真・恋姫†夢想 〜日付のない墓標〜   作:世良緋那太

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幕間:琥珀(ふけ)

「天才?」

 

 

 目の前の刑事、『草薙(くさなぎ)』は問うてきた。

 

「そうだ。あれは石神と飲もうと誘った日、たまたま近藤君とバーで会った」

 

「石神とも面識があるのか……て言うか、お前バーに行くのか」

 

「……何かおかしいか?」

 

 

 

 

 

 

「あれ、湯川先生じゃないですか。こんばんは」

 

 大学からほど近いオーセンティックバー、そこで彼は独り飲んでいた。

 

「あぁ、近藤君か……奇遇だな、こんなとこで」

 

「俺のお気に入りの場所なんですよ。そちらの方は?」

 

 私の隣に立っていた男に視線が移る。

 

「私の同期で友人だ。今は高校で数学を教えている」

 

「石神です……」

 

 小さな声で挨拶をして、軽く会釈をした。

 

 

 

 

 

 

「近藤君と石神はすぐに打ち解けた。数学に関して、私としか話さなかった石神が、こんなにも明るく他人と話をするなんて思わなかったよ」

 

 

 

 

 

 

「湯川……彼は凄いな。医学部の学生がABC予想に対してまで造詣(ぞうけい)が深いとは……いや、恐れ入ったよ。一度でいいから授業を受け持ってみたかった」

 

 

「ならば大学に戻ってくれば良いと、何度も言っているだろう。それよりも、気に入って貰えたなら何よりだ。だが、彼の専門知識は数学や医学だけじゃない」

 

 

 え、と石神が彼の方を見る。ウイスキーを嘗めて、丸氷を指でクルクルと回しながら、紫煙をゆっくりと吐き出した。

 

 

「ただ好きなだけですよ。宇宙も、歴史も音楽も……好きなだけなんです。俺の知的好奇心が赴くままに、ひたすら調べて、勉強して、ありとあらゆる物事が繋がっていく瞬間……これが何よりも楽しく、中毒になってしまったんです。初めてピラミッドの図解を見た時、どれだけ心が躍ったか」

 

「……なら、なぜ医者の道を? 他の道でも十分にやっていける」

 

 

 私は黙って二人の会話を聞いていた。彼の飲んでいるウイスキーと同じものを注文する。ロックグラスに丸氷と共に浮かぶ琥珀、アイラの王様(ラフロイグ)。奇しくも私が石神の家に持っていこうと思っていたアイラの女王(ボウモア)と対になるようなウイスキーだった。

 

 

「俺は医者の家系の出身でして……本家の先祖様はその医術でもって時の権力者に命を狙われたとかなんとか。まあ、医者になろうと決意するまでもなく、その道に進みました。でも、ただ医学の知識を詰め込んただけの人間じゃ面白みがないでしょ? 文理の壁なんてない。文理の交差点こそ、学問の真髄だと思います」

 

 

 思わず笑ってしまった。程よく酔い、舌もよく回る。しかし熱量は変わらない。

 

「その気持ち、とうの昔に忘れてしまっていた気がするよ……なぁ、湯川?」

 

「そうかもしれないな。ところで、今は何を調べているんだ?」

 

 

「前にドラマで見た、ペニシリンの生成です。かなり難易度が高くて失敗ばかりしてますけど」

 

 

 なかなか面白いことを調べているじゃないか。嫌いじゃない。

 

「材料と必要な器具はあるのか」

 

「……湯川?」

 

「えーと、先生?」

 

「生成するためには大量の青カビが必要になる。その作るための道具は医学部と薬学部に行けばあるのかと訊いているんだ」

 

 

 私は理工学部の准教授という肩書きを持って、この帝都大学に身を置いている。普段はこのように手を貸すことなど絶対にないのだが、これもまた一興である。

 

 

 彼は無言で目を輝かせて頷いた。

 

 

「場所は提供しよう。私の研究室を使うといい」

 

 

 

 

 

 

「で、完成させたのか。この部屋で」

 

 草薙と伊沢は研究室をグルリと見回す。当時の実験器具は無い。既に返却されているが、私にはここで一人の天才が奮闘している姿が見えていた。

 

 

「その通りだ。青カビを培養し、純度の高いペニシリンを作り上げた。更に薬効強化のための濾紙(ろし)クロマトグラフィーまで行なって、高純度の結晶精製までやり遂げたさ。一本の論文になる内容を()()でな」

 

 草薙は既に冷え切ってしまったコーヒーを(すす)る。

 

 

「私に話せることはこれぐらいだ。さて……もう三人、近藤君の事に詳しい者がいる。紹介しよう」

 

 ここだけで終わらないのかよ、と辟易とする草薙。どうした、昔よりフットワークが重くなったか。

 

 目の前にあったメモ用紙に行き先と名前を書いて手渡す。

 

「聞いてきたらまた、戻ってくると良い」

 

「なんだ、お前は来ないのか」

 

「熱血すぎるのは苦手なんだ……相手は近藤君の先輩だ。参考になるだろう」

 

「分かった。コーヒーありがとよ」

 

 伊沢とともに部屋を出ていく。

 

 

 彼は失踪した。なぜ、どうやって、誰によって、どこに。全くもって分からない。

 

 

「だが、死んでいるようには思えない……なんでだろうな」

 

 

 コーヒーカップを流し台に放置して、研究室から出ていくのだった。




劇場版、容疑者Xの献身を見たときからこのシーンを想像してた。

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