一話から順次追加・変更していっております。皆が読みやすくなれば良いな。
ぜひ良い空行案(?)があれば教えてください。
レイダース・マーチを聴きながらどうぞ。
驪山・方士塚
「慶殿、捕まえてきましたぞ」
「ありがとう、星」
星に頼んで捕えてもらったのは、一羽の鳥だ。籠で大人しくしている。
「洞穴から北西方向に進むぞ。鳥は水銀蒸気を感知してもらうために連れていく」
「前に使った『ますく』とやらはダメなのですか?」
そう、硫化水素対策の活性炭フィルター付きマスクを持ち込んではいるものの、果たして水銀蒸気に効果があるのか分からない。
「念のために、さ。墓が閉じられたのは約400年前だから大丈夫だと思うけど。さぁ行こうか」
「む、蒸し暑いですな……」
「狭いしな……」
星に
「もう少しだ。行き当たりに、
そう言っている間に、煉瓦の壁が見える。その壁は押せばいとも簡単に崩れ、その空間を覗くと人の顔が見えた。
「この人形は一体……」
人の顔、それは素焼きで出来た人形たちだった。
「
本物の人間と見間違うような肉質、リアルな色調は、不気味の谷を通り越した異様さを放っている。まるで、人間をそのまま人形にして埋めたのかと考えるほどに。
槍や剣は鈍く光を反射する。その人形のそばを通り抜け、部屋の端に目を向けた。
「け、慶殿!」
「話に聞いただけだったが、これほどとは……」
財宝の山だ。
金や銀の酒器やコインどころではない。
「まさに桃源郷ですな」
「目的地はこの奥だ。宝は後回しだぞ」
その財宝の山に目を奪われていたために気が付かなかった、皇帝を象徴する龍があしらわれた扉。星が近づき力を込めて押すも、開く気配はなく、びくともしない。
「くっ、何らかの仕掛けを解かないと開きませんぞ……」
「押すのではなくて、引いてみな?」
「え?」
扉の装飾に指を引っ掛けて、ゆっくりと引いていく。仕掛けなど無く、あっけなく扉が開いた。
その先は一本の通路。先ほどの武人俑ではなく、ローブのような物を着た人形が両手に皿を持ち、差し出しながら並んでいる。
「これが文官俑。始皇帝時代の高級官僚だな」
「この手に持っているのは……燭台ですかな?」
「あぁ。人魚の油で絶えず照らしていると書いていたが、流石にそれは無いようだな」
ここまで特に問題もなく、順調そのものである。星は罠の心配をしていたが、自分は確信を持ってズンズンと歩みを進めていく。
この通路に罠は無い。
「星、最後の扉だ。一緒に引いて開けようか」
銅製の扉、錆もあってイヤな音を出しながら、開いていく。
その扉の先は、暗闇だった。
鳥籠に変化はない。水銀蒸気や有毒ガスは無く、既に地上部へと侵食しているようだ。
広大な空間、その壁には先程と同じように文官俑が並ぶ。そこには持ってきていた油を垂らし、ライターで火を点けた。その灯りによって、その空間の中に様々なものが浮かび上がってくる。
まず、足元には深く広い水槽。恐らく水銀が流し込まれていた『海』だったものだろう。
ライトに反射して輝く緑色の物体は、翡翠で出来た山や草原。
上部に向ければ、金色に反射する星座。
部屋の東側には薄っすらと橋が見える。
その橋の終着点、部屋の中央にある建物こそ――。
「始皇帝の地下宮殿、墓室だ」
「いや、まさか本当に入れてしまうとは……この趙子龍、武勇伝が増えましたな」
「それは良かった。俺も感無量だよ」
「ところで慶殿? 橋を渡らないのですか?」
「渡っても良いんだが……」
橋のふもとに鎮座していた、返事をしないただの屍がこの惨状を物語っていた。
壁に縫い付けられたように座るこの白骨死体、文字通り矢によって絶命させられていた。眉間からは見事に矢が生えている。
骸骨だけではない。壁一面に矢が打ち込まれていたのである。
「星、俺の方に来てくれ」
手招きをして、矢の射線から退避させる。そして、砕け落ちていた俑の一部を橋に向かって投げた。
ゴッ、と重い音が響くと同時に、橋に立っていた武人俑の
「誰がメンテナンスしてんだか……。星、渡ろうか」
先ほどまでは渡ろうとしていた星、その足取りは重くなっている。
「ここを渡るには、見た通り骨が砕けそうですな……」
「間違いないな。だが、答えはある。
橋の中央には、まるで平均台のように一段高く歩けるようになっていた。
「ここまでやってくるまでに開けた扉は、すべて引いて開けたな?」
「ですな」
「つまり始皇帝からの視点で作られているんだ。復活した時に押して開き、歩む道としてな。つまり、
「だから、途中の道で罠が無かった……」
「そういうことだ。始皇帝は自らの甦りを信じていたということだ」
やはり自分が先頭に立って、馳道を歩いて行く。
一歩一歩、墓室が近づいてくる。
平均台の上……バランスを崩すことはないものの、徐々に緊張が高まっていき、視界がブレて倒れそうな錯覚を覚える。走り抜けたい願望を抱きつつ、少し早足になりながら墓室の扉へと辿り着いた。ここが本丸、始皇帝の
「慶殿も、緊張はするのですな」
「星は何とも無さそうだな……」
「こういった動きは慣れておりますので」
サラリと言うが星よ、どこでこんな動きをして慣れたんだ。屋根の上をコソコソ移動していたとでも言うのか。泥棒かよ。
この墓室の扉も引き戸となっている。
「ここにも武人俑が大勢いますな……」
「入っておいて何だが、不気味なもんだな……うん?」
廟の奥、宝物に囲まれた長方形の大きな箱が置かれていた。だが、自分の目では違うものを捉えていた。
この廟の中で、長方形の箱が意味するものは木棺である。もちろん、その中には始皇帝が永遠の眠りに就いている。
その木棺の上。
「鏡か……」
「このように綺麗な鏡、初めて見ましたな」
この時代は、いわゆる銅鏡で身だしなみを整えることが多い。
しかし、この小さな鏡は銅鏡と比べるまでもなく反射をし、自らの姿を映し出している。
この存在が異様過ぎた。洞穴の奥深く、始皇帝陵の内部にあったのがこの
何故かは理由が分からないが、気が付けばこの鏡を持って、墓室を後にしていた。
今までに感じたことのない怖気と悪寒に襲われながら撮影を行い、宝物庫まで戻った。
「始皇帝の亡骸、見なくて良かったのですか慶殿」
「あぁ、また気になったら来ればいいさ」
果物の宝石を根こそぎ持っていくことはしない。あくまで戦利品として、星が拝借していった。
「何時間ぶりの
暗闇に慣れた眼を、陽光が容赦なく灼いていく。
勝手に廟から持ってきた鏡、実はこの後何度も廟に戻すチャンスがありながらも、慶の元で保管されることとなる。
特に持ち歩く際には肌守りとして、帯に挟んでいたという。
その理由は、慶しか知らない。
誰が恋姫で始皇帝陵に入ろうとか考えたんだよ。
俺か。
急ぎ駆け足でメインに戻らないと!
ということで、特別編は一旦、これにて終了です。
次の特別編はお盆かも。
追記
50話にてUA10万突破、お気に入り1000件突破しました。
ありがとうございます。