【 03 類は友を呼ぶ 2022/08/07】
●主人公の口癖『やっぱ現実ってクソだわ』
●現時点での如月六花への感情
・偶然が重なっただけだ。だが、それでは言い合えらわせないほどに、直感的に、運命的ななにかを感じてしまった自分がいた。
・彼女の名前が如月六花かもしれない。この話を聞いて俺はやはり運命を感じた。だから、向こうが本当に知り合いなら俺は天然主人公。電波なら俺はそれに乗って、主人公ごっこをしてやると決めた
昨日の練習から一夜明け、迎えた新歓の本番当日。
案の定、手足は筋肉痛になっており、駅までの自転車での道のりは非常に辛いものがあった。
それも、美少女の命を救った結果だと思えば、この痛みも立派な勲章である。
さあ今日は頑張るぞ、と気合を入れて登校してきたのはいいものの、新歓は放課後であり、その前に体育館で行われる部活紹介も五、六限目。
よって、午前中は普段通りの授業である。救いはないのだ。
現在は朝のホームルーム前。
俺はいつも通り、席に座るなりリュックサックから本を取り出す。
今日持ってきたのは、かの有名な物語シリーズの初巻である『化物語(上)』である。昨日、美少女を受け止めたことで、久しぶりに読み返したくなったのだ。
ペラ、と表紙を捲ったところで、遥々一番後ろの席から文句を言いにくる奴がいた。
ちなみに俺の席は前から二番目、廊下側から二番目だ。
「おい、昨日送ってきたLINEはなんだ」
やってくるなり俺の机を叩いた野蛮人は、いつも通り不機嫌そうな表情をしていた。
その高校生というにはあまりにも……よく言えばダンディな、悪く言えばおっさん臭い、ブラウンがかったレンズの眼鏡をつけた男子は朝倉一郎(あさくら いちろう)。俺が昨日、彼女を受け止めた直後、LINEを送った相手である。
こいつとは去年も同じクラスで、ラノベ好きの捻くれオタクという、この世の最果てのような共通点から話すようになった仲だ。要は、「類は友を呼ぶ」の典型例である。
分かりやすく違う点を挙げるとすれば、
俺がラブコメ作品を中心に、現実が舞台となる作品を多く見るのに対し、朝倉はその好みが、もっぱら異世界ファンタジー、それよりよりダークで重厚な物に偏っていることだ。『オーバーロード』やら『幼女戦記』やら、常に大判の小説を持ち歩いてるところを頻繁に見かける。
朝倉の指摘を受け、改めて昨日送りつけたメッセージを確認する。
『今ボクっ娘美少女が空から降ってきたんだが』
少しばかり……いや、それなりに説明を省いたとはいえ、これら全てが事実なのだから驚きだ。
「まあ、そのまんまだよ。昨日部活行く前にボクっ娘が降ってきたってだけだ」
「お前、説明する気ないだろ」
朝倉がより一層顔をしかめる。
「落ち着けよ、俺だって未だに混乱してんだ」
そう言いながら俺は本をしまうと、朝倉もそれに合わせて、俺の右隣の席に座った。
人の席に無断で座ったことに対して、一瞬指摘しようとも思ったが、昨日の新学期初日に隣人は欠席しており、ホームルーム直前の今の時間になっても来ておらず、今日も欠席の可能性が高い。
わざわざ言うほどのことでもないだろう。
頬杖をついた朝倉が催促してくる。
「とりあえず話してみろ。話はそれからだ」
俺は朝倉に、ベランダから彼女が落ちてきたこと、「キミがボクの王子様?」と、なにやら意味深な言葉を残して、その場から消えたことを話した。
「なるほど、その経緯があって、あのメッセージを送ってきたわけか」
朝倉は相変わらずの無愛想で淡々と答える。
俺は、今朝倉が何を考えているか、さっぱり読み取れなかった。
朝倉は一呼吸置き、再び口を開く。
「高校生が突然消えるわけねぇだろ」
「…………だよなぁ」
「話聞く限り、証拠らしい証拠もないんだろ?」
証拠や根拠が無い限りてこでも信じない。朝倉とはそう言う男である。
「だから、仮にそんな話があったとしたら───そんな、もしもの過程の話としてだったら聞いてやる」
「おーけー。それで十分」
「で? そもそもお前自身はこの一件についてどう思ってんだよ」
そう言われ、一瞬俺も言葉に詰まる。
「それは……あれだよ。美少女が降って来たってことは、これから俺の物語が始まるってことだろ。でもって、彼女は、宇宙人とか超能力者とか、そんな感じだ」
「お前がとんでもない偶然に立ち合わせたのは認めるし、そいつの命を救ったってのも賞賛するが、少なくともそれはねーよ」
「おい、俺の願望を一蹴すんな。偶然で『君がボク王子様?』って聞かれるわけ無いだろ」
「果たして、本当にそうか?」
朝倉がしたり顔で言う。何やら、既にこいつの中では何かしらの仮説が立っているらしい。
朝倉がドヤ顔を浮かべながら言う。
「お前、真面目に考えすぎ。でもって視野狭すぎ」
……ムカつく。
とはいえ、前者に関しては定かではないものの、後者に関しては台本の件がマルっと該当しているため、何もいえないのが一層腹立たしい。
腹立たしいのでこちらも催促し返す。
「はいはい、考察があるならさっさと離せ」
「わかった。俺は今から、お前に現実を叩きつける」
嫌な予告だ……。
「その『君がボク王子様?』ってセリフの真相はな……」
朝倉は、溜めに溜めた後言った。
「特に意味のない中二病発言に決まってるだろ‼︎」
