真・恋姫†夢想 〜日付のない墓標〜   作:世良緋那太

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慶をお硬い人間にしたくない。もっとラフな人間にしたい……でもKの一族だから医療シーンではお硬い人間にしたい……。

キャラがブレッブレでも気にしないことが重要です。


洛陽〈3〉

「つまり、お前は何度も天から墜ちてきていたと……そういう解釈で良いのだな?」

 

 冥琳は眉間を揉みながら言った。

 

「しかも、母さまだけでなく、曹操や劉備の所にも墜ちたことがあって……」

 

 雪蓮は椅子でぐったりして、天井を見上げる。

 

「手に触れることで関連する記憶が甦り、そしてその都度、命を落として繰り返す……」

 

 星は徳利を傾けながら言った。おい、一人勝手に飲んでんじゃねぇ。

 

 

「私やちぃ姉さんには何もなかったけど、天和姉さんには戻ったのよね」

「そうよ。突然手を握られた時は驚いたわ」

 

 自分の視線が酒に移ったことに気付き、星が人数分の猪口を出し、注いでいく。

 

「ただ、戻ってくる記憶はかなり限定的だ。星も天和も、俺と関わった記憶がほとんどだろう?」

 

「それはそうなのですが……玄徳殿との記憶も少しばかり。しかし、明確なものはありませんな」

 

「私も、曹操さんのことは少しだけだから、力にはなれないかも~」

 

 

 出される情報は全て正確性を欠き、決定打が無い。

 

 

「しかし、分かったことはあるな」

 

 冥琳も酒を含みながら、目を瞑って思案する。

 

「曹操殿が慶のことを思い出しているということだ。先の青州においても、慶に対する執着が見えていた。つまり、今後は狙われる可能性が高いということではないか?」

 

「狙われるか……」

 

 自分に猪口は出されないまま。それも寂しいので水で口を湿らせる。

 

「あくまで想定だ。天の御遣いを手中に納めれば、それだけ優位に事を進められる」

 

「あとは、呂布に詳細を訊き出さないとね……。さ、遅くなったから夕食にしましょ? もう飲んじゃってるから、軽くつまみに行きましょっか」

 

 雪蓮よ、俺は飲んでないぞ。

 

 しかし、ここで議論を続けていても答えが出ないことは事実。

 呂布が手術により動けない今、まずは回復を待つことが先決である。

 

 

 

「邪魔すんで~」

 

 議論の終わったタイミングで、霞が入ってきた。

 

「邪魔すんねやったら帰って~」

 

 そう言われて、反射的に返してしまう。

 

「ほんなら帰るわ。邪魔したな~」

 

 そのまま霞は部屋から出て行き、扉を閉めた刹那、勢い良く開け放った。

 

「ってコラぁ! 帰すな帰すな!」

 

 そして二人して爆笑してしまった。まさかここまで関西ネタが通じるとは。こういうノリに慣れていない雪蓮たちは鳩が豆鉄砲を食ったように呆けてしまっている。

 

「あ~、久々に笑った。で、どうしたんだ霞」

 

「みんなで何か食べへんかなって。さっきまで呂布を看てたから食べ損ねてなぁ……」

 

 お腹をさする霞。ぐぅ~、と腹の虫もタイミングよく鳴った。

 

「仕方ない。夜も更けてるし……俺が何か作ろうか」

 

 

 

 いざ食堂へ。自分は霞と冥琳を連れ添って一緒に厨房へと向かった。

 

 

「天の国の料理がいい~!」

 

「簡単に言ってくれるな、ホント」

 

 雪蓮のリクエストもあって、天の国の料理を作ることになったのだが、さて何を作ろうか。

 明日の朝食に使われる食材には手を出さず、有り合わせのものになる。霞はお腹が空いたと言っていたし……。

 

「今日は貝などを食べていたようだな」

 

 冥琳はゴミ箱を見ながら言う。習って見てみると、ムール貝のような、黒色の大きな二枚貝だ。

 

「貝……これまた大きいな……よし。雪蓮!」

 

「なぁに~?」

 

 呼びかけると、食堂から声が返ってくる。

 

「庭から野蒜(のびる)を採ってきてくれ!」

 

「分かったわ!」

 

 

 

 食堂から出ていく雪蓮を見送り、余っていた大粒の貝を酒で煮ていく。

 

「む、酒を染み込ませるのか?」

 

「淡水性の貝特有の泥の臭みは、ゲオスミンという物質が原因なんだが、水よりも酒によく溶け出すんだ。これで臭みを消していく」

 

「げ、げおすみん……?」

 

 首を傾げる冥琳。

 

 

「雨上がりの時の匂いや、(しじみ)の匂いさ。アレぐらい小さいと何とも無いが、大きい貝だとその分ゲオスミンを溜め込んでるから、味も損ねてしまう」

 ちなみに降り始めの匂いは、知ってる人にはお馴染みペトリコールである。

 

「貝が開いたら身を取り出して、肝を外す。海老は背ワタを抜いて、殻も剥いて、更に酒で揉む」

 剥く作業は冥琳に任せた。頑張ってくれ。

 

「下処理は終了だ。海老の殻で出汁をとっていくぞ」

 

 鍋に放り込んで、グツグツと煮込み始める。黄色いアクは海老味噌のものだ。これも取り除かないと臭くなってしまう。

 

「いつも煙を吸うのに驚いていたから今更なんだが、その火を点ける道具も便利なものだな」

 

