真・恋姫†夢想 〜日付のない墓標〜   作:世良緋那太

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青州〈2〉

 痛む脇腹を抑えながら謁見の間に着いた。

 

 既に軍議は始まっているようで、入室すれば声は抑えられて注目される。やめろよ恥ずかしい。完全に遅刻したと思われてるわ。

 

「……昼食を食べていました。遅れてすみません」

 

「大丈夫だ。軍議も始まった所でな。子義(しぎ)殿、彼が杏林だ」

 

 冥琳に促される形で、一人の女性がこちらを見てくる。彼女が(たい)()()……。なんとも可愛らしい女性だった。

 

「あなたが……。噂には聞いてるよ」

 

 どうやら何進の手術によって名前は広まっているようであったが、太史慈の表情は少し違う。もう睨まれるのは慣れてしまった。

 

「妖術を用いて、死者をも蘇らせる天の御遣いがいるって」

 

「誰だ、俺をそんな化け物扱いする奴は」

 

 

 

 どうにかして誤解を解いて、話を聞いてみると、青州・斉国の県令の城を黄巾党が襲撃をしていて、その救援要請で彼女が来たそうだ。

 

 州牧のいない青州は格好の的となっているらしい。また重税でどこも州内は酷い有り様であり、それに堪忍の尾が切れて黄巾党が発生した。そして討伐で戦費が掛かり、また税がのし掛かって新たに黄巾党が発生するという最悪のサイクルに陥っている状況だったのだ。

 

「しかし太史慈殿、間にある徐州を素通りして揚州に入った理由は何でしょう? そして、いま平原を治めている劉備殿こそ、本来救援要請を行う相手でしょう?」

 

 まだ誰も訊いていない疑問をぶつける。

 

 命からがら、襲われる城を背に救援要請をしてくるのであれば、近場に行けば良いはずである。史実でも太史慈は劉備に援軍を要請していたはずだった。

 

 そして、その劉備も黄巾党討伐で着実に名を上げた結果、公孫賛の客将だったのが、幽州から出て平原の相となっていた。洛陽に劉備は来ていなかったため、その顔は知らないがそちらも女性だろう。こちらは史実通りの流れだ。

 

 

「御遣いの力があれば、傷ついた兵も癒すことが出来るだろうって言われて。実は平原の劉玄徳にも使者を送っているよ」

 

「……言われて? 州牧はいないはずだが」

 

 冥琳も指摘する。つまり太史慈に指示を出せる人間が残っているということだ。誰が残っているんだろうか。

 

 

「私の他にも食客がいて、彼女から言われたの」

 

「まぁ、県令の書状は本物であるようだし……母さま」

 

「おう、存分に暴れてやれ。しかし、杏林よ。劉備が上がってくることを言い当てたな」

 

 炎蓮さんはニッコリと笑顔だ。笑える状況ではないのだが、炎蓮さんらしい。

 

「伯符、公瑾は杏林と共に斉に行け。オレは西を鎮めてくる」

 

 そう言って炎蓮さん含む重臣の方々は謁見の間から出ていった。

 

「西って、もう……」

 

 雪蓮は呆れて溜め息を吐き出すしかなかった。

 

 

 

 

「しかし伯符。県令の城とはいえ、城を攻めるほどの部隊が相手となるだろう。かなり距離もあるから、かなりの遠征となるぞ」

 

 揚州の中なら、移動するにしても数日。最近になって現れた賊の規模も知れたものだった。城攻めを行える規模の黄巾党なんて想像がつかない。

 

「まず、その城はまだ保ちそうか?」

 

「食客がかなりいるし、兵や糧食も揃っているから……(しばら)くは大丈夫だと思うよ」

 

 かなり金を持っている県令だなと思ったが、太史慈が言葉を濁している辺り、色々と事情もあるのだろう。重税でかなり儲けていたんだろうな。

 

「なるべく早く出られるようにしよう。杏林よ、医療物資は任せたぞ」

 

「分かった」

 

 自分も準備のために謁見の間を出ようとすると、ポカンとしている太史慈。

 

 

 もう出兵の話になっているから驚いたのだろう。雪蓮や冥琳を侮ることなかれ。こういう時の呉の首脳陣は行動が早い。太史慈は助けを求めてきたんだ。城が陥とされでもすれば、彼女は敵前逃亡をしたと後ろ指を指されるかもしれない。それは避けたいことだった。

 

 

 

 

 

「……三日も掛かっちゃったかぁ」

 

 太史慈が救援要請を求めて三日後。自分達は雪蓮と冥琳の部隊を率いて斉に続く街道を進んでいた。

 

「悪かったわね、太史慈。思っていたよりも時間が掛かってしまって。主に劉仁のせいだけど」

 

 そう。建業の鍛冶屋に頼んでいた医療道具の完成を待っていたら時間が掛かってしまった。それでも納期を一週間早めたのだが。

 

 

 

 

『申し訳ないんですが、納期を七日早めてほしいんです』

 

『えぇと……あと三日で!? 杏林様、そりゃいくらなんでも……。精巧な銀細工で、慣れない者も多くてですね……』

 

 

 

 

 鍛冶屋さんには悪いことをしたと思っている。でも、決して粗雑にならず、様々な道具を作り上げてくれた。さすが、建業イチの腕前は伊達ではない。

 

 

「……三日で出られることに驚いてるんだけどなぁ、私」

 

 そう、普通であれば、助けにいくかどうかだけの会議で十日や半月も掛かるこのご時世。やれ救援の賄賂だの、仲の良い官位持ちはいるかだの。そんなに悠長にしていては城も陥ちてしまう。

 

 兵は神速を貴ぶと言ったのは霞だったか。その霞も漢軍に復籍したため、ここにはいない。

 

 

 旭の(たてがみ)を撫でながら行軍していく。道具は充足しても、医薬品も足りないため、ある程度は街で買い集めたものの不安しかなかったのだった。

 

 

 そして斉は、仲間の食客たちは太史慈の帰還を待っている。援軍を期待しながら。




杏林・劉杏林呼び:身内でないものがいる場合や、自己紹介の場合(意外と多い)

劉仁呼び:それなりに関係を築いた者だけや、医者として公の場に出る場合

慶呼び:真名を交換した者だけの場合(基本はこれ)

一慶呼び:天の御遣いとして公の場に出る場合や、炎蓮さんと二人きりの時

恋姫で一番好きなキャラ(魏編)

  • 曹操/華琳
  • 夏侯惇/春蘭
  • 夏侯淵/秋蘭
  • 荀彧/桂花
  • 許緒/季衣
  • 典韋/流琉
  • 曹仁/華侖
  • 曹純/柳琳
  • 曹洪/栄華
  • 楽進/凪
  • 李典/真桜
  • 于禁/沙和
  • 程昱/風
  • 郭嘉/稟
  • 徐晃/香風
  • 何進/傾
  • 何太后/瑞姫
  • 張遼/霞
  • 陳珪/燈
  • 陳登/喜雨
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