真・恋姫†夢想 〜日付のない墓標〜   作:世良緋那太

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流転〈3〉

 孫堅は玉座、というのだろうか、豪華な椅子に座っている。本当に映画のセットのようで、龍の模様も素晴らしいものだった。

 

「治療、誠に大儀であった」

 

「……ありがとうございます」

 

「牢にブチ込んでしまってすまなかったな、見ず知らずの者が屋敷でうろついては、示しがつかんのでな」

 

 鷹揚に言う孫堅と、神妙な顔つきの周瑜と黄蓋。もう一人、美人がキッとした目付きで睨んでくる。だが目が合った瞬間に、あはっ♪ と笑って小さく手を降ってきた。

 

「オレは呉郡太守、孫文台(そんぶんだい)だ。貴様が何者か、どういう目的でこの地まで降ってきたのか教えてもらおうか」

 

「近藤一慶です……まず、助けて頂いてありがとうございます。で、さっき張遼にも言われましたけど、降ってきたってどういうことなんですか……?」

 

 

 

 

 

「……つまり、俺は流れ星に乗って墜ちてきたということで?」

 

「そうだ、飲み込みが早いな」

 

 周瑜さん、俺は未だに理解できていません。現状を受け入れる他無いんです。

 

「で、それが予言者の管輅が言っていた天の御遣いに酷似していると……」

 

 かくかくしかじか、孫堅、周瑜から事のあらましを聞いたが、突飛な話であった。

 

「その通りだが、証拠が欲しい。天の御遣いたる証拠がな」

 

 孫堅は、少し退屈そうにして問うてくる。

 

「それでしたら問題ありませんぞ、大殿」

 

 黄蓋が会話に割って入ってくる。

 

「この者の手術とやらは、今までに見たことのないもの、まさしく天の知識でしょうな。そして、周瑜の名と我が名を知っておりました」

 

「ほう?」

 

 話してみろと顎で促された。

 

「御遣いかどうかは一度置いて……確かに、俺は皆さんの名前を知っています。でも、少しばかり違う点があります」

 

「続けろ」

 

「恐らく、俺は1800年先の未来からこの時代に飛ばされてきました。そして、孫堅さんたちの物語を知ってます。登場人物は全員男でしたけど……。他にも色々と違う点はあると思います」

 

「はっはっ、面白れぇ! オレが男か!」

 

 豪快な笑い声、だが否定をするわけではないようだ。

 

 

 そして張遼が謁見の間に入ってきた。そういえばずっといなかったな。牢獄にも一切来なかったし、何かやっていたのか。

 

 それよりも、張遼が孫堅のところにいるというのも不思議な話だ。確か、三国志では最後には曹操の配下だったはずだ。

 でも、これは夢だ。夢ならば、多少のイレギュラーも問題ない……はず。

 

 

 

「近藤、未来から来たと言ったが……」

 

「周瑜さん、それ自体が眉唾ものと捉えてもらって構いませんが」

 

「なんじゃ、ハッキリせんのぉ」

 

 黄蓋も顎をさすりながら言ってくる。

 

「俺もよく分かっていません……周瑜さんも考えてみてください。突然知らない場所にいて、項羽や劉邦、始皇帝である嬴政(えいせい)に出会ったようなものですから。もはや夢の世界かもと考えてます」

 

 周瑜も孫堅も黙ってしまう。

 

 タイムスリップ、というよりもパラレルワールドの方が説明が付きそうではある。確証は無いが、タイムパラドックスやらなんやらが起きてしまって、自分が消えるオチもありそうで怖い。

 

「なるほど。近藤一慶! 貴様を天の御遣いと認めてやるっ! だが……なんのためにここへ参った?」

 

 納得したとばかりに膝を叩いて言うが……それで良いんだろうか。

 

「それが一番分かりません……。天の御遣いと言われても、自分はただの研修医で、知的好奇心が旺盛なだけで……」

 

 自分が、なんで三国志の時代にやってきたのか、全く分からない。できるのは手術だけだ。

 

「ではその医術を役立てれば良い。でなければ、ここから放り出すぞ?」

 

 ニヤッと笑う孫堅。放り出す? この三国志の世界に? いや、それは野垂れ死に間違いなしなので断らせてください。せめて戻れるまでいさせて下さい。

 

 

 

「先の未来から参ったのであれば、先々のことも分かるのか?」

 

 周瑜が先を促す。

 

「そりゃいい。何か予言してみろ」

 

「えぇっと……黄巾党は知っていますか?」

 

 三国志の序盤は黄巾の乱が起きる。今は孫堅の代だから、かなり序盤の時期だろう。

 

「黄巾党? 知らんな。……公瑾、お前はどうだ?」

 

「はっ、中原で勢力を伸ばしている野党集団です。黄色い布を頭部に巻いた集団が略奪していると報告を受けています。この後の評定で申し上げる予定でした」

 

「そうか、それによってどうなる近藤」

 

「黄巾党は徐々に規模を増していき、農民が蜂起して、漢王朝に大きい叛乱を起こします」

 

「それはまことかっ!」

 

 謁見の間は人数が少ないものの、どよめきが起こる。大規模な農民蜂起、予想はできてもいざ起こるとなれば驚きもするだろう。

 

「ちょっとちょっと、食いつきすぎよ?」

 

 会話に入ってきたのは桃色長髪の美人。

 

「しかし、近藤が知っているのも不思議だと思わないか?」

 

「そうだな、仮に妖術だろうと何であろうと、使えるものは使うのがオレの流儀だ。それが覇者の行く道よ。で、乱の先は?」

 

「叛乱は鎮圧されますが、それは皇帝ではなく、孫堅さんのような将軍たちの活躍のおかげで鎮まります。漢王朝は衰退して……その代わりに地方の将軍たちで覇権を争い、大規模な戦争が各地で繰り広げられます」

