今度は、十本の指をジュモへと向けると、それが、矢のように降り注ぐ。

 

 ジュモは咄嗟に回避する。

 

(勘でどうにかするっきゃねぇ!)

 

 ジュモは無数の糸を避け、刻みながら距離を詰める。

 だが、全てを防ぎ切れるはずもない。

 致命傷は避けているが、ジュモの身体に、傷が増えていく。

 

 接近し跳び上がり、爪を突き立てんとするが、ありえないほどのけぞり、避けた。

 

 宙に浮いたジュモを鎌のような爪が切り裂いた。

 

「がああっ!」

 

 にやりと笑う。

 鎌がジュモの命を刈り取らんとしたその時。

 

 ローロの放った矢がアラクネの下半身に刺さった。

 

『GYAAAAAA‼︎』

 

 するとアラクネの下半身は姿勢がだらりとくずれ、バチバチと電気が走った。

 

「こんなに速く麻痺するなんて、効果は本物みたいね」

 

 ローロの存在に気づいたアラクネは、糸を放とうとする。

 

 そこに、木々を抜けるように飛行したリドが飛び出してくる。

 リドは足を離してゼリルを地面へ放つと、最後の力を振り絞ってブレスを放った。

 

「ぎゃおお!」

 

 弱い威力だったが、ひるませ、なによりローロが次の矢を番えるには十分な時間だった。

 

 再びアラクネが両手から糸を放つ瞬間、今度は左腕に矢が突き刺さる。

 すると、たちまち氷始めた。

 

「もう一丁!」

 

 さらに右半身に刺さると、石化しはじめた。

 

「アラクネの属性三種盛り!」

 

 ローロがほっとしたのも束の間、異常に蝕まれているアラクネが、早くも少しずつ動き始めた。

 

「ゼリル! 何かするなら今のうちに!」

 

 だが、ローロにとっても、そしてゼリルにとっても予想外のことが起きていた。 

 

「ジュモ! ああ……こんなに血が……!」

 

 失血したジュモは土気色だ。

 

「なんできた……」

 

「何もできない自分に嫌気が差したんです。それで、ジュモが以前言っていた奇跡の力を起こせれば、ジュモを助けることができるかと思って――。

 

「そうか……奇跡ってのが本当にあるなら、俺の傷を治してくれたらいいんだけどな」

 

「あの時は、女神ニューリアに」

 

 女神。あの時教会で見た絵画を思い出す。

 女神、あの女神のように、癒し、守る力を……

 

 するよ、ゼリルの体が淡い光に包まれ始めた。

 

 ジュモ、口を開けてください。

 

 ジュモの開いた口にゼリルは自分の体を当てがった。

 

 ジュモの口内へ暖かく、そして優しいまろやかな甘みが広がっていく。

 それを反射的にこくり、こくりと飲み干すと、ジュモの体の奥底から、力が湧き上がってきた。

 

 ジュモを蝕んでいた毒は癒え、傷は塞がり、手足の先まで力に満ちている。

 

『GAAAAAA‼︎』

 

「ジュモ! ゼリル!」

 

 ぎん! とぶつかる音がした。

 ジュモが防いだのだ。

 

「不思議だ……妙に力が溢れてきやがる」

 

 強烈な眼力で大蜘蛛を捉える。その目は翡翠色だ。 

 

 

 攻撃が見える。

 

 とんできた糸を回避、そして切断。

 

 前足とつばぜりあい

 

 あらくね本体にひとたち

 

「矢が刺さったことから分かる通りやっぱりやわいみてぇだな!」

 

 攻撃を裁き、生まれた隙で体に攻撃する攻防が続く。

 そして致命傷を与える。

「GYAAA」

 

 てめぇのおっぱいには、チェロリみてーな未来もなければ、ゼリルみたいな希望もねぇ!!!

「」

 

 

 ジュモ、失血などもあり、一瞬油断。あらくね、最後の火事場の馬鹿力。奥の手。

 ――子供が溢れ出した。

 

 

 

(まずった!)

 

 飛んできたあれが、一瞬で葬りさった。

 

「お待たせ、生きてる?」

 

 

 金色の大槌。

 輝きを放っていて、魔法杖かと思ったが、そうではない。

 あれは大槌だ。

 攻撃を防ぎ切った。

 

「ずいぶんおっかない杖だな」

 

「君がポワロスの花をもってきてくれたおかげでこれたよ」

 

「なんかすごい聖術」

 

 蜘蛛 跡形もなく消滅

 

「アラクネが出てくるなんて、いよいよ以上事態だね……でも、原因、わかったかも」

 

「本当か、」

 

「この先だ、ついてこれるかい? なに、すぐに終わるよ。それにきっとめずらしいものが見れる」

 

 先にいくと、森の中に、闇があった。

 

 何もないかのように、真っ暗なのだ。

 

「闇だまり。魔力だまりだ。」

 

「あっちの世界の力が、こっちの世界の聖力が弱い部分に漏れ出てきてこうなるんだ。」

 

「でも、ここって」

 

