真・恋姫†夢想 〜日付のない墓標〜   作:世良緋那太

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アンケート調査の結果ですが、意外と恋姫シリーズをやっていない人が多いことに驚きました。
ドクターKシリーズも知らない人が多いので、よく分かるように組み立てるようにしていきます。


準備〈2〉

 謁見の間での出来事があった次の日。宴、というよりもお食事会のような雰囲気と言えばもっと分かりやすいだろうか。戦後復興の真っ最中ではあるが、こういった催しで鬱憤を晴らそうということになり、城に留まらず街中が賑やかになっている。

 

 

 華琳には一日だけ準備時間が欲しいと言って待ってもらうことにした。今頃は朝風呂でも楽しんでいることだろう。

 

 で、その中心で巻き込まれている自分は市場に来ていた。まさかの買い出し担当である。

 

 

『天の国の料理を食べてみたいのよね~』

 

『御遣いの事を隠さないといけないじゃないか。無理だよ、無理』

 

『遠い国の料理ってことでいいでしょ? ね、おねが~い!』

 

 

 

「雪蓮め、どうなっても知らんぞ……」

 

 そもそも天の御遣いであるということを隠すために、杏林という名前を考えたのだが、形骸化していると思うのは自分だけか。まぁ、料理一つで天の国だと、どうこう推測されることも無いだろう。

 

 流石の華琳でも……ねぇ?

 

 

「杏仁豆腐は作るとして……俺の時代の料理って……」

 

 

 例えばカレーを考えてみよう。ルーなんて便利なものがあるわけ無いため、スパイスからの調理となるが、準備をする時間が無い。天竺(インド)から運んでくるだけでどれだけの時間と金が必要になるのか、それを考えるだけで頭が痛くなる。傾から貰った金銀財宝の山でも難しいかもしれない。

 大航海時代には胡椒が金銀と同じ価値を持ったと言うのだから、輸入の難易度が跳ね上がるだろう。

 

 

(カレーは却下。貿易路がしっかりしてからだな)

 

 

 時が来れば作ってあげよう。呉の皆が驚く顔が浮かぶ。それと同時に、和食の案も浮かぶがすぐに立ち消えになった。この料理のキーポイント、昆布出汁や醤油は中国に無い。もっと時代が下ってからのものである。肉や魚の(ジャン)はあるものの、豆で作るものはまだ無く、代用しても辛味も強くて和食には難しいかもしれない。そこは要検討だろう。

 

 

(終わった……でも、面白いもんだ。料理も歴史の積み重ねで発展していくんだな)

 

 

 それと同時に、自分が食べていた料理の数々がジャパナイズされていたものが多かったことに気付いた。それを三国時代に再現しようとしているのだ。失敗してもそれを貫き通して、これが俺の国の料理だ、なんて言って冷ややかな目で見られるのも癪である。やるなら完璧に、みんなが笑顔になれるような料理を目指そう。

 

 

 そして何よりも重要になるのが温度である。街中で買い食いをしたり、食堂に行けば温かい料理を食べられるかもしれない。だが夜会となれば冷めてしまった料理と酒だけ、というのも珍しくなかった。

 

 指標は見えた。最後に餡をかけるような料理で、珍品を使った料理が良いだろう。しかしそんな都合の良いものがあるだろうか。和洋中、様々な料理を思い出しながら歩く。

 

 

「……そうか! あれがあった!」

 

 

 脳内に一閃の煌めきが走った。三国時代には食されていない、出来そうな中華料理が! しかも内陸育ちの華琳たちにも喜んでもらえそうな高級料理だ。もしかすれば今後の金策にも繋がるかもしれない。

 そうと決まれば早い。この料理は手間が掛かるため、急ぐためにも勢いよく駆け出したのだった。

 

 

 やってきたのは魚屋だ。県令の城付近には大きな川が流れており、海路でもって流通が行われている。とはいえ新鮮な海の幸が手に入る訳ではないため塩漬けになったり、天日干しにされて売られていることが多い。

 

 

「えぇっ、杏林先生……そんな屑を売ったとなりゃあ、俺が嫁に怒られてしまいます……」

 

 魚屋の主人は困惑した顔で、どうしたものかと唸る。ちなみにこの主人も、先の天和救助の際にいた住人の一人だった。

 

「お願いします、それを売って頂けませんか? ダメなら……倍の金額払いますから!」

 

「何言ってるんですか杏林様、余計にダメに決まってるでしょ!? これは売り物じゃないんで(むし)ろタダなんです。それを売ったとなっちゃあ、お天道様に顔向けも出来ません。流石に傷んでいるものはいけませんが、お譲りしますから」

 

 そこから代金を渡す渡さないで一悶着をしたのは言うまでもない。結果、料理を食べに来てもらうことで決着を付けた。

 

 以前に見た番組で、こんな企画があった気がする。それももう、遠い記憶になりつつあった。

 

 

 目的の品が手に入った後は、ネギや生姜、鶏ガラ、干し椎茸、果物などを調達して城へと戻り、そして調理場に駆け込んだ。

 

 

 

「あ、杏林先生も何か作るんですか?」

 

「おや、杏林殿」

 

 

 その調理場には先客がいた。劉備と関羽である。美女が料理する姿もなかなかに絵になる……と思ったが包丁を持つ手に違和感が……。

 

「雲長殿、何故に包丁をまるで剣を持つようにして構えてるんです?」

 

 人でも切りそうな物騒な感じで持たないでほしい。そのまま振り下ろせば、あの関羽のパワーだ、肉とまな板が真っ二つになるだろう。その前に包丁が折れるかもしれない。

 

「料理を、しようかと」

 

「…………で、玄徳殿は?」

 

「一緒に作ろうと思って……」

 

「……怪我しないでくださいね。指を縫うと、一時(いっとき)は物を持てなくなりますよ」

 

 

 調達した食材をテーブルに置き、もう一度劉備たちの方を見れば、バラバラの大きさになって切られていく肉と野菜たち。炒め物だろうか。包丁の持ち方に問題があっても、味と火の通りが大丈夫なら食べられる。

 

 

「杏林先生は何を作るんですか?」

 

「夜のお楽しみですよ」

 

「えぇ~っ。でも楽しみだなぁ…………え、これって……魚の屑?」

 

「絶対美味しいですから、これ以上見ちゃダメですよ」

 

 

 これはタダの魚の屑ではない。下処理に時間は掛かるが、間違いなく皆が美味しいと言ってくれるだろう。

 

 

 

「玄徳様、味付けはどうしましょう?」

 

「うーん、やっぱり醤かなぁ」

 

 ゴトリ、と赤い壺を取り出す劉備。中に入っているたのは魚や内蔵を一緒に潰して塩に漬け込んだ『魚醤(うおびしお)』であった。

 

 更にもう一つ閃いてしまう。

 

 

「玄徳殿、その魚醤の上澄みを少し頂いていいですか?」

 

「もちろん、構いませんよ! でも不思議……普通は混ぜて使うのに」

 

「まぁまぁ、出来上がってからのお楽しみということで」

 

 

 日はまだ高い。これからの長丁場を考えると昼食用の食材も買っておくんだったと、少しだけ後悔するのであった。

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