真・恋姫†夢想 〜日付のない墓標〜   作:世良緋那太

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以前、『K2』は長期連載によるストーリーの長さゆえに新規が入りにくいと言われていた……。
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準備〈6〉

 帰ってきた。ようやく帰ってきた。

 

 街はとても賑やかで、その喧騒は心地良く、日の翳る曇天であってもその明るさが変わることはない。

 

 

 建業、我らが孫堅の治める揚州四郡の最大都市である。

 

「やっと戻ったか。伯符、公瑾、そして杏林。ご苦労だったな」

 

「母様こそ、揚州四郡の平定おめでとうございます」

 

 なんと、城門で炎蓮さんが出迎えてくれた。

 そして労いの言葉をかけてもらい、荷解きに移る。建業を出発する時には荷車に一杯であった医療物資は、ほとんどが使い果たされていた。むしろ足りなくなるぐらいで、斉国で現地調達をするほどであった。

 

 後ほど、謁見の間にて報告などが行われる予定だ。張三姉妹の件もある。大事にならないよう、今後の方針も定めていかないといけない。

 

 

 ちなみに、梨晏と星は正式に呉軍の将として取り立てられることが既に決定していた。一時的に帰還していた雪蓮たちが報告を済ませていたようである。

 

 

 そして、この荷解きで問題が発生した。

 城内に設けられている医局に荷物を運び入れたのだが、収納スペースがほとんど無い。棚が足りないとかの問題ではない。単純に部屋に収まりきらないのだ。考えてみれば、出陣が決まってから、物資を受領したらすぐ荷車に乗せていたのだから、このような状況になるのは必然と言えただろう。

 

 だからと言って、城の倉庫に入れるわけにもいかない。自分の目が届く範囲で適切に保管しなければ、医薬品もすぐにダメになってしまう。

 

 

 張三姉妹のことも大事なのだが、後で行われる評定で、医局の改善を要求する必要があった。床に包帯や医薬品を放置するわけにはいかない。とりあえずは廊下に邪魔にならないようにして置いていくしか無かった。

 そして、評定の際に元より報告しようとしていた竹簡を荷物から引っ張り出し、休憩をすることもなく謁見の間に向かうのだった。

 

 

 

「戻って間もないが、評定を行う。まずは雷火様からお願いします」

 

 冥琳の言葉から始まった評定。自分は久々の建業であるがゆえに、久し振りな面々が揃っている。雷火さんの揚州平定の報告を聞きながら、末席にいた梨晏と星を見やった。

 

 呉軍に加入することになった趙雲。正史とは異なる流れを見せる外史の一端を、自分は開いたのだ。このまま何事もなく新たな歴史が紡がれ、流れていくのか。それとも昔見た物語のように、歴史の修正力のようなものが働いて、破綻を迎えるのだろうか。分からない。分かるわけがない。

 

 でも、自分は患者がいる限り、救っていくに違いない。それだけは分かっていた。

 

「次は慶、報告を」

 

 冥琳に声を掛けられ、その場に立ち上がる。

 

 

「はい。臨時で医療班を指揮しました、劉杏林です。皆さんお疲れ様です」

 

 一同が軽く会釈をした。評定で報告することが初めての経験なのだが、これで合っているだろうか?

 

 

「斉国での緊急医療、及び救援派遣は完了しましたが、それによって多くの問題点が顕在化しました。それは、医薬品や手術道具の物量に関するところや、多くの兵が戦闘後に復興支援に駆り出され、多少なりとも心に負担が掛かっていることです。特に医薬品の問題が顕著で、何より数も種類も足りない」

 

「仮にだけど、無くなるとどうなるの?」

 

 粋怜が挙手をして質問してきた。

 

 

「例えば麻酔が尽きたとしましょう。手術の際、気絶したくても出来ない程の激痛に耐えてもらうことになります。場合によっては、その痛みによって命を落とすこともあるでしょう」

 

 

 傾の虫垂炎の手術や、最初に兵士に施した急性硬膜外血腫の手術を思い出す。あれを麻酔無しで、と考えるだけで怖気(おぞけ)がする。我慢など出来るわけがない。それが例え屈強な武将であってもだ。

 

 手術を見たことのある冥琳や祭さん、雷火さんなどは少しだけ顔を青くしていた。

 

 

「まさに火急の案件だな。丁度良い、オレからも慶には知行(ちぎょう)を与えないといけないと思っていたところだ」

 

 知行とは、いわゆる給金や褒美のことである。給金自体は頂いているが……。

 

「雷火、例の目録を」

 

「御意」

 

 炎蓮さんは雷火さんに命じると、目録を読み始めた。

 

「慶、貴様に屋敷兼治療所と土地を与える」

 

 

 

 

「まさか、こんなことになるとは……」

 

「良いじゃないの、自分の屋敷は皆持ってるんだから」

 

 雪蓮はいい笑顔だ。

 

 評定で伝えられたのは、先の通り。城住まいでも構わないが、呉の将兵はみんな屋敷を持っているとのこと。

 

 医局が手狭であったことからも、これはありがたいことだった。緊急を要する場合も考えて、治療所は城のほど近くに建てられることになった。

 

 

「それにしても広すぎない?」

 

 あれよあれよと言っている間に、屋敷の間取りや治療所の間取りを決めるべく、職人が城に来たり、現地を確認するなど大変なことになっていた。それに、だ。

 

「土地って、家を建てるための土地だと思ったんだけどさぁ、雪蓮。これどういうこと?」

 

「言葉通りの意味よ」

 

 目の前には、かなり広い畑が広がっている。土地の場所もかなり良く、川も流れているため、すぐに水を引くこともできそうである。米作りも野菜を育てることも出来そうな肥沃な土地だ。

 

「元々は持ち主がいたらしいんだけど、高齢で維持できないからって、貰い手を探していたそうよ。遠慮なく貰ってくれって母様が言ってたじゃない」

 

 

 普通、ただの医者が州牧から家と病院と土地を貰えるわけがないだろう。

 

「ただの医者、じゃないわ。天の知識を持つお医者様よ。洛陽の侍医を差し置いて治療を成功させた実績を考慮しても、このくらいじゃ足りないのだけどね」

 

「マジか……」

 

 更に、手術道具の増産もされることとなった。炎蓮さんの鶴の一声で動く建業の職人集団は、自分たちだけの工房で作るのではなく、工程ごとに仕事を横へ横へと流していく。

 

 メスの持ち手を作る工房、刃の部分を作る工房、研ぐ工房など、挙げていけばキリがないほどの工房が協力して、道具を手掛ける。縦の下請けではなく、横請けと呼ばれるシステムだった。道具はその都度納品されるということだ。

 

 これからが、この時代で医療を行なっていくためのスタートラインである。

 

 

 だが、そのスタートを切るために足りないものがまだまだ多くあった。 




今のお前が必要とすべきは睡眠時間じゃない!

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