 薪に火を点けるために使ったライターを見て、冥琳は驚いていた。本当に今更だな。

 

「ホンマ、何も知らんかったら妖術やで。手術の腕も相まってな」

 

 

 

「野蒜、採ってきたわよ~!」

 

「おっけ……いや、了解した。この球根を刻んで、平鍋に油を引いて炒めていく」

 

 本当は、そのまま酢味噌で食べてもいい肴になるのだが、今回はニンニクの代わりだ。

 

「良い香りがしてきたら、野蒜の葉を刻んで、海老の身と貝を入れて炒める」

 

 一度具材を皿に移し、生米を平鍋に投入した。人数も多いため、多めに入れないと足りなくなるだろう。余れば明日の昼ごはんだ。

 

「生米やて!?」

 

「遥か西方の米料理さ。そして、さっきの海老出汁を投入して、魚醤(うおびしお)や刻んだ青唐辛子で味付けして、具材を戻す。あとは炊くだけだ」

 

 

 

 

 

 出汁も完全に蒸発して、炊き込むことが出来た。蓋を取ると、良い香りの湯気が立ち上る。

 

「よし、完成だ! 食堂に持っていくから、取皿を用意してくれ」

 

 食堂に向かうと……おい、最初より人が多くないか?

 

 

「慶……オメェらだけで天の国の料理を味わうつもりか?」

 

 炎蓮さんを始めとした宿将まで、寝巻き姿で勢揃いである。多めに作っておいて良かった。

 

「いえいえ、皆さんの分もありますから。見てくれは悪いかもしれませんが、西方の西班牙(スペイン)という国の料理『パエリア』です」

 

 

 とはいえ、スペインが建国されるのは約1200年後だし、パエリアが作られるのは9世紀頃らしいけど。

 更に味付けは中国由来の(ジャン)を使っているため、名付けるならば中華風パエリアだろうか。

 

「良い香りね~!」

 

「ほう、ぱえりあ、とな珍妙な名前よのお」

 

「かの国の言葉で、平鍋を意味するんですよ祭さん」

 

 

 深夜の食堂には、いつの間にか呉の将が勢揃いだ。いや、よく見れば一人だけ、夜間警備に当たっていた輜重隊の姿もあった。この面子に加わるとは、やりおる。

 

 明日の昼ごはんにと多めに作ったが、その分は綺麗に無くなるだろう。

 

「おいし~! 慶、この……パエリア? とても美味しいわ!」

 

「口に合ったかな、良かった。炎蓮さんはどうです?」

 

 黙々と、そしてガツガツ食べる炎蓮さん。

 

「おう、なかなか旨くて驚いたぞ。医者にしておくのが勿体ないな……城の侍医だけでなく、料理番にもなってみるか? のぉ婆よ」

 

「これ以上仕事を増やしたら、慶が死んでしまいそうですな。じゃが、この戦乱の世が終われば、新たな外交戦略として料理が活きてくる手番もありそうじゃ」

 

 新たな仕事が生まれてしまいそうで、若干背筋がヒヤリとしたのは言うまでもない。

 

 先の未来、生き抜く術を素早く見出す雷火さん。それに同意するように頷く冥琳と穏、一心不乱に食べる霞と雪蓮、ゆっくりと味わう粋怜と祭さん。

 

 

「では、ダメ押しにもう一手」

 

 

 薄くスライスした、とある物を鍋に振りかける。

 

「あ、良い香り……」

 

 人和がいち早く、その香りに気付いた。

 

「え、なになに!? 何をかけたの!?」

 梨晏が取皿によそって一口。

「おぉっ! 鼻に抜ける香りがたまらないよぉ!」

 

「酒との相性も良いですな。慶殿、何を掛けたのです?」

 

 その前に、その徳利から出てくる酒はどうなってるんだ。無尽蔵なのか。

 

「近くの山で採取した松露(しょうろ)という、茸の仲間です」

 

 ポケットから取り出したのは、建業近くの松林で取ってきた黒トリュフである。

 トリュフはヨーロッパだけのものと言われてきたが、実は違う。中国や日本でも採ることが出来るのだ。

 

「とりゅふ……珍妙な名前だな……しかし香りがとても良い」

 

 炎蓮さんが呟く。

 未知の料理に、未知の食材。それらに舌鼓を打つ皆を見ながら、自分は取皿にパエリアをよそって、席を立った。

 

「陳宮殿の所に持って行ってきます。彼女も仲間外れなのは可哀想ですから」

 

「せやな、行ってきてくれるか? 片付けはこっちでやっとくから」

 

「ありがとう、霞。あとは頼んだ」

 

 

 

 案の定、寝ずの番で看病していた陳宮は、初見のパエリアに警戒しながらも勢い良く完食した。

 

「杏林殿、何もかもありがとうなのです……」

 

「医者として、当たり前のことをしただけです。陳宮殿もお休みください。貴女まで倒れてはいけませんから」

 

 

 

 余計なこともせず、部屋を後にしたが、パエリアを食べ損ねていたことに気付いた自分は食堂へと直行。

 

 何とか胃に収めることは出来たが、トリュフは跡形もなく食べられており、残り香だけを堪能するのであった。

 

 

 取皿の隣には酒の入った盃が置かれてあったことも、星の名誉のために付け加えておくとしよう。




トリュフはヨーロッパだけのものと思われていた……だが今は違う! アジアでも味わうことが出来る食材なのだ!(ギュッ)


知識、料理、馬術、格闘センスなど……完璧に見える慶にも、実は弱点がある。
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