真・恋姫†夢想 〜日付のない墓標〜   作:世良緋那太

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炎蓮さん単体のお話って、なんでこうも難しいんだ……。

お待たせしました。短めですが、どうぞよしなに。



特別編:生まれたところを遠く離れて

 評定の終わったある日のこと。謁見の間から出た瞬間に炎蓮さんから呼び止められた。

 

「一慶、今から身体は空いてるか?」

 

「大丈夫ですよ」

 

 即答できるほどには、仕事をこなしている毎日だ。

 もう建業で知らない道は無いほどに歩き、人々と話し、治療をしてきた。

 

 

 つまり、それだけの長い時間をこの建業で暮らしているということになる。

 

 

 炎蓮さんの後について、街に出た。

 

「今日はどうします?」

 

「昼を食いに行こうか。付いてこい」

 

 前に粋怜に教えてもらった、小籠包の美味しい店で昼食を摂る。

 

「この街もかなり慣れてきたようだな」

 

「もう行っていない道は無いでしょうね」

 

 炎蓮さんは驚いたように、眼を剥いてこちらを見た。

 

「……ではこの通りを南に下り、三つ目の角を西、二つ目の角を南に下って五軒目は何屋だ?」

 

「俺がいつも贔屓にしている服屋です」

 

「正解だ。ではそこに行こう」

 

「分かりました」

 

 

 炎蓮さんは反物を見ている。

 

 

 西との貿易路、シルクロードを通じてやってきた品物を扱っている店が増えた、というのが最近の街の特徴だろうか。

 

 以前に青州で振る舞った鱶鰭(フカヒレ)も、呉を代表する名産品の地位を確立しつつある。

 

 

 自分はと言うと、オーダーメイドで注文していた白衣を受け取っていた。いつものロングコート型ではなく、ケーシーと呼ばれる、肩でボタンを留めるスタイルのものである。機動性重視で、患者に対しても威圧感を与えにくい服装だ。ちなみに白だけでなく、藍染のものだったり、トリコロールのラインを入れたりした赤いものも作ってもらった。

 

 白衣は医療用、藍染は化学実験用、トリコロールは、服屋のノリで作ったものだったりする。

 

 

「貴様はずっと似たような服だな……他の物は無いのか?」

 

 受け取った白衣を炎蓮さんが見ながら言った。

 

「ありますけど……色んな種類があるわけでは」

 

 

 この世界に来た時に着ていた、黒のインナー、ブルージーンズ、ハイカットシューズは普段着としても活躍するが、オシャレをするようなものではない。そもそも、ファッションに興味が薄いというのも原因の一つである。

 

 元の世界でも、『白衣姿とスーツ姿だけは似合う』と言われたほどだ。その言葉の真意も、白衣とスーツ以外見たこと無いからであるが。

 

 

 よって、白衣を手掛けてくれるこの服屋で、似たような服を作ってもらっていたのである。そのため、自室には同じ服が複数畳まれているのだ。

 

 日々の服が同じデザインであれば、それに迷い悩む必要も無い。この時代のファッション雑誌『阿蘇阿蘇』を読み込む雪蓮からは、もう少し洒落っ気を持てと苦言を呈されているが、一貫して無視を決め込んでいた。

 

 

「せっかく背丈もあるんだ、休日に着る服も見繕ってもらえ」

 

「いや、ここでは白衣と普段着を作ってもらってますし、大丈夫ですよ」

 

 休日も、なんだかんだで医局にいることが多いため、誰かが怪我をすれば自分が即座に駆けつける。そうなれば白衣が普段着という状況が生まれるのだ。

 

 

「慶先生、私も孫堅様と同じ意見です。以前から意匠を教えて頂いて、かなり繁盛させて頂いております。何でも仰っていただければ!」

 

 雪蓮から始まった『慶に私服を着させよう作戦』も、服屋の店主と炎蓮さんの手によって完全に外堀が埋まってしまった。

 

 

 結果、漢服という宮廷で着るような服を追加で受け取ることになった。思ったよりもヒラヒラしていて、走り回るのは無理そうだ。

 

 かなりシックな色合いで、ところどころにアクセントとして金糸が使われている。

 

「うむ、宮廷用になかなか良いではないか。黒と濃紺、白で仕上げるとはな……。慶、これを着て洛陽に行くぞ」

 

「わ、分かりました」

 

 

 炎蓮さんも、今回の上洛用に一着仕立てることとなった。

 

 その帰り道。

 

「お前は、充実しているか?」

 

「充実してますよ。こっちの生活も長くなりましたし」

 

 城内の廊下、この先を真っすぐ行けば医局と自室がある。

 

「……寂しくはないか?」

 

 予想外の質問だった。失礼を承知で、炎蓮さんらしくないと思ってしまう。

 

 

「寂しくないと言えば嘘になるかもしれません。でも大丈夫ですよ」

 

 

 その言葉を聞いて、背中を強く叩かれる。

 

 

「一慶。オレのことは親のように思え。遠慮はいらん。何でも言え。あと、洒落っ気は持て」

 

「……炎蓮さん」

 

 

 

 生まれたところを遠く離れて、時間という抗いようのないものに隔たれて、やってきた三国時代。

 

 ホームシックになるようなことは無かったが、郷愁の思いは人並みにあった。

 

 

 少しでもその気持ちを和らげるために、色々な所にわざと連れ出したのだろうか。

 

 

 炎蓮さんも自室に戻り始める。

 その背中を見つめて、廊下の角を曲がるまでずっと見送っていたのだった。




お次は星編です。こちらは恐らく長くなるかも。
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