真・恋姫†夢想 〜日付のない墓標〜   作:世良緋那太

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K2、何度も読み直してしまう。


緑礬〈4〉

 術後の経過は順調そのものだった。

 

 

 特に大きな問題もなく建業へと戻ったのが、あの火事から九日後の事。

 

 既に早馬を出して報告を行なっていたため、城の重鎮達に怒られることもなかった。そして今は報告を兼ねて炎蓮さんの部屋に来ていた。

 

 

「まさか雷火まで火事に巻き込まれるとはな。本当に助かった。一慶(かずよし)、礼を言うぞ」

 

「いえ、無事に救出が出来て良かったです。あと一歩遅れていたら、自分も含めてここには居なかったでしょう」

 

 炎蓮さんは、こうして二人だけの時は一慶と呼んでくれる。本来の親から貰った名前を忘れないようにという配慮からだった。

 

 

 雷火さんは特に酷い火傷を負うこともなく、梁が落ちてきたことによる打撲も癒えている。小柄な体格だったこともあって、有害な煙を吸わなくて良かったのが救いだった。唯一のダメージは、綺麗な銀髪が若干焦げてしまったことぐらいだろうか。

 

 だが、若干とはいえ髪は女の命である。そういったメンタルケアも含めて、雷火さんの髪を整えたのも自分だった。

 

「婆も髪のツヤが戻ったと喜んでおったわ。で、わざわざ部屋で報告とは何事だ?」

 

「少し相談がありまして」

 

「申してみよ」

 

 

 

 

 

「ふむ、硝子職人と炭職人の紹介か。その神の住む山の話は聞いたことがあるな。そこにお前の望むものがあるのだな?」

 

 薬品類の保管として、ガラスは必須だった。特に、これからの『神の住む山』攻略には間違いなく必要になる。

 

「そうです。冥琳や穏の眼鏡を見て、建業にも硝子職人がいると思いまして」

 

「分かった、紹介しよう。そうと決まれば城下に出るか!」

 

「え、炎蓮さんも?」

 

 勢い良く立ち上がった炎蓮さんに驚いてしまう。

 

「当たり前だ。紹介するのはオレだ。一慶が何をするのかも気になるのでな。なに、護衛のことは気にするな」

 

「あっ、炎蓮さん! はぁ、もう行ってしまった……」

 

 炎蓮さんは部屋から出ていってしまい、その背中を追いかけるしか無かった。

 

 

 

 いつものように活気に溢れた城下。街の人達は炎蓮さんの姿を見つけて集まってきた。

 

「孫堅様、ぜひ娘を抱いてください!」

 

「そりゃ良いが……オレが抱いたら将来、虎みたいな女になっちまうかもしれねぇぞ?」

 

 その言葉に笑ってしまう町人と自分。

 

 

「……そんなに笑えるかァ?」

 

 

『すみませんでした』

 

 ドスの利いた声で言われ、即座に謝る。それを見て街の人も笑った。

 

 和気藹々とした空気で、みんな口々に感謝を伝えたりするが、お世辞を言っているような雰囲気は無い。誰もが炎蓮さんを慕い、この威厳を持った建業の主に畏敬の念を抱いているようだった。

 

 

「慶先生も、この前は診て頂いてありがとうございました。息子もすっかり元気になりました!」

 

「それは良かった。まだ完治してはいませんから、無理させないように。また往診に伺います」

 

 自分に声を掛けてくれる人も多くなった。自分の存在意義というものを自覚させてくれる。このような形で認めてもらえるのは嬉しいことだった。

 

 

「うらぁっ、早く散れ散れ! いいから働きやがれ!」

 

 感謝を伝えられて、少々気恥ずかしくなったのだろうか。炎蓮さんは言葉こそ乱暴だが、優しさがこもった声で仕事に戻らせた。

 

 

 

「昔は、この建業も荒れ放題でな。任侠崩れのバカ共や盗賊で溢れていたんだ。刺史の劉耀(りゅうよう)も丹陽を放ったらかしだった。だから使えぬ太守も込みで一掃したのさ」

 

「今の建業があるのは、炎蓮さんのおかげということですね」

 

「それは違うな。オレは掃除をしたまで。街を再興したのは民の力だ」

 

 そうやって言ってのけることが出来るのが、炎蓮さんの良いところだ。そして、それをサポート出来る内政手腕は相当のものだろう。

 

 

「ところで、民にも真名を許しているのか?」

 

 よく聞こえているものだ。あれだけ囲まれて話をしていたのに。

 

「例え城の医者であっても、見慣れない治療には不安も付きまといます。真名を伝えることで、その不安を払拭できるなら良いと思いまして」

 

「だから、慶先生か……雪蓮と同じことをしよって」

 

 そう言って炎蓮さんが顎をしゃくって、とある店を示す。

 

 

 雪蓮が酒屋で試飲をしていた。いや、あれは試飲の量ではない。

 

 

「このお酒、美味しいわ~♪」

 

「雪蓮ちゃん、お酒だけじゃ足りないでしょ? はい、おつまみ!」

 

「ありがと、おばちゃん。それ幾ら?」

 

 雪蓮と呼ばれながら、その当人は真っ赤な顔で瓢箪を掲げて、酒屋と乾物屋の奥方たちと楽しそうにしている。そして悠々と街を散歩を開始した。

 

