真・恋姫†夢想 〜日付のない墓標〜   作:世良緋那太

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第三章【邂逅】
準備〈1〉


 県令の城は大層な騒ぎになっていた。

 

 斉国を黄巾党から防衛した江東の麒麟児、表舞台では鳴りを潜める天の御遣い、そして県令代理である劉備は私の姿を見て警戒を強めていた。だがこれも仕方あるまい。本来ならば私がここにいること自体がおかしいことだ。

 

 

 見るも無惨な県令の城、城壁は崩れ、内部が剥き出しになっている所もある。これからの復興計画も立てられていないのであろうか。

 

 私たちを案内するこの白衣の青年は、比較的綺麗であった謁見の間に通してくれる。そこには、案内の道中に聞いていた劉備、孫策、周瑜の三人がいた。

 

 あの洛陽で会った、孫堅の娘である孫伯符と軍師周公瑾。先の黄巾討伐で名を挙げた劉玄徳。そしてここまで案内した青年、一慶(かずよし)こと慶。

 

 

 実際の所、何進の命によってここまで来たというのは、少々事情が異なる。

 

「孟徳さん、はじめまして。県令を代行している劉玄徳です。それで……火急の知らせというのは?」

 

「何進から……いえ、朝廷からの褒美を伝えに来たわ。劉玄徳殿」

 

 本来ならば傾がここまで来て慶に伝えるはずだったのだが、出番を私が奪ったのだ。傾の悔しがる顔を思い出すと、自然と笑みが溢れてくる。

 

 

 理由は至極単純なものであった。

 

 

「劉杏林、洛陽で天子様が待っているわ。今度、西園(さいえん)八校尉(はつこうい)の任命式典があるの。そこに出席せよとのことよ」

 

 

 私が、華琳が伝えたかっただけ。慶の顔を見たかっただけだ。

 

 

「待ってくれ、文台様の許可無しに勝手に洛陽なんて」

 

「あら、孫文台殿も洛陽に来る手筈になっているはずよ? その報告もあるのだけどね。妙才(みょうさい)

 

「は、こちらに」

 

 何進から渡されていた書状を、夏侯淵(かこうえん)から受け取った。

 

「孫文台殿は先の西方討伐で揚州四郡を平定したわ。よって、揚州牧の任命式も行われるの」

 

 驚きの声が上がった。それはそうだろう。娘である孫策よりも先にその情報を得て、こうして伝えに来たのだから。

 

「……分かった、洛陽に行くよ。でも一度建業に戻らせてほしい。やらないといけないことがあるんだ。伯符、公瑾……それでいいかな?」

 

「何を今さら。杏林の勝手な行動にはもう慣れている」

 

「そうよ、気が付けば孟徳ちゃんと真名を交換してるくらいだもの」

 

 

 かなり信頼されているような慶を見て、少しだけ胸のザワつきを覚える。

 落ち着くのよ、曹孟徳。今の彼は呉の人間、私のものじゃないわ。

 

「では決まりね。また使いの者が建業に来るでしょう。で、本題よ。大賢良師張角の首級(しるし)と太平要術はどうしたの、慶?」

 

 

 

 

 

 

 訊かれると思った。

 

 華琳は言伝を全て言い終えると、俺に向かって張角の首の行方を訊いてきたのである。それは予想されていた問いではあったものの、この華琳の突き刺すような視線と空気感で、背に冷たいものが走った。襲いかかる重圧(プレッシャー)が、英傑そのものを現している。

 

「……張角は、首を獲られることを恐れて書と共に火に飛び込んだよ」

 

「あら、そうなの。てっきり貴方が手篭(てご)めにしているのかと思ったわ」

 

 

 俺は一枚の手配書を華琳に差し出した。

 

「これは?」

 

「陳留で見なかったか? 張角の人相書きなんだけど」

 

「えっ、何よコレ……」

 

 

 その人相書き、実際に朝廷から配布されていたものだが、これがまた凄かった。

 

「豚の顔に角、六本腕、禍々しい翼、それに長い尾……。慶? あなた、私をナメているのかしら?」

 

