真・恋姫†夢想 〜日付のない墓標〜   作:世良緋那太

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ちょっと時間が空きました。ごめんなさい。


式典〈1〉

 洛陽を覆う空気は、自分だけを射殺さんとするものだった。街の人に殺意はなくとも、金の成る木を見ているような視線。これではまるで見世物だ。

 そして、華琳たちの助けが無ければ、そこらへんの路地裏で、物言わぬ死体になっていたのかもしれない。

 

「はっ、貴様なら文官の一人や二人、余裕で返り討ちに出来ただろうが! 我が孫呉の将ならば、首ぐらい取ってきてみせろってんだ」

 

 状況説明を終えると、そう言い放ったのは炎蓮さんだった。

 

「首って……式典中に戦争でも起こす気ですか!?」

 

 炎蓮さんならやりかねない。面白そうだとか言ってマジで始めそう。あと、いつの間に将軍になっていたんだ俺は。違うからな。

 

「そもそも、式の最中に宦官共に襲われる危険もあるぞ? 前にも言っただろうが。気を抜いた者から死んでいくんだ、この世はな。それと……孟徳よ、礼を言わせてくれ」

 

 炎蓮さんが軽く頭を下げ、華琳は驚いていた。

 

「……構わないわ。彼はここで死んではいけない人間だから」

 

 

 前回と同じように、厳重なボディーチェックを受けて、漢服に着替えてから城内へと入っていく。

 

 

「あら、劉仁殿」

 

「……まぁ♪」

 

 城内で待っていたのは、かの清楚可憐美少女の董卓だった。そしてその容姿を見て感嘆の声を上げたのが曹洪である。可愛いからその声を出すのも分かるが、素早く夏侯淵が曹洪を抑え込んだ。さすが華琳の副官だ。目にも止まらぬ速さ、自分でなければ見逃しちゃうね。

 

 董卓の隣にいる賈駆が、鋭い視線で曹洪をギロリと射抜いていた。言わんこっちゃない。

 

「久しいな仲穎。わざわざお出迎えとは……。以前もそうだったが、本来は女官の務めだろうが」

 

「そうなのですが、文台殿が来るとあれば、同じように出迎えたほうが良いと思いまして」

 

 炎蓮さんの指摘通り、こういった来賓客を出迎えるのは女官の仕事である。わざわざ大物が出迎えるということは、それだけ董卓の居場所がこの城に無いということの証左であった。

 

「かなり街でお買い物をされたのですね。もし良ければどうでしょう? 私の屋敷に運ばせれば、待機している兵たちも楽ですが……」

 

 貴重な品を買われたのでしょう? と見てきたように言う董卓。

 

「いや、それは……」

 

 この申し出はありがたかった。しかし、街の状況などを考えれば、この清楚可憐もとてつもなく怪しいのである。

 この皮を剥げば、あの暴君が顔を覗かせるのではないか。鎖分銅や爆弾、ノコギリ刀を持った巨漢の董卓なぞ、見たくない。

 

 

「今夜は城ではなく、私の屋敷で夜宴を行うので……手間は省けますよ?」

 

「……貴様の買った荷物だからな、置かせてもらえ」

 

 怪しさはあったものの、炎蓮さんに目配せをしたらこう返されてしまったので、その申し出を受けることにした。

 

 

 

「何進殿も、劉仁殿に会いたがっていましたよ?」

 

「そうですか」

 

 董卓は近くにいた兵に指示を出し、自分たちの案内役を買って出た。とはいえ、謁見の間まで道のりは覚えているため、話し相手役なのだが。

 

「街の医師たちも何進殿の治療が出来なかったので、本当に助かりました。いずれ、何進殿は医師養成の私塾を作る予定なんですよ」

 

「かなり待遇が良いですね。教師が集まりそうに無いですけど」

 

「確かに、今までの状況とかなり変わりました」

 