「あのバカ……」

 

「まぁまぁ。今日はお休みですから……」

 

「ちょっと待ってろ。良いことを思いついた」

 

 その後、跡継ぎとして相応しいのか試すと言って、炎蓮さんは背後から雪蓮に近づき、特大の拳骨を頭に見舞う。

 

「うるぉああぁぁァッ!」

 

「んぎゃああぁぁっ!?」

 

 次期当主が断末魔の声を上げて、地面にノビてしまった。

 

「炎蓮さん!? お、おい雪蓮、大丈夫か!」

 

「未熟者が……行くぞ慶! ったく、昼間から飲んでねぇで、ちったあ修練しろってんだ!」

 

「えぇぇ……」

 

 雪蓮を放置して、目的地に向かって歩き始める炎蓮さん。

 

「オレは街中だろうと戦場だろうと、刺客に襲われることが日常茶飯事だ。しかし、それは貴様も同じことだ。肝に銘じておけ。ここでは、気を抜いた者から死んでいく」

 

「……分かりました」

 

 工房の場所も分からないため、自分は炎蓮さんに付いていくしか道は無い。雪蓮、お達者で……。

 

 

 

 少々時間は掛かったが、目的の硝子職人がいる工房に到着した。

 

「邪魔するぞ」

 

「これは孫堅様!」

 

 その職人も、炎蓮さんが店先に居たことで、作業の手を止めて直立不動になる。

 

「あぁ、息災で何より。仕事を頼みたくてな」

 

「ありがとうございます。汚い所ですがどうぞ中へ!」

 

 職人はとても若かった。自分と同年齢か、もしくはそれよりも若そうな青年である。

 

 砂を溶かすための炉の熱で、工房はとても暑い。

 

「周瑜と陸遜も、ここで世話になったんだ。歳は若いが腕は確かだぞ」

 

 

 工房の入口には、透明なガラスで作られた瓢箪の形をした容器なども並んでいた。他にも動物を象った根付けなどの細かい小物もある。確かに腕は確かなようだ。

 

「早速で悪いが仕事の話だ。あとは劉仁と話してくれ」

 

「承知しました!」

 

 工房の主は炎蓮さんに一礼すると、自分の元に来た。

 

 

「劉仁です。お忙しいところ申し訳ありません」

 

「……あぁ、あのお医者様の! 泰山府君の侍医であると、青州でのお噂は聞いております!」

 

 職人と聞くと、無口だったり頑固なイメージがあったが、この主人からは全くそのような雰囲気がなく、むしろフレンドリーな空気感がある。

 

「建業でもその噂流れてるんですね……」

 

 通信技術も無い時代に、何故こんなにも噂の伝達速度は早いのか。

 

「他にも南の温泉街でもご活躍なさったとか! それで、何を作れば良いんでしょう?」

 

「あぁ、そうだ……これなんですが」

 

 事前に準備しておいた図を主人に見せる。

 

 

「これは……また難しい形をしてますね。この口の部分はどうなってるんですか?」

 

「そこはこっちの容器と繋ぎ合わせるようにしたいんです。接続部はこちらで用意できますので」

 

「なるほど」

 

 ふむふむ、と頷きながら図面をじっくりと見る主人。

「作れそうですか?」

 

 主人はニヤリと笑った。

 

「任せてください。こういった複雑なものを、一度で良いから作ってみたかったんです。とりあえず二日ほどお待ち頂ければ。試作品をすぐに城まで持っていきますから!」

 

 

「気になるとは言ったが、オレにはさっぱり分からんな……この容器が役に立つのか?」

 

 図を見ても、首を傾げるばかりの炎蓮さんも、ちょっと可愛かった。

 

 

 

 

 

 

「炎蓮さん、ありがとうございます。これで準備完了です」

 

「また珍妙な形の容器だな。これで大丈夫なのか」

 

 

 工房で完成したのは抱えるくらいの大きさを持つフラスコと、蒸溜器具だ。今回使うのはフラスコだけであるため、蒸留器などは医局に保管している。

 

 硝子工房を訪ねたあと、炭や革の職人も紹介してもらい、完全な準備が出来たのは城下に出てから五日後のことだった。

 

 洛陽からの使者も来てはいない。まだ時間的にも余裕があると見て、再度温泉街に向かうこととなった。

 

「大丈夫です。三日で戻りますので」

 

「分かった。大丈夫だとは思うが、粋怜と祭も連れて行け」

 

「ありがとうございます」

 

 

 旭に跨がり、自分たちは温泉街へ。

 

 今度は湯治目的ではなく、神の山攻略である。

 

 

 もし山頂に目的のものが無ければ、今回のフラスコなどは作った意味は勿論消え失せる。

 

 しかし目的のものがあれば、今後の手術でかなり有利になるのだ。

 

 期待と不安が入り交じるが、行ってみないことには分からない。

 

 

「さて、出発しようか旭」




次回、神の住む山攻略編。って言っても一話で終わります。

そうしたらいよいよ……洛陽です。
孫権殿の登場は、もうしばしお待ちを。



ゴールデンウィークも始まりましたね。祝日は出張ですので、その翌週から特別編を書いていきます。
今のところは雪蓮、炎蓮、星の3ルートが優勢のようです。投票、お待ちしております。
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