 

 プルプルと人相書きを持つ手を震わせながら問うてきた。そこに描かれているのは、まさしく四凶の饕餮(とうてつ)などをミックスしたような妖怪の絵である。初見で手配書を見た時は、ミルドラースじゃねぇかと笑ったものだ。

 これを見ながら、自分たちを含む諸侯たちが黄巾党と戦いを繰り広げていたのである。

 そりゃ張角が見つからないわけで。

 

 

「実際はこんな大仰な者ではなかったよ。表立(おもてだ)って戦っていたのは幹部だったようだし」

 

「そう、なら良いわ。太平要術も私の蒐集(しゅうしゅう)物であったのだけれど、灰燼(かいじん)に帰したのなら仕方ないわ。複写させておくべきだったわね」

 

 これで天和たちに危害が及ぶことはないだろう。

 

「貴方が何を考えているのかは分からないけど、そういうことにしておきましょうか」

 

「何のことだか」

 

 実際、全部お見通しなのではなかろうかと思う。これは、華琳が見逃したということで良いのだろうか。

 

 

「私の役目も終わったわ。帰るわよ元譲(げんじょう)、妙才」

 

「もう帰るのか? 長旅だったんだろう、休んでいけば?」

 

「そうだよ孟徳さん。大層な(もてな)しはできないけど、休んでいってください!」

 

 

 劉備も逗留を提案する。陳留から斉国までの距離はそれほど無いにしても、長旅であることに間違いなかった。それに、言っていなかったが傾の言伝を伝えに来たということは、一度洛陽に向かってからここに来たに違いない。帰ると言われて、はいお疲れ様でしたは、後々のトラブル勃発にも繋がるだろう。

 

「そうだな、孟徳殿、休まれてはどうだ? 建業の酒も持ってきているのでな」

 

「……では、お言葉に甘えて」

 

 

 華琳は夏侯惇(かこうとん)と夏侯淵を連れて、謁見の間を後にする。

 三国志の三英傑が一堂に会するという歴史的な場面になっていたのに気付いたのは、華琳が出ていってからだった。

 

 

「……どうにかなったわね」

 

 雪蓮の発した言葉で、場の空気は元に戻った。

 

「梨晏たちを探してくるよ。天和たちを陽の当たる場所に戻してあげないと」

 

「孟徳さん、凄い雰囲気だったぁ。天和ちゃんのことを訊かれた時はどうしようかと……」

 

「全くだ。杏林よ、名芝居だったな」

 

 冥琳は気分良さげに称賛してくれるが、本当は自分も怖かった。呼吸も浅くなり、喉もカラカラで、声は震えていたかもしれない。足もずっと小刻みに震えていた。こんな状態で急患が運ばれてきたら、色々と失敗してしまうだろう。

 

 

 謁見の間には舐めるように緩やかな、生温い風が入ってくる。その風が自分の背筋に流れていた汗を静かに冷やした。

 

「とにかく、三人を探してくるよ」

 

 震える足を動かせば、すぐにその緊張は解けて走れるようになる。

 

「今夜はささやかに宴でもしよっか!」

 

「宴になったら、絶対騒ぐ人間が何か言ってるよ」

 

 雪蓮の言葉に反応したのは、ここにはいないはずの梨晏のものだった。みんなの驚く声を左手を差し出して制する。

 

 

「大丈夫、地和ちゃんは隠れてるから。状況を見に来ただけだよ」

 

「なら良かった。じゃあ、みんなを集めますか」

 

「了解!」

 

 

 ほどなくして、関羽や星、天和たちも謁見の間に集合を果たし、宴の準備に取り掛かるのだった。




第3章始動!
おそらく、一番長い章になると思います。

恋姫革命三部作、プレイした?(最後にプレイした作品を答えて下さい。例:魏と呉をプレイ済みの場合は発売が後の呉を選択)

  • 全部プレイ済み
  • 革命編未プレイ
  • 魏プレイ済み
  • 呉プレイ済み
  • 蜀プレイ済み
  • 萌将伝までやった
  • そういえば過去作含め全部やってない
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