真・恋姫†夢想 〜日付のない墓標〜   作:世良緋那太

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色々と考えた結果、段落ごとに空行を入れていこうということに。

一話から順次追加・変更していっております。皆が読みやすくなれば良いな。

ぜひ良い空行案(?)があれば教えてください。


レイダース・マーチを聴きながらどうぞ。


特別編:禁忌の地下迷宮(ラビリンス)〈2〉

 驪山・方士塚

 

 

「慶殿、捕まえてきましたぞ」

 

「ありがとう、星」

 

 星に頼んで捕えてもらったのは、一羽の鳥だ。籠で大人しくしている。

 

「洞穴から北西方向に進むぞ。鳥は水銀蒸気を感知してもらうために連れていく」

 

「前に使った『ますく』とやらはダメなのですか?」

 

 そう、硫化水素対策の活性炭フィルター付きマスクを持ち込んではいるものの、果たして水銀蒸気に効果があるのか分からない。

 

「念のために、さ。墓が閉じられたのは約400年前だから大丈夫だと思うけど。さぁ行こうか」

 

 

 

 

 

「む、蒸し暑いですな……」

 

「狭いしな……」

 

 星に殿(しんがり)を任せながら、スマートフォンのライトを頼りに洞穴を北西に這い続けて十数分。とにかくジメジメと蒸し暑く、衣服が背中にピタッと貼り付く。時折這い出る虫に辟易としながら進んでいた。

 

「もう少しだ。行き当たりに、煉瓦(レンガ)の壁が見えてくるはずだから……」

 

 そう言っている間に、煉瓦の壁が見える。その壁は押せばいとも簡単に崩れ、その空間を覗くと人の顔が見えた。

 

「この人形は一体……」

 

 人の顔、それは素焼きで出来た人形たちだった。

 

武人俑(ぶじんよう)……死後、始皇帝を守り続ける兵隊を象ったものだ」

 

 本物の人間と見間違うような肉質、リアルな色調は、不気味の谷を通り越した異様さを放っている。まるで、人間をそのまま人形にして埋めたのかと考えるほどに。

 槍や剣は鈍く光を反射する。その人形のそばを通り抜け、部屋の端に目を向けた。

 

 

「け、慶殿!」

 

「話に聞いただけだったが、これほどとは……」

 

 

 財宝の山だ。

 金や銀の酒器やコインどころではない。

 紫水晶(アメジスト)や珊瑚の葡萄、オニキスの龍眼、翡翠の杏、ローズクォーツの桃、ガーネットの李といった果物の宝石が所狭しと並べられていた。

 

 

「まさに桃源郷ですな」

 

「目的地はこの奥だ。宝は後回しだぞ」

 

 その財宝の山に目を奪われていたために気が付かなかった、皇帝を象徴する龍があしらわれた扉。星が近づき力を込めて押すも、開く気配はなく、びくともしない。

 

「くっ、何らかの仕掛けを解かないと開きませんぞ……」

 

 

「押すのではなくて、引いてみな?」

 

 

「え?」

 

 扉の装飾に指を引っ掛けて、ゆっくりと引いていく。仕掛けなど無く、あっけなく扉が開いた。

 その先は一本の通路。先ほどの武人俑ではなく、ローブのような物を着た人形が両手に皿を持ち、差し出しながら並んでいる。

 

 

「これが文官俑。始皇帝時代の高級官僚だな」

 

「この手に持っているのは……燭台ですかな?」

 

「あぁ。人魚の油で絶えず照らしていると書いていたが、流石にそれは無いようだな」

 

 ここまで特に問題もなく、順調そのものである。星は罠の心配をしていたが、自分は確信を持ってズンズンと歩みを進めていく。

 

 

 この通路に罠は無い。

 

 

「星、最後の扉だ。一緒に引いて開けようか」

 

 銅製の扉、錆もあってイヤな音を出しながら、開いていく。

 

 

 その扉の先は、暗闇だった。

 鳥籠に変化はない。水銀蒸気や有毒ガスは無く、既に地上部へと侵食しているようだ。

 

 

 広大な空間、その壁には先程と同じように文官俑が並ぶ。そこには持ってきていた油を垂らし、ライターで火を点けた。その灯りによって、その空間の中に様々なものが浮かび上がってくる。

 

 

 まず、足元には深く広い水槽。恐らく水銀が流し込まれていた『海』だったものだろう。

 ライトに反射して輝く緑色の物体は、翡翠で出来た山や草原。

 上部に向ければ、金色に反射する星座。

 

 

 部屋の東側には薄っすらと橋が見える。

 その橋の終着点、部屋の中央にある建物こそ――。

 

 

 

「始皇帝の地下宮殿、墓室だ」

 

 

