真・恋姫†夢想 〜日付のない墓標〜   作:世良緋那太

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寝目〈2〉

 最悪の目覚めだった。

 

 

 窓の外はまだ真っ暗で、それほど時間が経っていないように思える。

 

 

 夢の中で出会った人は誰だろう、という疑問は無かった。夢の中では分からなかったが、あの詩は短歌行(たんかこう)……赤壁の戦いの前に曹操が詠んだものだ。

 

(でもなぜ曹操が……慶って呼んだのは夢の中で説明がつくけども。次の夢は脳腫瘍の手術だったし……)

 

 

 一番気になるのは最後の夢だった。

 

(炎蓮さん……)

 

 矢が飛んできて、炎蓮さんの眉間に突き刺さった様子はとてもリアルで、夢だったのか、はたまた本当の記憶だったのか……境界線が曖昧になるほどだった。ともかくこのまま二度寝は無理だった。

 

 考えても答えなど出るはずもなく、仕方なく夜の城を徘徊することにした。酔いも既に醒めている。

 

 歩いていると、城の警備兵に声を掛けられた。

 

「劉仁様! どうしたのですか、このような夜更けに」

 

「様はいらないから……。嫌な夢を見ちゃって、眠れないから……散歩しようと……」

 

「ふむ……それなら、城壁の上に行ってみてはいかがでしょう。今宵の月は満月ですから、良いと思いますよ」

 

 歩き回るよりも、月を見て落ち着くのも良いかもしれない。

 

「ありがとう、行ってみるよ」

 

「はい、お気を付けて。風が少し出てますから、落ちないでくださいね?」

 

「う、そんなに酔ってるように見える?」

 

「黄蓋様や程普様と飲まれたのでしょう? 孫呉が誇る蟒蛇ですから……そこら辺の兵士より飲まれますよ?」

 

「そ、そんなに……?」

 

 ていうか、そんなに言って大丈夫かな、この兵士は。

 

 

 

 

 兵士と別れて、城壁の上へ。

 

 今宵は満月。兵士の言った通りで、その月明かりで街も淡く照らされていた。

 

 しかし、思考は炎蓮さんの事で埋め尽くされている。夢の中で寿命が縮むかと思ったほど、それぐらいリアルなものだった。間違いなく凶兆だ。

 

 

 もし仮に正夢になっても……この時代に持ってきた道具だけでは対処が難しい。特に脳外科手術を行うには、あまりにも手術道具の種類も少ないためだ。

 

 麻酔吸入はできずとも、基本的にはエーテル麻酔で問題ない。ちょっと頭を切った程度なら、局所麻酔薬(リドカイン)で対処可能だ。しかし全身麻酔で長時間の手術となると、難易度も跳ね上がる。

 

 更に物量にも問題がある。全てが無限にあるわけではない。麻酔薬だけでなく、抗生剤も少量のみあるだけ。モルヒネもわずか。戦場で使うには圧倒的に量が足りなかった。

 

 

(杏仁豆腐を作るのは、かなり先になるかもな……)

 

 

 無いなら作れば良い、なんてマンガの世界ならご都合主義でサクッと作ってしまうだろう。しかし電気もない世界で作られるものは限られている。

 

 

 考えれば考えるほどに、思考は堂々巡り。黄巾の乱が起きつつある今、出来ることは治療しかない。

 やはり、アレを作るように炎蓮さんに進言しないといけないか。

 

 

 

「あら、眠れないの?」

 

 思考の渦に巻き込まれている中、声を掛けてきたのは雪蓮だった。冥琳たちと飲みに行ったことを知っているのだろう、少し不満気な顔をしている。

 

 

「嫌な夢を見たんだ……こんな夜更けにどうしたの?」

 

「独りで飲んでたのよ」

 

「……ごめん」

 

「あー、だいじょぶだいじょぶ! 今度、私の馴染みの店に連れて行ってあげるから、付き合ってよ!」

 

「それは嬉しいな」

 

 

 約束を取り付けることが出来たためか、少し声色も明るくなる。

 

「さてと、伝えることもできたし、私は戻ろうかな」

 

「そっか。部屋まで送るよ」

 

「いや〜ん……送り狼?」

 

「ちゃうわ!」

 

 例え扇情的な格好でも、こんな気分の時にするわけがない。いや、普段からしないけど!

 

 

 笑いながら城壁を下りる。雪蓮の髪が夜風に揺れて、そして月明かりに照らされて、錦糸のようで綺麗だった。




リドカインのことですが、本来はキシロカインと明記する予定でした。

でも調べてみると……キシロカインって商品名なんですね。知らなかった。ワクチンで有名になったアストラゼネカですって。
なので、正式名称のリドカインで振り仮名を打ちました。
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