県令の城を野戦病院として使い始めて一週間が経った。街の様子も少しずつだが復興の
雪蓮と冥琳は報告のために建業へと一時帰還した。そして現在、指揮を執っているのはというと……。
「はーい、みんな押さないでねー! ご飯はちゃんと用意してあるから!」
平原の相、劉玄徳である。最初は暗かった街に笑顔を振りまいて、半ば街のマスコットキャラと化していた。臨時であるものの統治者なのだが……緊張感がないというか、ゆるふわというか。というよりも俺が留守番で良かったのか冥琳さんよ。
『私達がおらずとも間諜の一人や二人、鎮圧できるだろう。現在、斉を攻める輩もおらん。留守は任せた』
なんて冥琳に言われたら、頑張るしかあるまい。雪蓮は酒を持ってくると言っていたし、楽しみに待つことにしよう。
さて、自分は何をしていたのかと言うと、休憩時間でボケーッと一服していた。
「いい天気だなぁ」
城の庭から見える空は青く晴れ渡り、鳶が円を描きながら飛んでいる。黄巾の乱の最中であることも忘れるほどに、この平和な雰囲気を煙と共に噛み締めていた。
この休憩時間が終われば、本日最後の回診となる。この回診こそが、この地で留守番をする最大の理由ではあるのだが。
「失礼しますよ、回診の時間です」
城内の一角、歌声の聴こえてくる女性用の病室に彼女の姿があった。
「あ、杏林せんせ〜」
病室には一人だけ、軽く手を振って応える。妹たちはどこかに出掛けたのだろう。その姿はなかった。
「こんにちは天和さん。気分はどう?」
天和は三日前に目を覚ましたばかりで、まだ動けない状態である。
「退屈だよぉ。動いちゃいけないって怒られちゃったもん」
「元気なのは良いことだよ。じゃあちょっとだけ、この部屋で歩いてみよう」
退屈なのは身体にも良くない。少しぐらいは気分転換にもリハビリにも良いだろうと提案すると、天和の顔がパアッと明るくなった。その笑顔がとても眩しくて、可愛い。
「俺が支えるから、ほら、手を取って」
「うん、よろしくね…………っ!?」
『目指すは大陸制覇!』
『私たち……数え役満☆
「もしかして〜、慶?」
「まさか、張角……ぐっ、ぐおぉォァァッ!?」
記憶が組み上がっていくも、驚きが隠せない。彼女が張角で、ファンが暴走して、蜂起したのが黄巾党だなんて。
そして、今までにはそこまで強くなかった頭痛が急激に襲い始めた。
「天和……ごめん……」
身体から力が抜けていく。倒れる前に、天和をベッドに座らせる。
この街を黄巾党が襲撃した理由も、天和たちを取り返すため……。地和と人和がいないのも、周囲の警戒に繰り出しているからだ……。
「慶! 慶、しっかりして!」
天和が自分の身体を強く揺さぶる。その揺さぶりで余計に頭痛が酷くなってくる。
「慶殿!」
あぁ、この声は星か。もう
何という体たらく。長時間の手術に耐えられるように鍛えたこの身体にも、限界はあるようだ。
「主っ! 医者を、医者を早く呼ぶのだっ!」
主じゃないってば。あと医者は俺だって。
たくさんの足音が聞こえてきた。おいおい、そろそろ意識を手放したいのに出来ないぞ。何でだ?
「担架持ってこい!」
「いや、そこの寝台でいいだろ!」
「良いから運べ!」
「ま、待ってくれ……星……」
声は出せた。良かった。
「慶殿!」
「いいか……天和たちを……絶対に死守だ……彼女たちを、誰にも……」
絞り出した声も、とてもか細い、弱い声だった。分かった、疲労だな。間違いなく疲労だわ。
「……御意」
「うん……ちょっと寝るわ……頭痛いし、ちょっと疲れた」
「……おやすみなさいませ」
星、さては泣いてるな? 声が震えてるぞ。あ、でもこれ言ったら俺がホームランされるから黙っておこう。
ようやく意識を手放して、真っ暗な深淵へとその身を委ね……られなかった。
「よく来たわねん、ご主人様♪」
「うむ、久々の
「いや貴方たち誰ぇ!!」
年末のCMでたくさん聞いたよねぇ「いや貴方たち誰ぇ!」ってさ。
次回、お待ちかねの方たちの登場です。