真・恋姫†夢想 〜日付のない墓標〜   作:世良緋那太

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魔窟〈2〉

 建業から洛陽まで、総距離を知る術はこの世界に無いが、この大荷物がある状態で一週間強で辿り着けるのは想定より早いらしい。人数が少なかったからだろうか。

 

 

「すげぇ……」

 

 初めての都、完全なお上りさんとなっている自分は、その街を見てこの感想しか出なかった。

 

「凄いか慶、これが洛陽だ。天の国にはこれぐらいデカい都があるのか?」

 

「あるけど、でもこれは……」

 

 

 正に圧巻の一言。巨大スペクタクル映画のセットみたいだ。スケールが大きい。

 

 街を貫く大通りの最奥には大きな城が見える。あれが目的地の禁中、宮城(きゅうじょう)である。

 

 漢王朝時代は雒陽*1だった気がするが、この際どうでもいい。武将が女の子になって、白酒まであるんだ。些細なことだ。

 

 来る途中、冥琳から洛陽の歴史授業があったが、それによると殷王朝より前、夏王朝*2が洛陽付近にあったらしい。かの有名な二里頭遺跡である。掘れば大発見間違いなしだ。さすが中国四千年の歴史、いやまだこの時代ではそれほど経ってないけれども。もしや歴史に名を残すチャンスなのでは?

 

 非常にロマン溢れる場所である。戻れた時のために写真を撮っておくことにした。学者たちが(ビリオン)単位の札束を積んでも出来ない経験をいま、まさしくしているのだ。

 

 だが、観光で来たわけではない。患者が待っている。自分たちは急ぎ足で宮城に入るのだった。

 

 

 

 

「すごい時間が掛かるんだな……」

 

「そういうものだ、慣れるしかないな」

 

 宮城に入るのに、ものすごい時間が掛かった。皇帝陛下のいる城だからと覚悟をしていたものの、小一時間は掛かった。武装解除もされて、セキュリティは万全そうである。

 

 手持ちのメスなどの手術道具も、兵士達に預けることとなった。必要となれば持ってきてもらおう。間違いなく必要になるけど。

 

「孫文台殿、ご案内させて頂きますね」

 

 

 で、この侍女のように案内するのが……。

 

「まさか、こんなに美少女とは……」

 

「へうっ!?」

 

「はぁ……仲穎、すまんな。ヤツは劉杏林だ。医者なのだが……かなり遠い場所の出身でな。こういった場所は不慣れなのだ」

 

 炎蓮さんが説明した直後、雷火さんに脚を蹴られた。痛いです。ごめんなさい。

 

「いえ、大丈夫ですよ。劉杏林殿、宜しくお願いしますね」

 

 可憐で儚げな少女が董卓だった。想像していた金髪縦ロール高笑いの悪役令嬢はどっかに吹き飛んでいった。この人が暴君董卓……嘘だろ。あ、そうそう、あんな感じの金髪の人が。

 

「杏林、あちらが袁本初(えんほんしょ)殿だ」

 

 冥琳が教えてくれる。それと同時にキョロキョロするなと怒られてしまった。

 

「あれが、袁紹……」

 

「そう名前を当て続けると怪しまれるで……気を付けや」

 

 袁紹の方が、想像していた金髪縦ロールらしい。高笑いまでしている。

 

「ヤツの相手はせんで良い」

 

 雷火さんも苦手なのか、そう言い捨てる。ここでの評価は分からないが、史実の袁紹は凄い人なんだけどなぁ。

 

 

「あら、霞じゃない。久し振りね」

 

「おぉ、賈駆(かく)っち〜! 久し振りやなぁ!」

 

 霞も旧友に会えたようである。そうか、元は都で武官をしていたと言っていたような。そして呼びかけたのが軍師賈駆。眼鏡を掛けた、こちらも美少女だった。

 

 

(ゆえ)、私はちょっと用があるから……来てくれる?」

 

 炎蓮さんも無言で頷く。

 

「分かったで。杏林……気を付けるんやで」

 

「お、おう……」

 

「行ってらっしゃい、(えい)ちゃん」

 

 賈駆と霞は別の建物へと向かってしまった。

 

 

 

「こちらが謁見の間です、どうぞ」

 

 とてつもなく広い城の廊下を右へ左へ、さながら迷宮の洛陽城。董卓に案内されたのは、建業の謁見の間を十倍は大きくしたような豪奢な広間だった。

 

 贅の限りを尽くした……何度言ったか分からないが映画のセットだ。博物館や美術館のような観光地のレベル……この語彙力の低さ、どうにかならないか。

 

 

 ここが漢王朝の嫉妬心と猜疑(さいぎ)心渦巻く魔窟、伏魔殿の中枢である。

 

 誰とも話していないのに、心を覗かれているような感覚に陥り、勝手に胃がキリリと痛むのだった。

*1
火徳とする漢王朝では、洛の字に水を表す氵(さんずい)が嫌われ、雒の字を当てて「雒陽」に改名された。後に曹魏が土徳を掲げるため「洛陽」に戻された歴史がある。

*2
紀元前2070年頃〜紀元前1600年頃にあった、司馬遷の史記に記された中国最古の王朝




なお、写真が撮れたのは……災害があったときのために、太陽光パネルの充電器を持っていたからです。さっすがご都合主義。
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