 

 

 

「いや、まさか本当に入れてしまうとは……この趙子龍、武勇伝が増えましたな」

 

「それは良かった。俺も感無量だよ」

 

「ところで慶殿? 橋を渡らないのですか?」

 

「渡っても良いんだが……」

 

 橋のふもとに鎮座していた、返事をしないただの屍がこの惨状を物語っていた。

 壁に縫い付けられたように座るこの白骨死体、文字通り矢によって絶命させられていた。眉間からは見事に矢が生えている。

 

 骸骨だけではない。壁一面に矢が打ち込まれていたのである。

 

「星、俺の方に来てくれ」

 

 手招きをして、矢の射線から退避させる。そして、砕け落ちていた俑の一部を橋に向かって投げた。

 ゴッ、と重い音が響くと同時に、橋に立っていた武人俑の(ボウガン)から矢が発射された。その矢は、先ほどまで自分たちが立っていた場所へと何十発も降り注ぐ。白骨死体の頭蓋骨が無惨にも砕け散った。

 

「誰がメンテナンスしてんだか……。星、渡ろうか」

 

 先ほどまでは渡ろうとしていた星、その足取りは重くなっている。

 

「ここを渡るには、見た通り骨が砕けそうですな……」

 

「間違いないな。だが、答えはある。馳道(ちどう)だ」

 

 橋の中央には、まるで平均台のように一段高く歩けるようになっていた。

 

「ここまでやってくるまでに開けた扉は、すべて引いて開けたな?」

 

「ですな」

 

「つまり始皇帝からの視点で作られているんだ。復活した時に押して開き、歩む道としてな。つまり、平均台(皇帝の道)を渡れば矢は飛んでこない」

 

「だから、途中の道で罠が無かった……」

 

「そういうことだ。始皇帝は自らの甦りを信じていたということだ」

 

 やはり自分が先頭に立って、馳道を歩いて行く。

 

 

 一歩一歩、墓室が近づいてくる。

 

 

 平均台の上……バランスを崩すことはないものの、徐々に緊張が高まっていき、視界がブレて倒れそうな錯覚を覚える。走り抜けたい願望を抱きつつ、少し早足になりながら墓室の扉へと辿り着いた。ここが本丸、始皇帝の(びょう)である。

 

「慶殿も、緊張はするのですな」

 

「星は何とも無さそうだな……」

 

「こういった動きは慣れておりますので」

 

 サラリと言うが星よ、どこでこんな動きをして慣れたんだ。屋根の上をコソコソ移動していたとでも言うのか。泥棒かよ。

 

 この墓室の扉も引き戸となっている。

 

「ここにも武人俑が大勢いますな……」

 

「入っておいて何だが、不気味なもんだな……うん?」

 

 

 廟の奥、宝物に囲まれた長方形の大きな箱が置かれていた。だが、自分の目では違うものを捉えていた。

 この廟の中で、長方形の箱が意味するものは木棺である。もちろん、その中には始皇帝が永遠の眠りに就いている。

 

 

 その木棺の上。

 

 

「鏡か……」

 

「このように綺麗な鏡、初めて見ましたな」

 

 この時代は、いわゆる銅鏡で身だしなみを整えることが多い。

 

 しかし、この小さな鏡は銅鏡と比べるまでもなく反射をし、自らの姿を映し出している。

 この存在が異様過ぎた。洞穴の奥深く、始皇帝陵の内部にあったのがこの場違いな工芸品(オーパーツ)である。

 

 

 何故かは理由が分からないが、気が付けばこの鏡を持って、墓室を後にしていた。

 

 今までに感じたことのない怖気と悪寒に襲われながら撮影を行い、宝物庫まで戻った。

 

「始皇帝の亡骸、見なくて良かったのですか慶殿」

 

「あぁ、また気になったら来ればいいさ」

 

 果物の宝石を根こそぎ持っていくことはしない。あくまで戦利品として、星が拝借していった。

 

 

 

 

 

「何時間ぶりの娑婆(しゃば)でしょうなぁ、慶殿!」

 

 

 

 暗闇に慣れた眼を、陽光が容赦なく灼いていく。

 

 

 勝手に廟から持ってきた鏡、実はこの後何度も廟に戻すチャンスがありながらも、慶の元で保管されることとなる。

 

 特に持ち歩く際には肌守りとして、帯に挟んでいたという。

 

 その理由は、慶しか知らない。




誰が恋姫で始皇帝陵に入ろうとか考えたんだよ。

俺か。

急ぎ駆け足でメインに戻らないと!

ということで、特別編は一旦、これにて終了です。

次の特別編はお盆かも。



追記
50話にてUA10万突破、お気に入り1000件突破しました。
ありがとうございます。
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