「そう、この街は聖力は強くないけれど、それでも決して弱いわけじゃない。予想はしていたけど――以上事態だ」

 

「それって」

 

「――魔神復活の兆し、かもしれない。報告しなくちゃね」

 

 ◇

 

「ジュモ様、これを」

 

 面許だった。だが、等級には、

 

「あ?」

 

「金?」

 

「はい……本来はプラチナ相当かと思われるのですが、そこまでは、私の力が及ばず……」

 

「そうだジュモ、収魔結晶の交換も済ませちゃったら? とどめはヒルナ様がしたとはいえ、瀕死まで持っていったんだから、結構溜まってるんじゃない?」

 

「あ? 収魔……、なんだそりゃ?」

 

「ジュモ、あんたまさか……」

 

 ◇

 

「「ひいいいいいい⁉︎」」

 

 悲鳴をあげたのはローロと受付嬢だ。

 カウンターの上には、この上ないくらいに真っ黒になった収魔結晶が置かれrていた。

 

「ああ、そういやこれを交換するって説明、あったな。すっかり忘れてた」

 

「あんたどれだけ溜め込んでたのよ!」

 

「旅始めるときに、ギルドで受け取ったもんだから……一年くらいか」

 

「しょ、少々お待ちください……」

 

 ◇

 

「ひいいいいいいい⁉︎」

 

 カウンターの上に積まれた、金貨を見て、ローロは再び悲鳴をあげた。

 

「これ、どのくらいなんだ?」

 

 数年は暮らしていけるわよ……。

 

「あんたこれ、どうするの?」

 

「うーん……」

 

「整備するための道具と、リュックと、飯を買ってどのくらい残る?」

 

「そりゃもうたくさん」

 

「うーん……」

 

「あんた裸でしょ、いい加減武具とか買ったら?」

 

「そうか、その手があったか」

 

 

「おい店主、これでこいつに合う装備を整えてくれ」

 

「え?」

 

「だってお前、弓は遺品として返しちまっただろ」

 

「いいの……?」

 

「これで、クソパーティを抜けられるな」

 

「うんっ!」

 

「じゃ、行ってこい」

 

 

 ◇

 

「仲間として招き入れるんでしょう?」

 

「さあな、そんときゃそんときだ」

 

 

「なあゼリル、結局お前の光線が差した場所って、この街じゃなかったんだな」

 

「ええ、おそらくそうでしょう。尤も、もう一度あの光線が出せれば確認できるのですが……って!」

 

 ゼリルの胸から光線が発射され、それは、前回と同様に、北の方を指していた。

 

「どうやら、そういうことらしいな」

 

 ◇

 

 怪我したゼイラー、見捨てられて、ローロに助けをもとめる。

 ローロはゼイラーのハウスへ来ていた。

 

「よお、やっともどってきたか。お前のことなんか誰も必要としてないんだから戻ってこい」

 

 変わらぬ態度のゼイラーに、ローロは弓を放った。

 弓はゼイラーの頬をかすめるように飛んでいった。

 

「ざまーみろ、このまま生きて苦労しやがれってんだ!」

 

「悪いな、私はこれでやっていける」 

 

 そうして、ローロは去っていった。

 

「じゃ、行くか」

 

 ジュモがそうしたとき、

 

「おーい!」

 

「私も行く! 私も戦える!」

 

「ジュモは笑みを浮かべた」

 

「よし、ならいくか!」

 

 

 ◇

 

 最北端の地、聖地。

 

 ここ数年。いや、

 

 ――”数百年ぶり”の慌ただしさを見せていた。

 

 壁が揺らいだのだ。

 

 ”泉”

 

 泉。聖力の泉としか形容できないほどの聖力だまりがあったのだが、

 揺らぎを感じた聖女がみにいったところ、顔が落ちていた。

 

 頭の月桂樹の飾り。それは本に書かれていた女神に似ていた。

 

 頭は目を開いた。

 

「――私はニューリア」

 

 そうして彼女が見たのは絵画だ。

 

「――ニューリアの体は六つに分かれ、散っていった。魔神目覚めし時、再び目覚めるだろう」

 

 ◇

 

 

 

「旅するならそうだ、聖都にいる先生にこれを渡して」

 

 

 

 

 

「それと、私のこと痴女とか娼婦って言ったの、訂正してよね? 私、処女( )なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・ビーストテイマーの定義、できることを定時。

 

『ジュモはなぜ??』

 

「仲間を傷つけたくない」

 

『ジュモについてこようとしたビーストたちもいたのでは?』

 

「いたよ、でも断った」

 

 

 

 ・もっとおっぱいを活かした設定に?→できること羅列する

 

 知識、(ジュモ10回落ちた)

 

 俺、10回落ちてるんだよな

 

 街は聖なる力のたまった場所を中心に発展。

 つよい神聖力は逆に避けていくのだ。

 夜でも寝られる

 

 ゼリルは章ごとにレベルが上がる。

 各レベルにつき一度光線を打てる

 

 

 

 

 聖女が駆けつけたときにはもう戦いは終わっていた。

 

「やはり、魔神が目覚めようとしています」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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