 自分は天の御遣いという肩書きや、炎蓮さんたちの認識があるからこそ、医者として大手を振って歩いているが、実際の三国時代の医者は、差別に苦しむ職業だった。孫堅や孫呉という後ろ盾があるからこそ、半ば詐欺師扱いされる医者がここまで行動出来ているのである。

 もちろん、洛陽に比べて建業では、そんな差別も減ったのだが……。

 

 それに対して大将軍肝入りの私塾を作ろうというのである。つまり、支配下にあった者たちが力や知識を持つような構造になる。そうなれば役人連中は良い顔を絶対しない。そして、その状況になる礎石を作ってしまったのは自分だ。

 

 でも、役人たちは短絡的思考によって暗殺を目論んでいる。何故だ? 州牧となる孫堅の行動を阻害するためか? 違うな。自分を殺したところで、そんなメリットなど生まれない。

 

 自分の何に対して、役人たちは恐れを抱いているのだろうか。まさか青州で言われるようになった『泰山府君の侍医』という渾名を大真面目に受け止めたのか? それこそ、本気で信じている役人がいるのなら、ソイツは即刻クビにした方が良いだろう。

 まして、泰山府君に類するものと信じるのであれば、暗殺など計画するなと言いたい。出来ないけど寿命縮めてやろうか。

 

 

 遠目からでも、役人たちがこちらの列を見てくるのが分かる。炎蓮さんと華琳がいれば、たしかに視線を集めるはずだ。気にすることはない。

 

「慶、貴方の服を皆が見ているのよ。なかなか良い仕立てじゃない」

 

 まさかの、自分の服装が視線を集める原因だったようである。

 

「この藍の色彩は見事だわ。それに、この背と胸元に入った金糸(きんし)の模様は……杏の葉ね?」

 

 建業で仕立てられた漢服、袖を通して分かったのだが、杏葉紋(ぎょうようもん)と呼ばれる模様が胸元に小さく二つ。そして背中に大きく金糸でド派手に刺繍(ししゅう)されていたのである。

 

「皆さんの服装も良い仕立てだと思いますが……孟徳殿も青州の時と違ってかなりキマってますよ」

 

 華琳だけじゃない。本日の出席者は皆、かなりお洒落な格好だ。

 それに比べて、自分の服装は色も落ち着いている。金糸の刺繍も彼女たちに混ざると目立たないほどだ。

 

「高級官僚に見えなくもないぞ、慶。良く似合っている」

 

 冥琳はちょっと気になる事を言った。

「官僚に見えるか?」

 

「あぁ、本当に良く似合っているぞ」

「ありがとう。いや、そうじゃなくて……官僚なの? この服装」

 

 ちょっと前に始皇帝陵墓で見た、油の皿を持った文官俑を思い出す。

 

 華琳の隣にいた夏侯淵、その後ろで黙っている夏侯惇と曹洪、更に後ろにいた他数名は何も言わない。

 炎蓮さんと冥琳は、似合っていて妙な点は無いと言う。

 

「この服装で式典に出て大丈夫なのか?」

 

「えぇ、問題無いでしょう。格式高い格好をしなければ、それこそ孫文台殿の器が浅く見られてしまうわ。寧ろ白衣のままであれば、ひん剥いてたところよ」

 

 この考え方は現代とほとんど変わらない気がする。ここまで褒められているのだから、建業に戻ったら仕立て屋に、何か礼をしなければなるまい。




「ルビ増やして」という要望がありましたので、全体的にルビ振りと注釈を増やしてみます。

地名、人名は初登場の際にルビを振って、2回目以降は振りません。嬴政は流石に難しいので2回目入れましたが……。
どうしても初見で読みにくい文字が何話にも渡って出てくる場合は、各話ごとに振っていきます。

要望、ありがとうございました。「ここのルビいらないよ」なども言ってもらえたらと思いますので、よろしくお願いいたします。

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