「リアルボクっ娘なんか、こじらせた電波系メンヘラ女しかいねぇんだからよ!」
「お前ぇ……殺す‼︎」
「バカめ! 理想を抱いて溺死しろ‼︎」
───とはいえ、今の一言で俺は朝倉の言う事言わんとする事を理解できてしまった。
それはつまり、朝倉に殺意をぶつけながらも内心では、この現実において、オカルトで摩訶不思議なな展開など無いと思っていたからだ。
●このへん情報つめすぎ
「朝倉の言いたいことは大体わかった。彼女は典型的な中二病で、ベランダに出ていたこと自体に深い意味はなく、むしろ「風に吹かれて黄昏るのはなんかかっこいいから」。で、髪色は染髪。瞳はカラコン。全てはこじらせ高校デビューの賜物───で、合ってるか?」
「そういうこと。ようこそ現実へ」
「その前に、疑問が二つある」
「なんだ?」
「一つ目。彼女が中二病なのは分かった。だが、なぜ咄嗟に『キミがボクの王子様?』なんて台詞が出てくる。言っておくが、俺と彼女は間違いなく初対面だぞ?」
たとえ中二病といえど、彼女が美少女であることは間違いない。どこかで面識があったとすれば、例え幼少の事だったとしても覚えている筈だ。
加えて、当然ながら俺は王族の生まれでもなければ、王子だった前世もない。
「あー……それなぁ……」
すると、朝倉はばつの悪そうな顔をした。
「なんだ、今更勿体ぶるなよ」
すると、渋々と言った様子で口を開く。
「お前、そのセリフ言われただけで、直接会話してないだろ」
「ああ、そうだけど……それがどうした?」
会話をしたか否か。それがセリフと何の関係があるのだろうか。
朝倉は、
「こういうことを言うのは非常に癪だが」
と、前置きをしてから言い放った言葉に、思わず耳を疑った。
「お前、顔だけは多少モテそうな雰囲気あるんだよ」
「は……⁉︎」
モテそう……だと? 生まれてこの方一度も告白などされた事のない俺が……?
顔……顔か……やはり高校に入学してメガネからコンタクトに変えたからか……?
認めたくない……メガネよりコンタクトの方がモテるなど……‼︎
「おい、たった今質問が増えたぞ。俺がモテるだと……?」
「こうやって面倒なことになるだろうからは言いたく無かったんだ。とりあえず黙って話聞け」
「……わかったよ。で、俺の顔がなんだって?
狭間長太郎イケメン説については後できっちり問い詰める事にしよう。
「こうなると鈍いやつだな……。相手の女子は物語みたいな展開に飢えてる拗らせ中二病だろ? 今回の件、その女子の立場に立って考えてみろよ」
その女子の……立場で……。
……その発想はなかった。一度、集中して考えてみよう。女子で……夢見がちで……ちょっと痛い子で……。
『今日は入学式にゃん! そう……夢にまで見た高校生活がこれから始まるのにゃ!
気の合う友達を作って、部活に打ち込んで……そして、少女漫画のヒーローみたいな、ボクだけの王子様を見つけるんだにゃ!
なんたって、王子様がボクの事見つけやすいように白い髪に青い瞳にしたんだからにゃ!
ワクワクしすぎて入学式が終わった後、こっそり学校を探検! 図書室のベランダに出てみると、いい風が吹いてたにゃん!桜が舞ってて、いかにも入学式って感じにゃ!
そんなとき、急に眩暈がして気づいたら宙に投げ出されていたにゃ。
そんなボクを、あろうことがお姫様抱っこで受け止めてくれたのは、多少モテそうな雰囲気のある黒髪のイケメンだった……!
「そして彼女は言った。『キミが……ボクの王子様……?』……って何だこれ、少女漫画?」
「なげぇよ。ま、今ので一つ目の質問はわかったろ。で、二つ目は?」
「……二つ目はなぜ彼女は逃げ出したのか。なぜ消えたように見えたのか……って聞くつもりだったんだが」
「ああ、それは」
「いや、言わんでいい」
なにせ、今の回想をして、俺は気づいてしまった。
「初対面の相手にいきなり『ボクの王子様……?』ってうっかり聞くの、もう、なんというか恥ずかしいとか言うレベルじゃないわ。そりゃその場から逃げ出したくもなる」
「だな。でもって消えたように見えたのは、相手が運良くお前からみて死角に隠れられたからだろうな。駐輪場は遮蔽物が多くて死角だらけだし、なによりその時お前も冷静じゃなかったろ?」
確かに、朝倉の言う通り、あの時の俺に,死角がどうか、なんて細かいところまでは見れていなかったろう。
●この短い時間で、納得させられてしまった。
「なるほどな…………ん? 待てよ」
俺は一つ重大な謎に気づいた。
「なあ、俺の顔がそれなりにモテそうな雰囲気っていったよな」
「……ああ」
「なら、どうして俺は一度の告白もされてないんだ?」
モテるという事に対してさほど興味もないが。───本当に、全くもって興味もないがそれはそれで気になった。
「クラスでもオタクを隠そうともしない、そして演劇部。率直に言って、変人だと思われてるから」
「……ああ、なんかすごい納得したわ」
俺は現実を諦めて、もう一冊持って来ていた文庫本、『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』を取り出す。
俺も、マンションの隣の部屋に美少女住んでたりしないかな。
……実家暮らしだけど。