 

「そりゃ面白ぇじゃねぇか。台頭するのはどこのどいつだ?」

 

「台頭するのは、まず、孫堅さん」

 

「だろうな!」

 

 自分の名前が出たことで満足したのか、大きな音を出して手を叩いた。さすが、稀代の英雄にして呉の礎を作った孫堅、自信に満ち溢れている。

 

「そして、曹操」

 

「曹操?」

 

 聞き慣れない名前なのか、桃色の髪の乙女が聞き返す。

 

大宦官(だいかんがん)曹騰(そうとう)の孫娘よ。今は陳留刺史だったか。して、まだいるのか?」

 

「最後に、劉備です」

 

「劉備? 知らんな。どうだ公覆」

 

「いえ、知らんですな」

 

 そうか、劉備は黄巾党で頭角を現すから、まだ知れ渡っていないのか。

 

「劉姓を名乗るということは、天子様のご一族か?」

 

 玉座で悩むように孫堅が言うも、そればかりは分からない。後世でも劉備の出自は不明瞭のままだ。

 

「末裔と言われていますが、自分の世界ではかなり胡散臭かったです」

 

「よし、そこで十分だ。先のことが分かりすぎてはつまらんからな。細かいことは聞くかもしれん……天の知識は有用だからな。だが、生死に関わる話、歴史に関わるようなことは今後、口にするな。約束するなら養ってやる」

 

「……分かりました」

 

 

「その見知らぬ天の世界の医術、存分に使え。それともう一つ仕事がある」

 

「なんでしょう?」

 

 またもニヤリと笑うが、今までのようなものと違う。何か企んでいる、そんな顔をされる。

 

「我らが孫呉に天の血を入れるのだ。これで、諸侯はもちろん、漢室に影響を及ぼすことができる」

 

「なるほど、天の御遣いが孫呉に降り立ったと喧伝すると……」

 

 周瑜は何を言うのか全てを察しているのだろうか、澄まし顔で頷く。

 

 すみません、俺は何も分かっちゃいませんが。

 

「血、ですか?」

 

 

 

「応! 近藤よ、貴様は今日から我が家、臣どもと子を成せ!」

 

 

 

「はぁ……えぇぇっ!?」

 

 どういうことですか。子を成せと言いましたか孫堅様。

 

「し、周瑜さん?」

 

「文台様のお決めになったことだ」

 

 そんな涼しい顔して言わないでくださいよ。あと、この部屋にいる皆が納得したように頷くけど、それで良いの? 価値観の違いってやつですか?

 

 あれよあれよの間に自分の運命が決まりつつある。だが、拒否をすれば放り出されるわけで、選択肢は一つしかないのは明白だった。

 

「男冥利に尽きるのぉ、近藤よ」

 

 良い顔して笑う黄蓋。

 いや、そんなの良いわけない……けど美人揃いだ。生唾を飲んでしまう。

 

「じゃあ、これで一慶も孫呉の一員ね。自己紹介するわ。姓は孫、名は策、字は伯符、真名は雪蓮(しぇれん)よ。雪に蓮で雪蓮」

 

 真名という聞き慣れない単語、ゲームとかでは聞いたことがあるけれども。

 

「もう真名までお許しになるか」

 

 黄蓋は驚いたように言う。

 

「子を成すかもしれないもの、特別扱いしなくちゃ」

 

 

「……周瑜さん、真名って?」

 

「真の名と書いて真名と読む。信頼した相手にのみ名乗ることの許される神聖な名前のことだ。他者の真名を知っていても、許されなければ呼んではならない」

 

「……もし呼んでしまったら?」

 

「突然、頸が刎ねられても文句は言えんな」

 

 だから、今は呼んでいないだろう? と、周瑜は当たり前のように言うが、あまりにも初見殺しなルールで、背筋に冷たいものが走る。

 

「……宜しくお願いします、雪蓮さん」

 

「畏まらなくていいわよ。雪蓮って呼んで。皆にも気楽にね?」

 桃色の髪の乙女改め、雪蓮がにこやかに笑う。

 

「私の真名は冥琳(めいりん)、冥府の冥に、珠を表す琳と書く」

 艷やかな黒髪を耳に掛けながら、周瑜も真名を明かした。

 

「……宜しく、冥琳」

 

「近藤、儂の真名は(さい)じゃ。字は祭じゃ」

 

「祭さんも、宜しく」

 

 俺は孫堅さんの方に向いた。

 

「我が真名は炎蓮(いぇんれん)だ。炎に蓮だ」

 

「はい、炎蓮さん」

 

 みんな、それぞれ……名が体を表すというのか、イメージにピッタリの真名だ。そういった、本当に大切なものなのだろう。日本にはない独特の文化だ。自分の場合だと、一慶が真名になるのだろうか?

 

「あ、ウチも! 客将の張遼や。真名は(しあ)や。よろしゅうな!」

 

「宜しく、霞。さっきはありがとう」

 

 客将の身分で、会話に入ることのなかった張遼が最後に真名を交換する。これで今いる英傑たち全てと信頼関係を築いたことになる。

 

「今は建業を離れているが、後二人、娘がいてな。戻ったら、他の重臣と共に紹介してやろう」

 

「分かりました」

 

 孫権と孫尚香だろう、他の重臣とも会うことが楽しみだが……ただの研修医の双肩に担うものが余りにも大きかった。

 

「一慶、貴様の真名はなんだ?」

 

「えぇとですね、実は……」

 

 炎蓮さんに促されるも、真名がない事実と、一慶が真名みたいなものだと説明すると、全員が最初から自分が真名を伝えていたことに驚愕するのだった。

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