真・恋姫†夢想 〜日付のない墓標〜   作:世良緋那太

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杏林〈3〉

 建業の夜は賑やか。

 街中に行灯(あんどん)が掛けられ、淡い光の先には賑やかな声。昔、台湾で見たような光景……いや、あれはアニメだったか。勝手に料理を食べたら豚になってしまうやつ。

 

 変なことを考えている内に、到着したのは居酒屋のような場所だった。いつの時代にもこういう場所はあるらしい。

 

 

 ちなみに、手持ちがないことを伝えると「分かっている。医者として給金を得た時に奢ってくれ」と冥琳に言われてしまった。

 

 

 

 

 

「ともかくだ、新たな仲間に乾杯しよう。慶に霞、ようこそ孫呉へ」

 

 音頭も冥琳だ。各々が盃を手に、老酒(ラオチュウ)を注いでいく。

 

「では、乾杯」

 

 よく考えれば、こちらに来て初めての酒。少しばかり感慨深いものがある。決してビールが飲みたいだとか、そういうものはない。既に食事は頂いたが、酒を飲むとこの地で生きていくんだなと改めて認識させられた。

 

 喉元を過ぎゆくアルコールも、程よく身体を温めてゆく。ほんのりと甘く続く余韻も、銘酒であることが窺えた。運ばれてくる点心も旨い。そして、ものの見事にテーブルの上はアテばかりである。

 

 

 

「それで冥琳、訊きたいことって?」

 

 少し場が落ち着いたところで聞いてみる事にした。

 

「先の手術のことだ。鎚や鑿を熱湯に放り込んだ説明を聞いていないのでな」

 

 確かにしていなかった。奇行に走ったように見えたんだろうなぁ。

 

「熱湯消毒って言って、単純に汚れているから綺麗にするだけじゃなくて、表面についた細菌を除去するんだ。細菌は熱に弱いから。それで感染症を防ぐことができる」

 

 

 だが、細菌が発見されたのは1676年のオランダ。レーウェンフックが顕微鏡で見つけ出すのは、これから約1500年先のことである。細菌という概念すらないため、説明はとても困難だ。

 

 冥琳も粋怜も、あまり理解できていないようで、首を傾げる。

 

「細菌っていうのは、目に見えないほど小さな生物で、体内に入ればその毒素に当てられて、様々な症状が出てくる。例えば風邪を引いたり、怪我した時に膿ができたり。自分たちの身体に起こる不調は、まず細菌を疑った方がいい」

 

 ウイルスと細菌の違いは話しても意味がないため省略する。

 

 

「風邪のぉ……それしきのこと、酒で治せばよい!」

 

「祭さん、それもある意味では正解」

 

「おぉ!」

 

「でも、程度を考えないと悪化するから基本はダメだ。お酒に入っているアルコール……あ、酒精ね。これも殺菌効果があるんだ。風邪予防だったらお茶をこまめに飲むだけで出来る」

 

 大体、酒飲みは酒で治すと言って利かないが、その効果も薄いもの。自分も酒は好きだが、適量でなければいけない。

 

 

「他にも危ないもんとかあるんか?」

 

 霞は一生懸命に話を聞いて、覚えようとしているのだろうか。食い入るように訊いてくる。

 

「やっぱり生水かな。至る所に菌はいるから。浄水設備もないし、一度煮沸して飲むべきだと思う」

 

 牢獄で飲んだ生水は大丈夫だったみたいだが、できるだけ避けたいものだ。喉の乾きに負けたけど。

 

 煮沸すれば、並大抵の病原菌への対処が容易になる。さすがに黒死病になると無理だが。ワクチンなんて作れるわけがない。ましてやバッグの中に入れているわけもない。

 自分一人にできることは少ない。人ひとり、なんと矮小な存在だろうか。

 

 

「慶くんは薬にも詳しいの?」

 

「薬学を専門とはしてないけど、まぁそれなりに」

 

 粋怜は冥琳をじっと見る。

 

「ねぇ、冥琳」

 

「同じことを考えておりました粋怜殿。慶、これからの時期は風邪を引く者が多い。兵も寝込む者が増えるのだ。どうにかならんか?」

 

 仮にもKの一族、できる限りのことはやってやる、その気持ちしかない。

 

「風邪の予防なら、さっき言ったものと……あ」

 

 

 そういえば、居酒屋で中華料理を食べているわけだ。テーブルにアレがない。

 

 自分の名前の漢字を忘れるとは。しかも杏も仁も入っているのに。あの料理も確かこの時代ぐらいが発祥だっただろうか。詳しいことは分からないけど、作れないものではないだろう。

 

 

「医食同源だ。杏仁豆腐で風邪予防をしよう」




慶のCVって、誰が合いそうかね。
そんなことを考えながら仕事をしてます。
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