真・恋姫†夢想 〜日付のない墓標〜   作:世良緋那太

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 お久しぶりです。

 短めですが、ようやく再開です。


緑礬〈2〉

 ようやく部屋に戻ったと思えば、既に宿将の皆さんは酒盛り中だった。

 

 

「あ~、ようやく帰ってきたわね。お疲れ様」

 

「ほれ、慶! 遅刻者には駆け付け三杯じゃ! こっちに座れ!」

 

 一番危険な粋怜~祭さん間に座らされるやいなや、盃を渡されて注がれていく酒。グッと飲み干しては注がれ、飲み干しては注がれ……三杯どころか五杯飲まされた。何も胃に入れていない状態でこんなに飲んではいけません。慶との約束だ。

 

 

 そして、おもむろに粋怜の手が右肩に置かれる。

 

 

「慶くんの身体、とってもガッシリしてるのねぇ。お姉さんドキドキしちゃった」

 

「粋怜!?」

 

 粋怜がいきなりブッ込んでくるもんだから、酒を吹き出しそうになった。

 

「あらぁ、緊張しちゃって~」

 

「ふむ、確かに慶の身体はそこらの兵よりも精悍(せいかん)じゃの。医者も良いが、将としての働いても申し分ないじゃろう……で、じゃ」

 

 自分の左肩に祭さんの手が置かれる。

 

「粋怜の身体はどうじゃった?」

 

「見てません!」

 

「見てくれではない、感触じゃ」

 

「か、感触って……」

 

 

 

 脳裡(のうり)に、あの背中に受けた柔らかい感触が蘇る。

 

 

 

「顔を赤くしよってからに、()い奴じゃのぉ」

 

「……いい加減にせんかッ! 風紀が乱れておる風紀が!」

 

 ご機嫌の良い祭さんに雷火さんの雷が落ちた。

 

「……すみませんでした。知らなかったとは言え、覗いたような形になって」

 

 自分も素直に詫びた。

 

「そ、それに関しては謝らんで良い。このような構造になっているとは思わなんだからの……」

 

 そう言って、雷火さんもチビりと酒を口にした。

 

 

「温泉で休養の予定だったのに、まさか道具を持参しているとは思わなかったわ。慶くん、休む気あるの?」

 

 部屋の入口に放置されている道具を見て、粋怜は溜息をついた。

 

「そう言う粋怜だって、立派な槍を持参してるじゃないか。それと一緒だよ。備えあれば憂い無しってね」

 

 祭さんも弓を装備していたし、雷火さんも趣味の論語註を持ってきて……人のことは言えないぞ。

 

 

 テーブルに並ばれている料理に手を付ける。この近くの山で採れたものだろうか。山菜が美味しい。このほろ苦さと酒の相性が良すぎる。この時代の天ぷらは、米粉を衣にしているためか多少冷めてもサクサクしていた。

 

 

「そうじゃ。慶よ、ちと不審な話を聞いてきたんじゃ」

 

「……不審な話ですか?」

 

 

 辻斬りとか、盗賊の類だろうか? まだ黄巾党の残党がいるのだろうか。

 

 

「神の住む山、と言うものがこの地域にあるらしいのじゃ」

 

「神? それが不審な話に繋がるの?」

 

 祭さんが神妙に頷く。

 

「宿の主が教えてくれたのじゃがな、近づくだけで命が吸い取られるという山らしくての」

 

 

 

 詳しく聞いてみると、その昔、山菜採りに行っていた夫婦が夜になっても一向に帰ってくることが無かったため、村の人間が総出で捜索に当たったそうな。

 

 夜明け頃にようやく夫婦を見つけることが出来たが、その場所は普段の収穫ポイントから大きく外れたところで、手には(しお)れた山菜を握り締めたまま息絶えていた。

 

 しかし不思議なことに、獣に襲われたような痕跡も、争ったような衣服の乱れもなく、その身体はとても綺麗だったそうな。

 

 発見した村人は、恐らくこの夫婦は、山の神の怒りに触れて命を吸い取られてしまったのだと思い、それからその山は畏敬の念を持って『神の住む山』と呼ばれるようになったらしい。

 

 

「確かに、不審死ですが……今でも似たようなことが?」

 

「いや、今の場所に街が出来てからは起きてはおらんらしいが……宿の主から山に入るときは気をつけるようにと言われての」

 

「なるほど……。命を吸い取る神の山ですか。少々気になるので明日、街の人に聞き込みしてみましょうか。でもその前に……」

 

 料理を盛り付けられていたお皿は、既に空いている。酒も結構飲んだが、悪酔いするほどではない。

 

 

「温泉、入ってきます。さっきは途中で出てしまったので」

 

「そういえばそうね、私達ももう一回入り直そうかしら?」

 

 

「え」

 

 

 粋怜さんが良い笑顔で提案する。

 

「い、いや……粋怜さん?」

 

 また生き地獄を味わえと言うのか。

 

「大丈夫よ。宿の離れに少人数で入れる別のお風呂もあるみたいだから……期待しちゃってた~?」

 

「それ、先に言ってくれよ……離れがあるとか聞いてないし……」

 

 

 

 というわけで、温泉リベンジである。

 

 もちろん、混浴の大浴場……ではなく離れの露天風呂だ。雷火さんから一番風呂は譲ると言われたので、一番手。

 

 

 使用中の札を掛けて入ってみると、よくある家族風呂のような広さの、木の香りが心地良い所だった。

 

 湯に浸かって、先程の話を思い出してみる。

 

 

 外傷もなく、獣に襲われた痕跡もないのに、夫婦が二人して不審な死を遂げた。

 

 可能性としては、硫化水素中毒だろう。吹き下ろしか何かの事象で硫化水素が山肌を駆け下りて、偶然居合わせた夫婦が被害を(こうむ)った。

 

 

 しかし疑問が残る。

 

 この話で推測していくと、硫化水素の発生源が山頂になってしまうということだ。ここは温泉地。至る所で湯が湧き、硫黄の香りが街を薄く纏っている。

 

(まぁ、聞いてみないと分からないか……)

 

 身体は芯まで温まった。明日に備えて早く休まねばならない。

 

 

 

 ――しかしその前に。

 

 

 

「粋怜、そこにいるんだろ。もう出るから」

 

「えぇ? そこは『いるんだろ、入ってこいよ』じゃないの?」

 

 溜息と一緒に粋怜の声が聞こえてきた。

 

 

「……俺は不純な動機で遊びたくないんだよ」

 

「……アンタ、いつの時代の人間よ」

 

 

 三国時代の人物に言われるとは思わなかったよ。




 K先生も喜多見チーフも、いずれは登場させたいなぁ……。


 あ、慶の人物紹介を詳しく提示したほうが良いと思ったんですが、どうでしょう?
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