真・恋姫†夢想 〜日付のない墓標〜   作:世良緋那太

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ちょっと少ないけど、いい感じに切れるのがここしかなかった(反省)


流転〈2〉

「……まぁ、そんな気はしてたよ」

 

 

 

 手術を終えた瞬間に、黄蓋に捕らえられて、こうして牢獄にいた。いや、別に筋骨隆々ってわけではないけど、長時間ずっと手術をできるようにそれなりには鍛えてはいたわけで。女性に組み敷かれるとちょっとヘコんだ。

 

 あと、お腹が空いた。朝から何も食べずに手術をして、この檻の中だ。手術道具などが入ったバッグが持ち込めたのは幸いだったが。

 

「すみません、道具を綺麗にしたいのでお湯を持ってきてくれますか?」

 

「あぁ、すぐに持って来させますよ」

 

 近くの兵士に言うと、お湯と一緒に拭くための布も持ってきてくれた。待遇は割と良い方なのだろうが、そのまま放置を食らうのも飽きてきたところだ。

 

「おぉ、ここにいたか近藤とやら」

 

「いや、知ってるでしょ放り込んだくせに。で、こんなとこに見学ですか、周瑜さん」

 

 牢獄の前で、非常に冷めた目で見ているのは、孫呉の大軍師、周公瑾だ。

 俺も空腹で少しイライラしてきているが、相手は周瑜だ。これも作戦かもしれないため、少しでも冷静に、冷静にだな。

 

「それだ、近藤。何故私の名前を知っている? 私だけではない。黄蓋とも呼んでいたな。何故分かった?」

 

 手術中の際と同じく、その射殺せそうな視線で睨みつける。その目だけは、ちょっとキツイです。手術の見学に来る教授を思い出していけない。

 

「既に全部知っている、とか?」

 

 挑発してはいけないのは分かってるけど、拘束されたことにも、牢獄に放り込まれたことも我慢の限界が近い。一番は空腹、これ大事。

 

「……なんだと?」

 

「でもまず、俺はどうやってここに来たのか、それが知りたいんです。その後に俺は全部話します、でも……」

 

 気前よく腹の虫が主張する。負けてしまった、周瑜じゃなく、腹の虫に負けたんだ。とにかく……。

 

 

「何か食べるもの、あります……?」

 

 

 薄暗く、部屋に指すのは一筋の陽光のみ。

 こんな部屋でも出てくる料理はまともなものだった。正直、美味しい。料理は歓迎ムードを感じられるのに、この部屋のギャップよ。どうなってんだ三国時代。ツンデレ文化なんて聞いたことないぞ。

 

 そういえば、よく考えると研修医時代はカップ麺と栄養補助食品ばかりだったから、こういった場所であっても、まともな食事なだけでもありがたかったりする。

 

 医者の不養生なんて言うが、まともに食事を摂れる研修医なんて、実家ぐらしでもない限り、まぁいない。一人暮らしの者なんてもっと悲惨だ。基本は身体を壊す。寝食共に病院でなんて当たり前だった。

 

 魚なんていつぶりに食べただろう。シーフードヌードルの粉末になった魚は考えないことにする。考えるだけで気が滅入る。

 

 

「あの、周瑜様……彼は仲間を助けてくれました……。ずっと閉じ込めておくのは……嫌な顔もせずに、ずっと道具を磨いて……俺はもう見てられないんです」

 

 門番の兵士は我慢できずに言った。この兵士は、戸板で運んでいた内の一人だった。仲間の命の恩人を牢に閉じ込めておくのが辛いと思ったのか、俺の言葉にはつぶさに反応してくれる。お湯を持ってきたのも彼だった。

 

「感謝はせねばならんが、屋敷の中を勝手に歩き回ったことには罰を用意せねばならんのだ」

 

「……それに関してはすみませんでした。あと、ごちそうさまでした」

 

 長江の幸、というのだろうか。非常に美味しく頂きました。早食いではないはずが、ものの数分で胃の中に納まってしまう。ここに酒と煙草があればどれだけ幸せだろうか。この牢に閉じ込められていなければ、もう少しばかり優雅な時間が待っていたことだろう。

 

「俺は医者です。あの人は、俺が執刀しないと死んでいました。確かに、見ず知らずの人間が屋敷をうろちょろしたことに関しては、悪かったと思っています」

 

 自分も静かに頭を下げて、水を飲む。ちょっと生水は怖いけど、喉の乾きには勝てなかった。

 

「そうだ、朝餉(あさげ)の用意をさせたので言いそびれていたが」

 

「はい?」

 

「我らが主、孫堅様がお呼びだ、近藤よ」

 

「ぶっ!? 早く言ってくださいよ!」

 

 さすがに飲んでいた水を吹き出した。というと何か、君主が待っているのに、のんびりと朝食を摂っていたと? いや、かなりのスピードで食べたけどさ。作る時間もそう掛からなかったみたいだし。

 

 

 やっと牢から出られたと思ったら、兵士から安堵の顔が見られた。

 

「近藤様、仲間を助けて頂き、ありがとうございました……!」

 

「いえ、皆さんが動いてくれたから助けられたんですよ、また経過観察もしますから」

 

 兵士に見送られ、周瑜と共に、謁見の間という場所についた。中は……凄い。完全に映画のセットだ。

 

「すご……」

 

 絢爛豪華、というべきなのだろうか。黄金の龍があしらわれた玉座、そこに客間を貸してくれた張本人たる、孫堅がいたのだった。

 

 

「貴様が近藤、とやらだったな。先程は兵を助けてもらった。礼を言うぞ」

 

 周瑜よりも遥かに鋭い目付き。江東の虎の異名は伊達ではなかった。

 

 これから多くの問答が始まるのだろうか、自分の過去に来た理由を教えてくれるのだろうか。

 

 答えはまだ見えない。

 

 

 見えないほうが良いのかもしれない。

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